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極私的読書ノート

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偏らないように読んでいるつもりがやっぱり偏ってますね。 理解と感想を入り混じらせて、新たなヒントや読もう!という気持ちを導き出せていればいいな。基本姿勢は感想より原文重視です。
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記事一覧

読書ノート 「国際安全保障がわかるブックガイド」 赤木完爾 国際安全保障学会

【目次】 Ⅰ 古典(トゥキュディデス『戦史』、クラウゼヴィッツ『戦争論』、マハン『海上権力論集』ほか) Ⅱ 国際政治論(モーゲンソー『国際政治』、ウォルツ『国際関係の理論』、ミアシャイマー『大国政治の悲劇』ほか) Ⅲ 冷戦と冷戦後(ギャディス『ロング・ピース』、下斗米『アジア冷戦史』、ウォルト『同盟の起源』ほか) Ⅳ 外交史・軍事史・思想史・国際法(カー『歴史とは何か』、マゾワー『暗黒の大陸』、クラーク『夢遊病者たち』ほか) Ⅴ 国際問題―現状と展望(フレイヴェル『

読書ノート 「戦争学入門 核兵器」 J・M・シラキューサ 栗田真広訳

 原子炉と核兵器のいずれも、そのエネルギーの源は原子力である。このエネルギーは、原子の分裂(核分裂)または結合(核融合)に由来するが、これを理解するには、まずは原子それ自体について理解しなければならない。    原子とは、元素を構成する最小の粒子であり、その元素を特徴づける特性を持っている。  1900年代初頭までに、原子の性質に関する知見は、ゆっくりと蓄積されてきた。最初のブレイクスルーと言えるのは、アーネスト・ラザフォードによる1911年の発見で、彼は原子核に原子の質

読書ノート 「明恵上人伝記」 平泉洸

 「華厳中興の祖といわれる明惠上人は、教団を組織せず、終身釈迦を父と仰ぎ、自ら遺子と称された。上人の法話は「悪人なお隠れたる徳あり、況や一善の人に於てをや」と差別がなく、人はただ「あるべきやうは」の七字を心懸ければ世の中に悪いことはあるはずがない、と温順な言葉で説かれている。が、この一見やさしい教えの数々が、実は華厳哲学と美しく冥合して輝かしい光を放つ。本書は、その上人の伝記を歴史の大局から見た注釈書。」(講談社HP説明)  明恵上人の伝記は人気があり、江戸時代に度々版を重

読書ノート 「イスラームから見た西洋哲学」 中田考

   一気読みできました。井筒俊彦からイスラム神秘哲学やギリシア哲学に入った身としては、良く言えばまとまっている、悪く言えばアウトラインのみの内容ではあるが、いやいや貶す必要はない、この分野できっちりしたものを書ける人は大変少ないのであるから、ありがたく承ろうと思います。特に、第一章から第二章にかけての、古代から中世へのイスラム哲学と西洋哲学の関係については、大変良く見通されて書かれている。   この視点、いわく、「中世の西洋哲学はギリシア哲学を無視し、キリスト教の狭い宗教思

読書ノート 「なぜあの人と分かり合えないのか」 中村隆文

  なぜあの人と分かり合えないのか、嫌いだから。腹立つから。自由市場を支えるのがリベラリズムであるなら、こちとらも、リベラルに腹が立ってもいいはず、誰にも迷惑をかけていないならば。誰か私のこの稀有な腹立たしさに価値を見出して、100万円くらいで買ってくれないだろうか。  「甘えている」と「いい気になってる」のたたかい  「お金=リベラルだと思われていた商業主義」による分断の兆しが、そこここに現れてきていると著者は言う。  教育、偏差値、大学、成果主義、外見主義、年齢主義、

読書ノート 「マルクスの現在」 柄谷行人・浅田彰・市田良彦・小倉利丸・崎山政毅

 1998年に京都大学経済学部新入生歓迎講演会として行われた対談と、同じく京都大学でSPOONERISM主催で行われた講演と、柄谷行人『トランスクリティーク』出版前の草稿として書かれた原稿「トランスクリティーク結論(草稿)」を附して一冊の本にしている。編者は当時の京都大学生。どういった主旨があったのかは、「はじめに」に書かれている通りだろう。「マルクスを読むための良き入門書」がない状況は、現在2024年時では少し変化したようだ。アメリカのZ世代、日本のSDGs関連書物、斎藤幸

読書ノート 「眠りの館」 アンナ・カヴァン 安野玲訳

 「生はせめぎあい──せめぎあいの結実だ。せめぎあいなしには創造への衝動は存在しえない。人間の生を昼と夜、二極間のせめぎあいの結実とみなすなら、夜という陰極は、陽極である昼と同じ重要性を帯びているはずだ。夜には、昼とまったく異質の宇宙線の影響で、人事万般がともすれば運命の分かれ道に立たされる。ほとんどの人間は夜に死に、夜に生まれるのだ」(「はじめに」)  断片的で自伝的な夢の言葉で紡ぐ。「夜の言葉」で紡ぐこの幻想小説は、アンナ・カヴァンの現実世界である。夢と現実の狭間でせめ

