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「魂魄は碧海に眠る」駄作MS Mk.Ⅴ mod2 ゴボ実戦投入戦記

0.MSM-05 ゴボ開発計画

 前回のゴボ開発計画と開発に至るまでの経緯についてはここにまとめてあります。

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MSM-05 ゴボ試作1号機

1.地球降下

「こちら第58特設輸送船団護衛艦ゲルゼンキルヒェン、輸送艦フィラッハへ。予定通り降下ポイントに到着。降下任務開始されたし。送れ。」
「こちら輸送船フィラッハ、予定通り降下作戦を開始する。ここまでの護衛に感謝する。送れ。」
 宇宙世紀0079年9月5日。アフリカ東部キリマンジャロ上空の低軌道にジオン公国軍突撃機動軍麾下のムサイ級軽巡洋艦ゲルゼンキルヒェン、そしてパプア級輸送艦フィラッハの2隻が展開していた。
「フォークト技師殿、降下開始まであと5分だ。準備して神にでも祈ってな。」
 輸送艦フィラッハ艦長からの艦内通信が入る。
「あいにく私は神というものを信じていないのでね。私はこのHLVを信じています。」
「そらめでたい話だな。でも一つ注意をしておくが、初めて地球降下する人間はたいがい重力でミックスされて吐いちまうのさ。だからせいぜい吐かないことを祈っといたほうがいいと思うぜ。」
「ご忠告、感謝いたします。」
「とにかく、最終チェックと安全ベルトの装着を忘れないようにな。」
 ブルーノ・フォークトという男はスウィネン社の技術者であり、モビルスーツ開発に携わっている人間だった。そんな彼が今地球に降下しようとしているのはスウィネン社新型モビルスーツ、MSM-05「ゴボ」の実戦運用テストを地球にて行うことになったからである。彼はまだ28歳と比較的若いがゴボの開発計画やアッガイの開発計画に参加しモビルスーツの技術を蓄積していた。そんな彼であれば地球に降下しても確実に任務を果たし、そして必ずやゴボの実用化を前進させてくれるとスウィネン社は信じていたのである。
 しかしフォークトの見方は違った。今まで前線で最新鋭モビルスーツの開発に携わってきた自分がこうして地球に降下させられるのは左遷にも近いと感じており、屈辱だとも感じていた。一方で、自分が開発に関わったゴボを実用化させるためにはこの任務を果たさねばならない。故に彼はさっさとこんな任務を終えて帰ってやると誓っていた。そして彼は今、5機のゴボとともに地球に降下せんとしていたのだ。
「降下まであと30秒だ。吐きたくなったら機体の外で頼みますぜ。」
 艦長が軽口を叩いている間にHLVは地球への降下シークエンスを開始した。眼下に広がる青い星、地球を前にフォークトは緊張を抑えられずにいた。サイド3生まれの彼にとって地球は生まれて初めての経験である。教科書でみた通りの姿である地球に感動を覚えていると、少し機体に振動を感じた。その直後、HLVはフィラッハから切り離され、地球への降下を開始した。あとは全て自動操縦で勝手に目的地に着いてくれるという楽なものだが、当然快適とは行かなかった。例に漏れず彼は地球降下中に自分がカクテルにされるという初めての体験を味わい、そして当然吐いた。

 遡ること8ヶ月の宇宙世紀0079年1月、地球から最も離れたコロニーであるサイド3が地球連邦に対し宣戦を布告して以来、戦争は苛烈さを増していくようだった。地球人口の半分を開戦からわずか3ヶ月で失ってもなお、戦火は消えることを知らなかった。
 宇宙世紀0079年3月1日、ついにジオン公国軍総司令部は地球への降下作戦を発動した。これを機に地球の重要拠点各地にジオン軍は侵攻、開戦以来猛攻を続けた。バイコヌール宇宙基地を抑えたジオン地球方面軍欧州師団はその足で資源地帯オデッサを占領、欧州の解放は目前に迫っていた。
 特にノイエン・ビッター少将麾下のモビルスーツ部隊は欧州電撃戦を敢行、圧倒的な速度で進軍し7月半ばには地球連邦欧州方面軍壊滅、残存部隊はフランス北部、シェルブール周辺に残るのみとなっていた。7月25日、地球連邦欧州方面軍はジオンへの反抗作戦「オルタネーター作戦」を実行。しかしこの反抗作戦は「ホワイト・オーガー」ことエルマー・スネル大尉の活躍により全滅という結果に終わり、地球連邦の欧州拠点はベルファストを残すのみとなった。
 宇宙世紀0079年8月1日、ジオン軍総司令部は欧州最後の拠点であるベルファスト攻略に向けての算段を立て始め、まず第一段階としてUnternehmen Pelzrobbe、「オットセイ作戦」を発動した。大西洋封鎖作戦であるこの作戦は欧州大陸にわずかに残る連邦軍を支援する一大拠点であるベルファストには独立して生存する力はなく、ジャブローからの海上輸送に頼っていたことを考えれば、海上封鎖によってベルファストへの補給路を断つことができ、干上がるだろうという目論見であった。

 9月5日にキリマンジャロ基地に降下したフォークトは基地司令ルドルフ・ヴァイトリング准将に対し着任挨拶をすることとなった。
「フォークト技師殿、わざわざこの暗黒大陸まで来ていただきありがとうございます。」
「こちらこそ、わざわざ受け入れていただきありがとうございます。しばらくの間、よろしくお願いします。」
「キリマンジャロは資源が豊富だし、敵になる地球連邦軍もいないのだ。本当ならゆっくりしていってもらいたいところだが......。」
「こちらの戦況はいかがですか?」
「まあ、連邦もロクな抵抗はせずに撤退撤退で戦い甲斐の無さと言ったらありゃしないね。連邦の残存勢力は喜望峰周辺と北アフリカの地中海沿岸ってとこだな。じきにアフリカも制圧できるだろうさ。」
「それは心強いことですな。」
 キリマンジャロ基地は豊富な資源と資金によってよく整備されていることはわかる。しかし戦線の膠着は明らかだった。アフリカ戦線が前進前進で景気が良かったのは開戦劈頭のことであり、9月にもなって未だに戦況が変化していないということはつまり手詰まりということである。彼の口調は景気がいいが、半年前と変わらない戦況を聞かされると現地の厳しさがよくわかる。実際前線部隊までの補給事情が逼迫しているということは基地の様子を見れば推して知るべしというところであった。
 ふと流れていたラジオに耳を傾けると、ジオン国営放送のニュースが流れていた。
「ジオン公国海兵隊発表!!本日ジオン公国海兵隊第三潜水艦隊は、地球連邦軍輸送船団を全滅させたと発表した!!」
 威勢のいい内容から伝わってくるのは潜水艦隊の通商破壊作戦の戦果発表であった。ベルファスト攻略に向けて目下作戦中であり、そしてフォークトもこの作戦を支援するためにわざわざこの灼熱のアフリカまで降下してきたのである。
「この第三潜水艦隊ってのはよく耳にしますが......?」
「知らんのか、君が派遣される予定の艦隊だぞ第三潜水艦隊ってのは。」
 基地司令は驚いたような顔でこちらを見ていた。
「すいません、私はただキリマンジャロ基地に降下してモビルスーツの開発支援をしろと言われただけでして......。」
「そうか、知らねえなら教えてやろう。第三潜水艦隊ってのは、突撃機動軍麾下、海兵隊潜水艦隊群に所属する艦隊で、指揮官はカール・ゲオルグ・フォン・ペリエール少将だ。」
「フォンということは、貴族ですか。」
「奴はジオン軍の中でも珍しい、地球生まれの将軍だ。連邦海軍の元軍人で10年前にサイド3に移住して軍に入隊したらしい。」
「それで貴族扱いですか......。」
「奴は地球連邦海軍ですでに少佐だったのさ。優秀な人間がわざわざやってきてくれたんだ、貴族待遇でもしてやらにゃいかん。」
「でも彼はなぜジオンに......??」
「それがわからないのさ。奴がなぜ連邦を捨ててジオンに来たのか、その理由は誰も知らねえんだ。」
 続いて軍の放送は彼らを詳しく紹介していた。
「第三潜水艦隊指揮官はジオン海兵隊随一の名将であり『大西洋の狼』ことペリエール少将である!!彼の指揮下には『一撃必殺のアルフレート』『沈黙のハインリヒ』『大胆不敵のギュンター』『狡猾のスリジャヤ』の四人の名艦長がいる!!彼らは2週間で3万トンの輸送船を撃沈!!ベルファスト攻略は間近だ!!」
 膠着状態の戦場において彼らの活躍は数少ない勝利のニュースなのである。だからこそ、連日彼らの活躍は報道されている。というより、彼らの活躍しか報道することがないのである。
「そういえば4人の艦長がいるようですが......。」
「君が配属されるのはU-952、スリジャヤ・ワルダナ・プラコッテ少佐の艦だ。正直な話をすると、第三潜水艦隊の中で一番御し難いタイプの艦長だな。」
「そうですか......。」
 「狡猾のスリジャヤ」と呼ばれる艦長の彼について、フォークトは何もまだ知らなかったのである。

