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少女漫画誌『ちゃお』の今
『ちゃお』。狭義の(ヤングレディースだったり分類不明瞭な漫画を抜いた場合の)少女漫画界のトップランナーである。
今や少女漫画絵と言われたら『ちゃお』の絵柄なのではないか。
●2000年代『ちゃお』の輝き
ただし、「ちゃお・りぼん・なかよし」で、他の二つと同じく、最近はあまり語られていない。やはり「知ってるちゃお」といえば、『きらりん☆レボリューション』(2004〜09年、アニメ化は2006~09年)、『極上!!めちゃモテ委員長』(2006~14年、アニメ化は2009~11年)となり、アニメ化されていると記憶に残る、ということになろう。『ちゃお』の絵柄は「萌え絵」に近いので(萌え絵の定義は終わりなき論争になるので触れない)、「大きいお友達」も『ちゃお』を楽しんでいたと思われる。
ただし、2009年には『まんがタイムきらら』発の『けいおん!』がアニメ化されており、「きらら系」が隆盛した2010年代以降は「大きいお友達」の主要な興味は「きらら系」に移ってしまったと思われる。やぶうち優の『ないしょのつぼみ』(2004~12年)はかなり「大きいお友達」に親しまれたという説があるが、最近はどうなのかは分からない。)。「きらら系」が『ちゃお』読者層をどれくらい奪ったのかが明らかになると面白いであろう。
もちろん、「大きいお友達」の興味が外れたからといって『ちゃお』がなくなったわけではなく、低年齢向けの少女漫画として力を持ち続けている。同じ低年齢向けの漫画誌として『コロコロコミック』が論じられていれば、『ちゃお』も論じやすくなるはずなので、更なる評論や研究が待たれるところである。
●『ちゃお』のレジェンド
『ちゃお』には長年描き続けている作家がいる。やぶうち優である。ポストモダンブームを引き起こした浅田彰『構造と力』が出た年にデビューしていると思うと、「歴史」を感じる。
あっ、まちがえた💧
— やぶうち優@「青のアイリス」1〜2巻発売中! (@Utopia_SM) November 2, 2021
'83年~'87年:中高生時代(兵庫)
'89年~'99年:再デビューから連載→脱落まで(東京)
'01年~'09年:再々デビューからちゅちゅに移籍→休刊まで(北海道)
'10年~'21年:再々々デビューから休載まで(今ココ)
…かな😅
どうでもいっか😓
本人の述懐によると、三度もデビューしていることになり、粘り強さが桁違いである(ちなみに、『ちゅちゅ』(『ChuChu』)は『ちゃお』から『Sho-Comi』(少女コミック)の対象年齢層の間に向けた漫画誌。2005~09年。)
「ちゃおのレジェンド」と『ちゃお』側から言われるのだから、「『ちゃお』の歴史はほぼやぶうち優である」と言いたくなってしまう。近年でも、女装男子がアイドルを目指す『ドーリィ♪カノン』(2012〜16年。2013~14年に『ちゃお』付録として実写ドラマ化)、vtuber がテーマになっている『青のアイリス』(2020〜22年)など、多様なテーマを持った作品を描き続けている。
ただし、やぶうち優単独での言及はネットを探せば多く見つかるので、詳細な論はそちらへ譲る。
やぶうち優は水色時代、少女少年、ないしょのつぼみあたりが代表作だと思うしそのへんが実際面白いけど、比較的最近の短編集とかアニコンとか初恋指南とかも面白かった。最近だとドーリィカノンがめちゃくちゃ良かった(集大成かもしれん
— ホリィセン放言取り急ぎ (@noisysen) November 25, 2021
ないしょのつぼみマジで俺のヘキの原点なので人類読んで…。第二次性徴に良さを感じるひと読んで…。わたしは1巻と5巻が好きです。ドーリィカノンも読んで、こっちは「少年とは一過性であるからこそ美しい」と「その美しさを永遠にしてしまいたい」を両立させてみせた作品です…。
— 志ノ丸一 (@01kfk) July 23, 2020
