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少女漫画誌『りぼん』の現在

くこ

●『りぼん』は「地雷系」化したわけではない

先日、Twitterでは、少女漫画誌『りぼん』の表紙が「地雷系」だということでちょっとした話題になっていた。

実際は、『りぼん』の連載漫画が「地雷系」でメンヘラ化しているということではなく、ハロウィンの季節なので「地雷系」コンセプトだっただけだった(表紙で連載作品のヒロインが「地雷系」ファッションになっていても、内容はそれと全く関係がない。*)。

*面白いのは、ホラー漫画『絶叫学級』のキャラクターもそのファッションなこと。作品の雰囲気として、ホラーの水先案内人がそのような格好をするわけがないので、オフショット感があって微笑ましい。)。

ビジュアルの部分に惑わされていい加減な推測をしても、今の『りぼん』がどうなっているかは分からない。もちろん、調べて解釈を加えたところで、主要読者層の小中学生の読者の感覚とはかけ離れてしまうだろうから、本当のところは分からないと自戒しつつも。

●『ハニーレモンソーダ』人気から見る『りぼん』

近年、『りぼん』で一番有名なのは、 村田真優『ハニーレモンソーダ』である。自分に自信が持てなかったヒロインが、ヒーローとの出会いをきっかけに少しずつ成長していくという王道青春ストーリー(細部の魅力の説明は、読み込んでいる方々のレビューにお任せします)。2016年から連載されており、『セブンティーン』(集英社)2020年9月号の「読者が選ぶ好きな少女マンガ&実写化してほしいマンガランキング」において1位を記録した。2021年には実写映画化された。 

「実写化は、少女漫画にはよくあることじゃん」となるかもしれないが、実写化のメインは『りぼん』よりは読者の年齢層が高い『別冊マーガレット』『別冊フレンド』等に連載されている少女漫画である(『君に届け』『アオハライド』『L♡DK』『私がモテてどうすんだ』などが例に挙げられる。もちろん、それらの中には実写化のみならずアニメ化されているものもある。)。なぜ『ハニーレモンソーダ』が実写化されたのかは、Wikipediaの記述になってしまうが、以下の理由が納得できる。

『りぼん』では「ハニーレモンソーダ」の長期連載化に伴って読者層が上がっており、2021年のLINEの調査では『りぼん』が女子高校生の読む漫画雑誌2位(少女漫画誌では1位)にランクインしてるhttps://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B0%91%E5%A5%B3%E6%BC%AB%E7%94%BB#cite_ref-line-koukou-ranking_390-1

その根拠として下記のリンクが参考文献に挙げられている。

なんと、2021年度の女子高校生が読む漫画雑誌は、1位が『週刊少年ジャンプ』で、2位が『りぼん』だそうだ(3位は『別冊マーガレット』)。このデータで『ハニーレモンソーダ』が読者層を上げていることが確実というわけではないが、『りぼん』を高校生が読んでいるのは重要なことのように思える。年齢が上がると、二次元だけというわけにはいかず、三次元での娯楽も必要になる(世間体的な意味でもそういう風に誘導されたり、自覚的に三次元の方に行こうとするだろう)。そのため、『りぼん』作品であってもアニメ化より実写化、というプロモーションの面での判断があったのではないか。『ハニーレモンソーダ』が連載開始から約5年後に実写化という点から見ても、小学生のときに『ハニーレモンソーダ』と出会って中高と読み続け、実写化で堂々と観に行ける、というのは実際に例があるのではないだろうか(最近は二次元もかなり受け入れられるようになってきているので、別にアニメ化でも問題がないように見えるけれども…。集英社のメディアミックス事情があるはずなので、もっと調べると面白いかもしれない)。

とにかく、どうも『りぼん』読者の年齢層が上がったらしく、これは重要なポイントであると思われる。2000年代の矢沢あい『NANA』ブームのときのように、村田真優が『ハニーレモンソーダ』の連載の後により年齢層が上の『Cheese』などの漫画誌で描いて、『ハニーレモンソーダ』の読者層がそちらへ移動すれば、再び『りぼん』の読者層も変化するかもしれない。『ハニーレモンソーダ』が連載終了した後に『りぼん』読者の年齢層が下がるのかそのままになるのか、気になるところである。


●『さよならミニスカート』再考

数年前に話題になった、牧野あおい『さよならミニスカート』(2018年~)は休載中。

『さよならミニスカート』の盛り上がりは、少年漫画を載せているサイト/アプリの「少年ジャンプ+」に同時掲載されていたことが大きかった。

どうもSNSでは、ジャンプ+に載った漫画が異様に評価されるようだ(今ではジャンプ+の連載作品や読み切りが頻繁にTwitterでバズる。『さよならミニスカート』はその先行事例かもしれない)。フェミニズム的問題意識があってすごいという褒め方だったと思うが、そこには「『りぼん』なのに、「ジャンプ」と名前がつくところに載っていてすごい」という、少年漫画を上位者とする少女漫画への差別意識がうっすらと感じられなくもない。わざわざ編集長(元は『ジャンプ』で『バクマン。』などを担当していたらしい)が「異例。」と銘打った宣言文を出していたことも、数々の広告も、なぜ『さよならミニスカート』をことさらに取り上げていたのか、そしてそれに続く作品やプロモーションが今のところ現れていないのはなぜなのか、改めて問われる必要があるのではないか。

