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読書ノート 「プラトン全集 11 クレイトポン/国家」 田中美知太郎他訳



 ここでは主に『国家』についてまとめてみる。
 まず、『国家』には何が書かれているのだろう。藤沢令夫の解説より、その構成を確認する。


【あらまし】
 ソクラテスはある日ペイライエウスへ出かけて、ポレマルコスの家に招じ入れられ、まずそこにいたケパロスと老年や富について話す。ケパロスの談話から引き出された「正義とは何か」という問題は、ポレマルコスとトラシュマコスが順次提出する正義の定義が吟味され論駁されることによって、未解決のまま終わるかに見えたが(第一巻)、グラウコンとアデイマントスが正義否定論を強力に代弁し、ソクラテスの正式の答えを求めるに及んで、さらに本格的な取り扱いを要するものとなる。ソクラテスは、個人における正義の拡大された姿を国家において見ることを提案し、ここに、国家の起原と生成から出発して、モデル的な国家の大がかりな構築がはじまる(第二巻)。

 国づくりの中心は、国の守護者・統治者の人づくりにある。まず、年少時代に行われるべき詩歌・音楽・体育による教育のあり方が検討される(第二、三巻)。そして、国の守護者の資格と選抜、その生活条件と任務が語られてのち、国家を構成する三つの階層の区別とそれぞれの役割にもとづいて、まず国家の持つべき《知恵》《勇気》《節制》《正義》の四徳が定義され、さらに、国家の三階層に対応する個人の魂の三つの「部分」(機能)の区別が指摘されることにより、個人の持つべき同じ四徳が定義される(第三、四巻)。

 しかし、議論はまだとうてい片付かない。守護者階層における、男女の職務と教育の平等・同一、妻子の共有について述べたのち、ソクラテスは、理想国家の実現を可能にする唯一最小限の変革として、科学者が国を統治すべきことを提案し、予想される誤解に対して「哲学者とは何か」を説明する(第五巻)。

 社会通念の力は大きく、真の哲学的素質は育ちにくいが、哲人統治者の実現は、至難ではあっても、不可能ではない。彼が学ぶべきもっとも重要なものは、何か。この問を承けて、《善》のイデアとそこに至る哲学的認識のあり方が、「太陽」「線分」「洞窟」の三つの比喩を中心に詳細に説明される。「魂の目の向け変え」としての教育の理念、具体的な学科目のプランも、そこから必然的に帰結する(第六、七巻)。

 ついで、理想国家が不完全国家の四形態へとつぎつぎと転落していく過程、それぞれの不完全国家とそれに対応する個人の性格が詳しく述べられて、不正ではなく正義こそが、人間を幸福にすると結論される(第八、九巻)。そして最後に、詩歌・演劇の本質が哲学的に考察されたのち、正義への善き報いに関連しながら、魂の不死の論証が試みられ、第二巻のはじめにグラウコンとアデイマントスが提出した論点を覆したところで、「エルの物語」が語られてこの対話篇は終わる(第一〇巻)。


 もともと『国家』は、章分けされているわけではなく、その内容から後世の研究者たちが分類したのである。プラトンが登場人物であるソクラテスに喋らせる言葉によって、話題を転換するのを拾い区分したのが、こんな感じ。


Ⅰ 「前奏曲」としての第一巻
Ⅱ 第二巻から四巻
Ⅲ 第五巻から七巻
Ⅳ 第八巻から九巻
Ⅴ 第一〇巻

そして、この五つの部分を詳しく記すと、次のとおり。


Ⅰ 「前奏曲」としての第一巻─正義についてのいくつかの見解の検討、導入部  
 1 ケパロスとの老年についての対話。「正義とはなにか」という問題へ    
 2 ポレマルコスとの対話。「正義」とは、それぞれの相手に本来ふさわしいものを返し、与えること(詩人シモニデス)の検討
 3 トラシュマコスとの対話。
 ①「正義」とは、支配階級の利益になるという見解の検討
 ②「不正」は「正義」よりも有利(得)であるか


Ⅱ 第二巻から四巻─国家と個人における「正義」の定義
  1 グラウコンとアデイマントスによる問題の根本的な再提起
  2 「国家」に関する考察─「もっとも必要なものだけの国家」と「贅沢国家」。国の守護者のもつべき自然的素質
  3 国の守護者の教育
   ① 音楽・文芸─何を、如何に語るべきか。    
     詩・文学、報告・劇、歌、曲調、リズム、音楽・文芸による教育の目的
   ② 体育および医術のあり方
  4 国の守護者についての諸条件
   ① 守護者の選抜、建国の神話
   ② 守護者の生活条件、私有財産の禁止
   ③ 守護者の任務
  5 国家の知恵・勇気・節制そして「正義」の定義
  6 魂の機能の三区分
  7 個人の知恵・勇気・節制そして「正義」の定義。国家と個人の悪徳の問題へ

