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詩集をもっと読もう。長田弘『死者の贈り物』に触れて

詩と共に生きるなんて半分他人事のように思っていたけれど、そうでもないのかもしれない。久しぶりに詩集を読んで、あらためて思った。

詩人の言葉がすっと胸に突き刺さる瞬間が、確かにある。短い一節だからこそ、ずっと心に残る。様々な言葉のなかで、その言葉だけが胸に飛び込んできて離れないのなら、それはもう寄り添うのがよいのだろうと思う。

楽しかったですのひとことが足りない。

詩人・福間健二の詩「未来」(『あと少しだけ』思潮社、2015年)の一節にそんな言葉があって、何年も前にその詩を読んだときに刺さったきり、忘れられない。その日以来、誰かと楽しい時間を過ごした後には必ず「楽しかったです」と言っていると思う。先日も、ひょんなことから「座右の銘は?」なんて聞かれたときに、この言葉を引用して答えたりした。

この言葉がなんでこんなに好きなのか、ちゃんと考えたことはなかったけれど、たぶん私にとって大事な価値観と通じるんだろうと思う。楽しかったと相手にきちんと伝えるということ、それは他人と一緒に生きるために欠かせない礼の尽くし方なのだと思うし、私自身にとっても幸せな生き方なのだろうと思う。

長田弘(おさだ・ひろし)『死者の贈り物』 (ハルキ文庫)

貝殻をひろうように、身をかがめて言葉をひろえ。
――「渚を遠ざかってゆく人」より

そうやってまだあと数十年、生きたいと思う。この詩集はたぶん、60歳くらいになって読んだとき、もっともっと深くしみいるような体験になるのだと思う。

詩集をもっと読もう。飛び込んできて離れないような言葉に、また出会えるのが楽しみだな、と思う。

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