見出し画像

沈思黙読会「本を音声で聴くことによる読書の変容について」②

前回のつづき、2月18日(土)に行われた、沈思黙読会第4回目で、斎藤真理子さんがお話しになったことを一部、ご紹介します。

先日、大阪に行って「本はわからないから面白い」というふざけたタイトルの講演をしてきました。

「自分のわからなさを大事にして、そのわからなさを育てていく、というのがいいんじゃないか」って話をしたんです。本って何回も読みますけれども、それを「読み直す」ではなく、「読み重ねる」というふうに考えたいなと思ったんですね。というのは、本を何回も読んでいくときって、1回目、2回目と読んだことを初期化して1から白紙で読むわけではないですよね。仮にそういうつもりでいても、絶対に何か残っているんですよ。だから最初に思った感じ方をもう1回、強い線でなぞったり、あるいはまた違う線が引かれて線の幅が広がったりですね。そういうことをやりながら「読み重ねて」いったものが、自分の財産みたいなものになるような気がしたんです。

ですから、キム・セビョクさんさんによって強烈に上書きされてしまったところに、私が活字で読むことを重ねていくと、今のこの戸惑った感覚が上書きされていくんだと思うんですね。ともかく、こういう風に自分の読み方が圧倒されてしまうという経験は、本当に初めてだったのです。

たぶん、これから「本の在り方」というのはいろんな形で変わっていくと思います。オーディブルで読むのも、たとえば体の調子が悪くなった時とか、さまざまな場面で必要になってくることですよね。

それに韓国でも、このシリーズって結構ちゃんと売れているんですって。通勤の時に聞く人も多いらしいです。電車に揺られながら自分で活字を読むのと、目を閉じてキム・セビョクが読んでくれるお話を聞くのとでは全然違う時間になるだろうと思いますし、それはいい時間なんじゃないかなと思ったんです。こういう、いわゆる読書とは形の違う活字の取り入れ方も、やっぱり「読むこと」だなと。

今って、本の形もどんどん変わっていってますよね。特に韓国は割と果敢にいろんなことにチャレンジしていて、これも同じパク・ソルメの小説で、「極東の女友達」(ウィズダムハウス)という本で、ハードカバーなんですけど50ページぐらいしかないんですよ。だから軽くて、なかの文字組もこんな感じでパラーッと組まれているんです。パッと持って出かけて、カフェに行ったりして、そこで全部読み切れる感じ。

それなのに、おまけにこんな風に折りたたまれた紙がついていて、片面に文章が書かれている。これ、何かというと、本の中身が全部一枚の紙に書かれたものなんです。アイディアというか遊び心というか、何らかのコンセプトがどこかに書かれているのかもしれませんが、とにかく初めてこれを見たときに、本の中の全テキストってこんな風に収まるんだ、って思って面白かったんですよね。小説のあり方がどんどんミニマムになりつつあるというか、読むということも一冊の本にじっくり向き合うだけが読書ではなくて、もっと小さく割られていったものに隙間の時間で向き合っていく、という読書の仕方が試みられているように思いました。

読書後、斎藤さんトークのスナップ

そして、そういうときでも、スマホがあったら絶対そっちに逃げると思ったんですよね。オーディオブックもね、私は初めスマホで聞いてたんですよ。そしたら途中でやっぱりスマホを触りはじめて、他のところに目が行ってしまうんですね。だから、昨日は家でスマホを一旦切って、パソコンに音源を入れて聞いてみたら、もちろんその間に家事なんかもしてたんですけど、パソコンで聞く方がすごくよく聞けました。

話が戻りますが、先日、大阪で話をしたとき、この沈思黙読会の試みのことを話したら、皆すごくうなずきながら聞いてくれていて、なぜかというと、今の時代はスマホによって自分たちの行動が制限されていると強く感じていらっしゃる方が多いんですね。だからこそスマホを切るという行為が自分を広げていくこと、自分を拡張していくことに近づいてくるんじゃないかと思います。

また、スマホを切って本を読むと、集中できるので本の内容が一層よく入ってくるというのはもちろんあると思うんですけど、何がわからなかったかということが鮮明にわかってくる、という一面もあるんじゃないでしょうか。

忙しい中、隙間時間で、時々スマホに逃げながら本を読んでいると、わかったところに飛びついちゃって、ああわかる、わかるって、そこを点々と飛び石のように進んで受け取っているようなことに私はなってしまう。でもスマホを切って読んでいると、わからないことがあってもその場で調べられないから、そこが頭に残ったりします。ちょっと受け入れにくい文脈だなとか、こんなことを書く人がいるのかという違和感、そういう「わからなさ」もまた印象に残っていくものですけど、自分が何がわからないかさえわからないようになっているのが現代の日常です。「わからなさ」をキャッチしておくことは、本を「読み重ね」ていくときにも、何らかの手がかりになるような気もしました。

沈思黙読会に参加されているumimiさんが、こんなニュースがタイムラインに流れてきたと教えてくださいました。ニュースでは「入店と同時にスマホをボックスに預け、店を出る時までスマホ触れないブックカフェに若者が殺到、入店に1時間待ち」と言っているそうです。

次回の沈思黙読会(第5回)は3月23日(土)、詳細はこちら
第6回は4月27日(土)、詳細はこちら
第7回は5月18日(土)、詳細はこちら
第8回は6月15日(土)、詳細はこちら、を予定しています。
基本的に月1で、第3土曜日に神保町EXPRESSIONで行われます。
(斎藤さんのご都合で第三土曜日でない月もあります)
学割(U30)有。オンライン配信はありません。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?