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乳腺炎からの帰還|2023.06.19

子が月齢4カ月半くらいになった。今日も子が元気でいるのも当然のことじゃない、と、また思う。いや、毎日元気だし、これまで特に大きな問題を抱えたこともないのだけど、それでもだ。

そんな縁起でもないことを口に出すものじゃないと、私もそう思う。考えてもどうしようもないのだ。本当にどうしようもないのだからもうそんなことは乱暴に蓋をして二度と出てくるなと封じ込めたくなる。それでも、「赤子は原因不明で死ぬことがある」という知識は心の奥のほうでくすぶっていて、ふとした時に胸を締め付けるのだから、目をそらし続けるだけじゃなく、たまには丁寧に手当てするくらいのことはしてもいいと思う。

今日も子が健やかであってくれてありがとう、それは当然じゃない、だから今この瞬間を最大限に抱き締めて生きたい、と願う。ここに子がいる、最高にかわいい。私の子だ。夫の子だ。生きている、しかも自分の意志で動いている! 何度あおむけに戻してもすぐにうつ伏せのスフィンクス体勢になって得意げな顔をしている! なんてすばらしいんだろう!

そんな思いがあふれ出すのは、たぶん私がいますごく元気で幸せだからだと思う。言わば、病み上がりハイなんだろう。つい先日、初めて乳腺炎になって39度台の熱が出たのだ。

朝、右胸がやけに痛いな、と思っていたら昼には激しい悪寒に襲われ、ガタガタ震えながら布団にくるまって耐え、震えが収まったころには高熱と頭痛、全身のひどい倦怠感がやってきた。ちょうどインフルエンザに似ていた。でも幸い、乳は赤く腫れてはいるものの詰まってはいないようで、よく先輩母から聞いたような「岩みたいにガチガチ」状態にはなっていなかった。これ、ガチガチになっていたら熱よりも胸の痛みのほうがつらいのかもしれない。よく「抱っこすると激痛」というのも聞いていたけれど、私はそれほどではなかった。

高熱と頭痛で起きているのもつらいなか、夫がすかさず救いの手を差し伸べてくれたことにはこの先ずいぶん長く感謝し続けるだろう。体調不良を訴える私の連絡を受けるとすぐに職場の手続きを踏んで帰宅し、イオン飲料とゼリーを差し入れ、授乳以外のすべての子守をこなしつつ、在宅で仕事も片付け、夕飯を作り、家事もし、病院探しまで手伝い、文句の一言も言わなかった。今思い出しても涙が出るくらいだ。なんてすばらしいんだろう! 今まで本当にいろいろ小言を言ってごめん、いや、これからも言うかもしれないけど、これから言うのは全身にこの感謝を湛えて、それでも打ち消せなかったぶんだけにするね。

さて、熱が上がりきったところで解熱剤を飲み、多少下がり、また上がり、また飲み、と2回ほど繰り返しながら2、3時間おきに授乳を続けていたところ翌朝には37度台まで下がってくれた。かかりつけの助産院に連絡すると運よく予約が取れたので、午前中に乳房マッサージをしてもらった。

しっかり乳腺炎だったようで、胸を見た瞬間、助産師さんが「あらぁ~」と声を上げていた。しかも、右胸が炎症を起こしていただけでなく、無事だと思っていた左胸も一部完全に詰まっていたようだ。たしかに最近、両胸ともに詰まりがちで、しこりができてはなんとか解消し、を何度も繰り返していたところだった。

それにしても乳房の扱いに長けた助産師さんというのはありがたい存在だ。処置を受けられることになった瞬間に「あぁもう大丈夫だ」と思ってしまうほど安心した。先生(と私は呼んでいる)の顔を見てまた安心して、胸を見てもらって「これは乳腺炎ですね……、左胸もあやしいですね」と言われた段階で「あぁ来てよかったです……」と言ってしまった。「まだ何もしてないですよ、早いですよ!(笑)」と先生は笑っていたけれど、「鼻水様の膿が溜まっているので出せるだけ出しちゃいます」と言って右胸をこねこねと絞り、「ここは詰まっちゃってるので地道に通してみます」と左胸をもみもみ開通させ、「なんだか小さな滓のようなものがザラザラと出てきます」と両胸の乳管を掃除し、「仕上げますね」と言って30分ほどで処置を終えてくれた。