2.それぞれの戦い

 宇宙世紀0079年8月15日、潜水艦U-952は第三潜水艦隊を離れ、新型モビルスーツ及びパイロットを受領するためアフリカ東岸のタンガに寄港するよう命令が下された。
「なんだって、うちの自慢のパイロットと機体をU-35とU-139なんかに渡さねばいかんのかねえ。」
 プラコッテ艦長はメガネの位置を直しながらぼやいていた。U-35艦長であるアルフレート・クレッチマー少佐は34歳でプラコッテよりも一歳若いが、海兵学校では6期で同期でありプラコッテとの関係は悪くなかった。一方でU-139艦長のハインリヒ・フリーデブルク少佐は31歳と若く、海兵11期の後輩にもかかわらず大きな戦果を挙げ早くも少佐になっていた。そんなフリーデブルクに負けまいと必死だったのだ。
「しかも、受取港はタンガと来やがった。いつものダカールならねえ......。」
 艦長はぼやきが止まりそうにない。
「大西洋から喜望峰回りでタンガまで、20日ですか......。到着予定は最速で9月3日ですな......。」
 航海長アビジャン・フラン大尉も頭を悩ませていた。アフリカ北部における地球連邦軍の抵抗は地中海の制海権を脅かしており、特にジブラルタル海峡とスエズ運河を確保することができていない以上タンガへの最短ルートを選択することは彼らにはできなかったのだ。
「20日もあれば輸送船団の一つや二つは見つかるだろうにねえ......ここまで時間をかけて受け取りに行く価値があるのか......。その間にフリーデブルクが戦果でも挙げようものなら、俺は司令部を永遠に恨むだろうね。」
「しかし艦長、これは海兵隊より上、総司令部からの命令ときていますから従うほかありません。この命令は絶対です。それに、当初の予定よりも早く寄港できますから、物資の補給はできます。」
 この艦の専任将校であり水雷長を務めているソマリ・ハルゲイサ大尉は艦長を宥めようと必死だった。もっと長い作戦期間を切り上げて1ヶ月足らずで寄港し物資、特に生鮮食料の補給と乗員のリフレッシュができるというのは潜水艦においては重要な要素であった。
「そんなことはわかってるんだよ副長。ただあくまでこれは私の感想だ。」
 こうして、U-952はアフリカ東海岸への航海を始めた。航海を遮る敵はなく、9月7日にタンガ港に入港し、乗員の休養と補給に努めた。

 9月9日、搭乗機受領と着任挨拶のためフォークトは入港中のU-952へと向かった。ジオンはカリフォルニアベースを占領した際に生産ドックと潜水艦を大量に接収したが、その中でジオン軍が目をつけたのは原子力攻撃型潜水艦Ⅷ型であった。全長170m、排水量9540トンの巨大な船体は核攻撃専用潜水艦であったが、核ミサイル搭載用サイロはモビルスーツの格納スペースに化けた。水上速力は16ノットと低速であったが、水中では水流ジェットエンジンを使った推進により28ノットの高速を得ることができた。何より海に慣れていないジオン軍兵士にとって水上艦艇は酔いの問題が常に付き纏う。しかし潜水艦ならば波と酔いの問題を解決することが可能だったのだ。U-952はユーコン級潜水艦の後期型に位置し、全長190mに延長された船体にモビルスーツ4機と前期型の倍の搭載機数を誇る大型潜水艦であった。その巨体は潜水艦の中の女王というべき存在感であり、そしてUボートブンカーにてその体を休めている彼女は束の間の休息と言ったところだった。
 岸壁から橋を渡り、艦橋に移る。艦内へのハッチは開けられているが、ハッチの厚みは情報漏洩を防ぐため確認できないようになっていた。そして指揮所にプラコッテ少佐らしき人物がいた。細身でメガネをかけた男で、海兵隊によくある軍服をラフに着崩すようなところもなく青い海兵隊戦用のノーマルスーツを着た姿は理知的な男と言った風で、事前に聞いているイメージとは異なっていた。
「プラコッテ少佐、今回はよろしくお願いします。」
「こちらこそよろしく。ところでフォークト技師殿、あの新型モビルスーツとやら、興味深い機体ですなあ。」

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ゴボ試作一号機

 プラコッテ少佐は例のゴボについて、あまり快く思っていないようだった。
「あの機体は水中専用モビルスーツです。つまるところ、小型の潜水艇のような代物です。」
「ご存知かと思うが、我々はこの間まで水陸『両用』モビルスーツのゴッグを装備して戦果を上げていたのだが......。代わりにやってきた兵器が潜水艇とは......。」
 小型潜水艇という例え話は失敗だったな、と思いながらも彼はなんとかしてゴボを実用化し実戦投入するために降下してきたのだからこのゴボをなんとかして認めさせるしかなかった。
「しかし、この機体は小型潜水艇を大きく上回る汎用性と性能を確保しております。運用してみれば分かります。」
「だといいがね。君の協力には期待しているよ。」
 とりあえず着任挨拶を終えU-952を後にした。本来ならばすでにドブラ中尉は着任しているはずだったが、肝心のドブラ小隊を輸送していた輸送艦は低軌道における迎撃を受け降下させられず、予定よりも遅れていた。このまま灼熱のアフリカで待ち続けなければならないことを考えると、彼は地球に降りてきたことを後悔しつつも、潜水艦では貴重な個人専用ベッドを与えられていることを考えればまだ多少マシだと思い込むことにした。

