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映画の中の『ドイツ軍』概論

ご無沙汰しております。1976newroseです。

映画「ジョジョ・ラビット」、ご覧になりましたか?

私も少し前にプライムビデオで観て、この映画は映画館で観たかった…という思いが沸き上がるほど感動しました。

さて、この映画を友人に薦めたところ、「面白かった!けど、ナチス・ドイツにもいい人はいたってこと?ドイツの組織ってよくわからない」との感想をもらいました。

友人の感想ももっともです。

ナチス時代のドイツでは、旧来の軍・官僚組織と、ナチスが政権を獲得してから急速に整備された独自の軍・官僚組織とが入り混じっています

映画の題材になることが非常に多い『ナチス・ドイツ』ですが、登場人物がどんな組織に所属しているのか、その組織はどんな組織なのかが理解できれば、映画の趣もより一層味わえると思います。

そこで今回は、ドイツの軍・官僚組織とその見分け方について、ごくごく簡単に解説して参ります。しばしお付き合いください。

【1】『ドイツ軍』って?

一口に『ドイツ軍』といっても、その中身は以下の2つに大きく分類されます。

① プロイセン王国以来、正規国軍として存続してきた『ドイツ国防軍(ヴェアマハトWehrmacht)』。

国防軍は歴史的に、代々貴族や軍人の家系出身の保守的な者たちが多く所属し、ナチスとは基本的に一線を画す存在です。

ただし、戦況の悪化や、一部国防軍軍人によるヒトラー暗殺計画の失敗等により、徐々にナチスからの統制が強まっていきました。

また、共産主義に対する敵意はナチスと共有しており、ソ連と戦った東部戦線では、数々の戦争犯罪に関わったことが戦後の研究で明らかにされています。

つまり国防軍とは「ナチス体制確立前から正規国軍として存在し、ナチスとは一線を画したものの、単純に清廉潔白とは言えない存在」です。

そうは言っても根っからのナチ組織でないことは確かですから、映画の中で比較的善良な存在として描かれるドイツ兵は、この国防軍所属であることがおおいです。

さて、映画の中で彼らを見分けるには、どうすればいいのでしょうか?

ナチス・ドイツ時代の軍・官僚組織は極めて複雑で、また制服も度重なるマイナーチェンジ等が加えられたため、一概に言うことは難しいのですが、

ざっくりいえば、襟章で見分けることができます。

写真のように、ブルーグレーっぽい軍服の襟元に、長方形の白っぽい帯がついているのが国防軍の兵士たちです。

『戦場のピアニスト』で、主人公を匿った青年将校の襟元にも、国防軍に特徴的な襟章がついています。

また国防軍高級将官も、襟元のマークで見分けることができます。

写真のように、赤地に金のトゲトゲエビフライのような模様があるのが、国防軍の高級将官です。

『ヒトラー 最後の12日間』において、地下壕司令部の中でヒトラーに罵倒されている彼らも、襟章から国防軍の所属だとわかります。

さて、国防軍の中でも、敵・味方問わず恐れられた存在がいます。

それが、首からチェーン・プレートをさげた『野戦憲兵(Feldgendarmerie)』です。

彼らは、軍紀維持の本来の役割だけでなく、戦地における過酷なパルチザン掃討ほか数々の戦争犯罪に関与し、敵はもちろん国防軍の兵士たちからも疎まれる存在でした。

『ちいさな独裁者』において、主人公一味を尋問する兵士たちの首元にもプレートが下がっており、彼らが野戦憲兵であることが分かります。

② 一方、ナチスが政権を握る前から結成され、ナチスの私兵的な性格を持つのが『親衛隊(Schutzstaffel. 通称SS)』です。
もともとは少数精鋭、ヒトラーの身辺警護組織として発足した親衛隊ですが、ハインリヒ・ヒムラ―という男の組織指導の下、最終的にはナチス・ドイツの官僚機構の一部にまで成長することになります(親衛隊については、後にもう少し詳しく後述します

