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小心者の話

「私は蜘蛛が好きだ」
「よく見たら小さくて可愛いじゃないか」
「止まってる時は大丈夫だ」
ラーメン屋のレンゲの上で踊る蜘蛛を見つめ、自身に洗脳をかける。



休みの日は早くて安くて美味いラーメンを昼飯としてよく食べる。
行列ができるラーメン屋は論外だ。
食券を先に買うか後に買うか分からなくて怖い。

高円寺の「空いてるから」と入ったラーメン屋は食べログの評価が4.0で不味くも無いだろうと、中華麺の食券を出した。




ラーメンが来るまでの間カウンターで気づいた。
器にレンゲが10個ほど入っており、細く小さい蜘蛛が1匹踊っている。
糸は吐いていないので、直ぐに歩いた後の少なそうなレンゲを取りキープした。


場を乱すことを嫌うので店主に「蜘蛛入ってます」とも言えず、蜘蛛ごときでビビるなと自分に喝を入れ、なんなら可愛いと思い込むことに専念してラーメンを啜った。


空いていた店内が混み始め、カウンターが埋まった。
私は焦った。
不味い、このままでは私の隣に座った人がレンゲを取る際に蜘蛛に気づく。
店主は謝罪し、蜘蛛は殺され、周りの客が衛生面皆無店だと思い不快になり、私は蜘蛛レンゲでラーメンを平気で食う変な女だと思われてしまう。
虫嫌いなのに自身で洗脳をかけた結果、蜘蛛の安否までもが不安だ。




隣に客が座った瞬間、バキューム掃除機も降参するほどの勢いでラーメンを食べ店を出た。
あの蜘蛛も店主も無事でいてほしい。




ラーメンは美味しかったし安かったので皆に紹介したいが、蜘蛛が入ってる店だと嫌な先入観を持って欲しくないので、書くことができない。
精神の細部まで行き渡った小心者が、私だ。

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