沈思黙読会「本を音声で聴くことによる読書の変容について」①
沈思黙読会の主旨は、いまのところ、下記の5点です。
そして、2024年2月18日(土)に行われた、第4回目に斎藤さんがお話しになったことを一部、ご紹介します。
4回目の沈思黙読会、ちょっと変化がありました。今までの3回はスマホを切るとすごく時間が早く経つなあと思っていたんですが、今日はなぜか時間がゆったりと流れているように感じたんです。結構たくさん読めたなという気はしたんですが、これまでみたいに時間が飛ぶようには過ぎなかったんです。
なぜだろうと考えてみたら、ひとつの理由は、オーディオブックでした。昨日、パク・ソルメの『インターナショナルの夜』(出版社=arte)を聴いていたんです。
これはずっと前に人からもらったもので、本とその朗読の音声データ入りのUSBメモリのセットなんです。韓国で1000円くらいで売られています。本は一度読んでいたんですが、オーディオブックの方は聞いていなくて。それを昨日、初めて聞いたんです。そうしたら、むちゃくちゃよかったんですよ。今までに聞いた朗読の音源の中で一番というくらいに。
朗読は映画『はちどり』『逃げた女』などで素晴らしい演技を見せている独立映画のスター、キム・セビョクで、そのことにも今日になって気がついたんですよね。『はちどり』はご覧になった方もいると思いますが、キム・セビョクはあの中で国語塾の先生を演じていた人で、もう、上手いに決まってるじゃないですか。というか、上手い下手ってことさえ感じさせないような自然さで、朗読を聞いているというより、「本を聞いた」という感じが強かったんです。
パク・ソルメという作家は、私もこれまで2冊翻訳しているんですが、文体にちょっと不自然なところがあって、そこがいいと思っていたんです。でも、オーディオブックを聞いたら全然不自然なところがなくて。パク・ソルメは普通の書き方はしないので、緻密に読めば少し文法的におかしいところはあるかもしれないんですけど、キム・セビョクさんが読むと本当に、これ自体もパク・ソルメの表現なんですけど、「水に水を溶かしたように自然」だったんですよ。
そこで、音で耳から取り入れた本を、もう一回、活字で読もうと思って、今日はこの本を読んでいたんですが、なんだか全然、浸透してこなかったんです。昨日から今朝、ここに来る電車の中でもシャワーを浴びるようにオーディオブックを聞いていたら、まるで違うものになってしまった。
これを聞いたことによって私自身がこの本の読み方、自分の物語の受け入れ方をすごく下方修正しちゃった。自分が、自分の読み方をジャッジするような感じになって、あんまりちゃんと読めなかったんです。
そして、もう1回初期化して、この本をまた読み直すというのは、おそらくできないと思うんです。朗読の強度が強すぎると、次の読み方がすごく規定されてしまうというか、こんなにも影響力を持つんだな、というのを非常に強く感じました。
(次回に続きます)
次回の沈思黙読会(第5回)は3月23日(土)、詳細はこちら。
第6回は4月27日(土)、詳細はこちら。
第7回は5月18日(土)、詳細はこちら。
基本的に月1で、第3土曜日に神保町EXPRESSIONで行われます。
(斎藤さんのご都合で第三土曜日でない月もあります)
学割(U30)有。オンライン配信はありません。
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