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用字用語の実例(2015年5月15日、校正勉強会講義内容)――いまむかし

                         

【共】=【共同通信 記者ハンドブック 第12版】〈共同通信〉 
【広】­=【広辞苑 第六版】〈岩波書店、カシオ電子辞書〉
【必】­=【標準 校正必携〈日本エディタースクール〉】 
【技】=【新編 校正技術〈日本エディタースクール〉】
【ル】=【文字の組方ルールブック〈日本エディタースクール〉】 
【JISル】=【JIS Z 8208:2007改正
        印刷校正記号一覧】


※今回の「校正勉強会」は――校正は「どうすべきか」「どうやらなければいけないか」というよりも、現場の校正者がどのように感じてどのように取り組み、校正者の目にはどのように映っているのかを感じていただけるように、リラックスして聞いていただきたいと思っております。冊子はそのままお渡しいたしますので、今回の勉強会では気になったものだけまず耳に入れておくように心がけてください。そして校正者がどれだけ悩んで迷っているのかを人間的に感じ取っていただき、なおかつ「あるある」的な見方をしていただくとよりたのしくなるかもしれません。それではしばしの間、お付き合い願います。

1. ……、……。【必】【技】【ル】

三点リーダーは通常2倍(2字分)が一般的。――は一般に二倍ダーシと呼ばれ、二行にわたることは禁則〈禁則=組版ルールで禁止すべき事柄を決めた規則〉。しかし、近年三点リーダーは2行に分かれても許容が多く、二行に分かれる禁則処理をしなくて済むように二倍ダーシ、リーダー類を一倍〈全角〉にするケースが見受けられるが、二倍物の使用が望ましい。

※二倍三点リーダは無言を表す場合、余韻を示す場合に使われることがあります。二倍ダーシは「、」(読点)のような使い方ができ。「、」が一文内で重なる場合や文が長いケースで使うと便利です。なお、ダーシの長さを三倍以上の長いものにしているケースがあります。マンガの吹き出しなどにはよいのですが、文章物では「長さがバラバラ」は避けたほうが読みやすいでしょう。二倍にそろえておくとすっきりします。ダーシは全角の場合は音引きやマイナスなどの約物と混同されやすいので、二倍がベター。「―」(ダーシ)、「ー」(長音)、「-」(マイナス)――フォントにより区別が困難なので校正者は結構苦労してます。

2. 来たる×→来る○(きたる)【共】(p.215)

「きたる」「きたす」の場合は「た」不要。自動詞四段活用の文語(=キ〈来〉イタ〈到〉ルの約【広】)。

※黒澤明監督『まあだだよ』の中で、内田百閒が教え子の発言「くるものはこばまず(来る者は拒まず)」を「きたるものはこばまず」と指摘する場面があります。もとは文語の「来る〈きたる〉」であったものが、当時の学生の間でも口語化していたということでしょうか。内田百閒を私はほとんど知らないのでこの台本のくだりの経緯はわかりませんが、黒澤監督が常々この言い方を不快に思っていたのかもしれませんね。
【2023年8月8日補注:現在の共同通信記者ハンドブック第14版では「来たる」となっています。こういう微妙な変更は現場では面倒なことになります。「一人ひとり」という表記がいまだに有力なのに、元々のハンドブックは今では「一人一人」とあって、ああああ、面倒だ~という状況になっています。】

※《ノンブルの書き方》 【共】(p.215)のようにページノンブルを示す場合――ある1ページ分のノンブルを示す場合はp.215〈小文字のピーに省略のピリオド二分ドリまたは1バイトピリオドにスペース=三分~四分アキくらい〉となります。複数の場合はpp.100-150のように示します【この場合の-はハイフンではなく二分ダーシです】。ハイフンは分綴や語の連結に使用されます。数字の差や距離【東京―大阪などの場合にも使う】などにはダーシが使われます。ノンブルではなくページ数を指す場合には単数では1p.〈1ページ分という意味〉、複数では50 pp.〈全部で50ページの意味〉のように書きます【オックスフォードルール等】。

