復習Tシャツ　（バレエショートショート）

　井伊野から振付の覚え方のコツを聞かれたので藍は答えた。

「コツなんてない。先生の振付と注意をレッスン日記につけておく。そうすると覚えやすくなるよ」

井伊野は首を振った。
「簡単に覚えるやり方だけを教えろ。俺は男だから先生が前に出てこいっていうので困る」

　そこへ奨励さんがやってきて、井伊野にシャツを渡した。
「レッスン着としてこれを着ろ。これはバレエの動きを形状記憶で覚えてくれる優れものだよ」
「すごい、で、使用方法は？」
「まず先生のお手本の踊りを見る。シャツはそれを記憶する」
「おっ、それで俺が踊ると手足が振付通りに動くのか。いいぞ、おっさん。たまには役に立つ発明品をくれるのだな」
　
　奨励さんは言い方が気に食わなかったらしく顔色を変えて、井伊野からシャツをはぎ取り、藍に渡そうとした。藍は断った。
「プロ志望のプライドにかけて不要です」
　井伊野は「だったら俺にくれええ」と叫んでいたが、奨励さんは「今のはうそだよ」と言って去った。

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