3.ドブラ着任

 同じく9月9日、キリマンジャロ上空にムサイ級軽巡洋艦ロイトリンゲンが展開していた。ドブラ中尉は地球への降下シャトルのなかで一人静かにその時を待っていた。前回はパプア級輸送艦トラウン及び軽巡洋艦2隻による護衛が行われていたものの連邦軍パトロール艦隊に攻撃され降下を諦めざるを得なかった。
「ドブラ中尉、今度こそ確実に地球に送り届けますよ。」
「頼むぞ......地上では同志が待ってるんだからな。」
 前回の降下では地球連邦パトロール艦隊に迎撃され、結局安全のため撤退せざるを得なかった。ジオン勢力下のはずの地球上空低軌道にも連邦艦隊が出没しているという状況はドブラにとっても衝撃的だった。
「命に替えてでもドブラ中尉を地球に送り届けます。お任せください。」
「いざというときはすぐに退避してくれ。命を無駄にする必要はない。」
 地球への降下というのは何度経験しても慣れないものだ。重力の井戸に向かって自分から身を投げるような感覚はなんとも気持ちが悪い。第一次地球降下作戦で初めて地球に降下した時のことは思い出したくもない記憶だ。
 宇宙世紀0074年、ドブラは海兵隊に志願し、海兵士官学校を経て少尉に任官、地球降下作戦に従軍し「第一次降下作戦シールド」を受賞した。その際にあげた戦果により中尉に昇格したものの、それ以後は目立った戦果をあげられず中尉止まりという難しい立場に置かれていた。
 しかし突撃機動軍総司令部に呼び出され、新型モビルスーツ「ゴボ」のテストパイロットに任命された時、彼は使命感と喜びを感じた。初めてゴボに乗った時、彼はこの機体こそが自分の求めていた機体だと確信した。今の軍人人生としてのどん詰まりをゴボならば打開できると彼は思い、ゴボの実戦配備に向けて強くこれを推進した。そして彼はついにゴボの実戦運用テストパイロットとして地球に降下するという重大な任務を拝命したのである。
「中尉、後30秒で降下です。安全ベルトの確認、よろしくお願いします。地球でも頑張ってください。」
「ここまでの護衛に感謝する。そちらこそ、無事にサイド3に帰れよ。」
 ドブラ小隊はこうして9月9日にキリマンジャロ基地に降下、翌日の9月10日にタンガに移動し着任する運びとなった。
 9月10日、ドブラ小隊はキリマンジャロ基地から鉄道で一路タンガへと向かった。旧世紀に開発されたタンザン鉄道はすでに荒廃しており旅客列車の運行は遥か昔に止まっていたため、ドブラ小隊も貨物列車の一両に乗っての移動というとても快適とは言えない状況であった。しかしキリマンジャロで採掘された物資の輸送にはこのタンザン鉄道は重要なライフラインであり、ジオンの命脈の一つと言っても過言ではなかった。
 貨物車の壁にもたれかかり、車両の揺れを軽減するために小麦袋の上にドブラは座っていた。
「中尉殿にもきちんとした座席が与えられないというのは......戦況の厳しさによるものでしょうか?」
 ナイラ・グランデ軍曹はドブラが地球に降下する前から一緒に組んでいるパイロットであり、ドブラにとってはよき理解者でもあった。彼はドブラの前であぐらをかいて昼間からテキーラを飲んでいた。
「いや、この鉄道は昔から貨物輸送しかやってなかったらしいからな、いくら軍人といえども特別待遇をする余地がないんだろう。」
 ドブラはそう答えたが、しかし実際には航空機や自動車を手配しなかった基地司令に対しなんともいえない感情を抱いていた。ドブラは地球降下してからロクな戦果も上げていない上、そもそも海兵隊というのはジオン軍の中では微妙な立場の軍隊なのである。だから軍属であるフォークトには飛行機を用意しても海兵隊のドブラには用意されない、そういう縄張り争いの要素が非常に強いのだ。
「ドブラ中尉も一杯やりませんか?」
 グランデ軍曹のありがたい気遣いだったが、これから潜水艦に着任し挨拶しなければならない上、我々の遅刻によって出撃日が伸びていることを考えれば酒を飲んでいられる状況ではなく、ドブラは断った。
「こんな乗り心地では、おちおち寝ることもできませんよ。」
 一人の兵士が貨物車のドアを開け、車両の外に足を投げ出して涼んでいるが、彼はクワチャ・カンタガロ一等兵である。彼は今回の作戦から初めてドブラ小隊に召集したモビルスーツパイロットである。彼はまだ19歳と若く、実戦経験もほとんどない。若く、血気盛んな兵士だが実戦経験の少なさがドブラには気がかりだった。
「私は、早く出撃したいです。」
 座っているカンタガロ一等兵の横で立って風を浴びているのはロバタ兵長である。彼は22歳でドブラ小隊の所属歴も長いが、あまり多くを語らない性格でドブラも彼の素性についてはよく知らなかった。ただ彼がいつも戦果を上げることに拘っていることはドブラにも気がかりな点ではあった。

「......中尉!!ドブラ中尉!!」
 移動の疲れと車両の揺れで気づけばドブラは車両の中で眠りに落ち、気づけばタンガでグランデ軍曹に起こされて目が覚めた。
「どうした?」
「タンガに着きましたよ。」
「そうか、ありがとう。」
 タンガは旧世紀の1880年代にドイツ人が植民して以来長らくヨーロッパ諸国の植民地として栄え、特にタンザニアの交通の要衝の一つとして首都ダルエスサラームと結ばれていた、タンザニア北部の一大都市である。アフリカは地球連邦をよく思わない人間が多くジオンの占領統治に対しても早期に賛同を示してはいたものの、戦争の長期化で厭戦気分も感じられる。
 タンガ港に建設されたUボートブンカーは馬鹿デカいコンクリートの塊で、この中で潜水艦の整備と補給を行う巨大な建造物である。分厚いコンクリートは敵の爆撃にも耐えうる構造で、潜水艦の巨大化によりそれは旧世紀のものよりも圧倒的に肥大化していた。

 U-952にドブラ小隊が移乗し、艦橋に入るとU-952の士官たちが揃っていた。
「ドブラ中尉です。着任が遅れて申し訳ありませんでした。これから先お世話になると思いますが、よろしくお願いします。」
「そうか、君がドブラ中尉か。君のおかげで良い休暇を取ることができたよ。」
 プラコッテ少佐の口振りは嫌味たらしさを煮詰めて固めたような様子だった。海兵隊らしくない理知的な見た目から溢れ出る負のオーラにドブラは気圧されていた。
「突入シャトルの輸送部隊が襲撃されまして。」
「その報告は聞いているよ。敵に襲撃されたならしょうがないねえ。」
 同情を示すふりをしながらもその言葉の端端には嫌味がこびりついている。この艦長はやりづらいとドブラは感じた。
「ところで、ドブラ中尉は地上に降りてからの戦果がなかなか上がっていないようだが?」
「だからこそ、今回は成功させなければならんのです。任せてください。」
「君には期待しているよ、ドブラ中尉。」
 プラコッテ少佐からの言葉と期待は重いもので、この艦長に認められるためには早く戦果を上げねばならないという重責を感じた。
「ところであの機体、ゴボとか言ったかな......あれは本当に使えるものなのかね?」
「もちろんです。あの機体は必ずやこの祖国の独立戦争において必要な兵器です。私を信じてください。」
 ドブラは何よりゴボの性能を理解していたし、その価値を最も評価している人間だった。
「まあそれはともかく副長、本日1800時に作戦海域に向けて出撃だ。全艦に通達。」
 艦長は早く出航したいらしく、副長に対して指示を下命した。
「本日1800時作戦海域に向け出撃。ヨーソロー。」
 ハルゲイサ副長は命令を復唱した。
「通信長、第三潜水艦隊旗艦U-35に対し『モビルスーツ受領成功。本日1800時に出撃』の旨打電せよ。」
「『モビルスーツ受領、本日1800時出撃』の旨打電。ヨーソロー。」
 通信長カンバラ大尉も通信室へと向かった。艦内放送で1800時出撃の旨が伝えられ、一気に艦内が騒がしくなる。
「航海長は作戦海域に向け最短航路を計算せよ。最大戦速で突っ走るぞ。」
「作戦海域への最短経路を最大戦速、ヨーソロ。」
 航海長フラン大尉もこれを承服した。
「ドブラ中尉、艦内を案内します。」
 副長のハルゲイサ大尉が案内を買って出た。潜水艦というのは軍艦の中でも特殊な船で、そもそも士官であろうと個人用の部屋などなく、艦内における上下関係も緩やかで一種の家族的な関係性がある。ベッドの数も少ないためただの兵士ともなればベッドは複数人で共有し交代しながら使うことが普通、という他の軍艦では絶対にありえない環境もそう言った関係性だからこそ成り立っているのである。そしてその空気感、その関係性に外様の人間が入るのは当然ながら難しいのである。
「ドブラ中尉ですか!?」
 モビルスーツ格納庫を案内されていると突然背後から声をかけられた。軍艦の中にいるにもかかわらずノーマルスーツを着用していないことから軍人ではないことがわかったものの、彼が誰なのかわからなかった。
「私はスウィネン社でモビルスーツの開発をしております、ブルーノ・フォークトと言います。」
「そうか、君が今回機体の面倒を見てくれる技師殿か。わざわざ地球までご苦労さんなことだ。」
「社の命令ですから、仕方ないです。それにこの機体を私は信じてますから。」
「ついでに愛機を見せてもらうことはできるかな?」
「大丈夫です。モビルスーツサイロにどうぞ。」
 二重の水密扉を開けると直径10mほどの大きな縦穴にゴボがいた。本来ならばモビルスーツは自立能力があるため立たせるが、ゴボには自立能力がないため何本もの支柱によって支えられている。モビルスーツが出撃する際にはこのサイロに注水が行われ、上部のハッチが開いて出撃が可能な状態となる。
「ちゃんと1号機を緑色に保っておいてくれたんだな、感謝するよ。」

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 ドブラが搭乗するゴボ試作1号機は当初緑色に塗装されていたが、量産機の色が青に決定したことで青色への塗装変更が計画された。しかしドブラ中尉の一存により機体色は緑のまま維持されることとなった。

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 ドブラ中尉以外が乗るゴボは全機青色の量産機塗装が行われているが、それ以外の変更点はごくごく小さい部分のみにとどまっていて大きな性能の変更などは行われていない。
「やっぱりこの緑色は良い色だ。」
 ドブラ中尉はうっとりと自分の機体を見た。ドブラがモビルスーツに載ってからというものずっと量産型ザクに乗っており、緑色という色に愛着を感じていた。そして何より陸上での運用をしないにもかかわらず緑色という矛盾が彼にはたまらなく魅力的だったのである。