この親衛隊から、国防軍並みの軍事組織を目指して創建されたのが『武装親衛隊(Waffen-SS)』です。
彼らは徴兵権を持つ国防軍とは異なり、基本的には志願兵からなる組織です。ナチスの思想的影響を受けた、党の軍隊ともいうべき存在です。

彼らは戦況の悪化とともに狂信的な戦闘で名を馳せるようになりますが、一方で、国防軍より積極的に戦争犯罪等に関わった側面も併せ持ちます。

彼らは、主にヘルメット側面のデカールと、国防軍と同じく襟章を見れば比較的簡単に見分けることができます。

写真のように、ヘルメット側面や襟元に、黒地に白文字で書かれた「SS」マークや、サイコロの目のような階級章があれば、彼らは武装親衛隊の人間です。

また、武装親衛隊を含む親衛隊の将官・佐官も、同じく襟章で見分けることができます。

写真のように、黒字に細い柏葉が描かれていれば、彼は親衛隊の中でもエリート層であることが分かります。また親衛隊では、階級があがると柏葉の数も増えます(ざっくりとした説明ですが)。

【2】その他、ナチス・ドイツの組織

前述の通り、ナチス・ドイツでは国家機能の多くが親衛隊の傘下に収められました。

武装親衛隊以外の親衛隊を俗に『一般親衛隊(アルゲマイネSS Allgemeine SS)』と呼ぶこともありますが、そんな彼らの制服を見てまいりましょう。

一般親衛隊員は、黒い制服に髑髏徽章入りの制帽が特徴的です。

映画においても、黒服・髑髏・SSマーク・サイコロの目のような襟章、などがあれば一般親衛隊員と考えてよいでしょう。

のちに常勤の一般親衛隊員には、国防軍のものに似た緑灰色の制服が支給されましたが、こちらも襟元のSSマークや、左袖に縫い付けられた細い帯(所属部隊名などが記載されています)によって識別できるでしょう。

さて、親衛隊は12個の本部から成り立ちますが、中でも国家秘密警察部門を司った『国家保安本部(RSHA)』は重要です。
彼らはユダヤ人、共産主義者その他「反ナチ的」とみなした人々への取締を行った組織で、映画に登場する親衛隊員の多くはこのRSHAの人間だと思います。
RSHAの中でも著名なのが『親衛隊保安部(Sicherheitsdienst、通称SD)』と『ゲシュタポ(Gestapo)』です。


SDは、国内外の諜報活動や工作、さらには政敵の実力による排除まで行いました。
彼らは制服の袖口に、SDと書かれた菱形のワッペンをつけています

イングロリアス・バスターズで印象的な演技を見せた彼も、袖口の徽章からSDの所属とわかります。

一方、ゲシュタポは、政治犯等を取り締まる政治警察でした。
SDとの所管がやや曖昧だったようですが、秘密警察部門としての特性上、制服を着用するかどうかは各個人の判断に委ねられていました。
映画の中では、ロングコートにフェドーラ帽の、いかにも刑事っぽい見た目で描かれることが多いです。

最後に、ナチス初期に党の武装組織として猛威を振るった『突撃隊(Sturmabteilung、通称SA』を紹介します。

彼らは第一次世界大戦後のヴァイマル共和国において、失業軍人や浮浪者などを見境なく取り込み、一時は数百万人を数える大組織でした。
しかし政権奪取を目前にしたヒトラーの意向に逆らう動きを見せるなどしたため、後にSSの幹部となるヒムラーやハイドリヒらに粛清されます。
褐色の不格好な制服を見たら、突撃隊と思って間違いないでしょう。


【まとめ】


さて、いかがでしたか?
まとめると、
①国防軍
②武装親衛隊
③親衛隊、とりわけ国家保安本部RSHA所属のSDとゲシュタポ
④突撃隊

といったところでしょうか?

彼らはそれぞれ所属組織の思惑を受けた存在として、映画に登場することが多いです。
皆さまの映画鑑賞の一助となれば幸いです。

お読みいただきありがとうございました。

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