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寿司旅雑記


長い旅に出る前、家を3日以上離れる時は新しい服をおろすようにしている。靴は履き慣れた物がいい。部屋はいつもより丁寧に、満遍なく掃除をする。これって人の習性なのかな。もし、仮に、何か。旅の途中、自分の身の上に大変な事が起こった場合に備えているのか。
今回は早い帰省も兼ねてライブを観に行く事にした。熊本にあるキャバレーニュー白馬にも行ってみたかった。八代亜紀(八代出身)が初めてうたった場所でもある。ツアー以外で旅をするのは本当に久しぶりで身軽。熊本市内にはライブで幾度か訪れているけれど、八代は今回が初めて。阿蘇くまもと空港に着いてマイクロバズ、ばんぺいゆ号に乗り八代へ。道中、車窓から眺める風景は田舎出身者ならまず想像できるバイパス沿いにポツンポツンと並ぶ大きな商業施設、どこまでも続きそうな雑木林や農耕地、高ーい空なのだが、田舎は田舎なりに同じ様に見える景観も空気も微妙に違うよなと思いながら眺めていた。

八代駅に着いて、松永(良平)さんに教えてもらった駅から直ぐにある喫茶「ミック」へ。カウンターに座り珈琲を注文。「うちの水は全部井戸水やからね、美味しいよ」とマスター。お客さんとマスターの会話を聞きながらこのお店がそれぞれにとって生活の一部で大切な場所なんだなとぐるりと見渡すだけでも感じることができる。店内で開催されていた大石誠也さんが全て鉛筆で描いた映画ポスター展をやっておりじっくり観る。別室に飾られた「いりこ」とタイトルの付けられた画がとても良くてしばし眺める。後、マスターの出水さんと話しながら70年代、出水さんが撮影したという日本をツアーしていた時のジョン・コルトレーンの写真や過去にお店で開催したライブでの良い話、音楽や映画、今夜行くニュー白馬の話など聴くうちに楽しくなり結局酒を飲んでしまう。サービスにとデザートまで頂く。妹さんも交えミックの歴史など聴いているうちに3時間程過ぎていた。創業55年喫茶「ミック」なんて良い店。必ずまた訪れたい。

夕方、開場前。同じくライブを観にきていたMさん、Mにゃん、Dちゃんらと合流し軽く居酒屋へ。高知から来ていたD君も交え、馬刺しに舌鼓を打つ。1時間半ほどで店を出て会場であるキャバレーニュー白馬へ向かう。
1958年(昭和33年)創業の店内は1970年代後半辺りで時が止まったかのような空間。内装、装飾、電飾の配置など、全てが私の世代にも懐かしい。ホッとする。幼い頃に連れていかれていた酒場の空気を思い出す。250人前後で一杯のキャバレーニュー白馬。この規模で坂本(慎太郎)さんのライブを観たいと常々思っていた私は胸の高鳴りを酒で煽る。




オンタイムで演奏が始まり、ダブルアンコールまで含め約80分。
内容は割愛。これまで都内の設備がしっかりした大きい会場でばかり観ていた。もちろん素晴らしいのだけれど、坂本さんのライブを観るに連れ、このみっちりしたリズムと嫌味も力みも押し付けてこない塩梅が常に絶妙な演奏と熱量とグルーヴをもっと近くで観たいと思う様になっていた。例えば仕事終わり、フラと入ったクラブ(踊る方ではなく)又はPUBのような場所で酒を呑んでいたら突然小さなステージで箱バンが演奏し初めて徐々に持っていかれるというような、はたまた、呑みながら踊りたくなればステージ前にある小さなフロアまで行って踊れるというような。そういう場所で鳴らされることを想像していた矢先のキャバレーニュー白馬。夢が叶った。そして想像していた以上にこの夜が最高だった。何処でどんな場所で味わうかによって視覚も聴覚も感度は大いに変わる。演奏の生っぽさ(実際前の方で聴くと生音が混ざる)場所の引力。ギターソロが猥雑に聴こえるとか、太くざらついているけど実になめらかな音だったり(歌声も)。大きな会場で感応する興奮とはまた違うこの感じ…最高だ!再び酒を煽りながらライブはやるのも観るのも身体の悦びだなぁと独り言。

終演後、九州各地から訪れていたミュージシャンや友人知人に多く会う。
5月にリリースした7ep「水曜日/永い瞬間」の物販Tシャツ、ロンTを着ている人も見かけた。九州ツアーの際に購入してくれたのだろうか。実際身につけている人を見ると単純に嬉しかった。ありがとうございます。
結局遅くまで飲酒しながら色んな話をしたのだろうがいつもの様に忘れたけれど、キャバレーニュー白馬の夜はずーーっと忘れないと思う。会場を出て移動する最中、夜が夜らしく、暗く、月明かりが綺麗で、街は静かでライブの余韻を邪魔するものが何もなく、八代、本当に行ってよかった。




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