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遠ざかる情景#1

短歌の投稿です。推敲を繰り返してみました。

文明という明かりの中で生きながらも、我々は、孤独と悲しみという人生の闇からは逃れることはできない。もし、逃れられるのならば……。そう思いながらも、それは、我々の心の中にべったりとこべりつき、時にそれは、我々の心に忍び込む。それでも、人は歩かねばならない。傘を忘れ、雨の中歩いて帰るように。

1.雨音が 硝子の向こうで 泣いている あの日、あの時を見ている私
あの時の私と似たり 雨音が 窓の向こうで さめざめと泣く
降る雨が 窓のガラスを さめざめと 打つその音は 悲しみに似たり
夕空と さめざめと泣く 雨寒し 窓の外見る 哀しき私 
さめざめと 硝子の向こうで泣いている 過去の私に似たる雨音
雨音が 窓の向こうでさめざめと 私と過去を遮る硝子

2.109 白白粉の 少女たち 娼婦と呼ぶは 親心かな
109 白い白粉 塗る少女 娼婦と呼ぶは 親心かな
白粉が 白く輝く 少女たち それを娼婦と呼び親は泣く
白粉を 塗る白い手や 109 親は彼女を娼婦と呼びて
哀しきや 109へ行く 少女 白い手にマニキュアの赤が輝く
少女たち 化粧を塗りて 夜の街 親は娼婦を育てたかと泣く

3.赤という 怒り色をした 血肉 それを包みし 君の柔肌
君の肉も 怒りの色の 赤なりか 抱くその肌 甘く匂いて
匂いたる 柔肌包む 赤い肉 赤は怒りの色と言うけど
柔肌を 抱きて 甘く匂うなり それが包みたる 赤き血肉よ
血や肉は 怒りの色か その赤に 柔肌包みし 君の身体よ 

4.夕凪や 陽が差す河原 ただ一人 止まった刻は 私と似たり
夕凪や 私と似たる夕の風 ただ一人止まり 動かぬ孤独
夕の風 凪の刻には 静止する 私と同じく そのままでいて 
静止する あの風は、まだ動かない 夕凪よ そのままでいてくれ   
陽が差した 河原は夕凪の刻なり 風よ そのままと留まってくれ

5.退廃と 若さの混ざる 路地の華 白い化粧に 毒混じる紅
若さには 退廃が混じりて 差す紅の 眼を刺す赤は 毒が混じりて  
退廃の 毒が混じりし 娘らの 刺す紅の赤 路地の花びら
路地に咲く 紅の赤には 毒混じる 娘らが咲かす 白粉の華
路地に咲く 娘の肌に 化粧花 毒の紅さす 細指白き
退廃故 路地に咲く花 うつくしき 何故毒の紅 差して歩くか

6.止まれども 背を押され歩く アスファルト 宿なき人と私は似たり
宿もなき 人と見比べし私の 因果背負えど 背を押す群衆
群衆が 背を押す アスファルトの孤独 宿もなき人と 私は似たり
宿もなき 人と笑いし あの頃と 違い中年の私は 孤独
宿もない 私と似たり その人も 群衆に背を 押されて歩くか
背を押され アスファルト往く 群衆よ 宿なきあの人も そうであるか

7.夕暮れに 長崎の街は 染まりゆく 受難の土地を“終わり”が包む
長崎の 街が夕暮れに 濡れている “終わりの刻”が包みゆくなり
夕暮れや “終わりの刻”が包む街 受難の路を歩んだ長崎
夕暮れや “終わり“が包む長崎よ 受難の路は、すでに昔か
長崎よ 受難の路は もう昔 今は“終わり”が包む夕刻
夕暮の闇は “終わり”を告げるもの 受難の路を生きた長崎

8.風吹きて 雨溶かしたる 廃ビルに 埃被りし マネキンの群れ
野ざらしの 廃ビルに群れる マネキンは 埃被りて ポーズ決めたり
廃ビルの 吹き晒されたる ロビーには 埃被りし マネキンの群れ
廃ビルで、マネキンたちが 群れ並び ポーズ決めたるは 哀しき様と  
野ざらしの 廃ビルに 立つマネキンは 埃被りて ポーズ決めたり
野ざらしの 廃墟のロビー に群れている ポーズを決める 寂しきマネキン




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