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槇原敬之『モンタージュ』の歌詞はフリからオチから全てが良すぎる。

 槇原敬之のファンである。
 それも、小学生時代からの。
 
 色々な人に、何がいいのか、覚醒剤で二度も逮捕されているんだぞ、などと言われたりもするが、私はあの人の描く歌詞が大好きだ。
 今でも十分評価はされてるのだけれど、私はもっともっともっと槇原敬之は評価されてもおかしくないと思っている。

 その中でも小学生時分から好きな曲が本日紹介したい『モンタージュ』である。

  アップテンポな中に、言葉への丁寧さや、ワクワクさせる音の配置(チャイムのような導入部分や、際立っているドラムの音、Bメロのおとなしめな展開からサビへと盛り上がっていくドラマチックな構成など)が含まれており、気がつけばあっという間に聞き終わっていることだと思う。

 割と長尺の曲が多い槇原さんの中でも3分くらいでサクッと終わるから、それもまた良い味を出しているかもしれない。


 そんな短い中で歌詞。歌詞が炸裂している。リリックに、起承転結が存在し、下手な小説よりも聞き応えがある。

あの坂を登れば あのコが働いてる店
友達につきあっただけ 僕のワードローブじゃない

槇原敬之『モンタージュ』

 歌い出しだけで、このインパクト。
 テンポよく”あのコ”という存在の状況が説明され、(”あの坂を登れば”が映像的でまたいいですよね)、それも別に出会いは友達に言われただけだ、僕のワードロブ(趣味じゃないをシャレオツな言い回し、ベネ。)じゃないんだという導入。
 否定から入ると。

ひとめみたとき 僕は生まれて初めて
自分の耳が赤くなっていく音を聞いた

槇原敬之『モンタージュ』

 いやいや嘘つけーっ!、である。
 お前、自分の趣味ちゃうとか言いつつ、ちゃっかり恋落ちてるやんけー!、である。
 そして、この恋に落ちる表現が!
 ”自分の耳が赤くなっていく音を聞いた
 なんて感覚的で、けれど共感もあり、インパクトも含まれたフレーズなんだ!
 素晴らしすぎるな。短歌とか俳句とかの語彙だよな。

恋をするつもりなんて これっぽっちもないときに
限って恋がやってくる

槇原敬之『モンタージュ』

 いいんですね?
 もう、これは恋ということでよろしいですね、という感じ。
 そしてこの短いコンテクストの中で、えげつない恋あるあるを放り込むのがすごい。
 そうなんです!
 恋って、するつもりないときに来る!
 あれ、何?
 今、仕事とか学業とか、うまくいってるから!
 今じゃあないから! 恋!!お腹いっぱいなのに!
 でも、望まずに落ちちゃうから、恋なんだろうな。
 オーケー、じゃあ、これはもう恋だ。圧倒的な片思いだ。

思い出してみる 君がどんな顔だったか
凍りついてた 心のドアをあっけなく開いた君

槇原敬之『モンタージュ』

 槇原さんは恋を劇的に描くことに長けたシンガーソングライター。
 単なる一目惚れも彼にかかれば、訪れる高揚感などが詩や音で表現される。
 なんて恋の一番楽しい時を描いたサビなのだろう。

冷やかし半分の 友達の取り調べに
よけいにうまく行かない 君のモンタージュ

槇原敬之『モンタージュ』

 終始友達の存在がナイスすぎるよな。
 彼がきっかけを生み出し、そして彼が(おそらく)半ニヤケで取り調べることで浮かび上がる”あのコ”の表情。
 けれど、恋の高揚感と共に、その輪郭は曖昧でぼんやりし続ける、と。
 表題で出てくる”モンタージュ”写真のように。だから、モンタージュ。
 なんて恋のあるあると織り交ぜた最高の歌詞なんだ!
 
 そして、歌い出しで「ワードローブじゃない」と否定しているのが、より取り調べ感を醸し出してる。
「恋、しただろ!」「してねえよ。証拠はあるのかよ!」「耳が!赤く!なってたけれど!!あれは!じゃあ!なんや!!!」「……ちゃうんす、恋をするつもりなんてホンマになかったんす」
 きちんとフリがある。

理屈を並べて 全てに答えを探して
方程式のないものは あまり好みじゃなかった
それなのに今は ふとしたはずみでやってくる
訳のわからない胸の 痛みを楽しんでいる

槇原敬之『モンタージュ』

 しかし彼、終始言い訳じみている。
 何をのらりくらりと…。
 素直に言え!
 恋をしちゃいましたと言え!
 方程式とかいうな!
 ほんまの恋に方程式はないぞ!
 エックスに代入も何もないからねえ!!

恋をしているのかも 本当はわからないけど
もう一度 君に 会いたいんだ

槇原敬之『モンタージュ』

 この後に及んで、こいつ…!
 人はなあ!
 それをなあ!
 恋っていうんや!!!
 証拠は揃ってるねん!
 もう、無理や!
 それは恋や!一目惚れや!片思いやー!!

思い出してみる 君がどんな顔だったか
使い方の解らない カメラでとったピンぼけ写真
友達のレジを 打つ横顔だけでは
やっぱりうまく行かない 君のモンタージュ

槇原敬之『モンタージュ』

 サビの”思い出してみる”という言葉のチョイスが本当に良いですよね。
 思い出す、でもなく思い”出してみる”。

 このやり取りの応酬こそがまさに取り調べだし、モンタージュ写真だし、何よりも恋で盛り上がる瞬間だし、とまあ、本当に良い曲だな、改めて。

 そして、歌詞の終わり。

僕のハートを盗んだ犯人は
電車で二駅のところで 今日も笑ってる
 

槇原敬之『モンタージュ』

 このフレーズ。
 なんて素敵なオチなんだろう。
 恋に落とした相手が犯人で、なかなか揃わないモンタージュ写真。
 なぜか、被害者が取り調べを受けながら、自嘲気味に”恋をしました”と白状する様。

 そして、電車で二駅のところという絶妙な距離感。
 頻繁に訪れる場所ではない。
 そこに、より片思いの輪郭がくっきりと浮かび上がる。
 
 最後は笑っているという”あのコ”の仕事姿と、犯行に成功した犯人(怪盗のイメージ)の高笑いとのダブルミーニング。
 
 才気がほとぼしり過ぎている。
 3分の中で、これだけ恋の取り調べというフリをかましながら、オチも鮮やかという。
 純粋な音の良さに、この歌詞の文脈。
 表現者として畏敬しか抱かない。


 是非皆さんも、不意打ち気味な恋とか、ダルい恋の取り調べの時とかに、モンタージュを思い出してみてほしい。

 もし上述したシチュエーションで、この曲が思い浮かんだのなら、きっとその犯人は、当記事を書いた私で間違いないだろう。

 

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