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芸術家と経営者

僕がブランディング専門の会社に勤務する前は、広告、パッケージなどのデザイン、アート作品の制作会社で働いていました。もともと僕は美大出身なので、アートやデザインの勉強ばかりし、経営やビジネスの知識は全くなく、ましてやブランディングという活動のこと自体知りませんでした。そんな僕がなぜブランディングデザイナーになったのか。

アート、デザイン畑出身の僕の周囲には芸術家やクリエイターの知り合いが多くいたのですが、その中には大きな案件のお仕事をされていたり、芸術家としてそこそこ名前の売れている人もいました。一方でクオリティの高い作品を作っているのにも関わらず、全く作品が売れず、何年もバイトをしながら作品制作をしていたり、本意ではない仕事をしているクリエイターもいました。

その時に思ったことは、芸術の分野で生活していくには、運や実力はもちろん必要ですが、「そもそも発信のやり方が間違っているのでは?」ということでした。極論、どんなにクオリティの高い作品を作り続けても、知られる努力をしなかったり、発信の方法が間違っていれば、知られるわけはありません。

そんな矢先にブランディングという言葉を耳にし、ブランドを構築していくことで「ファン」を意図的に作っていけるということを知りました。それはビジネスの分野だけでなく、もしかするとアートの分野にも有用なのではないかと思い、制作会社を退職し、ブランディング専門の会社に転職することになったという経緯です。

そして実際にブランディングを学んで思ったことは、「経営も芸術も根本の部分は同じなのではないか」ということでした。(あくまで個人の感想です。)ブランディングの起点は、「思い」です。なぜ事業を行っているのか。なぜ作品を作っているのか。

企業は、その会社で掲げるVISIONや、理念などの「思い」や「考え」があり、それを叶えるために商品やサービスを顧客に提供しています。芸術家も、自分の「思い」や「考え」があり、それを表現するために創作をしています。そう考えると具現化するものが、芸術作品なのか、商品やサービスなのかの違いだけなのではないかと思いました。

全く違う点で言えば、商品やサービスは、顧客に利用してもらうことを前提で作りますが、アートは気に入ってもらえた人だけに、気に入ってもらえればいいと思っている方もいます。それはそれでいいと思うのですが、芸術の分野で生活していきたいと考えているのであれば、第三者の目線は無視できません。

「自分の作品を認知してもらうにはどうすればいいのか」をしっかり考るべきで、そういう意味では芸術家もビジネス的な思考が必要なのではないかと思います。逆にアートは感情に直接訴えかけることができる分野であり、企業もアート的な思考が必要になってきています。

商品やサービスが溢れかえり、コモディティ化している現代において差別化をはかるには、機能的な価値だけでなく、情緒的な価値も提供していく必要があるからです。「どうやって感情を動かすか」を意識するということです。
(この機能的価値と情緒的価値については、こちらの記事で言及しています。【誰にも真似されない、最大の差別化ポイントとは?】

いかにして感情を揺さぶる作品を生み出すのかに焦点が当たっているアートは、その点において特化しています。だからこそ自分の活動を広めるためには、芸術家も経営者も、それぞれにビジネスの視点、アートの視点を持つことが大事なのだと思っています。


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