3. 勧める、薦める

◇AとBとCのうちのAをすすめる →薦める

◇Aをすることをすすめる →勧める【奨める=表外訓】

選択肢のひとつを選ぶようなケースは薦める、すなわち「推薦」「推挙」するということ。「~をすることをすすめる」は勧める。「勧誘」。【共】(p.295)

※武部良明『漢字の用法』(p.212、1976、角川書店)によれば「勧=物事を行いたい気持ちにさせること」「薦=取り上げて使うようにいうこと」とのこと。ちなみに「奨める」は表外訓。「奨=良い物事を取り上げて、行うように言うこと」ともあるようです。各社記者ハンドブックでは奨はすべて勧に書き換え。しかし、厳密に漢字的に判断すればいわゆる奨励するかたちですすめる場合は、本来「奨める」のほうが意味は近いといえます。

※表外字という場合の「表」は「常用漢字表」を指します。表内字は常用漢字、表外字は常用漢字以外の漢字を指すということです。


4. ~の折

「時期、機会、場合」は「折」、「動作性の用法、接尾語」は「折り」【共】(p.181)と使い分ける。

※【共】(p.181)の用例を以下示します。折【折から、折も折、折を見て、時折】 折り【折り合い、折り返し、折り紙、三つ折り】

5. とんでもない、もったいない、どうしようもない、いさぎよい

「とんでもない」は形容詞。「もったいない」と同じ。形容詞「とんでもない」の活用語尾部分を形容詞「ない」と見なし誤用した「とんでもございません」はいまや通用しかかっている【「とんでもない」一語を「とんでも」と「ない」の二語と勘違いしているかのごとき用法といえる】。しかし「もったいございません」はまだ通用していないように、誤用と考えてなるべく使わないほうが望ましい。「ない」単独を「ございません」へと言い換えることは可能だが形容詞の活用語尾中に「ない」のある場合は注意したほうがよい。

※「申し訳」の場合「申し訳ない」の形容詞と「申し訳」という名詞が双方よく使われることで通用が広がっていると考えられます。ただし、「申し訳ない」を形容詞として考えた場合はやはり「申し訳ないことでございます」が通常の使い方だということだと思います。繰り返しますと、形容詞の活用語尾を「ございません」に言い換えて使う用法は注意が必要だということです。「どうしようもない」も同様です。

※「いさぎよい」を最近「いさぎがよい」という言い方をする人がいます。同様に「いさぎいい」は広辞苑にはでていません。「いさぎ」単独の言葉は広辞苑にありませんでした。ただし、「だらしない」に「が」を入れた「だらしがない」は問題ないようです。「だらしない」の「だらし」は「しだら」の倒語【たね→ねたのような語】と広辞苑にあり、「だらし=始末」という意味があるからです。ただ、やはり「いさぎ」が「いい」「わるい」といいのはよろしくないと思います。「いさぎがわるい」→「いさぎよくない」がよろしいかと存じます。

6. 6~7人×→6、7人○

「~」(波ダッシュ)や「―」(全角ダーシ)は数値の差や「AからB」という距離のあるものの間に挿入されて使われることがある。ただし「から」の代用として通常の文章中に使われることが見られる(例:「東京~横浜まで行った」)。本来は数値の差を示す用法からきていると【技】等では書かれている。6~7人が6.5などが存在しない場合は使用しないのが望ましい。通常概数は「6、7人」のように使うのが望ましい(ただし、平均値などで小数点以下がありうるケースは可)。

7. づつ→ずつ【共】(p.296)

「ずつ」と「づつ」、「づつ」は旧仮名遣いの表記。間違いと思っている方もいるでしょうが、「本来の表記」であり、間違いではない。むしろ語源を探る点では旧仮名遣いのほうが本来の日本語としては理にかなっていると考えるほうが「現代仮名遣い」の矛盾点に翻弄されずに済むのではないか。

※「土地」が「ち」なのに地面が「じ」になったり、「稲=いな」「妻=つま」なのに「稲妻」が辞書では「いなずま」と出ていたり、「ひざまずく」に「つく」という意味を含んでいると考えられるのになぜ「ずく」なのかなどなど。現代仮名遣いの矛盾点は結構あります。気になる方はいろいろ探ってみてください。

8. そう言う場合→そういう場合【共】(p.149)

