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【二つ目の扉で誘惑と遮断が相まみえる】 《極私的短編小説集》

 冷たいところから、温かいところへ、扉は世界を一変させる。温かいといってもどちらかと言うと湿度が高く、咽せ返るような温かさだ。無論そこは居酒屋ではない。コンクリート打ちっぱなしのビルの中、ここは勤務先の会社か。事務の女性が戯れている。


「もう、暑くって暑くってたまらないわね。見栄えなんて気にしてられないわ」といって制服を脱ぎ、タンクトップ姿で佇む。誘惑している訳では無いが、そう感じてしまうのは、こちらにその気があるのだろう。


「いつもいつも頼りになるとは限らないわ。どのように生きていくか、そのふるまいを、胸に手を当てて考えなさい」


 こちらの疚しさを見透かされたような気持ちになり、動悸がする。なにか言い訳をしようかとするが、うまく言葉が出ない。


「柔らかい気持ちであなたに取り入りたい。あなたの首筋に吸い付いて、背骨の裏側から接吻をするの。愛しいあなた。永遠にくっつき虫でいたい。あなたが嫌なら床の下から見守るわ。でも気持ちはください、私をいとおしむ気持ちはください」


「ここにいてもいいんだよ」そう発話する。

「ここはあなたの心配のいらない場所。ここでは不安はなく、愛着を持って居続けることができる。怖がることはない。そのことについては私は責任を持って宣言する」


「『責任を持って宣言する』って。何言ってんだか偉そうに。こっちは勝手にここにいるのよ。まるで自分が守ってやっている風な言い方だけど、全くそんなこととはお構いなしに、わたしはここにいるの。あなたとわたしは繋がっていないの」

 とたんに口調が変わり、変貌した彼女は怒りを露わにする。


「それは君がそう思っているだけだ。私たちは繋がっており、同じ世界を共有している」

 自分自身本当にそう思っているのか、いぶかしながら、断言する。


「そちらの主観ではね。私の主観ではそうではないわ。ああ、つまらないことを話してしまった。ここから逸脱する」彼女は会議室へ繋がる扉を開け、出ていった。 
 コンクリートのオフィスビルは内側に崩壊するようだ。
 追いかける私の背後で世界が消滅していくのがわかる。

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