【1$とカタチ】その8「硬貨は紙幣を駆逐するか?」

立体造形作家の長野です。

一ドル札を手に「カタチ」に関する話を色々と掘り下げよう、とテーマを据えて八回。
ついに来ました、ネタ切れです。
手元にある一ドル札を何度眺めても、目に入るのは変なパーマのおっさんだけ。

そして思い出しました。

「一ドルって硬貨もあったじゃん!」

家中を探すこと一時間、やはり出てくるのはバーツやらウォンやら元ばかり。

一ドル硬貨の実在を疑い始め、あわてて「世界貨幣カタログ(2018年版)」を開くと見つかりました、一ドル硬貨。


流通しているその数、なんと40種類。

もう一度。

40種類ものデザインの違う一ドル硬貨が流通しているのです。


「印刷するカネがないから、紙は小さく、インクは在庫あるやつ」

とか言っていたアメリカ造幣局にあるまじき豪胆なこの事態は、いったいなぜ起こっているのか。

現在製造されているのはサカガヴィア・ダラー、1979年から1981年、そして1999年に追加製造されたアンソニー・ダラーの後継として、2000年から製造されている。
資料によるとその流通量、なんと10億枚。

しかし、なかなかお目にかかる機会が少ない。


その理由は実物を手にして痛感した。

でかいのだ。

実寸で直径26.5mm、重さ8.1g

これは五百円玉と同じサイズ、そして重さは一ドル硬貨の方が一グラム重い。

画像1

伝わるだろうか、このサイズ感

キャッシュレスだなんだと騒いでるこのご時勢に、五百円玉サイズの硬貨を財布に何枚も突っ込んで歩く人はいないだろう。

事実、一ドル硬貨の使用される場面は主に自販機、スロットマシンであり、一般的な会計では紙幣ばかりが使われている。

そんなあまり歓迎されていない一ドル硬貨。


しかし、2007年、アメリカ政府は大胆なプログラムを実行する。

それが「大統領硬貨プログラム」

2016年まで行われた施策であり、その内容は


「歴代大統領全員分の一ドル硬貨を、毎年四種類ずつ作る」


これにより、毎年4人の異なるおじさんのツラが載った硬貨が作られることとなる。

そしてプログラム終了時の2016年には、39人分39種類の新硬貨が市場に溢れた。


画像2

圧巻である


貨幣とは贋作との戦いの歴史だ。
いかに本物を浸透させ、偽物を排除するかが貨幣の課題。
それをかなぐり捨てる様に、毎年次々とニューデザインを展開する造幣局は、さながらファストファッションの様であり、ある意味現代アメリカを象徴していると言えなくもない。

ちなみにこの「大統領硬貨プログラム」
始めた理由が「大統領を称えよう!」とか「偉人にもっと親しみを!」とかだったらまだいいのですが、現実は

「硬貨のほうが紙幣よりも製造コストがかからないから、数を増やしてこっちに切り替えたい」

だそうです。


「アメリカ造幣局ってホントに大人が運営しているのか?」という疑問は飲み込んで、今回はここまで


追記:

2011年のNPRの記事が面白かったのでご紹介。

The government spent $300 million making coins no one wants

~~~~~

The coins are filling Federal Reserve vaults around the country, and the program is still only about half done.

By the time things wrap up in 2016, the number of unwated coins could reach 2 billion, according to the Fed

みんないらない硬貨に、政府が3億ドルを浪費

(中略)

「大統領硬貨プログラム」はまだ半分にも達していないにも関わらず、このプログラムで作られた硬貨は、すでに国中の銀行の倉庫を埋め尽くしている。

Fedによると、プログラムが終了する2016年には、このいらない硬貨の枚数は20億枚に達する予想。

(筆者訳)

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