新聞社の表記等では「述べる、言葉で表す」場合を「言う」、「言うという実質的な意味が薄れた場合」「(…という)伝聞など」の場合は「いう」となっている。「使い分けに迷う場合は平仮名書き」とある。高度な判断力や経験が問われる使い分けに当たるためか、新聞においても仮名であるべき箇所が漢字のままというケースも見受けられる。

※伝聞というのは「人伝えに聞く」という場合を指し、「云う」「曰く」「謂わゆる【所謂】」などと書かれるような「いう」に当たります。「~といわれる」「~といえる」などはやはり平仮名表記が望ましいといえる(→この場合も平仮名ですね)でしょう。



9. 篇、編

短篇→短編【共】(p.325)。篇が表外字であるため、書き換え(表外字を常用漢字に書き換えることを指す【「同音の漢字による書きかえ」1956年7月、国語審議会部会報告より】)が公用文書や新聞表記では行われているが、このケースはその一例といえる。岩波『広辞苑』第6版の電子辞書によると――【編】④に「篇の通用字」とある。すなわち、「篇」の代用字としての「編」であると原則考えておけばよい。

※例えば、著者が前篇と書いてきた文章を断りなく前編と書き換えるようなことは原則としてやらないということを示します。「同音の漢字による書きかえ」には200以上の使用例があるので、一通り頭に入れておくと「うっかり」を回避できます(刺戟→刺激、厖大→膨大、恢復→回復のようなケース、書き換える前の熟語が本来の表記と考えておけば「うっかり」を回避できます、方針を決めないまま勝手に換えないようにしてください。間違っても「刺戟」の「戟」を「激」の誤字と扱わないことです)。

10. 讃える→たたえる【共】(p.318)、逢う→あう【共】(p.135)、翔る→かける【共】(p.193)、貴方・貴女・貴男→あなた【共】(p.144)

「讃える」は表外訓、「逢う」は表外字、「翔(かけ)る」は表外字、「貴方・貴女・貴男」は表外訓。

※表外字や表外音訓(3の※に説明あり)の文字は「使えない」ということではありません。公用文書や新聞表記、教育関係での文書には使わないことを推奨されているということなのです。便宜上、「常用漢字・現代仮名遣い」の表記を使う媒体では使わないということであり、読み仮名を施せば、使うことは特に問題はありません。しかし、読みやすさを考えた場合、バランスのいい用字用語がより読みやすいものになると思います。

※「改定現代仮名遣い」の性格、構成及び内容――の「一 性格(2)」には以下のように書かれています。「この仮名遣いは、法令、公用文書、新聞、雑誌、放送など、一般の社会生活において現代の国語を書き表すための仮名遣いのよりどころを示すものであり、科学、技術、芸術その他の各種専門分野や個々人の表記にまで及ぼそうとするものではない」。つまり、文芸作品や科学書などでは本則も必要ではないし、個人の自由であるということです。逆に言えば、公用文書や新聞、雑誌、放送など一般的であるとされる媒体では「現代仮名遣い」の表記が使われることが望ましいということもあります。もちろん、拘束力があるわけでもなく、「わかりやすいと国が考えた表記」を使うことで、だれでも読みやすくしましょうということなのです。では印刷物を発行する側としてどうとらえたらよいかといえば、20年以上現場で感じている個人的考えを言えば「公用文書やそれに準じた媒体はそれに近づけたほうが表記統一が容易であり、それぞれの媒体にあったハンドブックや辞書をその都度選ぶというのが決まりごとを会社などで細かく決めるよりは合理的である」と感じています。

※「旧仮名遣い」を許容して誤植と見なさない場合は、「づつ」はそのまま。しかし、「縮む」が平仮名で「ちじむ」の場合は誤植で「ちぢむ」となります。

11. お茶を淹れる→お茶を入れる【共】(p.160)

10に同じ。

※「淹」は学研の漢和辞典によれば、音読み「エン」で「おおう、ひたす」意味で「上にいっぱいに水をはって下の物をおおう」とあります。これだけ読むと、日本のお茶というより、中国茶の映像が浮かびました。詳しく調べていませんので、興味のあるかたは研究されてください。

12. 独り、一人、1人【共】(p.390)

