【雑感】2021年J2リーグ 第17節 対ファジアーノ岡山~沈黙のなかの歓喜~

東京ヴェルディ 1-0 ファジアーノ岡山

 緊急事態宣言延長によりビジター席設置がなく、完全アウェイで行われた一戦。数少ない決定機を決めきれず、このままスコアレスドローで終わるかと思われた後半ATに訪れた劇的な決勝弾にDAZN越しで歓喜を上げたサポーターも多かったに違いない。オープンな展開に選手たちの疲労がでてきたなかで、交代選手たちの頑張りがもたらせた勝ち点3の試合を振り返ってみたい。

スタメン

 前節・秋田戦に先制点を許すものの3得点を挙げて逆転勝利したヴェルディ。この日は中盤に梶川が復帰して1名入れ替えて臨む。ベンチには怪我から復帰したジャイルトンパライバが名を連ねる。
 対する岡山も前節は松本に3-1で勝利。メンバーは良い流れを継続するように同じ11名で臨む。喜山にとってはアカデミー~トップ昇格を果たした古巣との一戦になる。

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探り探りの慎重さ

 キックオフの笛と同時に出足鋭くアグレッシブにボールホルダーへプレッシングをかけていったのは岡山だった。前節勝利の勢いそのままにピッチ上で表現しているようだった。

 ボールを持つ時間が長くなったのはヴェルディだった。ボール保持時に山口が高い位置を取ることで最終ライン3バック化してその前に加藤が位置取りして3-1の形を作る。岡山は1442ブロックを敷き、2トップ川本と上門が加藤のマークを受け渡ししながら最終ラインへプレスをかけてボールサイドのSHも縦スライドで連動するオーソドックスな守り方をしていた。

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 ボールの出し入れをして岡山のプレスかけ方を伺う場面が立ち上がりから続くと、縦スライドするSHの背後にスペースが出来ることが分かり佐藤優平や梶川がボールを受けるように流れていく。

 また、高い位置を取る山口に対してはSB河野がマークに喰いつく。山口がマッチアップに勝つと一気に4対3の局面になり、簡単に前へ捌いても岡山最終ラインとヴェルディの最前線が数的同数でチャンスを作れる。

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 岡山のプレッシングの規則性が分かり始めて選手たちの立ち位置も良くなってきたがボールが足元で上手く収められずになかなか決定機を迎えることが出来なかった。一方でボール奪取した岡山はカウンターと組み立てを使い分けて攻撃をする。最終ラインにボールを戻して試合を落ち着かせて攻撃を組み立てる際は両SHが内へ絞り14222というような配置を取る。DH喜山、白井を経由することが多く、パス供給源となるこの二人に対してはヴェルディもプレス、プレスバックして身体を寄せて潰しに行くことが再三見られた。

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 どちらかと言えば、縦へ素早くシンプルに攻撃を仕掛ける時の方が迫力が出ていた。サイド攻撃、中央では最前線の川本が懐深いポストプレーで深さを作ることで上門、宮崎幾笑、木村が前を向く時間が出来てミドルシュートを放っていくことが増えていく。

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 前半の飲水タイムまでスコアレスであったが岡山ペースで試合は進んでいただろう。再開後、ヴェルディは左サイドからの攻撃を強めていき、山口、梶川、小池が絡みかなり高い位置まで侵入することが増えていった。中盤底で舵取り役を務める加藤も敵陣PA付近まで攻め込み厚みを持たせていくが、なかなか決定打を打てずに結局スコアレスで前半を折り返す。ヴェルディはシュートらしいシュートはおそらく無く、いつも通りの攻撃になってしまっただろう。

決め手となったジョーカーの頑張り

 お互いにメンバー交代は無く、ヴェルディは両翼の小池と山下入れ替えて後半開始。先制点を目指して一段ギアを上げたのはホームの岡山だった。前方向へのエネルギーが増し、ボールを持つと前半以上に追い越す動きをする選手が多くなり、フェイントを入れて1対1を交わしてコースが空くと見たら迷いなく枠を捉えるミドルシュートを放っていくが、マテウスが確りとセーブしてゴールを割らさない。
 岡山の圧もあったが、ヴェルディが守備ブロックを敷いていると言いながらもボールホルダーへの寄せの甘さ、パスコースやシュートコースを切る守備が出来ておらず、簡単に前を向かれてしまったことが原因であった。

