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非営利組織のファンドレイジング

古い友人が、最近はNPOに力を入れていると聞いた。「収益を上げる方法を教えてほしい」とも。
そんなもの私だって知りたいくらいだが、少し考えてみた。結論から言えば、決定打もオチもない。ただ地味にやるだけである。


●会費収入

誰でも考えることだが、数万人規模を擁する何かのファンクラブとか相当の献身を求めてくる宗教団体でもない限り、そんなに収入が見込めるものではない。会員とは応援団的な存在だと思っていた方が気が楽である。

●物品販売

これも定番。食品だろうと縫製品だろうと原価はかかるし在庫管理(食品なら消費期限が)は必要なので、本業の活動に支障が出ると本末転倒である。ただし、物品づくりそのものが組織活動の一環(社会参加とか訓練とか)になっているなら、それは立派な本業。社会就労センター(昔で言う授産施設)はその典型。

ついでに言うと、販売ものがある活動では簿記の知識が必須である。消費税の取り扱いについて、課税(8%? 10%?)収入と課税(同)支出、非課税、不課税などが分かってないと、決算期にえらいことになる。

●イベント参加費収入

何かのイベントを開催した際に、人件費や事務費として一定額を予め予算の中に組み込んでおいて、本体運営に充てる、ないしはイベントの収支差額を本体に充てる。チャリティバザーとかコンサートとかの仕組みはこれ。企画が当たればそれなりの収益が得られるが、企画自体が目的化したり、企画をやらないと(つまり泳ぎ続けないと)死んでしまう回遊魚のような財務構造にするのはお奨めできない。

●寄付収入

定期的な寄付の呼びかけは、人的・時間的な体力があれば組織団体の活動(実績)報告とともに続けた方がいい。

安定しないが、一度に大口が期待できるのも寄付である。公益法人(学校法人、社会福祉法人、公益一般社団/財団法人、認定NPO法人)であれば、寄付する側にも所得税法上の税制優遇を受けられる。…認定NPO法人になるためのハードルが高いことは置いとくとして。

寄付のパターンとしては、「遺贈」もある。これとて、遺贈者が生前のうちから組織団体の活動に共感していることが前提だろうし、さらに遺言書に明記するなどの手続きの面倒さはあるが。

ちなみに、日本における寄付金を集める力が大きいのは、順不同で日本赤十字社、中央共同募金(赤い羽根)、日本ユニセフ協会の3つ。とりわけユニセフはCM含めてアピール力が上手なんだよなぁ。

●広告収入

組織団体の会報誌に広告を掲載してもらうなどは、まあ印刷代の足しになる程度で、それ以外には、組織団体のサイトにバナー広告を掲示しておいて、閲覧者にクリックされて飛んだ先の商品購入が発生すると収入があるというアフィリエイト広告が、営利非営利問わずネット上には数多く展開されている。よほど閲覧数の多いサイトでないと具体的な収入は期待薄だが、無いよりはいいかもしれない。ただし組織団体とは全く関係のない広告が勝手に表示される場合もあるので、そこは注意が必要。

●書き損じハガキの収集と販売

非常に地味だが昔から行われている方法。書き損じハガキ(正月前後に発生することが多い)を集めて、郵便局で手数料を支払ってまっさらのハガキと交換してもらい、それを正規の金額で協力企業等に販売し、手数料との差額分が収入となる。

●固定収入

これは寄付収入に近いのだが、たとえば組織団体の構成員がコインパークを所有していたとして、その収益を組織団体の収入に充てられるように仕組みを整備してしまう。NPOに名前貸しをした脱税と受け止められないよう、コインパーク自体を組織団体の資産にしてしまえばいいのだが、そこまで入れ込んでくれる構成員がいたらいいな、と。

●クラウドファンディング

寄付に伴う事務手続きをこなし切れない場合は、外に出してしまう手もある。やりたい事業を打ち出してネットで寄付や参加を募ってくれるサービスを利用する方法。企画会社に集めたお金の数パーセント(会社によって料率は異なる)を手数料として支払うことになるので、手間をお金で買うことを厭わなければアリ。宣伝に力をいれてくれる企画会社だと開始までの審査が厳しいこともある。目標額達成で事業がGOなのか、達成度に関わらず事業に充当するのかの違いもよく考えておきたい。

●助成金/補助金収入

女性支援のNPOへのバッシングで妙に注目されてしまったが、公的な資金を得て事業を行う方法。県なり国なりが例えば何らかの相談事業の実施要綱をつくり、補助事業として(補助だから通常は事業主体の自己負担がある)事業主体を募る。応募して審査に通れば事業の実施に合わせて資金が得られる。ある意味伝統的な手法であり、多くの福祉関係団体がこの方法で資金を得ている。なお、補助事業は原則として単年度会計で、会計報告もあるし、余ったら返金しなくてはならない。

助成金は、「厚生労働省が補助金で経済産業省が助成金で」という説明をしているサイトもあって、そのあたりの違いは私にはよく分からない。一方、民間の助成団体がそこそこあり、助成事業の趣旨に合う取り組みであれば、そこから支援を得る方法もある。助成団体の求めに応じた説明や開示は必要になるのは官民変わらない。財団として規模が大きいのは日本財団。まあ、好き嫌いはあるとしても。よく知られている一つが日本テレビの24時間テレビ。あれも賛否はあるが。

難しいことのひとつは、1度きりの物品購入等にはお金は出やすいが継続的な費用(例えば人件費)には助成は出しにくい。安定的な運営に必要なお金の一つは人件費なのだが、助成団体にしたってそこまで継続的な責任は持てないし、必然お金も出しにくい。

●委託金収入

公的なお金が入るという意味では補助金に近いが、違いは、事業の運営主体が県や国などにある(実施主体を委託を受けた民間側が請け負う)こと。まあ、公的機関がやりたい事業の下請けですね。ここには事務費という名目で人件費が確保できる場合もある! ただしここにはひとつ落とし穴(?)が。人件費として設定される費目は、発注元の官庁からの出向受け入れを意味する場合もある。単に天下りだと非難するつもりはない。人的な基盤が弱い組織団体においては、事務手続き上の諸事に長けていて、場合によっては情報も先取りしてくれる官庁OBOGの存在は、組織を安定させるうえで貴重な人的資源になったりもする。ただまあ、役所と角突き合わせて闘う性格の組織にはなりにくくなる。それと最近は官庁も財政的に厳しいので、新たな委託金事業なんてそうそう発生しないという状況でもある。

とまあ、ダラダラと書いてしまったが、お金を稼ぐのは簡単じゃないですよ・・。

出典:荒川弘『銀の匙』8巻81頁 2013年 小学館