共同記者ハンドブックによると、「人数を示す場合は1人」「孤独、独断、独占、単独の意味は独り」とあり、「その他の一般用語は一人」とあり。

※余談ですが「おひとりさま」という場合については「1人さま」というより、「一人旅」などと同じく「一人」と考えますが、意味合いとしては「お独りさま」にとれますが、怒らせることもあるため平仮名が無難だと考えます。



13. 申込書、事前確認受付申込書

送り仮名の決まりで本則といわれるものがある。昭和48年の内閣告示第2号「送り仮名の付け方」がそれにあたる。公用文書や新聞表記においてもこの「本則」はかなりの影響力を持つといってよい。その「送り仮名の付け方」の中に「通則」「許容」などがあり、公用文書や新聞表記においての略記はこの一覧表をもとに作成されているといえる。

※本則の表記では「もうしこみ」は「申し込み」。「複合の語」(1)では「申込み」(活用のない語で読み間違える恐れのない語については本文の通則6の「許容」の送り仮名の付け方により(次の例に示すように)送り仮名を省く)。さらに「複合の語」(2)では「申込〈書〉」【活用のない語で慣用が固定していると認められる次の例に示すような語については「送り仮名の付け方」の本文の通則7により送り仮名をつけない】という

※「複合の語」(1)では【活用のない語で読み間違える恐れのない語については本文の通則6の「許容」の送り仮名の付け方により(次の例に示すように)送り仮名を省く】とあり、「打合せ」「折詰」「取調べ」などが例として示されています。さらに「複合の語」(2)では【活用のない語で慣用が固定していると認められる次の例に示すような語については「送り仮名の付け方」の本文の通則7により送り仮名をつけない】とあり、「積立金」「受取人」などが示されています。

※共同通信『記者ハンドブック』のp.111には「別表 経済関係複合語組み合わせ表」がでてきます。この見方は慣れれば便利です。重要なのはそこに書かれている「類推・拡大解釈しない」という点です。つまり、用例で載ってないものは原則約(つづ)めないということが肝要です。

14. 一人ひとり→一人一人【共】(p.391)、一つひとつ→一つ一つ【共】(p.390)

※「一人ひとり」という表記はよくみかけます。かつて『共同通信社記者ハンドブック』においても「一人ひとり」は人数ではなく副詞的に「一人ひとりの個性を伸ばす」などのように「人数というよりも各人、個人個人の意味(【広】の②の意味­)」のように使い分けがありました。ところが、約10年前ほどに『共同通信社記者ハンドブック』において内容が変更になり、「一人ひとり」は「一人一人」となりました。元々その表記が浸透する大きな影響を持っていたテキストが変わったにもかかわらず、表記は浸透したままいまだに大学案内や企業案内などの媒体で使われているようです。「一つひとつ」の表記は恐らく一人ひとりを受けて広がったのではないかと感じていますが、これももちろん共同ハンドブックの表記にはありません。


15. 一度、2度、3度

副詞で使う数字の含まれるもの「一度に(やりとげる)」「二度と(会わない)」「二度手間」「三度目の正直」「仏の顔も三度」(『広辞苑』)を数字にはしない。

※1回、2回、3回にかえられる場合は1度、2度、3度にしても間違いとはいえませんが、「度」を使うケースが副詞的用法が多いせいか違和感がないとはいえません。「1度」に抵抗があるなら「1回」にかえるなり、はっきりと副詞の「一度に」などの文にかえることを考えてもよいかもしれません。

16. 魅せる、魅する

「魅せられる」を品詞分解する。「魅する」の未然形「魅せ」+使役・受け身助動詞の「られる」で「不思議な力で人の心を引きつけ迷わす」の受け身形の意味【広】。「魅せる」という語はまだ一般的な国語辞典にはない。「見せる」という他動詞下一段活用の宛字のように使われて広がったとも考えられる。21にも同様の例を示したが――「漢字の音の字に『サ変動詞のす、ずをつけて動詞にした』かたち……例を挙げると「画+す→画す【画する】」「適+す→適す【適する】」「滅+す→滅す【滅する】」「投+ず→投ず【投じる】」などがあり――のように「魅【音・ミ】+す」から発生した語。「魅せられる」はよいが、「魅せる」は誤用。