乳房マッサージをしている間、乳腺炎になったらどうすべきかの相談にも乗ってくれた。まず赤く腫れた部分はしっかり冷やし、どんどん授乳すること。悪いほうの胸ばかり飲ませないでもう片方の胸もちゃんと飲ませること、そうしないともう片方も悪くなってしまうから。カロナールやイブプロフェン、ロキソニンなどの解熱鎮痛剤は使って問題なし。水分は努めて多く摂ってください、1日2.5リットルが目安。よほど頑張らないと飲めない量ですよ。でも飲んでください。

病院に行くべき場合についても尋ねると、いろいろと教えてくれた。痛くなってから1日や2日であれば助産院でまず処置してもらうといいけれど、3日も4日も治らないようだともう医療が必要な段階。ただし、単に薬を出してくれるところではなく、乳房のケアもしてくれるところに行かなくては。たとえば夜につらくて救急病院に行ったとしても、抗生剤と解熱剤が出されるだけでおよそ乳房を診てくれないから困るわね、それだけ特殊な部位なのでね。だから授乳に理解のある乳腺科に行かなくてはいけない、もし切開して膿を出すにしても、将来の授乳に差し障りのないような切り方をしてほしいから。

「あと1日、2日は痛みが残るかもしれませんが、うまくいけばそれで治ります。炎症を起こしていたほうの胸は、痛みが取れても1週間くらいは元のふわふわな状態にはならず、ちょっと固くなっています。よく休んで、赤いところは冷やして、両胸とも、たくさん授乳しましょう。今度は痛くなったり詰まったりする前にお掃除しにきてもいいかもしれませんね」

私の母よりひと周り、いやもう少し若いくらいの先生に見送られて助産院を出ると、胸も心も体もだいぶ軽くなっていた。信頼できる助産院とたまたま近所で出会えて幸運だった。数カ月前、授乳に悩んでかよっていたおかげで今回診てもらうハードルがかなり低かったのも幸いだった。

「乳腺炎 病院 何科」とかでインターネット検索すると、「まずは出産した産婦人科を受診するといい」などと出てくるのだけど、里帰り出産後に自宅に戻ってしまった人はそんなことできないし、産婦人科でも「母乳外来」がいつも開いている病院はかなり少ないし、「乳腺科」は主に乳がんを診るところだから授乳中の乳腺炎には冷淡だと書いてあったりして途方に暮れ、「助産院だと薬は処方されないしな……」と不安に思いながらも、他にどうしたらいいかわからないから助産院に相談だ、と最後に心を決めたのだけど、これで次からは迷わずに行ける。うん、行く必要がないのがいちばんなのだけれど。

そんなわけで、いまは熱も引いたし、頭痛もないし、胸の痛みが少し残っているくらいであとは通常に過ごせている。あぁ、すぐよくなって本当によかった。……いや、油断はできないのだけれど。再び悪化しないように、授乳の度に順番や姿勢を調整し続けていくわけだ。子と乳房2つ、計3つの生き物を世話しているみたいだ、と最近よく思う。

身体がつらすぎて雑念が吹っ飛んだからか、回復してくると爽快な気分に満たされた。読みたい本も書きたい記事も、作りたいものも全部いったん強制的に棚上げされたので、焦りが消し飛んだのだと思う。育休は有効活用するものではない、謳歌するものだ、とか言って笑っていたくなるような気分である。

さて、今回も人と運に助けられて、事なきを得ました(あ、いや、無事に完治するまでは油断しちゃいけないんだ。すぐ忘れる)。いずれにせよ、ありがたいことよ……。こんど何かにイライラしたらこのありがたみを頭からつま先まで再び満たして怒るか否かを再考したい。

では今日も、明日も、2.5リットルの水やノンカフェインのお茶を飲んで調子を整えていきます。治ってからも授乳中は1日2リットルほど飲んだほうがいいらしいよ!

ーーー追記[2023.07.04]ーーー
乳腺炎はそのままだんだんとよくなったものの、相変わらず両乳が詰まりがちで困り、数日後に助産院を再訪。そのとき、乳腺の詰まりを防止する効果があるという漢方を教えてもらい、毎日飲んでいる。それが効いてきたのか、ここのところ調子がよくなってきた。油断は禁物、と思いつつもちょっとほっとして気が緩んでいるのでこの先どうなるものか。心配だけど、行きつ戻りつやっていくしかないし、と言い訳しながら食べるアイスクリームが、本当においしい。

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