ジェンダーSFには、保守的な異性愛を強化するものもある。それを含めての多様性なのだけど。やぶうち優の一連の男の娘作品はまさにこれで、「心も女の子」という男の娘が主役の『少女少年~GO!GO!ICHIGO~』すら、最後はなぜかヒロインの少女が好きになる。というのはどうなのだろう。
— 柴田英里 (@erishibata) December 24, 2014
いずれにせよ、まとまった作家論が出ることが待ち望まれる漫画家の一人であろう。
レジェンドといえば、八神千歳も20年以上『ちゃお』で描き続けている。
そしてなんと、最新作でBLを含んだラブコメ『少女マンガのヒーローになりたいのにヒロイン扱いされる俺。』(2021年~)を描き、新天地を切り開いた。
『こっちむいて!みい子』(1990年〜。1998~99年にアニメ化)が最長連載であることも外せない。
●『姫ギャルパラダイス』という伝説
インターネット上では密かに『姫ギャルパラダイス』(2009~12年)が人気である。「姫ギャルパラダイス 名言bot(@himegal_bot)」が存在するほどである。
女装ギャルが主人公にギャルの手ほどきをするという、性別を攪乱するラブコメだ。アニメ『プリパラ』を作るときに『姫ギャルパラダイス』が参考になったそうである(下記の設定資料集で監督が言及している)。
OVA(2012年)が作られたこともあってか、影響力があるのだった。2010年代前半は、まだまだ「大きいお友達」も『ちゃお』に残留していたのだろうか。
『姫ギャルパラダイス』の性別攪乱の遺伝子は受け継がれており、『JKおやじ!』では息子を溺愛する中年男性が女子高校生に変装して息子のクラスメイトになる、という大胆な設定のギャグ漫画が現れた。
●最年少デビューという事件
2015年に、ときわ藍が最年少デビューを飾る(14歳)。
当時の読者たちは自分に年齢が近い人がデビューして励まされただろうと想像する。しかし、その後は緩やかで、2巻以上出ている作品は『カラフル』のみである(デビューが早くても学業との両立などが問題になるのでそんなにたくさん描かないのかもしれないけれど)。そろそろ傑作を量産するのだろうか。マスメディアが張り巡らされている時代に若くしてデビューするのはプレッシャーも大きそうだ。
●時代を捉える『ちゃお』
2010年代の『ちゃお』の代表的な作品として、『12歳。』シリーズ(2012~19年)も挙げられる(2014〜15年にOVA化。2016年にアニメ化)。恋愛の低年齢化の時流を見事に捉えた作品ではないだろうか。
『いじめ』(2005年〜)も、いじめという社会問題と正面から取り組んでいる点で重要。2012年にOVA化された。
●ちゃおホラー
『ちゃお』はホラーも充実していることが知られている(『ちゃお』本誌というより増刊号に載ることが多いけれど)。2021年には、インターネット公開された『笑顔の世界』がショッキングだと話題になり、途中で閲覧する上での注意書きが加えられるほどだった。
巻数を重ねているホラー作品だと、『ショコラの魔法』(2009年~。2011年にOVA化、2021年に実写映画化)、『人間回収車』(2011年~。2021年にYouTubeでアニメ化)、『ブラックアリス』(2016年~。2021年にYouTubeでアニメ化)等が挙げられる。
●これからの『ちゃお』
2021年、『ちゃお』の作品が無料で読めるサイト「ちゃおコミ」がオープンした。
定期的に読み切り、過去作や連載作の一部が無料公開されている(『笑顔の世界』がバズったのも『ちゃおコミ』で公開されたから)。現在、『ちゃお』へのアクセスは過去最大級に容易になっているといえる。
先述したように、BLもあれば女装もあり、前向きなものもあればホラーもあり、というように多様な可能性に開かれているので、『ちゃお』の未来がますます楽しみである。
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