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フランスの本棚


当時付き合っていたノアのフランスの実家を訪れると

ご両親のアフィファとダニエルがフランス仕様のごあいさつ(頰にキスとハグ)で迎えてくれた。

リビングには、床から天井に伸びる本棚が間隔を開けて3つ、4つほど壁に埋め込まれていた。焦げ茶色で、表面もプレイナーでほど良く削られているから、温もりが伝わってくる。その中には、本が綺麗に敷き詰められていた。

フランス語が読めないわたしに、アフィファは、そこにあるほとんどが推理小説だと教えてくれた。

初めてのフランスで初めてのお宅(しかも彼氏の)に少し緊張していたわたしに

“Don’t ask. Tell me what you want.”

アフィファはいつも、そう言いながらコーヒーやシャワー用のバスタオルを用意してくれた。少し高めの、透き通った声がとても可愛らしく、絶妙なアメリカンアクセントで話す彼女の話しぶりが どこかかっこいい。

コーヒーを持ってくるなり「これは全部ダニエルが作ったんだよ。」

アフィファとノアが誇らしげに言う。

開放的な空間に、温かい雰囲気を作り上げているこの本棚たち。

わたし好みの本棚。

わたし:これ、作るのにどのくらいかかったの?

ダニエル:1つ作るのに3日くらいかな。

え?ほんとに?!

スコットランドのアンガスの元でフレーム作りをしていたわたしはびっくりした。

アンガスは、一つ一つの作業を丁寧にこなしていく。
自分のワークショップを持って、月曜から金曜日、朝の10時から夜の6時までみっちり作業をこなす。その時は、クライアントから依頼された椅子を作っていて、1つを作り上げるのに1ヶ月から3ヶ月ほどかかると言っていた。

“1つの椅子に3ヶ月もかけるなんて、よっぽどアーティスティックな作家さんなんだね。”

肩をすくめるようにサラッと言ってのけるダニエル。

自分なんてそんな才能はないけど3日で仕上げちゃったよ。
意外と簡単だよ?

目の前で、あっけらかんと答えるダニエルに、わたしはなぜだか面白おかしくなってしまった。

数ヶ月の間、ゆっくり、じっくり、たっぷり木と対話を重ねて椅子を作り上げるアンガスと、3日でこんなにも暖かな、この部屋にマッチする本棚を作り上げてしまったダニエル。

ヨーロッパは一つのことを取り上げても、こんなにも人によって多種多様なのかと驚いてしまった。



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