4.U-952出撃

「機関長、両舷前進最微速」
「両舷前進最微速。ヨーソロー。」
 1800時、出航準備を完了したU-952はやっと出航することとなり、タンガ港を後にした。出航するU-952を見送る為にやってきた人間はそう多くなく、静かな出航となった。
 潜水艦の指揮を執るCIC(戦闘指揮所)は出航と同時に本来の仕事が始まり、忙しくなり始める。
「合戦準備!」
 艦長が命令する。潜水艦における合戦準備とは、すなわち潜航に向けての準備をせよとの意味である。ユーコン級潜水艦は水中での速度の方が速い為潜航していた方が早く目的地に到着できるのである。
「艦橋へ、こちら発令所。深さ50mへ潜航せよ」
 CICでの艦長からの命令が艦橋へと伝えられる。
「潜航警報!!」
 潜航警報が出され、同時に艦内にけたたましいブザーが二度鳴り響いた。艦橋上部デッキで見張りをしていた監視員たちが次々とラッタルを滑り降りて艦橋へと降りてくる。
「ハッチ閉鎖を確認せよ。」
「ハッチ閉鎖確認!!ヨーソロ!!」
 ハッチの閉鎖が確認されると潜航に向けての準備は完了である。
「潜航開始。」
「潜航開始!!」
「メーンベント開け。」
「メーンベント開け!!」
 ベント弁が開かれると潜水艦の艦内バラストタンクに注水が行われ、艦内に滝のような音が響いて潜水艦は浮力を失って水中へと潜航していく。
「深さ50m。針路ヒトハチマル、トリムよし。ヨーソロー。」
 操舵員からの報告が上がる。つまり、深度50m、針路180度、水中でのバランスよし、という意味である。
「ヨーソロー。」
 この報告を受け艦長はそれを確認する。
「機関最大戦速。」
 艦長はついで機関長に速力を増すよう下命する。
「機関最大戦速、ヨーソロー。」
 この命令を受け機関長が機関室に最大戦速を出すようエンジンオーダーテレグラフを使って発令、機関室のエンジンオーダーテレグラフのベルが鳴り、最大戦速を出すよう機関室へ指示が下りる。これを機関兵曹長クワンザ・ディルハムが確認し、機関を最大出力まで上げるのである。ユーコン級の最大戦速は28ノット、時速52km/hである。最大戦速よりも上に前進一杯があり、30ノットを出すことも可能であるが機関に大きな負担がかかる為実際にはほとんど使われることはない。

「艦長、なぜアデン湾スエズ運河ジブラルタル経由の航路を選択しないんです?その方が距離が近いのでは?」
 出航したその日の夕食においてドブラ中尉は艦長への疑問をぶつけた。潜水艦には食堂などなく、士官室が士官用食堂の代わりに使われている。
「残念ながらその航路は制海権の問題で選択するのが困難でね。単艦でスエズ運河とジブラルタルを突破するのは非常に難しいのだ。」
 艦長はめんどくさそうに答える。
「ジオン地上軍が勢力下だと言い張ってるところも実際に隅から隅まで抑えてるかと言われるとそうでもないのさ。アフリカなんてだだっ広い大陸は特にね。」
 航海長フラン大尉が艦長の言葉の補足をする。
「喜望峰周りで何日ぐらいかかりますかね?」
 ドブラには早く戦場に行きたいという焦りがあった。こんな場所でだらだらと時間を潰していられるような余裕は彼にはなかったのだ。
「タンガまで行きにかかった時間は24日だが、最大戦速でかっ飛ばしてるしもうちょっとマシになるな。多分20日ぐらいだろう。」
 不可抗力で遅れたとは言え、自分たちを乗せるために20日以上もの間航海をした上、タンガでも待っていてくれた彼らに対しドブラは申し訳なさを感じた。
「艦隊司令からの通信はどうだ?通信長?」
 通信長は艦隊司令からの暗号電文の翻訳に追われ食事ができていなかった。彼に向け艦長が士官室から声をかけた。
「『モビルスーツノ受領ヲ確認。可及的速ヤカニ戦闘海域ニ向カワレタシ。』とのことです。」
 通信長カンバラ大尉が答える。
「『最大戦速で航行中、到着予定日9月30日』と返信しておいてくれ。」
「了解しました。」

 かくしてU-952は元来た道を戻り、大西洋中部への道を辿り始めたのであった。

5.ドブラの苦悩

 9月30日、U-952は大西洋中部、ベルファスト海上封鎖作戦の作戦予定地に到着した。第三潜水艦隊はペリエール少将の指揮の下「ウルフパック」すなわち群狼戦術により通商破壊において大きな戦果を上げていた。これは複数の潜水艦が協力して一つの船団を襲撃することで大きな戦果を上げるというものである。
 ウルフパックを行うにはまずジオン軍偵察機ルッグンからの輸送船団の情報を元に敵輸送船団が通過しそうなポイントでフリーデブルク少佐のU-139が待ち構え、先頭を抑える。その後左右よりクレッチマーのU-35、ケムニッツのU-781が攻撃、背後よりプラコッテのU-952が攻撃し、方位殲滅するというものであった。しかし戦況の悪化により大西洋に回せるルッグンの数は日に日に減少しており、このルッグンの不足をゴボによって補おうというのがペリエール少将の計画であった。

 10月1日、ゴボの実戦運用テストもかねて地球降下後初の運用試験を行うこととなった。ドブラは自分の専用機である緑色のゴボに搭乗、出撃の時間を待っていた。
「ドブラ中尉、機体の起動をお願いします。」
「了解した。メインバッテリーON。」
 ゴボは水がなければ熱核反応炉の冷却ができないという問題があるため機体の起動とメインシステムのチェックをしている間だけ電力を供給するバッテリーが必要であった。機体の起動とチェックが終わり次第サイロに注水され熱核反応炉が起動されるという仕組みである。
「メインバッテリー遮断機ON、主推進器確認、補助推進器確認、通信機確認、流体パルスシステム正常、圧力計問題なし、深度計問題なし、メインソーナー電源ON......」
 いつもこなしていた確認事項を淡々と確認していくが、内心ドブラは不安を感じていた。これがサイド3なら事故が起こっても機体を回収してもらえる可能性は高いが、ここは地球である。もし海中で事故が起これば場合によっては回収されない。事故が起こらないことを願うしかなかった。
「機体の確認終了した。いつでもOKだ。」
「機体の確認終了ヨーソロ。指示を待て。」
 あとはモビルスーツサイロに注水が行われるのを待つのみである。潜水艦は絶妙なバランスで水中を進んでいるため、このモビルスーツサイロというのはバランスにおいて非常に難しい問題であった。モビルスーツ発進のためにサイロに注水すると船体のバランスが崩れるため、それに合わせてトリムタンクから水を排出し常に船体のバランスを保つ必要がある。その上モビルスーツが出撃すればまたバランスが崩れるためそれもまたトリムタンクでバランスをとらねばならない。潜水艦というのは繊細艦なのである。
「モビルスーツサイロ注水開始。」
「モビルスーツサイロ注水開始確認。」
 サイロに滝のような音が響き渡ると機体の足元から水が上がってくる。最初は溺れるんじゃないかという不安な気持ちになるが、ゴボならば安心だ。冷却水吸入ダクトを開けると水がラジエーターへと流れ込む。それと同時に熱核反応炉起動OKのランプが点く。ゴボがお目覚めだ。
「熱核反応炉起動開始。」
「熱核反応炉起動開始ヨーソロ。」
 熱核反応炉が起動するともう出撃可能状態である。あとはもうハッチが開くのをただ待つだけである。
「ドブラ小隊各機、状況を報告せよ。」
「こちらグランデ軍曹、問題ありません。」
「ロバタ兵長、問題ありません。」
「カンタガロ一等兵、問題ありません。」
 地球降下など諸々あって機体の問題が起こるかもしれないと思っていたがとりあえず今のところは問題なしと聞いてドブラとフォークトはほっと胸を撫で下ろした。
「今回のミッションは単純な機体の性能の確認のみです。武装は搭載しておりませんので接敵した場合には即座に退避してください。御武運を。」
「わかっている。そちらこそいざという時は頼むぞ。」
 モビルスーツハッチが開かれ、信号が赤から青へと変わる。出撃OKのサインだ。
「ドブラ、ゴボ、出るぞ!!」
 ドブラはスロットルを全開にしてU-952を出撃した。続いて3機の青いゴボが出撃、ドブラ小隊はここに来て初めてそろい踏みしたのである。
 機体の性能に関しては前々から確認している通り圧倒的な速度と運動性で重力が働いているとは思えない機体だとドブラは感じた。何も問題ない、これこそがゴボなのだ。久々に乗る愛機の喜びにドブラは身を任せることにした。

