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黒い布団でごめんなさい

いつだったか、昔読んだ怪談を思い出した。実家の家族共用のパソコンで読んだと思う。ホラー系のテキストサイトかなんかだと思う。タイトルは黒い布団でごめんなさい。思い出せる範囲で書いていく。


黒い布団でごめんなさい
空から黒い布団が落ちてきた。その日から僕の友達が何も喋らなくなってしまった。僕の友達はシューヤとヤスキとコウヘイの3人で、3人だけが喋らなくなった。僕は喋れるし僕以外の人たちも喋れる。3人だけが一言も喋らない。ずっと目をつぶったまま、学校に来て席に座ってそのまま6時間目まで全く動かず、帰りの会が終わったら家に帰る。サッカーもドッジボールもやらない。ヤスキとコウヘイは同じクラスで先生も困ってた。でも学校に来るし授業もちゃんと受けてるからほっといてる感じだった。シューヤのクラスの先生はシューヤの家に連絡したらしいけど次の日もシューヤは喋らないままだった。僕は怖かった。


黒い布団でごめんなさいは細かいエピソードごとに区切られていた。ナンバリングは無い。


黒い布団でごめんなさい
学校から僕の家までの間に川があって橋を渡る。川沿いの道の階段を降りたら橋の下を通れる。橋の下はずっと日陰だから僕たちはいつも橋の下にいた。川の向こう側の橋の下にはいつもおじさんがいていつ行っても橋の下で寝ていた。喋ることが無くなると僕たちは小石を拾っておじさんの方に投げた。おじさんは石が当たっても起きなかった。川の方は草が伸びていて茂みから音がして赤ちゃんがハイハイしながら僕たちの方に近づいてきた。僕はびっくりして逃げたかったけどヤスキが赤ちゃんをだっこした。僕の方からは赤ちゃんの顔は見えなかったけど声は聞こえた。分からないけど向こうで寝てるおじさんの声だと思った。赤ちゃんは痛いじゃねえかこの野郎殺すぞと言った。ヤスキが地面に赤ちゃんを落っことして僕たちは走って帰った。

黒い布団でごめんなさい
僕がごめんなさいと言うと先生は困っていた。ヤスキとかコウヘイとかシューヤが喋らなくなったことを先生に話した。先生は頭を掻きながらまあそういう時期かもしれないし先生たちの間でちゃんと話し合ってるし親御さんとも話はしてるからねと言って僕はすぐに家に帰された。ひとりで歩いて帰るのは寂しい。橋の上からは遠くの夕焼けがこっちまで迫って来ていた。怖かったので僕は急いで帰った。風が涼しかった。家の玄関の前でポケットから鍵を出している時に2階のベランダからおばあちゃんが話しかけてきた。おばあちゃんはベランダにいて笑顔で僕に手を振っておかえりなさいねと言った。おばあちゃんの笑っている顔はシワシワで髪の毛が風で変な風になっていた。おばあちゃんはずっと手を振っているしずっとおかえりなさいねと言っている。おばあちゃんの体がどんどん僕の方に近づいてきて僕があっと声を出した時におばあちゃんはベランダから落っこちた。おばあちゃんは玄関の横の駐車場に仰向けで落ちて苦しそうな顔で僕のことを見ていた。おばあちゃんは苦しそうに口をパクパクした。夜は何を食べたか覚えてない。リビングは暗くてお父さんとお母さんは病院に行って中々帰ってこなかった。

黒い布団でごめんなさい
空から黒い布団が落ちてきた時は僕とシューヤとヤスキとコウヘイは神社で遊んでて黒い布団が落ちてきたことを知らなかった。神社の裏から裏山に登ると探検してるみたいで楽しかった。神社の裏には石でできたお皿があって石の土台の上に乗っている。裏山の探検が終わって神社の裏に帰ってきた時にシューヤが喉渇いたと言ってお皿に溜まった雨水を手ですくって飲んだ。僕は汚そうだから飲まなかった。ヤスキとコウヘイも飲んでうめえと言った。味があって喉の奥がすーっとするらしい。そのあと池の鯉にお菓子のカスをあげてから家に帰った。リビングにお母さんとおばあちゃんがいてあんた大丈夫だったと聞いてきた。おばあちゃんは僕を椅子に座らせてみんなでテレビを見た。テレビでは僕の住んでる町にニュースの人たちがいっぱいいて地面に落ちている黒い布団が映っていた。たくさんの黒い布団が空から落ちてきたらしい。僕は神社で遊んでたことを言ったら怒られるので黙ってテレビを見た。黒い布団は僕らの町にだけ落ちてきていて市役所を中心に色々な所に100枚も200枚も落ちてきたらしい。飛行機の貨物とか竜巻による巻き込みとかで原因は分からないらしい。誰かがビデオカメラで撮った映像が流れた。駅前のバス停に黒い布団が落ちていて近くにいた若い男の人がそれに触って持ち上げている。その瞬間にもう1枚の黒い布団が落ちてきて黒い布団を持った男の人に覆いかぶさった。男の人はゆっくりと黒い布団を払い除けてぼーっとした様子だった。無表情のその男の人が近くで見ていたおばさんに近寄っておばさんの腕を引っ張りだした。おばさんは怒ったような怖いような顔でやめてよとか触んないでとか叫んだ。男の人が無理矢理おばさんの腕を引いて車道に引っ張りだした。男の人と抵抗するおばさんは次の瞬間トラックに轢かれて映像は慌てて地面を映して終わった。テレビに映るおじさんのアナウンサーが黒い布団には触らないで下さいと何回か繰り返し言った。急にカメラがゆっくりと横に動いてテレビ局の床を映すとそこに黒い布団が落ちていた。アナウンサーの声がブツブツと途切れてしばらくするとアナウンサーは黒い布団でごめんなさいと言った。僕は怖かった。振り返ってお母さんの顔を見ると案外普通の表情だった。

