その壁を掃除するデフォー

鼻くそをほじっては実家のリビングの壁に指で弾いて飛ばす、という遊びを、幼少期にやっていた覚えがある。子供は破壊的だ。恐ろしい。一体どんな状況なのかさっぱりだが、例えば今、鼻くそと壁しかないような状況になったとしたら、ただただ嘆くしかないだろう。しかし、子供は鼻くそと壁があれば、鼻くそと壁で遊ぶのである。

「フロリダ・プロジェクト」の子供たちはモーテルで暮らしている。基本母子家庭か、かなりやばい臭いのする父親がいるか。とにかく、低所得者向けの住宅みたいなものにも入居できないわけだから、かなりのもんだ。しかし、子供たちはモーテルで楽しそうに暮らしている。駐車場の車に向かって唾を吐いたり、機械室に忍び込んで停電させたり、近所の空き家(ずらっと並んでいてサブプライムローンの爪痕感がすごい)に忍び込んだり。

これを困り顔しつつも見守るのがモーテルの管理人(ウィレム・デフォー)。モーテルに勝手に居座っちゃってるだけの人々に対して、デフォーが出来ることは少ない。それでも、子供たちに近づいてきた行動的ペドフィリアおじさんと思しき男を追い返したり、家賃(正確には宿泊費)を払えない住人の荷物を一時的に空き室に置いてあげたりするが、特に感謝はされない。それでも、デフォーは折れずに困り顔で見守る。いつも思うけど、濱田マリに顔似てる。

フロリダのディズニーワールドの目と鼻の先っていうロケーションでモーテル暮らしをする子供たちは、デフォー目線で見れば不憫ったらないが、子供目線では普通に楽しい。ちょくちょく挿し込まれるヘリコプターが飛び立つシーン(リゾート地のヘリツアーみたいなことかな)は、「じゃりン子チエ」の時間経過の電車シーンを思い出した。無自覚な「じゃりン子チエ」というか。

過酷な環境で楽しく過ごす子供たちは、残念ながら美しい。自分の境遇に気づく寸前、もしくはもう気づき始めてるかもしれない、今を逃したらもう後には戻れないタイミング。「鼻くそは汚い」と気づく寸前のあの頃の自分も美しかったろうか。たぶんそうでもないな、レベルがちげぇよ。

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