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逃げるは恥だが役にも立たず

※こちらは勉強会に投稿した随筆をリライトしたものになります


 日頃の運動に幼稚園まで徒歩3分の送り迎えを含めていいものか。そんなことを考えながら園庭を走る子供を追って日よけに傘をさしながらゆっくり歩くと隣家から根を伸ばして幼稚園の芝生に侵食してきたらしいミントの香が夏の湿気に混じって立ち昇る。コロナ禍であるなしに関係なく、元気ハツラツ、爽やかな汗、リフレッシュという謳い文句にとんと縁がないまま一年が過ぎた。下の子も幼稚園に入園し、育児の手の空いたママ友から一緒にやろうよとヨガやダンスのお誘いがかかるが曖昧に言葉を濁して誘いをかわし、痩せると評判のYOUTUBE動画も結局リストに入れただけで再生していない。

 そんな人間であってもなくても、一律にお声がかかるのが、PTAのドッジボール大会である。集え、体育会系のママさんといった昔懐かしの因習が少子化と共働き世代のリアルな負担となって直撃する。小学校区対抗チームなので人気の校区エリアのように各学年で5クラスあるという地区ならともかく、各学年2クラスの人気も学力も程々といった校区エリアでは希望者だけではなかなか人数が集まらない。必然、担い手を探してそれとなく「今年はどうする?」とママ友同士で情報交換と根回しが始まる。

 一年目は突き指が怖いので、と逃げ、二年目はまだ下の子が小さくて、と逃げた。三年目には校区が移動になったため難を逃れ、四年目はコロナでイベント自体が中止になった。

 さて今年はどう逃げようか。一度くらい出てみるのもいいのではと思うが、いやいや、一度でも出てしまえば次もどうかと声をかけられるのは目に見えている。実は逃げるだけならそこそこ上手いのだ。当たらなければどうということはないのだから。とはいえ、三十六計逃げるに如かず、なんとかボールを持たずに済むよう、あれやこれやと理由をつけての逃げの一手である。

 うだるような暑い夏には水出しのミントティーがさっぱりと心地良い。子供の面倒をみるふりをしてこっそりと足元のミントを摘んで持ち帰る。ミントの繁殖力は強く、放っておけば30センチの高さにも成長し、たちまち手強い雑草となってしまう。

 逃げ足と草むしりと抜いた道草を美味しくいただくトライアスロンがあれば世界チャンピオンと言わずとも良い線が狙えるのだが、オリンピックの正式種目にはまだ登録されていない。オリンピックチャンピオンとなる日は当分来なさそうだーー

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