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読書ノート 「春 その他の季節」 ル・クレジオ

 ジャン・マリ・ギュスターブ・ル・クレジオの第四短編集。第二短編集「海を見たことがなかった少年(原題「モンドとその他の物語」)、第三短編集「ロンドその他の三面記事」から連なり、簡潔で透明な語り口が俊逸。珠玉の物語五篇が収められている。

 表題作の「春」は、フランス・ニースが舞台。そこで暮らす少女サバの物語。サバは「十歳を過ぎてから生みの親に引き取られるが、その現実生活(ニース)と失った過去(メディア)との狭間でいくつかの通過儀礼を経験しつつ成長していく(訳者あとがき」。


 「それまで考えたことすらなかったほどの絶望的な気分、暗い穴蔵、這い上がることが出来るといった望みもなく、あたしはずり落ちていった」


 「あたしは、日が長くなり、それが数ヶ月も、数年も続いているように思えるときが好きだ」


 「あたしが今取り戻したいのは、厳しさと幸福の印象、乾いた土と植物の匂い、銅に似たブドウの味、風のなかですれ合う、ものを切るようなトウモロコシの葉音だ。それはあたしのなかにある。その年あたしのなかに陽の光のように入りこんだのだ」


 「あたしは待っていた、そしてまた何も待っていなかった。別なふうにそれを言うのは難しい。理解するのは簡単だ、そうじゃない?」


 「急にあたしはひどく疲れてしまった。フォーマイカのテーブルの前の椅子に座り、彼女がやけどしそうな熱いお茶を一杯持ってきてくれるあいだに、あたしは泣きはじめた。きっとその苦い飲み物に涙をまぜてしまったと思う」



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