17. 架電、注力、深耕化

漢和辞典や国語辞典に載っていない熟語があることに気づくことがある。現代用語という言い方もできるが和製漢語である場合がある。漢語には法則があり、中国語からみて絶対ありえない漢語も日本では通用してしまうこともある。上記の用語は原則「企画書だけに使う」というYるそうですが、広辞苑や漢和辞典で見当たらなかったため「辞書未確認」と注記してお叱りをうけたことがあります。影響力のある媒体で熟していない漢語や俗用をすることは、「言葉のゆれ」を助長しかねないため、できるだけ言葉を揺らす行為は慎むべきではないでしょうか。

18. 超える、越える【共】(p.391)

この使い分けはかなり難しく、校正の基準にあわせ、何回もハンドブックや辞典をみて慣れていく必要がある。ここでは細かくは用例を示さないが、よく比較の対象に上るものは「国境を越えて隣国へ行く」「国境を超えた愛」だが、実際に物理的な物をこえるのが「越」抽象概念が「超」としても、「垣根を越える」「ハードルを越える」が比喩表現でも同じく「越」というのがむずかしい。「党を超える=超党派」「権限を越える=越権」などのように熟語として覚えるにしてもすべてをスムーズに使いこなすのは時間がかかる。

※個人的なイメージとして高跳びのバーをこすのが「越」、バーをこして落ちてこないが「超」というふうにイメージしています。それともう一つ、目に見える三次元的な物をこえるのが「越」、目に見えない「範囲、概念、イメージ」をこえる(例えば学科やコースは目には見えないので学科をこえたカリキュラムは「超」ととらえる)場合は「超」というふうに。

19. AからBまで、AよりBまで【三省堂Web dictionaryより】

「より」と「から」は、次のように使い分けたほうがよい。

 より……比較を示す

 から……起点を示す

 「より」は、「会議は3時より始めます」のように、「から」と同じ使い方をすることがある。しかし、「より」は比較、「から」は起点と決めておいたほうが、読みちがいを防げる。


【よくない例】

 台風は、沖縄より室戸岬を経由して近畿地方に上陸することが多い。

 このままだと「台風は、沖縄を経由するよりも、室戸岬を経由することのほうが多い」と受け取られるかもしれない。「沖縄と室戸岬を経由する」ことを述べたいのなら、次のように書き換える。


【書き換えた例】

 台風は、沖縄から室戸岬を経由して近畿地方に上陸することが多い。


【よくない例】

 2日より4日は、全商品10パーセント引きです。

 「2日に比べて4日は10パーセント引きだ」と受け取る人がいるかもしれないので注意を要する。


【書き換えた例】

 2日から4日は、全商品10パーセント引きです。より(比較)、から(起点)であるという使い分けがある。

※『広辞苑』によれば「から」の「起点となる場所・時を示す」用法は平安時代以降とあります。元々は「から」も「より」の代用であったのかもしれません。厳密な意味での使い分けは上記の例以外は正確な使い分けは難しいかもしれません。

20. どうぞ~してください、どうか~してください

同じく副詞。「どうぞ」は「依頼、勧誘、祈願」。「どうか」は「依頼、願望」【広】。

※違いを明確に説明することは難しいのですが、『広辞苑』どおり解釈すれば「どうぞ」は「勧誘」の意味があり、「どうか」よりも積極的な懇願というニュアンスを感じます。「どうか」は「どうぞ」よりも神頼みに近いニュアンス。各辞典、用語集に用例があるので、それらをもとにその違いを味わってみてください。

21. 通して、通じて

「通じて」は「通じる」の連用形+助詞「て」のかたち。「通じる」は文語では「通ず」。この用法は「漢字の音の字に『サ変動詞のす、ずをつけて動詞にした』かたちである。例を挙げると「画+す→画す【画する】」「適+す→適す【適する】」「滅+す→滅す【滅する】」「投+ず→投ず【投じる】」などがあり、もともと漢文的な用法といえる。ゆえに「~を通じて」はより漢文的な響きがある。対して、「通して」は「通す」で文語は「とほす」。和語的な響きがある。どちらが一般的かとは言い難いが、男性的で漢語的なニュアンスの場合は「通じて」のほうがしっくりくるかもしれない。



