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夏とラーメン

麦わら帽子にお気に入りのレモン色のワンピースをきて歩いた参道を思い出す。
あのとき、手にはワンカップや缶ビールをそれぞれ持っていた。当時は禁酒をしていたので、私はまるでトマトジュースみたいな味のするおいしくないオールフリーをちびちび飲んだ。

祭りへは二人の同期と一緒に行った。酒を片手にぶらぶらと一通り見終えて満足した。結局ほとんど何も買わなかった。遅めにとった朝ごはんがまだ胃に残っていて、ずっしりとしている。おかしいな、腹持ちが悪そうなパンだったのにな。

どうする?カラオケ行きたいね。じゃあ先輩に連絡して誘ってみようか。晩ご飯はラーメンで腹ごしらえして。

お酒に酔っ払った同期の一人が、ラーメンは無理だけどチャーハンならいけるといった。結果、全然いけなくって、お会計に立ち上がった瞬間表情が固まったんだけど。もう一人も同期が慌ててトイレになんとか突っ込んで事なきを得た。

思い出して一人でクスクス笑う。
私は今そのラーメン屋さんにいて、一人カウンターに座ってラーメンをすすっている。今日は店名の語呂合わせの日付で、ラーメンがハチャメチャに安い。
店主の顔がグラスやのぼりや店のいたる所にあって、少し髪が薄い眼鏡の笑顔のイラストを見てると朝のニュースキャスターを思い出す。

たしか野菜がたっぷり載っていて健康的だった。前食べたときは麺が少なめで全然足りなくてもう一杯食べれそうだったよなぁ。と思って今日は同居人とは別行動、珍しくひとりでラーメンにきたのだった。
久しぶりに無性に食べたくなった不健康寄りの味。生活習慣改善のために一緒に暮らしだした同居人との最近の晩ご飯は長芋サラダとか豆腐スープとか良く言えば素材の味、悪く言えば味がしないものばかりだった。それですっかり胃も小さくなった。

ラーメンが運ばれてきてまず驚愕した。
思ったよりも多い。そしてかなり脂が濃い。丼のフチまで、何ならスープがこぼれて外側まで脂に濡れてキラキラ光っている。
うーん全然食べ切れなさそう。

一気に食欲が減退した。サイドメニューのちいさいのりまきくらいしか今は食べられる気がしないほどだ。

あのときの同期もそんな感じだったのかな。
今は辞めて実家に帰ってしまった遠くの同期を思い出す。

もうすぐ季節が一周する。今年は来ない夏祭りの日に、今度は私がワンカップを持って神社に行こうかなんておもう。

ゆっくりゆっくり一口ずつ食べすすめたラーメンのおかげで食べ終える頃にはすっかりポカポカした。やっぱり胃が小さくなっていて一杯でかなり満腹になってしまった。
受動喫煙防止条例が施行したあとなのに灰皿がおいてあって、ゆっくり一服を楽しむ。

あと一本吸い終わったらそろそろ帰ろうかというところで同居人から連絡があった。今用事終わったよ、迎えに行くから一緒に帰ろう。

レジの横には昔ながらの業務用冷凍庫がある。アイスキャンディーがソーダ味だけぎっしり詰まっていて、お会計と同時に一本手渡される。
私はそれをぺろぺろなめながら外で同居人を待つ。
空気が湿気をまとっていて、アイスキャンディーの冷たさが舌に心地良い。夏が迫っている。

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