【雑感】2021年J2リーグ 第1節 対愛媛FC~今年は成功したぜ、戦術CB加藤弘堅~

東京ヴェルディ 3-0 愛媛FC

 歓喜の笛に笑顔あふれる味の素スタジアム。昨年末からゴタゴタ劇からようやく解放されたような安堵な表情は新しい船出を実感させる。いろいろと仕込んできて考えさせられた90分間を開幕戦の快勝劇とともに振り返ってみたい。

スタメン

 昨季12位だったホーム・ヴェルディ。GKには守護神マテウスが入り、最終ラインには若狭、馬場晴也、新加入の加藤弘堅、福村の4枚。中盤底リベロに山本理仁、フロントボランチには佐藤優平と2年ぶりに復帰した梶川。前線3トップには17歳阿野真拓、端戸、古巣対戦となる小池が入る。システムはおなじみの1433スタートである。
 一方、昨季21位だった愛媛は和泉氏を新監督に迎える。GKには古巣復帰した秋元。DFには茂木、新加入の大谷、こちらも古巣復帰した浦田、主将・前野の4枚。中盤に小暮、田中、山瀬、川村。前線には藤本と同じく復帰した近藤が入り1442システムで臨む。

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弘堅色、満載

 キックオフの笛が鳴り、最終ラインCBには晴也と加藤が入る。怪我人などの事情もありCB起用された加藤は過去にCBを務めた実績があるとは言え、DHを主戦とする選手である。逆足配置や井出の起用とCBをいじくり過ぎて大敗を喫した昨季開幕戦の悪夢が頭をよぎってしまった。(詳しいことはこちらで)

 開始早々、最終ラインに入ったCB加藤、左SB福村から立て続けに最前線の真拓、小池へロングボールを蹴りこみ、愛媛DFラインの裏を取ろうとする。キック精度の高い選手たちが最終ラインに名を連ねるのだから、長短のパスを入れて崩していこうとする狙いは当然だろう。

 試合が落ち着き始め、ヴェルディがボールを握るようになるとCB加藤が最終ラインから1列上がりリベロの理仁と横並び(2CBが縦関係)になる面白い形で3-2を作りビルドアップする。愛媛が2トップであることから、最終ラインが+1枚の数的優位になるのは永井サッカーではお約束であるがCBを1列上げる発想には驚きがあった。
 主に加藤が上がり3-2でビルドアップ形成するが、流れのなかで福村や若狭が1列上がることもあり、誰がという固定したルールは無く、3-2の形にしましょうということが決まり事だけだろう。あとは、重心が後ろへ行かないように中盤の選手が最終ラインへ下りて来ないことが徹底されていたように思えた。

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アグレッシブさ全開の愛媛

 序盤の10分くらいまでは予想外の奇襲に面を喰らったかのように愛媛が後手に回ることになるが、徐々にアジャストしていく。
 また、技術的なミスもあり晴也からの縦パスが何回かカットされることが続くと、若狭や福村へ横パスを入れてからサイドへ開く優平、梶川にパスが回るようになる。これに対して愛媛は1442で守り2トップ+2SHが縦プレスでヴェルディ最終ラインへプレスをかけると、SBも連動して縦プレスをかけることで優平や梶川に前を向かす場面が減り、次第に愛媛が流れを掴む。

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 ボール保持した愛媛は福村の背後を突き、サイド攻撃からフィニッシュへ持っていく。藤本や小暮がサイドへ流れて(茂木が加わることもある)クロス供給して中央で近藤が仕留めるように決定機を作る。結果論だが、ここで得点していたら違ったスコアになっていたかもしれない。

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体現化を目指す共通理解

 ヴェルディは昨年もボール保持時に13223システム採用した試合があった。昨年は、相手DH脇にフロントボランチ2枚がボール受けてワイドストライカーはタッチライン際に大きく開きサイドアタックという感じであったが、この日はフロントボランチがサイドに大きく張りワイドストライカーがハーフスペースに立っていた。試合前の選手コメントでも愛媛SBの背後狙うような発言もあり、SBをフロントボランチに食いつかせることでワイドの選手が空いたスペースを狙う目的があったのだろう。

