ヒプノシス

(2014.6.30記)
福岡のレコード屋に勤めていた時期。
19歳になった私は、週末、レコ屋の入ったビルにあるレコードミュージアムに勤めており、その部屋の壁一面を使ってひと月ごとにひとつのテーマに沿ってジャケを展示したりしていたのだが、ある月がヒプノシス特集だった。
その時私は「ヒプノシス」がなにか知らず、館長だったTさんに訪ねたところ「ストーム・ソーガン知らないの?ピーター・クリストファーソンも?」と言われ「はい、知りません」「音楽やってるんでしょ?デザイン……グラフィックやデザインには興味ないの?」「……すいません」というようなやりとりをした後、Tさんは丁寧に教えてくれた。

ヒプノシスはイギリスのデザイングループで、ジャケットのデザイン、アートワークを手掛けていると知った。
ピンクフロイドやジェネシス、ツェッペリン、10CC、ELOなどそうだが、Tさんとジャケットを飾りながらピーター・ガブリエルの1977年に出たアルバム(通称CARジャケ)を見せられたとき、音を聴いたことがなかったけれど、このジャケットのピーガブの表情と(ライフレスのような顔)構図、車の「青」に心がザワッとしてすぐに購入した。買った後、音は聴かずただジャケットを眺めて過ごしながら中身を想像するだけという日を送ったりしたこともあった。(その後、音を聴いて自分がジャケからイメージしていたものとは違ったのだが、そこにもまた心がザワッとした)

毎回ではないのだろうが、音を聴かずにデザインすると知って驚いた。
ジャケットはその作品の中身を連想させたり、作った人達の楽曲(イメージ)を視覚的に提示するものだと思っていたけれど、全く逆のものを提示したり、考えさせたり(中身との)矛盾を現してみたり、ただ「レコードのジャケット」と思っていたものが、いつの間にか「その音を包むもうひとつの作品」として観るようになり、そうなってくると「ジャケ買い」の面白さが増え、一時期はジャケットだけを吟味してレコードを買ったりしていた。
が、ヒプノシスの作るジャケットのように、そこに徹底した「思惑」を感じるものは少なく(自分が無知だったこともあるが)、改めてヒプノシスって凄いなぁと思ったりしていた。聴覚と視覚で完璧なレコードは(CDでもいいです)そんなに多くない。その中でも1971年発売のT・REX / Electric Warrior(邦題:電気の武者)は未だにナンバーワンだ。最高にかっこいい。

Tさんが貸してくれたポスターデザインの本も(60年代〜70年代のロックが主)フォントや色、構図がとてもかっこよかった。短期間で消費されるものであっても、隅々まで考えられていて見ているだけで面白い。

「ピーター・クリストファーソン知らないならこれ聴いてみなさい」と、
スロッビング・グリッスルを聴かせてくれたのもTさんだった。
「音楽だけやってないで、デザイン……というよりデッサンできるようになると、作る音楽がもっと面白くなるんじゃない?」と言われたが、
その時は「??」のまま「はい」と返事だけしていた。

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