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読書ノート 「国際安全保障がわかるブックガイド」 赤木完爾 国際安全保障学会

【目次】

Ⅰ 古典(トゥキュディデス『戦史』、クラウゼヴィッツ『戦争論』、マハン『海上権力論集』ほか)

Ⅱ 国際政治論(モーゲンソー『国際政治』、ウォルツ『国際関係の理論』、ミアシャイマー『大国政治の悲劇』ほか)

Ⅲ 冷戦と冷戦後(ギャディス『ロング・ピース』、下斗米『アジア冷戦史』、ウォルト『同盟の起源』ほか)

Ⅳ 外交史・軍事史・思想史・国際法(カー『歴史とは何か』、マゾワー『暗黒の大陸』、クラーク『夢遊病者たち』ほか)

Ⅴ 国際問題―現状と展望(フレイヴェル『中国の領土紛争』、船橋『ザ・ペニンシュラ・クエスチョン』ほか)

Ⅵ 戦争論・戦略論・戦争研究・地政学・軍隊(『マッキンダーの地政学』、ハンチントン『軍人と国家』ほか)

Ⅶ 核兵器と核戦略(ペリー他『核のボタン』、シェリング『軍備と影響力』、ロバーツ『正しい核戦略とは何か』ほか)

Ⅷ 内戦・テロリズム・サイバー・テクノロジー(アーミテイジ『内戦の世界史』、サンガー『サイバー完全兵器』ほか)

Ⅸ 近代日本の安全保障(1868―1945)(ソーン『満州事変とは何だったのか』、近衛『最後の御前会議』ほか)

Ⅹ 現代日本の安全保障(1945 -)(吉田『回想十年』、高坂『世界地図の中で考える』、読売新聞戦後史班編『「再軍備」の軌跡』ほか)

Ⅺ テキスト 基本図書(ナイほか『国際紛争』、防大編『安全保障学入門』ほか)


 古典として参照された『人はなぜ、戦争をするのか─エロスとタナトス』解説

 「平和は戦争への準備期間でしかない」
 (古代アテナイの歴史家・トゥキュディデス)


 「本書はフロイトがアインシュタインと交わした往復書簡から始まり、第一次世界大戦後、再び大きな戦争の足音が聞こえてくる中で、フロイトが人間の破壊欲望を分析した一連の理論書を集めたものである。

 フロイトは人間の持つ特定の行動に駆り立てる無意識の衝動を精神医学の用語を用いて、「欲動」と呼んだ。彼は、人間が憎悪によって破壊的な衝動に駆られるのは二つの「欲動」が関係していると指摘した。一つは自分の健康や心の平穏を維持しようとする愛の欲動であり、フロイトはこれを「エロス」と呼んだ。もうひとつは相手を破壊し、殺害しようとする「破壊的欲動」で、「タナトス」と呼んだ。 

 ただし、フロイトによれば、この二つは別々に存在しているのではなく、人間の心のなかで深く結びついている。それぞれの欲動は同質のものであり、その欲動が向けられている方向性に違いがあるだけで、他人を慈しみ、思いやる良心は時に破壊や攻撃の衝動に変化する。逆に他人を傷つけようとする攻撃性は自分自身に向かえば、自分自身の本能的な行動を抑制する良心に変貌する。

 つまり、人間の持つエロスもタナトスも本質的にはベクトルが違うだけの同じ存在であり、人間の持つ破壊的な衝動や攻撃性を取り除くことは不可能であるとフロイトは主張した。要するに、人間の持つ破壊的な欲動は自然界で生きる人間の持つ本能であり、例えればハチが人を刺すことと同じだというのだ。

 しかし、それでは戦争をなくすことは不可能なのかといえば、フロイトはいくつかの処方箋を提示している。フロイトは人間の破壊的な本能を消滅させようとするのではなく、文化の発展の中に答えを導き出そうとしている。人間は文化のレベルが向上しそれに伴って知性のレベルが上がると、破壊的な欲動が心の内側に向き始め、良心が強まって戦争への嫌悪を感じ始めるという。ただし、この戦争への嫌悪感は戦争の持つ残酷さに起因しているというよりも、「破壊」という行為が美しくないという美的な観点からきているとも、フロイトは付け加えている。


 …慈しみや思いやりという人間らしい行動は実は攻撃や破壊の心理と表裏一体であるという指摘は、一見乱暴な見解にも思えるが鋭い指摘だろう。


 ある分析によれば人間は過去3500年間でおよそ1万回の紛争や戦争を繰り返し、それによっておよそ1億5000万人が死亡したという。まさに人間の歴史は戦争の歴史であり、戦争は歴史の営みとして新しい時代を生産してきたのである」(秋元千明)

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