『ダーティー・ワーカー』

  そのとき、友達はディズニーランドの裏方として札束をカゴにぶち込んでいく仕事をしていたが、俺はゴミの最終処分場で、悪臭の中、石を拾っていた。
  持ち込まれたゴミはベルトコンベアで運ばれてくる。左から右へと流れていくゴミを手で漁って石や鉄を取り除く。それが仕事のひとつだった。軍手も作業着もあっという間に汚れていく。取りこぼした石は右から投げられてくる。右にはこの仕事の先輩がいた。
  何も考えずにやれる、というよりも、何かを考えていてはこの作業ができない。ゴミを漁るにも集中力がいる。
  ここでの仕事ではもうひとつ、重機が走り回る巨大なゴミの山の近くでやることがある。ゴミ拾いだ。何を拾っていたかは覚えていないのだが、上司が指定したものを探して集めたはずだ。
  高い天井の建物の中、十メートルもあろうかというゴミの山がならされ、広い床にぶちまけられる。作業員はそこを歩いて何かを拾っていく。気をつけなければいけないのは重機だ。馬鹿でかいものが常に数台移動している。ぼやぼやしていると轢き殺される。または爪先を失う。
  働いていて敵ができた。殺すわこいつ、と笑うその男に関して、過剰防衛にならない程度に反撃することを考えていた。口だけの殺意は安い。誰にでもいえる。だがゴミにまみれて生きるしかない人間の殺意を俺はなめてはいなかった。
  きっと殺しにくるだろう、と思っていた。CIAのカーボンダーツをポケットに入れてしばらく働いていたが、結局襲われるような目に遭うことはなかった。
  少しがっかりした。ゴミ漁りしかできない人間の、その言葉すら軽薄なゴミだった。
  この仕事を辞める日の帰り際、殺すわといった男のロッカーにカーボンダーツを突き刺しておいた。薄い鉄に深々と刺さったそれを見て、何かを納得した。これは馬鹿馬鹿しいことなのだ、とでもいうのか、とにかくつまらない気分だった。
  それから家に帰った。
  職業に貴賎はなく、人に貴賎があるのだ、という。だがあの場所だけはすべてが賎しかったと思う。
  俺はゴミが嫌いだ。

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