AkiraMatsuura

Professor of Biology, Chiba University

AkiraMatsuura

Professor of Biology, Chiba University

最近の記事

学部1年生の学生実習にて

「研究室で研究を始めると、顕微鏡観察像を自分でスケッチする機会は今やほぼないでしょう。研究室の顕微鏡には良いカメラがついていて、それで写真を撮れば大概のことは済みます。それに、ちょっとネットで調べれば、写真が出てきますよね。楽をしようと思ったらそれで済むかもしれない、それが正しいかどうかは注意が必要ですが」 「でも、ちょっと考えてみて。君たちが携帯で写真を撮る時は普通、こういうものを撮りたいという対象(イメージ)があって、それを記録に残そうとしているはずです。つまり、写真と

    • 誰が分離の法則を間違えたか?(その3)

      メンデルの分離の法則と名付けたのは誰か?  さて、(1)「雑種第1代の自家交配の子孫では、優性形質と劣性形質が3:1の割合で分離する」は誤解で、(2)「1対の対立遺伝子は配偶子(花粉や卵)に1つずつ別々に分離して入る」が正しい分離の法則だというのが現在の趨勢ですが、その根拠はどこにあるのでしょうか?Kさんからのメールにもありましたし、実際にメンデルの論文を読んでみて確認できたことは、この論文には遺伝の3法則につながるモデルはすべて(完璧に!)書かれているものの、彼はそれぞれを

      • 誰が分離の法則を間違えたか?(その2)

        Kさんや私が習った教科書には、今のものとは違う記述がされていたのだろうか?  ここまで来て、かつての教科書の分離の法則に関する記述が今とは違うのかを確認しないと終われない感じになりました。古い教科書を手に入れようと、まずは小学校以降一度も引越しをしていないカミさんの実家に聞いてみましたがさすがにもうなく、次に学科卒業生の高校教員Tさんに聞いてみましたが、90年代後半に生物準備室の引越しがあった際に古い教科書は処分されてしまったし、そもそもうちの高校ができたの80年代ですよ、と

        • 誰が分離の法則を間違えたか?(その1)

          遺伝の法則(分離の法則)には2タイプある10月某日、研究室の先輩Kさんからのメール。 『今期から新たに受け持った講義で、今日遺伝の基礎を話しました。メンデルの法則を説明しながら不安になり、分離の法則を改めて調べたら、2パターンの記述があることを見つけました。君はどちらで教えていますか?』 私『Kさんすみません、私当時は分子遺伝学者を名乗っていましたが、今の肩書きは分子細胞生物学者でして、大学で遺伝を教えた経験がないのです...』 Kさん『そうですか、2つのパターンとは (

        学部1年生の学生実習にて

          思っていた以上にオワコンだった~論文引用からみた分子細胞生物学系雑誌の衰退

           私が所属する大学院コースは博士の学位取得にフルペーパーが査読誌に受理されていることが必須条件のため、博士課程の学生が学位取得に必要な論文を投稿する際に、難しい雑誌にチャレンジするか、少し格は落ちるけれど早い受理が叶いそうな雑誌にするか、の二者択一を迫られます。博士課程修了を目指す学生の論文投稿先を検討していた時期に、雑誌の「格」を示す(とされてきた)論文あたりの被引用件数を基にした数値(impact factor, IF)を見ていて違和感があり、現在の状況を調べてみることに

          思っていた以上にオワコンだった~論文引用からみた分子細胞生物学系雑誌の衰退

          辛き楽しき入試監督〜待機時間はトークタイム

           入試シーズンもほぼ終了、今年から各大学が試験後に正解や出題意図を公表せねばならないということになってしまい、例年になくピリピリしたムードである。ところで、試験監督をしているうだつの上がらない人々の本職は何だかご存知だろうか?彼らは入試の裏方であり、決して目立ってはいけない。受験生が普段の実力を発揮できるよう、あれこれ気を配っている(はずの)彼らは、大学の事務職員ではなく、普段は研究(と教育)をしている大学教員なのである(そうでない大学もあるかもしれないが、少なくとも各試験室

          辛き楽しき入試監督〜待機時間はトークタイム

          出芽酵母的生き方と分裂酵母的生き方〜老化があるからこそできる覚悟?

           最近大学院生向けに、「死の瞬間の生物学」というテーマで講義した。ライブイメージング技術の発展とマイクロ流体デバイスの開発により、細胞を低侵襲の状態で長期間観察することが可能になり、寿命を全うした生物の死の瞬間になにがおきているかが記録されるようになっている。繊毛虫のBlepharismaの観察から、分裂能を失った単細胞生物が、破裂しながら死に行く様が観察されている(Instagram)。死ぬ過程の細胞の内部に注目してみると、細胞内構造がぐちゃぐちゃに破壊されていく過程がみら

          出芽酵母的生き方と分裂酵母的生き方〜老化があるからこそできる覚悟?

          実験レポートの書き方に関するメモ  (2019/2)

          学科1年生対象の「生物学実験」の際に配布した資料から。 ・緒言:実験レポート=模範解答のない試験 いわゆるペーパーテストには、出題者が正しいと考える解答が必ずある。したがって、講義単位を得るための試験を乗り切る確実な方法は、講師が語った(あるいは書いた)内容をすべて暗記し、それを答案用紙にそのまま書き写すということであろう。  実験レポートにも、出題者が書いて欲しいと考える内容はもちろんある。ただ、その内容とは、書物やインターネットから見つけた内容(人が書いた文章)を書き写

          実験レポートの書き方に関するメモ  (2019/2)