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 理屈は解ったものの愛媛の強度高いプレスに前半の半ばを過ぎても手を焼いていたヴェルディ。この展開を変えたのは、ここまで良い意味で目立たなかった優平の思いきったプレーだった。右サイドから中央に寄っていき愛媛クリアボールを福村がカットして、理仁が繋ぎ優平へ渡ると、反転して前進する。愛媛最終ラインと並走しながら外側に居る小池へスルーパスを出す。小池はドリブルから切り返して茂木を交わすとファーサイドを狙いコントロールシュートを見事に決めてヴェルディが先制する。

 停滞感も漂い始めたなか、重苦しい雰囲気を打破したヴェルディが再びリズムを作る。ボール保持時の13223のシステムを維持しながらの攻撃から追加点が生まれる。前半45分+3分、鮮やかな追加点が生まれる。FKの流れから高い位置に若狭が上がったことで理仁が最終ライン、DHの位置に優平が落ちてカバーしながらボールを繋ぐと、優平がワンタッチで前線の若狭へ早い縦パスを入れる。若狭は前野の裏を取り、右サイドからPA内のファーサイドで待つ小池へクロス。小池は巧みな胸トラップでボールを落とすと右足を振りぬきネットを揺らし2点リードとなる。小池のスーパーゴールの裏には、選手たちが旋回するように自らスペースを埋める動きをした良い場面であったのだ。

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躍動する緑の魂

 2点ビハインドになった愛媛が後半開始から反撃に出る。左右両サイドからのサイド攻撃、良い位置でのFK、CKとゴールに迫る場面が続くもマテウス中心に凌ぐと、小池、梶川が立て続けにシュートを放ち盛り返していく。左SB福村が前半よりも高い位置を取り、大外からのサイド攻撃を仕掛けることも増えていくとまたしてもネットを揺らしたのはヴェルディであった。
 ピッチ中央から優平が左へ大きく展開。福村からPA内に構える途中出場の松橋優安へパス。クロスに対して愛媛DFのクリアミスにPA内まで攻めあがっていた理仁の前にボールが転がり落ち着いて得点を決めて3点差。
 プロ3年目を迎えた理仁。昨季はパフォーマンス低下もあり使われ方も曖昧になり悔しい思いをした。この日は本来のポジションである中盤底で起用されて、試合立ち上がりから球際の激しさや献身的な動きで今季にかける強い意気込みが感じ取れた。幸先よく得点を挙げたことで良いシーズンになることを期待したい。

 右ワイドで先発起用された17歳真拓は途中から中央へ移動してフリーマン、フロントボランチをこなす。158cmと小柄ながらも芯の強さを感じさせるフィジカルでボールコントロールしていきフル出場を果たす。
 79分には優平に代わって中学3年生15歳橋本陸斗が投入される。J2史上最年少出場記録が更新された。右サイドアタッカーに入るとスピードとドリブルを生かした仕掛けで存在感を示す。惜しくもゴールは奪えなかったものの期待感が持てるプレーぶりであった。
  試合最終盤には10年ぶりに復帰した富澤清太郎がCBで守備固め投入して完封シャットアウト。3-0で見事に開幕戦を白星で飾った。

まとめ

 試合終了時のピッチには10代と30代の選手たちという両極端な構図になっていた。怪我人続出でベストメンバーが組めない苦しい事情であったが、若い選手たちの可能性に賭けた永井監督の大胆な選手起用が見事的中して勝利必須の開幕戦を制した。
 試合後の選手たちのコメントで「バージョンアップ」というフレーズがあったようにビルドアップ時の動きには昨季からの成長、プラスアルファをしっかりと仕込んでいた印象がある。ゴール前のフィニッシュも3トップが近い位置を取ることでPA内に侵入する選手が多くこぼれ球を押し込む3点目も生まれた。
 新加入の加藤は最終ラインでの守備やビルドアップはもちろん、素早い出足からボールカットと期待に十二分に応えるパフォーマンスを魅せてサポーターの心を鷲摑みにした。今後の活躍も大いに楽しみである。
 内容は完璧というわけでは無かったが選手個人個人の頑張りが目立った良い試合になった。