読書ノート 「純粋な自然の贈与」 中沢新一

 米国に渡ったピューリタンたちは、インディアンの風習「インディアン・ギフト」がとても奇異に映った。インディアンたちはたくさんの贈り物を交換し合い、もらったら必ずお返しをしなければ気の済まない人たちであった。ところが、インディアンの方では、ピューリタンのその倹約家ぶりが、信じられないほど異様なことに思えた。ピューリタンに高価なタバコのパイプを贈り物として渡し、そのピューリタンの行政官はありがたく持ち帰る。数カ月後、インディアンがその行政官のオフィスを訪問したら、その居間の暖炉に

読書ノート 「贈与論 他二編」 マルセル・モース 森山工訳

 「取るのと同じように与えなさい、そうすれば万事うまく運ぶでしょう」 (マオリの諺)  「(ポトラッチをおこなう社会においては)首長と配下のあいだに、そして配下とさらにその取り巻きのあいだに、こうした贈与によってヒエラルキーが確立されるからである。与えるということ、それは自らの優位を表明することである。それは、より大きくあることであり、より高くあることであり、主人(マギステル)であることである。これに対して、受け取っても受け取った以上のものを返さないということは、従属

読書ノート 「アーレント政治思想集成 2 理解と政治」 アーレント 齋藤純一他訳

 フラグメントを置く。  「最も尊敬する方」  「(ヤスパースについて)個人的に決して忘れられないのは、何とも名状しがたい、人の話に耳を傾けるあなたの物腰、批判を提起する用意は常にあるけれども狂信からも懐疑主義からも等しくかけ離れた寛容、そして最後に何よりも、すべての人間は個性を持っているがいかなる人間の理性も無謬ではないことに気づかれていたこと、こうしたことです」  率直に振る舞う人間、底意のない人間  自らの生存に対して正当な理由付けを与えるという何とも非人間的な

読書ノート 「カイエ・ソバージュ」 中沢新一

 もともとは、講談社新書メチエで五冊に分かれて刊行されたもの。大学の講義をテーマ別にまとめ、中沢新一の当時の思想最前線を概観するものでした。五冊中、三冊を購入した(はず)。第一刊(『人類最古の哲学』)、第三刊(『愛と経済のロゴス』)、第五刊(『対称性人類学』)。また購入には至らなかった残りの二刊(『熊から王へ』、『神の発明』)も、読んだ記憶がある。でもどうして読んだんだろう。立ち読み?  二〇数年前、札幌にいた時、北大附属病院に喉の疾患で入院していた頃、『対称性人類学』を精

読書ノート 「レンマ学」① 中沢新一

 近年の最重要書物のひとつと確信している『レンマ学』。思いつくまま取り出していく。すでに私の血となり肉となる部分もあるが、まだまだ、そんなに甘いものではない。ゆっくりいきましょ。 目次 序 第1章  レンマ学の礎石を置く      レンマ学の発端/源泉としての南方熊楠書簡/大乗仏教に希望あり      生命の中のレンマ的知性 第二章  縁起の論理      大乗仏教と縁起思想/プラジュニャーと縁起/レンマ的論理      空論から縁起へ/レンマ学は否定神学ではない 第三章 

読書ノート 「世界をわからないものに育てること  文学・思想論集」  加藤典洋

 2016年の作品。  この三年後に加藤は肺炎のためこの世を去る。  幾つかの章について、個人的感想を述べる。 『「理論」と「構築」──文学理論と「可能空間」』…  面白いかなあと思って読んでみたが、テクスト論と学校の先生方の内向き理論の話が噛み合わず、そもそもこれはどういった立ち位置の話なのかという疑問が湧き、読めません。「ナンデモアリ」の価値相対論、〈第三項〉の理論と、好みのキーワードではあるが、ううん、なんか違う、経緯ばかりの説明で、それも大事なのだろうが、本論がな

読書ノート 「クララとお日さま」 カズオ・イシグロ 土屋政雄訳

 これはエスエフです。子供の成長を手助けするAF(人口親友)として開発されたロボット・クララのおはなし。ノーベル文学賞受賞第一作。  雇い主の少女ジェシーは何の病気なのだろう。姉のサリーの病気はジェシーとなにか関係があるのだろうか(あります)…と、読み出すと疑問符が頻出する。  「性格が変わる」ことは人間にとっては普通のことだが、クララには学習しなければならないことなのだ。ジェシーの母親が言う「懐かしがらなくてすむって、きっとすばらしいことだと思う。何かに戻りたいなんて思