『さよならミニスカート』がフェミニズムに媚びていて嫌だ、という批判ならばありふれているだろう。しかし、音頭をとった『りぼん』側が第二の矢、第三の矢を結局放っていないことは、「本気度」という点で疑問に感じてしまうのだ。

ただし、以下の文を読むと、それは仕方のないことなのかもしれないと思う。

”異例の新連載”として連載当初から話題の『さよならミニスカート』(著:牧野あおい)以外に相田氏が推してくれたのは、「昔からのりぼんの良さ、ときめきがありつつも、大人にもおすすめできる。絵もすばらしく、セリフに力がある」という『ハニーレモンソーダ』(著:村田真優)。そして、いま小中学生の子たちに圧倒的な人気で、「少女マンガらしいマンガだが、設定の面白さやアイディアの豊富さがあり、とても魅力的」という『初×婚(ういこん)』(著:黒崎みのり)。どちらも「りぼんの枠をこえて広がる可能性がある」と絶賛していた。https://www.walkerplus.com/trend/matome/article/226191/

編集長のインタビューで、『さよならミニスカート』以外に『ハニーレモンソーダ』と『初×婚』が挙げられている。『さよならミニスカート』のみに注目していると見誤る。『ハニーレモンソーダ』は王道少女漫画であり、主人公と男の子の関係を考えると、やはり男の子に保護されるという部分が少なからずあり、そのような部分が「女が男に守られる」という保守的なジェンダー観に解釈できなくもない。黒崎みのり『初×婚』(2019年~)は、マッチングシステムで選ばれたパートナーと過ごし、3年後にベストカップルに選ばれたカップルが会社社長になれるという特殊な学園を舞台にしたストーリーである。結婚、異性愛が最初の時点で設定上組み込まれている。

それらを鑑みると、『りぼん』側の意図としてはフェミニズム的な少女漫画を届けるというより、あくまで面白い漫画を届けるということなのだと考えられる。

そもそも、『さよならミニスカート』自体が、「ヒロインがアイドル時代に不審者に襲われて男性へのトラウマを持ってしまったけれど、真摯に向き合ってくれる男の子が現れて弱さをさらけ出せるようになってきた」という話として読むと、「女が男に守られる」雰囲気が割とあるのではないか。つまり、『さよならミニスカート』でさえ、現在のフェミニズムの最前線のクィア的なものからは遠いのかもしれない。逆に、なぜあんなに盛り上がったのだろうか。上野千鶴子以来の「女の子フェミニズム」と言えるようなものがまだまだ主なのであろうか。フェミニズム的な作品に、百合やシスターフッドやクィアを求めている層(往々にして評論家、ライターなど、「インテリ」で発信力のある方々)はSNSではよく見かけるが、『りぼん』はそのような層を実はターゲットとしていない可能性がある。そのようなフェミニズム的、むしろジェンダー的問題意識全般の、評者間の微妙なスタンスの違いが『りぼん』があまり論じられない理由であったりするのだろうか、などと邪推してしまう。

ちなみに、今年話題になった、『りぼん』の「生理カンペキBOOK」も、女性の体について真摯に向き合うものであり、たいへん重要だと思う。しかし、ナプキンを「自分で洗うのがレディへの第1歩」と書かれており、このように敢えて「レディ」を強調する感じが出てしまうのは、やはりクィアとは相性が悪いように見え、『さよならミニスカート』から連続する問題なのではないかと思ってしまう。


●じゃあ『りぼん』の現在とは何なの?

『さよならミニスカート』の話では、途中からジェンダー観の話に傾いてしまい、漫画の面白さをフェミニズム的(殊にクィア的)に正しいかどうかで判定する感じになってしまった。少し切り替える。

『りぼん』は異様に変わったとかそういうことはありません。フェミニズムかもしれないし、そうではないかもしれない。『ハニーレモンソーダ』だっていつまでも羽花が守られてばかりいるわけでもないし、『初×婚』だって家族を亡くして温かい家庭を望んでいる初(うい)の気持ちが否定されるべきものであるはずがない。異性愛に傾いているからといって家父長制に屈服したと結論づけるのは安易で、それは読み込むことでしか分からない。

例えば、自信が無かったヒロインが自己肯定していく、その中に恋愛があったり友情があったりする。女装男子の堂々とした姿に触発されて、オタクである自分を肯定していく、神田ちな『推しと青春しちゃってい~ですか!?』という作品もある。

いじめられっ子が、悪役令嬢だった前世を思い出し、今度は力強く生きていく、中島みるく『花火は醒めない夢をみる』という作品もある。最近異世界転生もので流行りの、悪役令嬢ものも取り入れているのだ。

町を守る魔法少女の戦う姿を見守るのが生きがいのオタク女子が、悪の組織の幹部にスカウトされて参謀になってしまうギャグ漫画、佐和田米『アクロトリップ』という作品もある(なぜか「ジャンプ+」にも掲載されている。そしてこちらはなぜか話題にならない。)。

どのように自己肯定していくかを追求する作品がいくつもあるように見える。これは「自意識」というものではなかろうか。SNSでは自意識に悩む人が多いし、それに応える作品も数多い。「『りぼん』を読んでる子は陽キャになる」という俗説があるが、実は意外に『りぼん』作品も自意識に悩んでいる。それは、自意識に悩んでいてそのような作品ばかり摂取してますます行き場がなくなっている人たちに、別のヒントを用意できる可能性を持っているのではないか。

『りぼん』が偏見を持って印象批評されないことを祈りつつ、稿を閉じる。


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