Ⅲ 第五巻から七巻─理想国家のあり方と条件、特に哲学の役割について

  A 三つのパラドックス(「大浪」)
   ① 第一の「大浪」─男女両性における同一の職務と同一の教育
   ② 第二の「大浪」─妻女と子供の共有。戦争に関すること
   ③ 第三の「大浪」─哲学者が国家を統治すべきこと
  B 哲学者の定義と哲学のための弁明
   ① 哲学者とは? イデア論に基づくその規定
   ② 哲学者は国家の統治に適した自然的素質を有すること
   ③ 哲学無用論の由来と、現社会における哲学的素質の堕落の必然性、にせ哲学者のこと
   ④ しかし哲人統治の実現は不可能ではないということ
  C 哲人統治のための知的教育
   ① 学ぶべき最大のもの(認識の最高目標)─《善》
   ② 善のイデア=太陽の比喩
   ③ 線分の比喩
   ④ 洞窟の比喩
   ⑤ 「魂の向け変え」と「真実性への上昇」のための教育プログラム
     1 「前奏曲」(補助的準備的学科目)としての数学的諸学科
      a 数と計算 学習科目は知性を呼び起こす性格のものである
      b 幾何学
      c 立体幾何学
      d 天文学
      e 音楽理論(音階論)
     2 「本曲」としての哲学的問答法(ディアレクティケー)
     3 学習・研究の年齢と具体的プログラム

Ⅳ 第八巻から九巻─不完全国家とそれに対応する人間の諸形態。正しい生と不正な生の比較

  導入部 当初の問題への復帰。考察の方法と手順
  1 理想国家(優秀者支配制)から名誉支配制へ。名誉支配制国家と名誉支配性的人間
  2 寡頭制国家と寡頭制的人間
  3 民主政国家と民主性的人間
  4 僭主独裁制国家と僭主独裁制的人間
  5 幸福という観点から見た正しい生と不正な生の比較
    ① 独裁者の生は最も不幸で、優秀者支配制的人間(または哲学者)の生は最も幸福
     a 国制のあり方と個人のあり方との対応に基づく証明
     b 魂の機能の三区分に基づく証明
     c 真実の快楽と虚偽の快楽の別に基づく証明
    ② 不正が利益になるという説は完全に間違いで、正義こそが人間にとって真の利益

Ⅴ 第一〇巻─詩(創作)への告発。正義の報酬

  A 詩歌・演劇の本質に関わる考察
    ① 真似・描写・ミメーシスとしての詩作について。それが作り出すものは真実(イデア)から遠ざかること第三番目の序列にあり、詩人(作家)は自分が真似て描く物事について知識を持たない
    ② 詩(創作)の感情的効果について─真似・描写としての詩(創作)は、魂の劣った部分に働きかけるものであり、人間の性格に有害な影響を与えるものであること

  B 正義の報酬
    ①魂の不死と、魂の本来の姿
    ②現世における正義の報酬
    ③死後における正義の報酬、エルの物語─大団円



 新プラトン派のプロクレスによると、古代、この『国家』の主題について、「国制(国家論)」と「正義(正義論)」の間で激しい論争があったそうだ。正義を主題と唱える一派は、①そもそも最初の対話のなかで提起されているのは「正義とはなんであるか」ということ、②国制に関する考察は、正義の考察の「手段」として出てきたものであるということ。これに対して、国家論が主題であると考える派は、「正義」は国家論の導入であり、題名を見てわかるように(プラトンは主題を題名にすることは稀であった)『ポリーテイアー(国家)』という表題が極めて明確に示しているという。プロクレスはこれら両者の意見に対して「ともに受け入れる」。ただし「主題がふたつであるという意味ではなく、これらふたつは互いに同一の事柄であるという意味である」という。「なぜならば、一個人の魂において正義であるところのものが、そのまま、よく統治された国家において正しい国制を為すところのものにほかならないからである」


 正義の本質は正しい理に従って生きる魂の国制であるという。『正義論』と題されなかったのは、ただ「ポリテイア」という言葉が「ディカイオシュネー」という言葉よりもよく知られて親しまれていたからにすぎない、とプロクレスは結論づけている。

 概要は把握した。本文を味わっていきます。まだまだ読了にはほど遠い。

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