初学者向け、リース会計・借手の処理の基本問題

簿記1級(最近では簿記2級も)、公認会計士試験、税理士試験は試験範囲が絶望的に広い分、重要性が偏る傾向があります。たとえば一株あたり純利益の算定や、転換社債型新株予約権付社債(長い)等、あまり見かけない(あるいは出題されても難しくて埋没になる)論点が無数に存在する一方、連結会計やリース会計、減損会計や税効果会計など、毎回と言って良いほど出題される論点もあります。       範囲が鬼のように広い試験では、重要な論点をいかに得点へ繋げるかが大事であり、また短期間で効率良く合格するために必要となります。そこで、比較的よく出るし、かつ簡単な問題が問われやすいリース会計と減損会計の問題を例にして、基礎や引っ掛かりやすいポイントなどを押さえていきましょう。

<リース①>

・会計期間は1/1~12/31                                  ・20*1/1/1にリース物件を引き受け                  ・所有権移転条項や割安購入選択権無し           ・解約不能なリース期間5年                                ・借手の見積現金購入価額40,000(貸手の購入価額もこれに等しいが、借手はこれを知り得ない)                                                                      ・年々のリース料10,000                                        ・経済的耐用年数5年                                             ・減価償却方法は定額法                                      ・借手の追加借入利子率10%(借手は貸手の計算利子率を知り得ない)

まず、必ず行わなければならないのが、「ファイナンスリース取引か、オペレーティングリース取引なのか」、「ファイナンスリース取引の場合、それが所有権移転か所有権移転外かの判定」です。                                           当たり前のように思われますが、これは勉強が進んでいる人ほど忘れがちです。考えられる原因のひとつとして、条件にあらかじめどのような取引なのかが明記されている問題を多く解いてきているからです。思い込みをせず、必ず判定するように心掛けましょう。

ファイナンスリース取引とオペレーティングリース取引、所有権移転か所有権移転外かの判定方法は大丈夫ですか?

ファイナンスリース取引とオペレーティングリース取引の定義は長すぎる上、初学者の方が覚えるには少し難解なので、一般的な考え方をまずは押さえましょう。

覚えるべきことは、「ノンキャンセラブル(解約不能)かつ、フルペイアウト(所有に伴うリスクと経済価値の実質的移転)」の2要件を満たす場合はファイナンスリースに該当し、それ以外はオペレーティングリース取引に該当するということです。                                       具体的には、①現在価値基準(概ね90%ルール)②経済的耐用年数基準(概ね75%ルール)のいずれかに該当する場合、ファイナンスリース取引に該当します。①では年々のリース料を追加借入利子率で割り引いて計算した結果が、見積現金購入価額と比較して概ね90%以上かどうか、②ではリース期間÷経済的耐用年数(リース期間が経済的耐用年数のどれくらいか)の結果が概ね75%以上かどうかで判定します。

先程の例で見てみましょう。

①リース料10,000を(1+0.1)で、リース期間の5年間で割り引きます。すると、37,908(以下、未満四捨五入)となり、この結果を見積現金購入価額の40,000と比較(37,908÷40,000)すると、概ね95%≧90%となります。                 また、②リース期間5年÷経済的耐用年数5年=100%となります。

したがって、これらの判定基準を充たすので、当該リース取引はファイナンスリース取引に該当します。また、所有権移転条項や割安購入選択権が付与されておらず、特別使用物件でもないため、当該リースは所有権移転外リース取引に該当することになります。

所有権移転外ファイナンスリース取引と分類できたら、次はいよいよ会計処理です。

特に注意しなければならない点としては、①計上するリース資産(債務)の金額、②リース料の計上時期、③減価償却方法です。

まずは①。借手は公正評価額(貸手の購入価額と借手の見積現金購入価額)と現在価値とを比較し、いずれか低い方の価額を貸借対照表に計上します。先程の例では、見積現金購入価額が40,000、現在価値が37,908となっているので、貸借対照表価額は37,908となります。

次に②。20×1/12/31の処理を見ていきましょう。まず、返済するリース料は、記載の通り10,000。そのうち、期首元本37,908×利率10%の3791が利息となり、残りがリース債務の返済となります。仕訳で表すと、

リース債務     6,209     /     現金     10,000         支払利息        3,791  

最後に③。所有権移転「外」の場合、減価償却は「残存価額を0とし、リース期間を耐用年数とした定額法」で行います。したがって、37,908÷5年=7,581となります。

ここで、まとめてみましょう。

まずは、ファイナンスリース取引がオペレーティングリースか、ファイナンスリース取引に該当する場合、それが所有権移転か所有権移転外のどちらに該当するかの判定。

具体的には、①現在価値基準(概ね90%ルール)②経済的耐用年数基準(概ね75%ルール)のいずれかに該当する場合、ファイナンスリース取引に該当します。①では年々のリース料を追加借入利子率で割り引いて計算した結果が、見積現金購入価額と比較して概ね90%以上かどうか、②ではリース期間÷経済的耐用年数(リース期間が経済的耐用年数のどれくらいか)の結果が概ね75%以上かどうかで判定します。「いずれか」なので、どちらかを充たせばOKです。                                                     そして、所有権移転条項・割安購入選択権・特別仕様物件のいずれかに該当すれば所有権移転ファイナンスリース取引、それ以外では所有権移転外リース取引となります。

次に会計処理。まず気を付けるべき点として、借手は公正評価額(貸手の購入価額と借手の見積現金購入価額)と現在価値とを比較し、いずれか低い方の価額を貸借対照表に計上します。                                                                   次に減価償却。特に所有権移転外リース取引の場合、残存価額を0とし、リース期間を耐用年数とした定額法によって計上するということをしっかりと覚えておきましょう。

今回の例はリース取引の借手における基本的な処理となりますが、基本をしっかり固めておけば、今後解くことになる応用の理解も効率のよいものとなります。

なお、応用的なものとして、リース料が前払い、リース料の支払日と決算日が一致しない、割安購入選択権が付いている場合のキャッシュフロー計算、維持管理費の存在、重要性の乏しい所有権移転外リース取引などが挙げられます。覚えるべき、注意するべき点が増えますが、全ては先程の例が基本となるため、まずは基本を確実に押さえるようにしましょう。

最後に理論問題も少しだけ記載しておきます。余裕がある方は是非!

①リース取引のうち、「ノンキャンセラブル」と「フルペイアウト」のいずれかを満たす場合、そのリースの取引はファイナンスリースに該当する。

②現在価値基準における計算結果が89%、経済的耐用年数基準における計算結果が74%である場合、このリース取引はオペレーティングリース取引となる。

③ファイナンスリース取引に該当する場合、その実質的な会計処理を財務諸表に反映させるため、売買処理によらなければならない。



①×→「ノンキャンセラブル」と「フルペイアウト」の両方を充たした取引が、ファイナンスリース取引となります。なお、オペレーティングリース取引の定義は、「ファイナンスリース取引以外のリース取引」とされています。

②×→いわゆる90%ルールと75%ルールは、それぞれ「概ね」これら以上とされているため、僅かに下回っている場合でも、満たしていると判定される場合もあります。計算問題ではまず気にしなくてよいですが、理論問題でたまに聞かれるので、頭の隅に置いておくと良いでしょう。

③×→ファイナンスリース取引のうち、重要性が乏しい所有権移転「外」リース取引の場合、通常の売買処理に代えて、例外的に簡便な処理が認められています。

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