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上間陽子さんの「海をあげる」

今、やっと、この本を読み終わりました。

一行一行が重く、読み進めるのを苦しいと思うことが何度かありましたが、上間さんご自身が現実と向き合っている姿勢を思えば、わたしは書かれていることから目を背けてはいけないという気持ちになり、

上間さんの娘さんに対する深くあたたかい眼差しや、娘さんの愛らしさを、もっと知りたいという気持ちから、最後まで読むことが出来ました。

「海をあげる」は、不思議なことに、カバーや帯を見ただけでは、何が書かれている本なのか、知ることができません。

この本を端的に表そうとすれば、いくつかの鍵になる言葉を挙げることが出来ますが、それらの言葉が持つ一般的なイメージは、この本を読みたいと思う人を躊躇させてしまうかもしれない程、パワーを持った言葉たちです。

そして、この本が伝えたいのは、おそらくそういった強い言葉から湧き起こる一瞬の興味や好奇心から生まれてくるものとは、遠いところにあるもので、もっとたくさんの時間をかけて、一人ひとりが自分の心と向き合い続けて、心に留めておくものだから、こんな風に大切に、本を読んだ人だけに伝わるように、作られたのかもしれないと、読み終えた今感じています。

冒頭に、重くて読み進めるのが難しかったと書きましたが、ひとつひとつの言葉や文章は、血が通っているのを感じるほどあたたかく、何度も噛み締めたくなるほど、美しいです。

この本の「重さ」とは、現実世界に既に存在しているものの重さであって、この本が新たに生み出したものではありません。

日々の暮らしの中で、思いがけず、ふいに触れてしまえば怯んでしまって、ひとりではどう向き合えばいいか分からずに目を瞑ってしまうような事柄を、

上間さんの目を通して、上間さんの肩越しに垣間見ることで、逃げ出さずに、向き合うことが出来ます。


本の中に出てくるたくさんの文章の中で、とくに好きなものをここに記録します。

三月の子どもは歌をうたう。大きくなることを夢見て歌をうたう。大人はみんなでそれを守る。守られていることに気づかれないように、そっとそおっとそばにいて。

上間陽子「海をあげる」三月の子ども より

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