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タトゥーいれたい

と、突然思い立ってタトゥースタジオへ赴いたのは昨年の春だった。

それまでタトゥーまみれの友人、彫り師などと多く交流を交わしてきたが、自分はギャラリー側でしかなかった。

きっかけは特にない。
あ、こんな絵をいれたいな、と思い付いたくらいである。

一番最初に彫って頂いたのは、私の名前である翠(みどり)は鳥の翠(かわせみ)とも読める。そのかわせみにオリーブの葉を咥えさせて、平和の象徴の鳩の図を模した。
とても気に入ったため、すぐに母に写真を送った。

だが母は泣いた。
泣いた理由はこうだった。

「綺麗に生まれて来たのに。
わたしは生まれつき肩の皮膚に大きなアザのような変色があって、ずっとコンプレックスだった。
いれてしまったものは仕方ないけど、もう増やさないで……」

全く理解出来なかった。
親友のように、そして私を一番理解してくれている母の言葉が一つも受け入れられなかった。

私は五体不満足で大切な親に貰った身体だからこそ、綺麗な絵を添えたかった。
それは母の皮膚の変色とは全くの別物で、恥じたり自分の体の一部を否定したくなるものではない。そんなに嫌な思いをしてきたのなら、その変色部分に綺麗なタトゥーでも施したらいいじゃない、とすら思った。

そんな色々な思いが込み上げてきたが、
「悲しい思いをさせてごめん!でも私はめっちゃ気に入ってます!!」

とだけ返した。
増やすなと言われたが、それを決める権利は私にある。そうしていま、私の身体には九つのタトゥーが刻まれている。

というのも、私には夢がある。
老いには勝てない。でも醜くなるつもりはない。
素敵なババアになりたいのだ。
その一つの手段としてタトゥーがある。
身体の至る所に、魂のこもった美しい絵を纏うように、ドレスのような身体になる。
シワもシミもたるみも目に留まらないような。その為に少しずつ時間をかけた世界で唯一のオートクチュール。
そしてアクセサリーのように、うっかり失うこともない、命果てるまで共に過ごしてゆく。

大好きな植物を。
或いは私淑する芸術家の作品を。
私は大切な身体に纏っていくのだ。

話は戻るが否定的な意見や偏見があるのは承知している。
反社会的な人間の刺青(この場では敢えてタトゥーではなくこう表す)が目に入ると不快に思うのは当たり前なのだろうが、その世界の人間=刺青というのは世間の情報がアップロードされていない。仁義なき戦いの見過ぎ。
それと私の可愛いかわせみちゃんを同じカテゴリーにまとめる事もまた不思議で仕方がない。
そして現代のその世界の人達こそ、ごくごく一般人のような外見をしている事を、どれだけの人が判っているのか。

そして特に温泉に入れないとか、つまらない事を言う人もいる。
禁止している温泉施設が多いのは、タトゥーを見たくないから入るなということだろうが、私はそもそも大浴場は好きでは無い。こちらこそ興味のない他人の裸をわざわざ金を払って見たくもないからだ。
それに温泉は個室形式が最高だ。タトゥー云々も含めて、ゆっくり誰の事を気にする事なく全力で寛げるのが一番いい。

また、タトゥーは護身にもなる。
気弱な女子ではないという警告になるのか、道を歩いていても変なナンパに遭わなくなった。
職業柄、おじさんウケするような清楚で可愛らしいファッションを知り尽くしているが、あんな格好で出掛けることは一番危険だ。電車でそういう女性を見るとお節介ながらも痴漢などの心配をしてしまい、その人の背後や横の席を選び守ってしまう。

それに、そもそもタトゥーがどうのこうの言うような、視野の狭いつまらない奴は近寄らないでいてくれる。
私は何より楽しい仲間と面白い事を、ずっとしていきたいのだ。


そんな訳で、タトゥーいれたい。

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