22. ぜひしてください、ぜひともしてください

「ぜひとも――(副詞)どんなことがあっても。きっと。ぜひに」「ぜひ――(副詞)どうあっても、きっと」。「ぜひ」と「ぜひとも」は本質的な意味の違いはない。ニュアンスとしてより深い気持ちが「ぜひとも」にあるといえる。ただ「ぜひとも」が副詞であることと異なり、「ぜひ」は、共同通信ハンドブックでは名詞は「是非」、副詞は「ぜひ」と使い分ける――【共】(p.391)。「是非」は一括して平仮名とするのではなく「副詞」を平仮名書き、「是非を論ずる」などは漢字という使い分けがより読みやすいと思われる(「ぜひとも」は「副詞」なので平仮名書き【共】(p.391))。

23. ~に関わらず、~にかかわらず、~に拘わらず

かかわる→関わる【共】(p.190)、ただし「注」に――「天候にかかわらず決行」など「(に・にも)かかわらず」は平仮名書き――とあり。「~にかかわらず」ときたらば平仮名か「~に拘(かか:読み仮名)わらず」という表記が望ましい。

※校閲をやる際に昨今気になるのは、「~に関わらず」という場合の漢字の使い方です。岩波書店『広辞苑』第6版電子辞書では「かかわら‐ず【拘わらず】=(助詞『に』『にも』の下に付いて)関係なく。…であるのに。〈晴雨に――決行〉〈熱があるにも――外出した〉」とあります。漢字を宛てると「関」ではなく「拘」を宛てます。学研『漢字源』で引くと日本国内の用法ではありますが、「『不拘(カカワラズ)』とは『に』『にも』の下について、そうであるけれども、それでもなお、それに関係なく、の意を表すことば。〈風雨に不拘、行く〉」とあります。もともと「~にかかわらず」は「拘」を宛てるのが慣例であり、「関」は誤用に近い用法であるといえます。「関」には「拘」のもつ「こだわる」「とらわれる」という意味はありません。「~にこだわりなく」という意味合いをもたせるなら漢字で宛てる場合は「拘」を使い、そうでないのなら「かかわらず」と平仮名にするということを推奨したいと思います。

※このような用法が現れた原因のひとつに、「関わる」が2010年の常用漢字の改定時に「表内訓」に加えられたことが挙げられます。要するに「使えるようになった」ということがあり、それなら「かかわらず」も同じ読みなので漢字にできると考えてしまったからだと思います。その使い方を大手の媒体や影響力のある媒体が世の中に広めたということが原因として考えられます。言葉の誤用を避けるにはその語や字の成り立ちを知っておくことがワクチンになるようです。

※特に大きな影響力をもつものに文部科学省や経済産業省の公用文書がありますが、HP上のデータは校正されていない可能性もあり、HP上での誤植や用字用語の校正漏れがテキストとして浸透してしまう可能性もあることは頭に入れておいてもよろしいかと存じます。大企業や著名な学校がその表記をそのままテキストのように用いてしまうと、その影響力は予想以上に大きいということを頭の片隅にでも入れておいてください。

24. 関わる、関る、係わる、係る、拘る、拘わらず

22同様、「関わる」は2010年に常用漢字の表内訓として使用することができるようになった。しかし、「係(かかわ)る」は採用されず、「係(かかわ)る」は「関わる」として書き換えると【共】(p.190)にある。

※武部良明『漢字の用法』(p.70、1976、角川書店)によれば――注意:「係わる」の送り仮名は、「かかる」と読まれるのを防ぐため、旧表記でも「わる」と送るのが一般的であった。「関・拘」にはこのような誤読が起こらないため、送り仮名も活用語尾の「る」だけであった――とあります(しかし、例外的に『広辞苑』第6版電子辞書では「~に拘わらず」は「拘わらず」とありますのでこれが絶対とはいえないようです)。それゆえに、「係わる」「関る」「拘る」の表記の違いがある媒体(特に文系の学問書関係)がかつてはよく見られたということのようです。

