【雑感】2023年J2リーグ 第38節 対大分トリニータ~よみがえった十八番~

東京ヴェルディ 1-0 大分トリニータ

 昨季の感覚が戻って来たなぁと思わせる相手を塩漬けにした試合。試合を決定づけるペレイラの退場もあり、内容としては参考程度になってしまったが、配置そのままもメンバーを代えてそのキャラクターを活かした攻守で掴み取った勝利を振り返りたい。


スタメン

 前節・群馬とスコアレスドローに終わり上位と勝点差をあまり詰められなかったヴェルディ。この日は河村が久しぶりにスタメン復帰をして最前線に入り攻守の可変は少なく2トップになる。
 一方の大分は前節・大宮に後半ATの失点で0-1敗戦。GKテイシェイラと出場停止明けの渡邉の2名を入れ替える。システムも3バックから4バックへ変更して臨む。

前半

 PO進出にも勝ち続けないといけない大分が良い入りをする。セカンドボールを拾うとその勢いを殺さずに前進してトップ下の渡邉がシュート。開始1分も立たずの出来事だった。そのあともボールを握る大分。ボール非保持時1442のヴェルディに対して、4バックスタートの大分はSB坂と香川がブロックの外に立ち、左右に揺さぶりながらヴェルディの横スライドが追いつかないと見るとサイドチェンジしてフリーの状態で素早くクロスを上げて行く。SH町田と梅崎が中へ絞り、間、間に立ってボールを受けてパススピードを殺さずに前進していく。

 ヴェルディはサイド守備を捨てても中を締めてるからOKということだとしたら、前節の対戦相手・群馬のようにクロスを跳ね返す強固な守備になってないといけないがクロスに先に触るのは大分がほとんどありその点は不安を覚えてしまった。

 最初の10分は大分の攻撃にヴェルディの守備はついていけてなかった。前線の河村と染野は最終ラインにガンガンプレスかけて行くが、2列目がついていけずなのか自重したのかで間延びしてスペースを空ける状態に。ゲームテンポをゆっくりにして落ち着かせたいけど大分のプレスがそうさせてくれないこともあり大分に押される立ち上がりになった。

 ボールを握ってマテウス、最終ラインのパス交換でようやくゲームテンポを落ち着かせたヴェルディ。中盤底に構える森田晃樹が時に最終ラインに落ちてボールに触ったりして大分のプレッシングの出方を見る。左SH齋藤とDH稲見がインサイドハーフのような配置になる。齋藤は左SB加藤蓮と内・外を交換することもある。これに対して大分は伊佐と渡邉の2トップとボールサイドのSHがプレスというシンプルなプレッシングのかけ方をする。ヴェルディでいう河村のように身体を張って無理が効くプレーが出来る伊佐がファーストディフェンダーとして積極的にプレスをしていくこともあり中を切り裂いてパスを繋ぐことはなかなか難しく外循環のパスもしくは最終ラインからのロングボールを使う。ただこの日は前線に染野に加えて河村がいた。ターゲットが2枚となり配給元の最終ラインも楽になるし、ひたすら競り続けなくてもOKと染野本人の負担を減らすことにもなった。

 すると、16分、林からのロングボールを河村へ。一度はクリアされるもこぼれ球を梅崎から右サイドの中原が奪取。中原が梅崎と香川に囲まれながらもボールキープしてカットイン。中へ絞っていた齋藤へ繋ぐと、齋藤の落としから仕上げは稲見がダイレクトで左足を振り抜きネットを揺らしヴェルディが先制する。成長著しい稲見が今季4点目となる豪快なミドルシュートを突き刺した。

 押されながらも先制点を挙げたヴェルディ。リスタートの大分のキックオフに齋藤、染野、河村が猛然とプレスをかけるとペレイラがボールコントロールを誤り染野と交錯し、倒したことで一発退場。いわゆるDOGSOの判定になった。河村のスピード、ファーストディフェンダーとしてチームを牽引する効果がここにも出て相手選手の退場を誘発しただろう。直近の試合を見ていてもGKと最終ラインのパス回しがヴェルディ以上に危なっかしい大分。足元の技術は見ていてヒヤヒヤものであったがその悪い予感が当たってしまった。