黒い布団でごめんなさい
朝起きてもお父さんとお母さんは帰ってきてなかった。僕はすごく寂しかった。冷蔵庫の中は暗くて変な臭いがするから開けたくない。リビングも暗い。時計が鳴って僕は学校に行った。歩いてると余計にお腹が減った。教室にはヤスキとコウヘイだけしかいなかった。僕は怖かった。そういえば教室にくるまでの間に誰もいなかったことに気付いた。ヤスキとコウヘイは席に座ってまっすぐ何も書いてない黒板を見ていた。多分1組にはシューヤだけがいてそれ以外には誰もいないのだろうとなんとなく分かった気がした。授業の時間なのに学校の外に出ても誰にも怒られなかった。外にも人はいなかった。僕は心細くて怖かった。よく分からないけど小さい声でごめんなさいと言った。ごめんなさいごめんなさいと言いながら僕は神社に行った。あの日からヤスキとコウヘイとシューヤが喋らなくなったから何かがあると思っていた。大きな赤い鳥居をくぐって石畳をまっすぐ進むと右側に池がある。そのまままっすぐ行くと神社の建物があって賽銭箱の奥の扉はいつも締め切られている。石畳から逸れて砂利の上を歩いて神社の脇に回り込む。ジャリジャリと大きな音がしてたまに神社で働いているおじさんに見つかって怒られたりするのでいつもは静かに歩くのだけど今日は誰もいない。神社で働いてるおじさんの顔を思い出そうとしてみた。いつも着物みたいな昔っぽい白い服を着ていて変な形の帽子みたいなのを被っている。髭が生えてた気がするけど不思議と顔が思い出せない。僕は何故か不安な気持ちになった。神社の裏の石のお皿が見えた。そしてその近くに神社で働いてるおじさんが倒れていた。いつもの服なので離れていても分かった。おじさんはお皿の方を向いてうずくまるように地面に突っ伏して動かなかった。恐る恐る近づいて見るとお皿から水が溢れていた。お皿の中から水が湧き出ているのかずっと水が溢れ続けて地面にこぼれてぴちゃぴちゃと音が鳴っていた。そしてその水は前とは違って真っ黒い墨汁みたいな色だった。ぴちゃぴちゃとこぼれた水がおじさんの白い着物の端っこに染み込んで黒いシミが広がっていった。


思い出せる範囲でざっと書いてみた。続きがあるのかどうかなど記憶が定かではない部分も多い。この話や黒い布団などという言葉を検索しても何もヒットしなかった。もしかしたら夢でも見たのかもしれない。少なくとも靖季、滉平、修哉は実在する私の友人の名前だ。偶然同じ名前だったのか、全て私の妄想だったのか、私の記憶が一部混同しているのか、確かなことは言えない。

ある日私が仕事を終えて帰路につくと、一人暮らしなので当然ではあるのだが、電気が消えていて部屋が暗かった。しかし、その時の私にはそれが不気味なことのように思えてたまらなかった。電気を点ければ良いものを私は暗いままの部屋を進み寝室を覗いた。そこに何かがあるはずだと感じていた。カーテンが閉められより一層暗い寝室に目を凝らすと布団が黒かった。暗闇の中にあるのは勿論のこと、それを差し引いても黒かった。外廊下の照明や窓外の街灯など隙間から差し込んでくる僅かな明かりすら全く反射しない完璧な黒。それは黒い布団。手を伸ばして布団に触れる。じゅわっという感触と共に布団に染み込んでいた黒い水分が手に触れた。

私がこれを書いているのは、黒い布団でごめんなさいという怪談が実在しないことを確かめたいからだ。黒い布団でごめんなさいを知らないという声をお寄せください。

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