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読書ノート 「大洪水の前に マルクスと惑星の物質代謝」 斎藤幸平


 やっと読めるのだが、簡単に読み飛ばしできない内容かも。じっくり読む前に、断片を集め、そこをとっかかりに精読していきましょう。


「自分を取り巻く労働者世代の苦悩を否認するためのあんなに「十分な理由」をもっている資本は、その実際の運動において、人類の将来の頽廃や結局は食い止めることができない人口減少という予想によっては少しも左右されないのであって、それは地球が落下するかもしれないということによって少しも左右されないのと同じことである。どんな株式投資の場合でも、いつかは雷が落ちるに違いないということは誰でも知っているのであるが、しかし、誰もが望んでいるのは、自分が黄金の雨を受けとめて安全な場所に運んでから雷が隣人の頭に落ちるということである。大洪水よ、我が亡き後に来たれ!これが、すべての資本家、すべての資本家種族のスローガンである」(マルクス・MEGA2/6:273)


  • 『パリ・ノート』は私的な勉強目的で作成されたものであり、マルクスの存命中には刊行されることはなかった。

  • ところが、『パリ・ノート』の一部が二十世紀に入ってから『経済学・哲学草稿』として刊行されると、このテクストのなかに若きマルクスの「ヒューマニズム」が現れだした。

  • 当時のマルクスの理論的限界として、フォイエルバッハの哲学に大きな影響を受けていたということがある。あらゆる歴史的分析を抽象的で非歴史的な「本質」へ還元してしまう傾向。

  • 「阻害された労働」という資本主義批判

  • アルチュセールや廣松渉ひろまつわたるは、マルクスの理論的発展のうちには、「認識論的切断」や「パラダイムチェンジ」が存在すると指摘。アルチュセールによれば、1845年以降、疎外論はいかなる役割も果たさなくなったという。

  • 四種類の「阻害」:「労働生産物の阻害」「労働の阻害」「類的存在からの阻害」「他者からの阻害」

  • マルクスの疎外論が問題視しているのは、労働が自己実現や自己確証のための人間らしい自由な活動ではなく、窮乏化、労苦、人間性剥奪、アトム化を引き起こす活動に貶められている近代の不自由な現実のあり方である。こうした状況に抗して、マルクスは「私的所有のシステム」の廃棄による労働疎外の克服を掲げ、人々が他者とのアソシエーションを通じて、自由に外界に関わり、労働生産物を通じて自己確証を得ることのできる社会の実現を要求したのであった。

  • 阻害された労働の議論は、六〇年代に本質主義や経済決定論との関連で様々な論争を巻き起こした。

  • マルクーゼ『史的唯物論の基礎付けのための新史料』

  • 哲学的解釈では労働疎外の原因をうまく説明する事ができない。

  • マルクスは国民経済学によって前提された私的所有の「事実」を分析し、その隠れた歴史的条件を「本質」として解明しようとした。つまり、マルクスは私的所有が労働の「産物」であり、疎外された労働こそがその「必然的条件」であると述べたのだ。

  • つまり、私的所有は「事実」ではなく、疎外された労働の歴史的・論理的「帰結」なのである。

  • こうした図式的で、歴史のテロスを前提とした決定論が魅力的なアポリアの解決策でないのは明らかだろう。これでは、廣松やアルチュセールのように疎外論そのものを退けるという結論もやむをえないものになってしまう。アポリアはそもそも存在しない。

  • 農奴・耕作人と賃労働者との違い。耕作者は人格的自律性を持たないが、生存は保証された「和気あいあいとした側面」を有している。賃労働者は資本の非人格的で、物象的な支配が生じ、疎外された労働に従属する。賃労働者はあらゆる直接的な大地とのつながりを喪失しており、自然から疎外されている。その結果が、自然、活動、類的存在、他者からの疎外、つまりは、生産における「和気あいあいとした側面」の完全なる喪失にほかならない。


「アソシエーションは土地や地所に適用される場合には、国民経済学的見地から見た大土地所有と同じ長所を持っており、はじめて分割のもともとの傾向である平等が実現される。アソシエーションはまたそれによって、理性的な仕方で─つまり、もはや農奴制や支配やばかげた所有神秘主義などによって媒介されない仕方で─大地に対する人間の和気あいあいとした関係をつくりあげる。というのは、土地は掛売りの対象であることをやめ、そして自由な労働と自由な享受によって、再び人間の真なる、人格的な所有物になるからである」(マルクス・MEGAⅡ1/2:232)

  • 土地との強い結びつきこそが、労働能力の一般的な商品化を防げていたのであるから、資本の支配は当然この結びつきの解体を求めてくる。人格的支配のみならず、土地との結びつきからも切り離された労働者は二重の意味で自由な無保護な労働者たちであり、マルクスは彼らの置かれた「所有の労働からの分離」状態を「絶対的貧困」と呼んでいる。

  • 絶対的貧困、対象的富の欠乏としての貧困ではなく、それから完全に締め出されたものとしての貧困。

  • フォイエルバッハへの賛意と「実践」における批判

  • マルクスは現実の矛盾を反映する理論的対立の克服のために実践が不可欠であると考えていた。

  • 『ドイツ・イデオロギー』においてマルクスは説明しなくてはならない理論的課題を認識したものの、その具体的解決までには与えることができていない。つまり、その後の経済学研究と並行しての自然科学研究こそが、まさにこの課題を遂行するものであり、人間と自然の関係の歴史的変容を明らかにしようとする試みだったのである。そして、その鍵となるのが「物質代謝」概念なのだ。


 ここまでが第一章。面白く勉強になります。一旦小休止します。


【出版社情報】

 異常気象、疫病の流行や戦争……世界が危機に瀕する今、私たちは誰も取り残すことなく、これらの問題を解決するための道筋を探さなくてはならない。資本主義の暴力性や破壊性を正確に認識し、その上で、資本主義とは異なる社会システムを構築すること。『資本論』を記したカール・マルクスの、生前未刊行のノートからエコロジーの思想を汲み取り分析する。ドイッチャー記念賞受賞作。スラヴォイ・ジジェクの解説も収録。

【目次】
第一部 経済学批判とエコロジー
 第一章 労働の疎外から自然の疎外へ
 第二章 物質代謝論の系譜学
第二部 『資本論』と物質代謝の亀裂
 第三章 物質代謝論としての『資本論』
 第四章 近代農業批判と抜粋ノート
第三部 晩期マルクスの物質代謝論へ
 第五章 エコロジーノートと物質代謝論の新地平
 第六章 利潤、弾力性、自然
 第七章 マルクスとエンゲルスの知的関係とエコロジー

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