※校正は「裏付けを取る」ことが仕事の一部です。決定的根拠が見つからない場合は、用例として辞書類から示すことが少なくありません。ただあくまでも使用例にすぎず、赤字で示すものではありません。辞典類はすべてが、その監修者および版元の「一学説」と考えるのがよいという意見はプロの校正者からよく聞かれます。ですから注記の際はどの出版社のどの辞典か、必要な場合はどの版かということも示す必要があります。そして、その校正を確認する場合は必ず編集担当者もその辞典資料が本当にそうであるかも確認する必要があります。「他人の校正を疑う」ということではなく複数の担当者が共通に確認するという意識です。当然ですが、複数の人間で取り組むほうが、ミスはより少なくなります。そういう意味での共同作業が校正であるといえます(各人がすべての工程を一通り行うということを複数が行うことが理想ですが)。

25. 係(かかわ)る→かかわる、係(かか)る→○【共】(p.390)

22、23でも触れたが、「係る」の読み方には二通りある。係(かか)る訴訟【共】(p.390)(「係り結び」とか○○係などと使い方は同じと考えればわかりやすいか)などのように「かかる」と読む場合は表内訓だが、「かかわる」の場合は表外訓で、読み仮名を施すか、平仮名書きになっている。ただし、新常用漢字が採用された2010年からは「関わる」と使ってもよいようになった。

※武部良明『漢字の用法』(p.70、1976、角川書店)によれば――関→係に同じとあるので、意味合いはあまりかわらないと考えて、記者ハンドブックでも係→関に書き換えている模様。

校正基本ルール                                        


①原稿照合の校正は「元原稿」「指定原稿」「資料」等を【完全原稿】の状態で校正者に渡す。

②校正依頼カンプ等のスケジュール現時点での進行状況および校正基準、クライアントの要望などの情報を必ず伝える。

③入稿・下版前の案件を優先が原則で、全体の校正スケジュールを管理する人間から校正の指示を受けたのちに校正をする。

④校正後に次回のフィードバックのため、校正者の注記・疑問だしの回答を確認できるようにする。

⑤辞典類・ハンドブック等は2010年以降の「新常用漢字」に対応できるものを使用すること。

⑥校正組版のルールは原則として最新のJISルールに対応したJISルール冊子やそれをもとにして作られた日本エディタースクール等の校正基準を基本とする。

⑦オープンタイプフォントで対応できるフォントの媒体は、なるべく正字体を使用する。




※①完全原稿であればどの校正者にも確認がスムーズで時間短縮につながる。最新のデータに合わせるとクライアントから指定があった場合、編集作業で例えばその最新データの過去号をコピーし、指定を加えることで校正時間短縮が可能。


※②校正者は状況に合わせて注記等の対応を変えるため、できるだけ具体的な要望が望ましい。


※③故・美坂哲男氏をはじめ著名なプロ校正者によれば、校正の限界(熟練のプロに限定)は3時間×3(30分以上の休憩をはさむ場合)であり、それ以上の校正は危険であると認識する必要がある。それ以上になる場合は翌日に回すなどの工夫が必要。


※④校正者はたいてい過去に校正した媒体を覚えているので、各校正者が疑問だし箇所の採用不採用を確認させることで、次回の校正の参考になる。ゲラをみただけで、何を要求されているか判断できるので必ず見せるほうがベター。


※⑤学校や公共機関などの媒体は新常用漢字を反映させたものが説得力をもつので、2010年の改定が反映されていることを確認のうえ、購入することが望ましい。


※⑥JISのルールは工業規格ゆえに製版寄りで、日本エディタースクール等のテキストのほうが、より紙媒体(編集・ライティング)に合う基準といえる。


※⑦いわゆる拡張新字体は俗字のことであり、サービスとしてできるだけ正字であることが望ましい。正字とは清朝成立の『康煕字典』の字体を指す。インデザインでは句点コードを入力して正字を特定させることも可能。印刷所の出力の関係で、正字を使うべき媒体についてはリュウミン等のベーシックなフォントを選ぶほうが無難である。

【現在2023年8月。少しずつハンドブックも変わり、現場の言葉の感覚も変わり――昔血道を上げたことがむなしくなることもあるでしょうね。】


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