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【七つ目の扉で死んだ祖母を感じる】 《極私的短編小説集》

 扉を開けると、和室の部屋に亡くなって久しい父方の祖母がいる。ただ存在は見えない。存在感のみがある。もう喋らなくなった、記憶の薄れていく祖母をイメージしながら、存在感を味わう。祖母の雰囲気、移り香、温度、そのようなものがあり、そこからそれが祖母であるとわかる、といった感じだ。


 親父や兄貴が言うところでは、祖母は我儘な性格であったらしい。未亡人になってからは、子どもたちの家々を思いのまま渡り泊まり歩き、言いたい放題を言い、食べ散らかしていたそうだ。皮相な欲求をやりたいようにし、気まぐれで、姑としてはまあ嫌がられるタイプであったのだろう。ただ、まだ小さかった孫の私には優しく、可愛がってもらったという記憶しかない。幼稚園の入学式、桜の樹の下で撮影した二人の写真で、私は無邪気に笑っていた。


 祖母の後方には、祖母に繋がる先祖が連なっているのだろう。そこまで見通す能力は今の私にはない。あちらの世界の鳥羽口である祖母を感じることではじめて、その後ろにいる先祖たちを感じることができる、と言った印象だ。ああ、繋がっているのだ、という一種の安心感。


 「そんなところで寄り道して。ぐずぐずしないで」業を煮やして彼女が言う。


 「わかった。でもいったいぜんたい、君は誰だ」そもそも、彼女とは何者だろう。


 「そんな事も忘れているの。この間抜けのおたんこなすの朴念仁、薄のろの大馬鹿野郎。この永遠の連なりを集収するのはあなたなのよ。当初の目的を忘れないでいなさい」罵詈雑言を浴びせられて辟易するが、以外と怒る気にならない。怒るべきなのかもしれないが、それに意味はないと感じ、言葉の粒を見つめるだけになる。


 「次の扉に行ってもいいか」


 「ええ、どうぞ。その先もあまり変わり映え、しなくてよ。あなたが変わらない限り」


  プライドなど無いのだが、たぶんこの感じは傷つけられているのだろうと思うと陰鬱な気持ちになる。悄気しょげながら、次の扉を開ける。

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