 一人少なくなった大分はDH羽田をCBへ下げて、トップ下の渡邉をDHへそれぞれ一列下げる配置に変えた。ボール非保持は1441でボールを握ると渡邉が1列2列と上がって行く。大分が10名になったことでヴェルディの選手たちは誰が誰につくかマークやプレスが曖昧になり、ボール保持しても大分が中を固めて守るため、攻撃に迫力が出なかった。

 ならばとショートカウンターから大分守備陣形を乱して、スペースを作って齋藤のミドル、前半終了間際には染野が裏抜けを試みるもファウルで止められて追加点は奪えず1点リードで折り返す。

後半

 1点ビハインドかつ1名少ない状態の大分であるがバランスを崩したくなかったのかハーフタイムでのメンバー交代は無し。ヴェルディもメンバー変更なしで後半を迎える。

 立ち上がり、右CB羽田をPA内から引っ張り出そうとするように染野が背後を狙ったり外へのランニングを見せる。大分の守備体形が前線1トップになったこともあり宮原を最終ラインに置いて3枚に可変し、加藤蓮を外に張らして齋藤がハーフスペース、染野とトライアングル形成し左からの攻撃を匂わせる。

 自陣でのビルドアップはシンプルにして敵陣へ早いタイミングで入っていくとハーフコートのように押し込みサイドからのクロスやニアゾーンを取るように連動したプレーでPA内へ入る。こぼれ球をCB谷口栄斗が豪快なシュートを放つ場面もあった。試合後のコメントにあったように大分はバイタルエリアを空ける癖があると言い、先制点の稲見、齋藤の何度も見られたミドル、そして栄斗のシュートとしっかりとスペースに詰めてフィニッシュまで持ち込む狙いが見えていた。

 1名少ないが集中した守備で追加点を与えない大分はボールを奪うとシンプルにサイドから攻め上がりクロスと手数をかけない攻撃を見せる。60分、長沢、松尾、藤本と3枚替えをする。対するヴェルディは左SB加藤蓮に代えて平を投入。いつもSBをはじめに交代し、ここのところはDH稲見をSBへ下ろしていたがこの日はDHに残したままで、なんとCBの平を入れた。中盤の機動力やボール奪取能力の高い稲見をそのままにしたことは良かったが、平を入れるとは驚きの采配であった。

 本職CBの平であるが、ボール保持時には大外とハーフスペースを前列の齋藤と上手く重ならないように入れ替わり仕込んできたオプションなんだと感じた。あとはレフティを順足配置することでボール回しをスムーズにしたいこと、そして右からのクロスに飛び込むターゲットという狙いがあった。あれだけ空中戦に強い選手が前線でふらふらと居ると敵も味方も良くも悪くも邪魔な存在だろう。この試合ではクロスに合わせる場面は見られなかったが、加藤蓮がやっていた後半のオプションを平にも出来るようにしている段階であろう。これは加藤蓮をSBでスタートから起用することも示唆しているように受け止めた。昇格に直結する残り試合でこの平の起用が成就することを期待したい。

 追加点を目指しながらも大分にチャンスを与えないように出来るだけボールキープして攻め急がないヴェルディ。大分に後半はシュートゼロに抑えて前半の1点を守り切り勝点3を手に入れて上位陣にしっかりとついて残り4試合を迎える。

まとめ

 トップに河村を入れて染野との名コンビがここに来て復活。やっぱり染野と相性が合うのは河村なんだと実感する出来であった。
 攻撃時も2トップと昨季最終盤の形を蘇らせ、試合内容も相手を塩漬けし、”らしさ”が戻った気がした。これが辿りついた結論なのかもしれない。そしてSB平という新たなオプションを試し、このドラマのラストシーンの主役になる予感も漂う。
 この試合、ペレイラが退場した18分以降は参考程度にしかならないだろう。得点力に物足りなさはあったものの、シーズン終盤、結果がすべてであり、しっかりと勝利を手に入れたことは大きい。1週空いて迎える好調・千葉との1戦にあたり勇気の出る勝点3である。