「フォークト技師殿、あの機体は見かけによらずなかなかできる機体のようですな。」
 ここまで厳しかったプラコッテ少佐の口ぶりが初めて好意的なものであったことにフォークトは喜びを隠せなかった。
「そうです、ゴボは素晴らしい機体です。実戦投入が待ちきれません。」
「期待しているよ、フォークト技師殿。」
 そういって艦長はCICへと戻って行った。

 ゴボの基本的な試験を終え、U-952に接近するとU-952はモビルスーツサイロのハッチを開けて待っていた。
「U-952、そちらの速度は?」
 ドブラが確認する。安全に着艦するためにはこの確認が必須であったのだ。
「こちらU-952、第一戦速で航行中。」
「U-952第一戦速、ヨーソロ。」
 ユーコン級の第一戦速は18ノットである。まずゴボを着艦のため18ノットに減速させ、モビルスーツサイロから出ているガイドビーコンに機体を合わせる。機体の微調整はコクピットの専用ジョイスティックを使う非常に難しいものである。調整が完了するとサイロからアームが伸びて機体をキャッチ、回収する。サイロ内部に収容後支柱が伸びて機体を固定、熱核反応炉の電源が落とされた後にハッチが閉鎖されサイロ内部の水が排出、機体の電源を落として任務終了である。反応炉の電源を落としてからハッチを閉めるのはもし反応炉に問題があった場合、すぐに機体を艦外に放出して事故の拡大を防ぐ必要があるためである。

「フォークト技師殿、機体の調整は完璧と言っていい。ここまでの貢献に感謝するよ。」
 ドブラは率直な感想を述べた。強いて言えば腕のスラスターの調整にまだ多少問題を感じていたが、それは後で報告すれば良いだろう。
「こちらこそドブラ中尉の協力あってのゴボですから、問題点があれば言ってください、すぐに調整します。」

 翌日の10月2日のことであった。
「潜水艦U-35より、『マカバ東方沖約300浬ニオイテ敵輸送船団発見セリ。輸送船10隻、タンカー2隻、駆逐艦4隻ト見ラレル。速力12ノットデ北東方面ヘ向ケ航行中。平均針路030。』とのことです。」
 通信長カンバラ大尉が通信を読み上げる。
「艦隊司令は何と?」
 プラコッテ少佐は艦隊司令からの指示を問うた。
「『U-35ハ敵船団ノ先鋒ヲ抑エツツアリ。U-952ハ輸送船団ヲ後方ヨリ攻撃セヨ。攻撃開始時刻ハ2100時。』とのことですが。」
 カンバラ大尉は続けて通信を読み上げた。
「また殿か、いつも通りだな。第三戦速、深さ30m、針路340、ヨーソロー。」
「第三戦速深さ30m針路340ヨーソロー。」
 操舵員が復唱する。
「メーンタンクちょいブロー。潜横舵5上げ。ヨーソロー。」
「メーンタンクちょいブロー。潜横舵5上げ。ヨーソロー。」
「深さ35mです」
「潜横舵もどーせー。」
「潜横舵もどーせー。」
「とーりかーじ」
「とーりかーじ20度、ヨーソロー。」
「面舵に当て」
「ヨーソロー、おーもかーじ。」
「針路338です。」
「もどーせー」
「もどーせー、舵中央、ヨーソロー。」
「針路340ヨーソロー。」
「針路340ヨーソロー。」
「深さ30mトリムよし針路340ヨーソロー。」
「ヨーソロー。」
 戦闘海域への進路変更を終えたU-952は敵船団の後方を陣取る位置へと急行した。

「水測員、ソーナーの感度どうか?」
 艦長がソナーを担当している水測員に報告を求めた。
「ソーナーに弱い感あり、方位020、輸送船と見られます。」
「よし、目標の敵艦隊だ。深さ20mまで浮上、潜望鏡用意!!」
 艦長が潜望鏡深度までの浮上を命じ、注気が行われバラストタンクが軽くなり、潜水艦は浮上する。
「針路020、ヨーソロー。」
「針路020ヨーソロー。」
「おもーかーじ」
「おもーかーじ15度、ヨーソロー。」
「機関長、第一戦速だ。」
「第一戦速、ヨーソロー。」
「潜望鏡上げ!!」
 艦長が潜望鏡を上げるよう命じると、潜望鏡が起動し艦長は帽子のつばが邪魔にならないよう後ろ向きに被り直すと覗き穴に張り付いた。そこから見えたのは真っ暗な海で、船らしき姿はなかなか見つからない。
「既に友軍艦隊は攻撃を開始しているはずだが......。」
 そう言って艦長は潜望鏡を覗き込んでいる。
「爆発音、二つ!!」
 水測員が叫ぶ。
「見えた、あいつらめおっぱじめよったな......。」
 タンカーが魚雷攻撃をくらったらしく、海面は漏出した油に火がついて明るくなり始めていた。この炎で敵輸送船団の姿がくっきりとわかるようになった。
「ギュンターめ、また浮上してやってやがる。」
 「大胆不敵のギュンター」と言われるU-781艦長ケムニッツ大尉は夜間浮上しての雷撃を好む艦長であった。
「全艦、水雷襲撃用意!!」
 艦長は全艦に向け魚雷攻撃の用意を命じ、艦内が慌ただしくなり始めた。
「敵の駆逐艦が泡食って潜水艦を探してやがる。あいつらをやるぞ。」
 艦長は不敵な笑みを浮かべた。

「全艦水雷戦用意!!全艦水雷戦用意!!」
 艦内に響き渡る放送はドブラにとっては信じられないものであった。敵艦隊が目の前にいるにもかかわらず、なぜモビルスーツ部隊を出撃させないのかが疑問でしかなく、彼はCICへと向かった。
「艦長!!なぜモビルスーツ隊を出さないんです!!」
 ドブラは自分の疑問をぶつけた。
「既に敵の輸送船団は壊滅状態だ。モビルスーツを出す必要などない。それに、敵の追撃がある可能性がある。その時までモビルスーツはとっておくべきだろうと判断した。何か問題かな?」
「我々を出撃させてください!!必ずや戦果を上げて見せます!!」
 ドブラは食い下がるが、艦長はそれをいなした。
「今敵の輸送船団を攻撃するために味方潜水艦が魚雷を撃ちまくっている中に味方モビルスーツが突撃すれば場合によっては誤射がおきてしまうことだってある。今出撃させることは許可できない。」
「クソッ......。」
「それに、君の機体はまだ調整が終わっていないとフォークト技師殿が言っていたが......。」
 前回のテスト時に見つかったスクリューの問題解決にもう少し時間がかかるようだった。ドブラは肩を落としてパイロット待機所へと戻った。
「隊長!出撃はないんですか!?」
 カンタガロ一等兵が詰め寄ってくる。
「残念ながらない。味方潜水艦の誤射を誘発する可能性があるそうだ。」
「そんなの、自分は納得できませんよ!!」
 カンタガロ一等兵は不満を吐き出した。
「これは命令だ。従うしかないんだ。わかったら返事をしろ一等兵。」
 こういう時、グランデ軍曹は非常によくやってくれる男だ。
「了解しました、軍曹。」
「わかったならそれでいいんだ。」
 ゴボのパイロットたちの間には焦りが生まれていた。

