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読書ノート 「戦争学入門 核兵器」 J・M・シラキューサ 栗田真広訳


 原子炉と核兵器のいずれも、そのエネルギーの源は原子力である。このエネルギーは、原子の分裂(核分裂)または結合(核融合)に由来するが、これを理解するには、まずは原子それ自体について理解しなければならない。

 

 原子とは、元素を構成する最小の粒子であり、その元素を特徴づける特性を持っている。
 1900年代初頭までに、原子の性質に関する知見は、ゆっくりと蓄積されてきた。最初のブレイクスルーと言えるのは、アーネスト・ラザフォードによる1911年の発見で、彼は原子核に原子の質量が集中しているという説を打ち立てるとともに、原子核は生の電荷を帯びており、負の電荷を帯びた電子に取り囲まれているとする見方を提示した。
 この原子構造に関する説は、数年後にデンマークの物理学者ニールス・ボーアによって補完されることになる。ボーアは電子を、原子核から決まった距離にある殻(電子殻)、量子準位のなかに位置づけた。したがって原子とは、原子核から決まった距離のある殻のなかで、正の電荷を帯びた原子核の周囲に、負の電荷を帯びた電子が複雑な配列を成したものだということになる。
 一方、原子核は、原子の質量のほとんどを含み、かつ陽子と中性子から構成される(ただし通常の水素原子だけは、一個の陽子のみから構成されるため例外である)。すべての原子は、概ね同じ大きさである。

 さらに、負の電荷を帯びた電子は、原子核の周りのエネルギー殻のなかでランダムな軌道を辿る。
 原子の特性のほとんどは、その電子の数と配列に規定されている。原子核の中に存在する粒子には二種類あり、そのうちの一つは陽子で、正の電荷を帯びた粒子である。陽子の電荷の量は、電子の負の電荷の量と釣り合っている。ある原子の原子核のなかにある陽子の数が、化学元素の性質を決めている。原子核のなかに見られるもう一つの粒子は中性子である。
 1932年、英国の物理学者ジェームス・チャドウィックが発見した中性子は、電荷を持たず、陽子と同等の質量を持つ。電荷を持たない中性子は、電子雲や原子核に弾かれることがないため、原子の構造を調べる上で有用なツールである。個々の陽子や中性子も内部構造を持っているが、これらの原子を構成する小さい粒子は分離できず、独立にそれぞれを調べることはできない。

 原子の主要な特徴は原子番号であり、これは陽子の数に応じて定義される。原子の化学的特性は、原子番号によって決まる。
 原子のなかにある、核子と呼ばれるもの(陽子と中性子の総称)の総数が質量数である。原子番号が同じでも中性子の数が異なるもの、それゆえ質量数が異なるものは、同位体(アイソトープ)と呼ばれる。同位体どうしは化学的特性こそ同一であるが、核特性では大きく異なる。たとえば、水素には三つの同位体があり、うち二つは安定的(放射能を持たない)であるが、一個の陽子と二個の中性子を持つトリチウムは不安定である。
 ほとんどの元素は安定同位体を持つ。放射性同位体は多数の要素の集合体と見ることもできる。Uー235元素(Uはウラニウムの元素記号)の原子核は、92個の陽子と143個の中性子(92+143=235)から成っており、それゆえU235と書かれる。

 原子核の質量は、個々の陽子と中性子の合計よりも一パーセント程度小さい。この差は質量欠損と呼ばれ、核子(陽子と中性子)が原子核を構成するために結合した際に放出されるエネルギーに由来する。このエネルギーは結合エネルギーと呼ばれ、どの核が安定的か、また核反応によってどの程度のエネルギーが放出されるかを決める。
 極めて重い核と極めて軽い核が持つ結合エネルギーは小さい。これが意味するのは、一つの重い核が分裂する(核分裂)ときにエネルギーが放出されること、そして二つの軽い核が結合する(核融合)ときにもエネルギーが放出されることである。質量欠損と結合エネルギーは、よく知られたアルバート・アインシュタインの公式E=mc2と関連している。

 1905年にアインシュタインが生み出した特殊相対性理論の含意の一つは、質量とエネルギーが相互に変換できることであった。この式では、cは光の速さであり、質量(m)がとてつもない量のエネルギー(E)に変換できることが示されている。
 光の速度の数字が極めて大きい(秒速約30万キロメートル)ため、cの二乗は膨大な数になり、わずかな質量が膨大なエネルギー量へと変換されうるということになる。アインシュタインの公式は、まさに核兵器と原子炉のエネルギーの鍵なのである。核分裂反応は、最初の原子爆弾で、そして現在に至るまで原子炉で用いられ、一方、核融合反応は熱核兵器や原子炉開発で重要になった。


 核爆発は、最大規模の比較の爆発と比べても、数千倍もしくは数百万倍も強力

 爆風と衝撃波

 爆発のエネルギーの大部分(85%)は、熱エネルギーと呼ばれる、光と熱の形で放出される。
 同時に、放射性降下物(15%)を伴う。これは数秒間に渡って生じ、その後数年単位で危険をもたらし続ける。強力なガンマ線。

 爆発のエネルギー量は、1キロトンの核兵器は、1000トンのTNT火薬の爆発と同じだけのエネルギーを生み出す。

 広島に投下されたウラン型核爆弾は、TNT火薬1万4000トンに相当した。 
 1952年のアメリカ水爆実験は、TNT火薬700万トンに相当した。

 

 2019年時点、「終末時計」は午前零時の二分前にある。終末時計は1947年設定時は7分前であった。以来18回動いてきた。

 「一時は協調的であったはずの核をめぐる国際政治のムードが次第に暗転し、2019年の中距離核戦略(INF)全廃条約失効へと至る経緯を終章が論じている。日本国内の政治的・政策的な言論空間において、核兵器の問題は極めて論争的なイシュー。それは第一義的には、世界で唯一の被爆国であるということを重要なアイデンティティとし、核軍縮の推進を掲げる一方、安全保障政策上の現実的な選択として、戦後一貫して米国の拡大抑止に依存してきた、日本のアンビバレントな政策に由来する。
 そうした背景のもとで、核兵器に関する様々な言説が飛び交う論争が、日本国内では折りに触れて巻き起こってきた。最近では、北朝鮮の核兵器をめぐる北東アジアの軍事的緊張の高まりと、核兵器禁止条約への参加の是非が議論の種となった2017年や、ウクライナ戦争におけるロシアの核兵器使用の可能性への関心が沸騰した2022年2月以来の状況はその典型例と言えよう」(訳者解説)


デカップリングの問題…米国が、敵対国からの自国核攻撃を恐れ、その敵対国による米国同盟国(日本)への侵略行為があっても軍事介入を躊躇する可能性


「ポスト冷戦の世界は、まったくもってポスト核兵器の世界ではない」(クリントン政権時のアスピン国務長官の言葉)

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