【雑感】2019年J2リーグ 第28節 対モンテディオ山形~完成しつつあるゲームモデル~
東京ヴェルディ 0-0 モンテディオ山形
お盆休み最終日の味の素スタジアム、またしても降りだした雨で蒸し暑さMAXの悪条件。両チームの選手たちはそのなかでよくピッチを走り回ったなと感心するあまりであった。徐々に狙いがわかりつつある永井ヴェルディであるが相変わらず調子のムラが大きくまだまだ再現性のあるプレーが続かない。山形戦でやりたかったことと上手く出来なかった理由を考えてみたい。
スタメン
前節・鹿児島戦で試合最終盤に劇的な展開を見せたヴェルディ、途中出場から活躍した河野広貴が右ワイドストライカー、佐藤優平がアンカーにこの日はスタメン起用される。前半に負傷した藤本寛也に替わって森田晃樹がフロントボランチを務める。山本理仁と奈良輪のスタートポジションが前節と左右入れ替わる形となった。この日も定着しつつある中盤ダイヤモンド型の1442システムを採用。対する山形は堅い守備から攻撃がはまり6位と好調である。前節・新潟戦同様に期待の17歳半田が右WBに入り、古巣対戦となった南もシャドーでスタメン起用で1343のシステム。
試合巧者の山形
ボール保持して攻撃の主導権を握りたいヴェルディと堅守速攻で着実に勝ち点を積み上げてきた山形の構図がそのまま出る試合展開となった。キックオフ直後からボールを大事にしていきたいヴェルディに対して、山形は1343(ボール保持時)⇔1523または1541(ボール非保持時)のシステムをうまく使いこなす。ヴェルディが自陣でボールを握っている時は1523となり、トップのバイアーノはGK上福元とアンカー優平をマーク。大槻と南もするどい出足でプレスをかけてヴェルディのビルドアップのミスを誘発する狙いがあった。リトリートも極端で、全員が自陣深い位置まで戻り1541となる。ボール奪取後、ヴェルディがかなり高い位置まで全体を押し上げていたことで生まれた広大なスペースへ強靭なフィジカルを活かしたバイアーノの強引な突破が試合立ち上がりが相次いだが、ここは上福元の好守もあり防ぐ。
ヴェルディはボール非保持時に広貴が下がらずに?レアンドロと横並びの形になることが多くて1442となる。2トップが前線からの効果的なプレッシングがあまり見られずに山形の最終ラインやDH本田、中村が自由にボールを持てることが多く、構造上フリーになりがちな左サイド大槻や山田へのロングボールが入る。ここから攻撃のギアが上がり一気にゴールへ迫る場面が目立った。
どうやってゴールをこじ開けるか
ヴェルディはGK上福元+CB近藤と内田にアンカー優平が基本的にビルドアップに関与する。特にこの日はアンカーに入った優平はこのポジションに要求される『360°の広い視野』を存分に発揮して低い位置でボールを受けてもターンして前進させることやロングフィードで山形守備ラインを突破と期待に応える働きぶりを魅せた。山形陣地まで進入すると、2パターンの攻撃が目立った。1つは両サイドを大きく活かした横の揺さぶりだった。優平などがロングフィードでサイドへボールを預けるとボールサイドに選手を密集させて反対サイドに大きくスペースを作る。左で密集して、右サイドで理仁がフリーになり展開する場面も、次のプレーが遅かったり、山形の速いスライドもありなかなかフィニッシュまでは持っていけなかった。
もう1つは縦の揺さぶりだった。フリーマン・レアンドロが気の利いたポジショニングを見せて中盤の空いたスペースを見つけては下りて縦パスを貰うことで山形の第2守備ラインを突破する。フロントボランチの梶川や晃樹、ワイドの広貴や小池と距離感を詰めてワンタッチプレーで最終ラインを突破にかかるが、山形の最終ライン守備陣の前向きな守備からの早い寄せもあり、なかなか進入を許さない。
サッカーを楽しむとは
ハーフタイムコメントで永井監督は『ここからがサッカーの楽しいところだ』と述べている。PA付近まで攻めるもあと一歩のところにあったイレブンを奮起させようとしたメッセージだった。チームの大まかなゲームモデルとして、先ず、ボール保持することで全体を押し上げる(重心が後ろに下がらないようにビルドアップに人数をあまりかけない)。次に敵陣(ゾーン2)へ進入すると選手たちの能動的な動きでスペースを作ったり、スペースでボールを貰う。その際にワイドは大外に張ってから相手選手を引き連れてハーフスペースに移動する。そのことで大外にサイドアタッカーの通り道を作り深い位置抉る。サイドアタッカーの上がりが難しい際はワイドは大外に張ったままでフロントボランチがハーフスペースを上下動する。この試合では小池と奈良輪は上手く連携取れていたが、右の広貴と理仁はスムーズではなかった。ここまででPA付近(ゾーン3)まで陣地を取ることになる。そして肝心なフィニッシュ。相手が最も守備を固めてくるPA内の攻略は監督による戦術の落とし込みだけではなく、選手個人の能力や即興性、アイデアが求められてこれがサッカーの醍醐味になるのかもしれない。5レーン理論に沿った攻撃をしているとピッチにバランスよく選手が配置される一方でカオスな状況を作りにくく、レアンドロだけがゴール前で孤立することもある。ここ最近の得点場面を振り返ってもPA内には複数の選手が居ることが多く、ワイドストライカーやフロントボランチの動き出しで出来るだけPA内でカオスな状況を生むことが必要になってくる。後半、DAZNでは解説者からワイドストライカーの広貴と小池に仕掛けの物足りなさのコメントがあった。このポジションは基本的には『時間を確保』することが第一であると考えるが、プラスアルファとして”強引さ”や”どん欲さ”を兼ね備えていく事が進化へつながっていく。
なかなか上手く噛み合わなかった右サイドから理仁が早いタイミングでクロスを上げてレアンドロに合わせる場面も何度かみられて、ファールを取られたその落としを詰めるといった攻撃もあった。全体がかなり高い位置を取るため当然のごとく山形にボール奪取されたあとカウンターからあわや失点という場面が後半もあったが上福元の好セーブで無失点に抑えて、体力消耗が激しくなる悪条件の中であったが、スコアレスドローで終えた。
まとめ
組織としての完成度で上回る山形の方がしたたかに試合を進めた印象が残ったこの一戦。夏場になっても上位で昇格争いをするだけの勢いや力があると実感した。その相手にも自分たちのサッカー哲学を披露したヴェルディ。しかし、終わってみればまたしてもシュート少なく無得点であった。永井監督は、あるインタビューで「5-1で勝つサッカーを目指す」と語っている。相手があるなかでも主体的になって、失点のリスク覚悟のうえで、時間、ボール、スペースを支配して選手たちが常に相手ゴール近くでプレーするサッカーを目指している。しかし、このゲームモデルに捉われすぎて余裕がまだまだ感じられない発展途上の段階である。制限を設けたなかでの自由さや遊び心、独創性などを加えていくことが大事になるだろう。