「潜望鏡観測を行う!」
「艦長、本当に駆逐艦とやりあうおつもりですか?」
 ハルゲイサ水雷長が改めて聞き直す。駆逐艦は潜水艦キラーであり、本来潜水艦は駆逐艦とやりあうことを避けたいはずである。
「奴らは今うちの他の潜水艦に手一杯でこっちのことは気づいてない。それにこの世には二種類の船しかいない。わかるな?」
「潜水艦と、潜水艦に沈められる船、ですね。」
「そうだ。あいつは潜水艦に沈められる船だ。駆逐艦をやるぞ。」
 潜望鏡を覗くとさらに沈んだ船舶が増えているようで、駆逐艦の一隻は乗員の救助に当たっているようだった。
「ケムニッツの艦がヤバいな、あいつを狙ってる駆逐艦を狙おう。」
 艦長はすぐに潜望鏡を下げる。この闇夜では潜望鏡の反射すらも敵艦に察知されてはならないのである。
「敵艦方位060、距離8000、アングルオンザバウ左130度、速力25ノット。」
 艦長が潜望鏡から導き出した敵艦の方位、距離、進行方向、速力を報告する。
「敵艦方位060距離8000アングルオンザバウ左130度速力25ノット。」
 それを水雷長が復唱、データを入力する。
「魚雷発射管一番から四番まで通常魚雷用意」
 ユーコン級潜水艦の艦首には610mm魚雷発射管が6つある。水上艦艇その他が装備している324mm短魚雷よりも圧倒的に口径が大きいそれはもちろん絶大な破壊力を誇る。外れる可能性も考慮し、4本を叩き込むのである。
「一番から四番まで発射管用意完了!」
「発射管用意完了ヨーソロ!」
 艦首魚雷発射管水雷員からの報告が入る。
「艦長、発射管用意完了です」
 水雷長が艦長に準備完了を報告。
「魚雷発射管注水!!」
「魚雷発射管注水せよ!!」
 この号令とともに魚雷発射管に水が入れられる。これと同時に魚雷の深度調定が行われ、発射準備が整うのである。
「一番から四番まで前扉開け!!」
「一番から四番まで前扉開け!!」
 艦首の魚雷発射管の扉が開き、あとは打ち出すだけである。
「魚雷、発射!!」
「ってーーーー!!」
 水雷長が鍵を回すと高圧空気に押し出され魚雷が発射された。それと同時に水雷長がストップウォッチで時間を数え始める。あとは当たることを祈る時間である。

 連邦海軍JB1193船団の護衛艦、DDG-981ワイズマンでは突然の潜水艦の襲撃に慌てていた。
「左舷で浮上している潜水艦を見つけたというのは事実なのか!?」
 艦長が監視員に問い詰めるが、その潜水艦の姿はもう水上には見られない。この海域は敵の潜水艦隊が出没することからジャブローベルファスト航路は誰もが嫌う航路となっていた。
「艦長、左舷から高速スクリュー音4、魚雷です!!」
「取舵いっぱい!!両舷前進一杯!!」

「艦長、命中時間です。」
 水雷長がストップウォッチを見せる。
「水測員、どうだ?」
「ちょっと待ってください......。」
 しばらくして、水中に爆発音が轟いた。一つ、二つ。二本の魚雷が命中したようだ。
「潜望鏡上げ!!」
 そこから覗いた景色はまさに地獄であった。タンカーから漏れた油で海面は燃え盛り、沈みゆく船から脱出した船員の生存も望み薄だろう。U-952が攻撃した駆逐艦も左舷に大きく傾き始め、沈むのも時間の問題であろうということがここからでもわかる。
「艦長、やりましたね。」
「まあこんなもんだろう、今日は。」
「まだやれますが?」
 水雷長はさらなる戦果を求めているようだった。
「敵が今度はこっちに来るだろうし今日はこんなもんでやめておくべきだろう。駆逐艦をやったのは何より大きな戦果だ。」
 この日の第三潜水艦隊の戦果はタンカー1隻輸送船5隻撃沈、駆逐艦1隻大破という勝利であった。

「隊長、こんなところにいつまでもいては戦果など上げられませんよ!」
 戦闘が終了した後、ドブラはロバタ兵長に詰め寄られていた。
「そうは言っても、この艦の指揮権は艦長にある。艦長の判断に我々は従うしかないんだ。」
 ドブラも確かに焦っていた。地球に降りてから1ヶ月、全く戦果なしで艦内における立場というのは未だに難しい状況だった。
「我々は耐えるしかない。いずれ出番が来るその時に、確実に仕事を果たせるようにな。」
 そこから先、一度輸送船団に遭遇するも護衛艦艇が存在しないことからまたもゴボの出撃機会は与えられず、彼らの実戦投入は先延ばしになり続けていた。その後は潜水艦隊も一向に敵を見つけることができず、さらに1週間が経過した。
 一方で連邦海軍は相次ぐ輸送船団の襲撃に対して手をこまねいていたわけではなく、大西洋にむけて海軍戦力の多くを投入し始めていた。

 10月10日、いつもの哨戒任務をU-952が実行していたときのことだった。
「艦長、U-801から緊急入電です。」
 通信長カンバラ大尉が報告する。
「読み上げろ。」
「『コチラ潜水艦U-801、座標16-73海域ニオイテ敵潜水艦ト思シキ音源ヲ確認。警戒サレタシ。』とのことですが。16-73海域は哨戒範囲に近く、対処しておくべきかもしれません。」
「U-801といえばドライゼの艦か......。艦隊司令に報告して指示を仰ごう。」
 単艦での独断は許されない。あくまで艦隊司令に指示を乞う必要がある。そして艦隊司令からの指示は「敵潜水艦ト思シキ音源ニツイテ偵察シ、必要トアラバ排除セヨ。」とのことであった。
「両舷前進強速、針路220。」
「両舷前進強速針路220。」
 U-952は敵潜水艦らしき反応の元へと変針した。しかし広い海域の中で潜水艦一隻を発見するというのは砂漠で水を見つけるのに等しい困難さである。潜水艦は動き続けており、常に一箇所にとどまるはずもないのである。
「艦長、敵潜水艦の予想される位置は?」
 航海長が尋ねる。
「敵の居場所はおそらくこの海域だ。」
 艦長は海図の一箇所を指す。そこは中米の島嶼部の近くだった。しかしなぜ艦長がその海域を指差すのかが副長にはわからなかった。
「この海域には旧世紀の調査で海溝があることが確認されている。いざという時逃げ込むには最適な場所だ。」
「しかしⅧ型潜水艦の性能ではここに逃げ込むのは危険では?」
 Ⅷ型潜水艦の安全潜航深度は500mであり、海溝にまで逃げ込むことは困難が伴う。しかし艦長には確証があった。
「あくまでこれは安全潜航深度であって、噂では1000mまで潜ったなんていう強者もいる。いざという時には逃げ込めるちょうどいい場所だ。それにこの辺はコロニー落としで破片が落下して海中の状況がよくわかっていない上に、この破片というのも身を隠すのには最高の場所になる。奴はこの辺で獲物が来るのを待ち伏せているに違いない。」
「すると、敵が待ち伏せていることをわかってそこに突っ込んでいくわけですか」
「それがいいだろう。絶対に奴は向こうから顔を出してくるはずだ。」
「敵に攻撃された場合は?」
「切り札があるじゃないか、ゴボという。」

 数時間後、敵潜水艦がいると思しき海域にU-952は到着した。
「水測員!ソーナの警戒厳となせ!!」
 潜水艦対潜水艦の戦いにおいて最も重要なのは耳である。海中において目の重要性は高くなく、目よりも圧倒的に重要なのはその耳なのである。特に海軍が今までなかったジオンにおいてソナーを操作できる水測員の教育が急務とされたが、その点において最も大きな貢献をしたのは第三潜水艦隊司令でもあるペリエール少将であった。
 しかし敵が潜んでいそうな海域を通過してもなお、ソナーに反応はなく敵潜水艦の痕跡も見つかりそうになかった。
「艦長、そろそろ潮時では?」
「もう少し、もう少しだ。奴は絶対にここにいる。」
 艦長はこの海域に拘っていたし、何より奴は敵を見つけたからと言ってすぐ出てくるようなダボハゼではないという確信があった。確実に仕留められる敵を見つけた時にだけ顔を出すのだ。おそらくU-801は慎重を期した結果逃してしまったに違いない。無音潜航をしないのも、あえて無防備な姿を晒して奴が顔を出すのを待っていたのだ。

 地球連邦Ⅷ型潜水艦フィンバックは深さ300mで静かに息を潜めて停止、いわゆるホバリングをしながら無音潜航を続けていた。彼らはとっくにU-952を探知していた。
「ソナー員、敵潜水艦の様子は?」
 艦長がひそひそ声で話す。
「水流ジェット、6軸推進、我が軍のⅧ型潜水艦と同型の可能性大です。方位050、速力10ノット程度、深さは180mです。こちらに気づいた様子はありません。」
 ソナー員はヘッドホンを外しこちらも小声で返した。
「メインタンクちょいブロー、深さ180まで浮上だ。全艦魚雷戦用意。」
 これまでずっと煮湯を飲まされてきた連邦海軍の反撃の時は今ぞと艦内は静かに湧き立っていた。

