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日本の歴史作家を7人紹介する文章(無料で最後まで読めます)

今度は日本の歴史作家を7人紹介します。
生没年と代表作一つを合わせて直下に記載しましたが、本文中では代表作として挙げた書籍以外のオススメも含めて内容を簡単に記します。
なお、ハードの書籍は手許にないため写真は割愛します。

①山岡荘八(1907年-1978年)『徳川家康』
②海音寺潮五郎(1901年-1977年)『天と地と』
③吉川英治(1892年-1962年)『三国志』
④井上靖(1907年-1991年)『天平の甍』
⑤陳舜臣(1924年-2015年)『小説十八史略』
⑥司馬遼太郎(1923年-1996年)『竜馬がゆく』
⑦山崎豊子(1924年-2013年)『二つの祖国』

①は山岡荘八です。僕の人生最初の歴史小説は彼の『織田信長』でした。しびれるほどの筆致であるにも関わらず小学生でも文意が通る明瞭さが今でも新鮮な輝きを放っています。しかし、彼の代表作といったら何と言っても『徳川家康』でしょう。それまでの狸おやじとしてのイメージを覆す実直な平和希求者として描かれ、その組織運営の姿勢などから昭和のサラリーマンたちの心を鷲掴みにします。明治維新後の日本では、旧体制であった江戸幕府の創始者である徳川家康の評価は低かったものを、戦後において山岡荘八がある意味再評価を行った結果になったと考えています。その他、『伊達政宗』や『高杉晋作』など数多くの作品を世に残しています。


②は海音寺潮五郎です。彼の代表作としては『天と地と』でしょう。武田信玄と上杉謙信を描いたこの作品によって多くの戦国ファンを魅了します。海音寺の最大の魅力は既成概念の打破にあると思います。彼の歴史に対する嗅覚の鋭さには定評があり、物事をひっくり返して新しい視点を提供してくれました。武田信玄と上杉謙信を描く場合、多くの作品では武田信玄を中心として描かれてきます。これは徳川家康が武田信玄を尊崇し、その家臣団を保護したことから武田信玄の神格化され江戸時代を通して様々な資料が残されたことが影響していたと思います。また、上杉謙信の子孫は関ヶ原において徳川家に敵対しましたしね。こうした中、海音寺は『天と地と』で上杉謙信を主人公にして、武田と上杉の対立を描きます。海音寺は他にも『武将列伝』や『悪人列伝』でさまざまな日本史上の人物たちを評価論壇していきます。その舌鋒の鋭さは読んでいて心地よさがあります。


③は吉川英治です。日本における歴史小説の大衆化を果たしたパイオニアです。特に日本における三国志人気は彼によって生み出されたといって過言ではありません。日本人における三国志の基本はこの吉川英治の『三国志』であることに異論がある人は少ないでしょう。彼の蜀、劉備と孔明を中心にした三国志観をベースにそれへのアンチテーゼの作品も現在では多くの作家によって生み出されています。なお、吉川三国志は、のちに横山光輝によって全60巻に及ぶ超大作として漫画化されます。僕にとっては横山三国志が中国の歴史との出会いです。なお、吉川は三国志以外に日本史においても多くの作品があり『宮本武蔵』において宮本武蔵を大衆化させたことも功績として特筆すべき事項であると思います。


④は井上靖です。井上靖は叙情的な表現が素晴らしく、彼が描く時代・地域に自分の身体と精神が誘われる感覚を覚えます。代表作として挙げた『天平の甍(いらか)』では鑑真招聘に向けて日本から中国へと旅立った二人の若い僧侶を中心に話が展開されています。他にも中国シルクロードを取り扱った『敦煌』『楼蘭』なども名作ですが、僕が特にオススメするのは『風濤(ふうとう)』です。これは強大化するモンゴル帝国に組み敷かれた朝鮮半島の高麗王国の側にたって元寇を叙述した作品です。それまで攻められる日本側からの視点で語られるだけであった元寇に、高麗側の視点を取り入れることによって小国の悲哀や大国のエゴ、戦争の虚しさなどが凝縮された珠玉の作品であると僕は考えています。


⑤は陳舜臣(ちん しゅんしん)です。神戸市出身、旧制大阪外大では司馬遼太郎の一学年上にあたります。先述した吉川英治の三国志は三国志演義というある種の小説をベースにしています。それに対して正史ベースの三国志『秘本三国志』を発表。それまで劉備が善玉、曹操が悪玉といったステレオタイプに包まれた日本の三国志観を打破し、曹操と曹操陣営の再評価を日本で進めた逸品です。その他、代表作に上げた『小説十八史略』では中国の通史をイキイキとした登場人物たちの会話や描写と彩っています。東アジア世界がどう形成されていったのかを理解する上でも非常に価値ある作品となっています。個人的には『阿片戦争』『鄭成功(旋風に告げよ)』といった亡国に繋がる作品もオススメです。国が傾いていくという状況下で信念に生きるもの、強いものに屈さざるをえないものたちを叙述するさまは一片の映画をみるような感覚があります。


⑥は司馬遼太郎です。彼は何をおいたとしても『竜馬がゆく』でしょう。坂本龍馬、幕末の大衆化を果たした昭和を代表する国民的作家です。彼は作品に取り組む際には膨大な資料を蒐集し、そこから細かなエピソードも紡ぎあげることで、我々現代人を当時に連れていきます。ちなみに彼のペンネームの由来は、中国最初の正史『史記』を描いた司馬遷です。歴史作家として自分は「司馬に遼(はるか)に及ばない太郎」であるとの意味が込められています。中国本土においては分かりませんが、日本においては彼が生み出した司馬史観は大きな影響を持って今も残っています。坂本龍馬の大衆化以外にも『関ヶ原』によって関ヶ原合戦にフォーカスした歴史小説ジャンルの開拓に貢献したり、『坂の上の雲』で明治人の生きざまを描いたりと幅広いジャンル、時代を叙述します。また『街道をゆく』シリーズは、まさに現代と過去・歴史を結びつける快作でしょう。


⑦は山崎豊子です。彼女を歴史作家と分類する人は少ないと思いますが、太平洋戦争における日系アメリカ人を描いた『二つの祖国』やシベリア抑留から高度経済成長期を描いた『不毛地帯』など、彼女の作品は単なる大衆小説、現代小説の枠には納めきれない「大河性」があると感じます。歴史とは何も古い遠い昔の話ではなく、そこにある種の普遍性やロマンを感じ取れるとしたら、近い時代であってもそれは「歴史」なんだと感じさせてくれる作品群が山崎豊子の魅力だと考えています。


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