 後半立ち上がり10分くらいの岡山の猛攻を何とか凌いだヴェルディは深澤大輝に変えて井出を投入して配置も動かしていく。
 井出をフロントボランチに入れて優平が中盤底のリベロへ、加藤が最終ラインに落ちてCBへ、若狭がSBに回る。前節同様に井出には高い位置でのボールキープとゲームメイクが期待されて左からのサイド攻撃を再び活性化する狙いがあった。

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 いきなり、チャンスを作る。最終ラインから組み立てて左へ展開すると井出、佐藤凌我、山下が絡む。左サイドで山下のクロスをPA内ファーサイドで待ち構えた小池がハーフボレーを放ちこの日初めて枠を捉えるシュートが出た。中盤底に入った優平もダイナミックに動かすようにロングボールを蹴りこむと立て続けに右ワイドの小池へ背後を取らすような浮き球を入れていく。大宮戦や秋田戦でも見られ、選手たちもコメントしているように対角サイドのSBを超す大きなボールを蹴りこむことがチームとしての約束事になっており、それを忠実に実行できるようになっていた。(もちろん、ニアへ速いボールを入れることもあり、オプションが増えている)

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 低い位置で加藤と優平の二人がボールを自由に扱い左右へ揺さぶることで岡山の守備バランスを崩していき、だんだんとヴェルディが流れを掴むことが出来た。後半の飲水タイム明けに岡山は徳元と山本、ヴェルディは森田晃樹とジャイルトンパライバの2名ずつ交代してフレッシュな選手たちが入り仕切り直しのようになる。

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 前がかりでオープンな展開になっていくとボールが両ゴール前を行ったり来たりする。スタメン出場している選手たちは体力消耗がかなり激しくなっていったに違いない。
 そんな状況で違いを魅せたのがパライバと井出の頑張りだった。久しぶりの出場となったパライバはボールを持つと躊躇なくゴール方向へベクトルが向き、井出は前節秋田戦同様にゴールへの意識をもって積極的に仕掛けていく。
 すると、二人がいるヴェルディ左サイドの攻撃が徐々にはまっていき、80分にはPA内へ侵入していき凌我のポストプレーから井出が流し込むようにコントロールシュートを放つも惜しくも枠外へシュートが逸れる。完全に一点物の超決定的場面であった。

 一進一退の攻防が続くがお互いに決定打に欠き、試合は後半ATを迎える。再三にわたる左サイドからの攻撃からルーズボールにいち早く反応したのは直前に投入された端戸だった。端戸は左サイドのかなり深い場所から思いっきりよくクロスを入れる。ここも岡山守備陣の頭を追い越すようにファーサイドにボールが行く。(端戸が意図して蹴ったのか、タッチラインへボールが出ないように無理な体勢から放り込んだかは不明だが)
 ファーサイドでボールを受けたのは小池。素早いトラップからPA内のニアへ速いグラウンダーのボールを入れ、岡山の守備陣は目線を変えられているためこのマイナスのクロスに誰も反応できず、飛び込んできたパライバがスルーしてすぐ後ろにいた井出が豪快に叩き込みネットを揺らし、劇的なゴールを挙げた。
 左サイド、ファーへのクロス、交代選手・・・と見事に的中した得点になった。

 1点ビハインドになった岡山はパワープレーからロングスロー、コーナーキックのチャンスを活かすことは出来なかった。今季アウェイ初完封、初勝利で見事に2連勝を飾った。

まとめ

 90分通しての試合内容を振り返ってみると良かった場面よりも思い通りにいかなかったり、悪かったりする場面が多かった。ただ、辛抱強く戦い土壇場で掴み取った勝利は何にも代えられない大きな自信に繋がるはずだ。アウェイ岡山の地では6年負けなしでそのうち4回が1-0勝利と不思議な相性も最後に味方してくれた。この日は交代出場の選手たちの頑張り、采配的中した。戦力も戻りつつあり、前節に続き同じポジション同士での交代も出来るようになりベンチワークの選択肢が増えてきたことも要因の一つかもしれない。
 試合後の会見で勝ったから言えるのだろうが、永井監督は対戦相手を仮想して控えメンバーとの紅白戦や過去のVTRを見せてメンタル面の重要性を強調している。戦術面での修正、向上もさることながら、選手たちが失っていた自信を取り戻すことが特効薬になったのだろう。相手への対策を打ちながら、結果を残すことでアウェイ連戦を最高のムードでスタートを切ることが出来た。