「敵潜水艦排水音を探知、方位230です。」
 排水音ということは敵は浮上しようとしているということである。そのわずかな音すらもソナーには探知されてしまうのである。
「機関は?敵潜水艦の種別は?」
「不明ですが、順当に行けばⅧ型であろうと思われます。機関音はしませんが原子力潜水艦と思しきノイズが聞こえます。」
「捉えたな。モビルスーツ発進用意をなせ。奴の真価が問われる時がきた。」

「ドブラ小隊は出撃用意!」
 艦内放送でモビルスーツの出撃が命令される。この時を待っていたのだ。
「ドブラ小隊、各自自機に搭乗、待機せよ。」
 戦闘配置中は静かにしなければならないが、心なしかドブラの声は上ずっていた。
「了解!」
 4人はそれぞれ自分のゴボが格納されているモビルスーツサイロへと向かった。
「ドブラ中尉、モビルスーツの起動とチェックをお願いします。」
 どれだけこの日を待ちわびたことか。やっと実戦でゴボを使うことができるのである。彼はやりなれたいつものチェックとゴボの起動を終え、コクピットで静かに待っていた。久々の実戦、相手は大物の潜水艦と来た。初陣にはちょうどいいじゃないか。
「モビルスーツサイロ注水開始。」
「モビルスーツサイロ注水開始を確認。」
 機体が少しずつ水に浸かってゆく。ラジエーターダクトが水に漬かり、それと同時に熱核反応炉に電源を入れ、ゴボの眠りが覚める。
「ドブラ小隊各機、状況を報告せよ。」
「こちらグランデ軍曹、いつでもOKです。」
「こちらロバタ兵長、問題ありません。」
「こちらカンタガロ一等兵、問題なし。」
 小隊全員問題なし、出撃可能だ。正直潜水艦一隻に四機の出撃はやりすぎという感もあるが、実戦運用テストも兼ねているのだからしょうがない。
「ドブラ中尉、今回の武装は324mm短魚雷と音響探知魚雷のみです。他の魚雷に関しては調整に手間取っていてまだ使うことができません。やれますか?」
「当たり前だ。やって見せるさ。」
 どんな時もトラブルは起こりうる。魚雷が二種類しかなかろうとも、やってやる。
「ドブラ小隊各機に告ぐ。今回の敵は潜水艦だ。話によればどうやら敵の艦長は手練らしいが、モビルスーツの前には大型軍艦もただの的にすぎん。」
 地球に降りてからしばらく戦闘をしていない彼らに焦りはあったが戦闘経験は確実に少ない。隊員たちの実力を発揮させるためにも落ち着かせる必要があった。
「小隊各機はU-952出撃後、水流ジェット速力30ノットで相対方位右90度に展開、母艦との距離を確保したところでスクリューに切り替えて敵潜水艦に接近する。」
 水流ジェットの静粛性を利用して敵艦を欺き、わざとスクリューの音を聞こえさせることによって母艦の位置を撹乱させるという目論見がこれにはあった。
「ドブラ中尉、ゴボをよろしくお願いします。」
 スウィネン社技師のフォークトはこのミッションに全てを託していた。初めてのゴボの出撃、相手は潜水艦、ここで結果を残さなければならないという重圧が彼にはかかっていた。
「フォークト技師、必ずや貴重なデータを持ち帰る。信じて待っていてくれ。」
 ドブラは彼の期待と、そして重圧を感じ取り緊張をほぐすためにも笑顔で答えた。
「ドブラ小隊。出撃準備よろし。」
「ドブラ、ゴボ、出撃する!!」
 信号が青になり、ドブラは出撃した。深度約200mから深海扱いになるため、視界はよくない。見渡す限り水が埋め尽くす光景は息苦しさすら感じる。当初の計画通り最初は水流ジェットで韜晦航路をとり、U-952との距離をとった。
「隊長、敵艦の位置は?」
 カンタガロ一等兵はどうやらこの視界の悪い海の中で目を皿のようにして敵を探しているようだった。
「正確な位置は不明だが、おそらくこの辺だろうとされている。」
 そう言ってドブラは敵がいるであろうとされる排水音が探知された区域を小隊に送った。
「でもこれじゃあ敵の位置なんてわかりませんよ。」
 ロバタ兵長が不安になるのも無理はない。コロニーの狭い海などではなくここは地球の途方もなく広い海であり、こんなところで潜水艦を探そうなどというのは困難極まりないからである。
「そこで、俺たちの出番というわけだ。ゴボがスクリューを起動すれば奴らは魚雷が飛んできたと思うに違いない。そうすれば奴らは否が応でもエンジンを起動して回避行動をとるはずだ。その敵を俺たちが叩く。」
「奴らを巣穴から引っ張り出そうってわけですね」
 グランデ軍曹は楽しそうだ。彼はこういう場面でこそ気分が高揚する、いわば戦場ハイのような特性がある。
「小隊各機、スクリューに機関を切り替えろ。9時の方向に方向転換してスラスター全開!!」

「艦長、左舷より高速スクリュー音8です!!」
 潜水艦フィンバックのソナー員が叫ぶ。
「魚雷か?」
 艦長は訪ねた。ユーコン級潜水艦の魚雷発射管は6本であることを考えればスクリュー音が8つも聞こえるというのはおかしな話である。しかも飛んできた方向は敵潜水艦の位置よりも微妙にズレている。
「わかりません。ただスクリュー音は魚雷よりも圧倒的に大きく、3枚翅です。」
 スクリューが立てる音だけでスクリューが何枚羽かどうかがわかる。それによって敵のこともわかるが、これは初めての体験で艦長にはそれが何かわからなかった。
「こちらが先に動けば居場所を晒すことになる。そのスクリュー音は直撃コースか?」
「微妙にコースが逸れていますが、まだわかりません。」
「もし敵の超大型魚雷であったとして、それが磁気信管を搭載していたとしたらどうだろうか。」
 艦長は副長に尋ねた。
「その場合、直撃しなくてもバブルジェットを食らえばほぼ確実に推進器を破壊されると思いますね。」
 水中で爆薬が爆発すればそれが大きな気泡となる。その気泡がもし構造物に接触していた場合、気泡が潰れる際に大きな水流が構造物に向かって突進することとなり、大ダメージを食らい、場合によっては撃沈にも繋がる。直撃せずとも艦の機能を喪失する可能性がある。
「機関第一戦速、取舵一杯!!」
 最悪のシチュエーションのことを考えれば回避する他ないと艦長は判断した。

「聞こえた!!ビッグワンだ!!」
 グランデ軍曹が叫んだ。ついに敵艦の機関が始動した。しかも回頭してこっちに向かってくるのだ。これほどまでに美味しいことはない。敵の姿はよく見えないが、ソナーを介して手に取るようにその様子が見える。敵はこっちを魚雷だと思って回避行動をとっているのだ。
「小隊各機、散開して敵艦への射撃姿勢を取れ。」
 ドブラの指示でゴボ4機が散開、魚雷発射の準備をする。
「使用する魚雷は音響探知魚雷、敵艦の音源をちゃんと狙えよ、じゃないとホーミングはしてくれない。」
 ホーミング魚雷といえどミサイルのように万能ではなくちゃんと狙ってやらねば探知すらしてくれない。繊細な武器なのである。
「全機、魚雷発射!!」
 ゴボ4機から8本の魚雷が発射される。音響探知魚雷は最初蛇行を繰り返しながら目標探知機動を行い、音源を見つけると目標に向けて突進して行った。

「敵大型スクリュー音源から小型高速スクリュー音探知、気泡音も確認しています。おそらく魚雷を発射したと見られます。」
「敵はモビルスーツということか......やられたな......。」
 敵にまんまと騙された上、この音源を初めて探知したということはジオンの新型モビルスーツという可能性が濃厚だ。嵌められた。
「デコイを展開しろ!!メーンベント開け!!急速潜航だ!!面舵いっぱい、35度!!」
「魚雷は艦と正対しています!回頭する必要はないのでは?」
「俺の勘がそうしろと言ってるんだ!!」
 デコイは船の機関音らしき音を出して魚雷を撹乱させる機械であり、ホーミング魚雷に対して効果がある。急速潜航と急旋回は気泡と波を産み出しこれもソナーを撹乱させる効果がある。この回避機動は敵が音響探知魚雷を使っていれば回避できる可能性があるが、そうでなかった場合魚雷に対して脆い横腹を見せることとなり危険が大きい。しかし艦長には確信があった。
「水中での視界は悪く、しかも対潜水艦戦は敵の位置を把握することが困難なことを考えれば敵は音響探知魚雷を使って確実に当てにくることが考えられる。しかも奴はスペースノイドだ。海での戦いに慣れてないなら尚更それを選択するはずだ。」

「敵艦から気泡音、急速潜航です!!」
 グランデ軍曹からの報告を聞いたが、ドブラは勝利を確信していた。音響探知魚雷、避けられるはずもないのだ。1分、2分......。命中時間を過ぎても当たりはない。
「小隊長、命中時間ですが......。」
 狐につままれたような思いだった。魚雷は全弾確実に発射され、音響探知もうまく行っていたはずだった。しかし、その魚雷はなぜか全弾外れたのだ。
「通常魚雷に切り替えて敵の音源に向けて発射するぞ。音響探知魚雷はダメだ!!」
 なぜかはわからないが、音響探知魚雷はダメだ。幸い敵艦はデコイを展開しているし、無音潜航を諦めてノイズを出しまくっている。通常魚雷でも当てられる状況だ。しかし......。
「Torpedo malfunction」
 ゴボのコクピットディスプレイには魚雷の故障を意味する表示が赤い文字で光った。魚雷の装填装置に不具合が発生したようだ。
「こちらグランデ軍曹、魚雷装填できません。」
「ロバタ兵長、同様の不具合が発生しています。」
「カンタガロ一等兵、魚雷装填不可能です。」
 水中での機動、水圧の変化、温度、様々な要因が考えられるが魚雷の次弾装填装置に問題が発生したことは確かだ。ここまできてみすみすこの標的を逃すのはあまりにも痛いが、ゴボのメイン武器はこの魚雷しかない以上、敵艦への攻撃は諦めざるを得なかった。
「小隊各機はU-952へ帰投しろ。私が敵潜水艦の位置をU-952に送信して攻撃してもらう。」
「しかし小隊長、まだクローで潜水艦を攻撃できます。」
 ロバタ兵長は確実に自分たちで戦果を上げたいようだった。
「クローだけじゃ沈めるのは難しい。魚雷で確実な撃破を狙うべきだ。」
 この深海では視界の悪さも相まって近接攻撃を確実に当てるのは非常に困難だ。しかしゴボのソナーのデータとU-952のソナーのデータを照合すればかなり正確に敵の潜水艦を攻撃できるはずだ。
「しかし......。」
「これは命令だ。お前らは帰投しろ。」

「ドブラ中尉より、『ワレ魚雷発射装置ニ問題アリ。コレヨリ敵艦ノ座標ヲ送ル。攻撃サレタシ。』です。」
 通信長が通信の内容を読み上げるとフォークト技師は思わず机を叩いてしまった。ここにきてまた調整不良でトラブルを起こしてしまい、わざわざ乗っていただいているパイロットに申し訳が立たないという気持ちが強まっていた。
「なるほど、それは仕方ない......。敵艦の座標は?」
「方位050、距離1800、深さ220m、アングルオンザバウ左30度、速力18ノットです。」
 水測員がソナーで予測したデータと、ドブラから送られてきたデータを照合しズレを修正する。
「魚雷発射管一番二番発射用意!!通常魚雷!!」
「魚雷発射管一番二番発射用意通常魚雷ヨーソロ!!」
「魚雷発射管発射用意完了!!」
「一番二番注水開始!!」
「一番二番注水開始ヨーソロ!!」
「一番二番前扉開け!!」
「一番二番前扉開け!!」
「魚雷発射!!」
「ってーーー!!!!」
 二本の魚雷が敵潜水艦へ向かって走り出した。

「気泡音、敵潜水艦が発射管を開いた模様です!!方位230!!」
 ソナー員が報告する。
「敵潜の前に横腹を晒してやがる!!仕組まれた!!取舵いっぱい!!両舷後進半速!!」
 船も車と同じで遅い方が舵の効きがいいため、減速して回避することを選択した。
「至近距離です!!回避間に合いません!!」
「総員掴まれ!!」

「水中で爆発音二つ、船殻の破壊音も聞こえます。撃沈です。」
 水測員が報告した。水中での爆音とその残響音のなかに、船体が引き裂かれ崩れる音が聞こえる。船殻を破壊されれば水圧の中でその支えを失った潜水艦はただ潰される。
「久々に潜水艦をやったな......。」
 艦長は帽子を脱ぎ額の汗を拭った。潜水艦対潜水艦は互いに確証がない中で少ない情報をもとに戦うしかない。ゴボが確実に深海の耳となり、潜水艦撃破につながったことは確かだが、モビルスーツパイロットたちにはしこりが残った。

「もし次も戦果がないようだと我々としては君の小隊の処遇を考えねばならないな。」
 帰還後艦長に呼び出されたかと思えば、またも嫌味を言われるといういつものことだった。
「分かっている!ゴボがちゃんと性能を発揮できれば敵の撃破は間違いないのだ!」
 ゴボの機械的問題のせいにしたくはなかった。しかしそれでもゴボを庇うためにはそう言うしかなかった。
「魚雷が当たらなかったのも機体の性能のせいにするとはテストパイロットというのは実に楽な仕事だな。」
 嫌味たらしい艦長の発言だが、魚雷の選択を間違えたことについては確かに自分に非があった。目の前に転がっていた勝機、確実に掴み取りに行きたいがあまり敵のことを考えていなかった。当然対潜戦闘になれば音響探知魚雷を使われることを考慮しているだろうし、こちらはモビルスーツなのだからもっと戦いようがあったはずだ。
 CICを後にしモビルスーツサイロへ帰る途中で副長に呼び止められた。
「正直言って艦長が苦手だろう?」
 副長はズバリ自分が思っていることを言い当ててきた。あの艦長、少なくとも新参者に優しい上官ではない。U-952と言う新しい家族の中に入り込んだ部外者である自分は厳しい目で見られるのはしょうがないことだとはいえ、やりづらさは隠せなかったようだ。
「あの艦長とはもう一緒に組んで長いが、正直言って人間的には非常にやりづらいのだよ、あの艦長は。」
 副長の意外な言葉に驚いた。副長と艦長は常にCICで連携をしているし、言い争うこともない。
「あの人は人間性には問題有りだが、潜水艦艦長としての能力は素晴らしいものがある。この艦隊の艦長の中でも一番優秀な人間と言っても差し支えない。あの艦長と一緒なら、この戦争で勝ち残れると思っているよ、私は。」
 確かにあの艦長は優秀だ。乗り組んでから最初の襲撃でも確実に潜水艦キラー駆逐艦を行動不能にして味方を救っているし、今回でもあらゆる可能性を考慮しモビルスーツ部隊を出撃した後は無音潜航を続けて敵潜を攻撃可能な位置を取り続けていた。
「まあ、君の立場については同情するよ。でもそれだけ艦長が君に期待してると言うことでもある。頑張ってくれよ。」
 それはそうだ。今回だって艦長の実力があれば潜水艦と戦うことだってできたはずだが、あえて我々を出撃させ攻撃の機会を与えてくれている。今まで艦長への不信感ばかりが募っていたが、艦長は我々を信頼してくれているのだから我々も艦長を信頼すべきなのだ。

 モビルスーツサイロに行くと、フォークト技師が夜通しでゴボの問題修正にあたっていた。本来潜水艇用に開発された魚雷の発射装置と次弾装填装置を流用したことでモビルスーツの予期せぬ機動に機械的な故障が発生したらしい。
「今回は申し訳ありませんでした。次こそは必ず、完全な機体を作って見せます。」
 フォークト技師の顔には明らかに疲れが見えた。今回の出撃で得られた情報はあまりにも多く、その解析と修正を彼は任されているのだ。
「君の責任じゃない。どんな機体にだって初期不良はある。もっと大事な戦いの前にこの問題に気づけてよかったじゃないか。」
 彼は頑張ってくれている。ならば我々も彼の努力に結果で応えるしかない。今回だって我々の協力があったからこそ潜水艦を迅速に撃沈できたと考えることもできる。
「ドブラ中尉、次こそは必ず、やりましょう!」
「頼みますよ、技師殿。」
 そう言ってドブラは自分のベッドへと向かった。

6.ゴボの逆襲

 10月12日、第三艦隊艦隊司令より、「連邦軍病院船を発見したため攻撃されたし」との通信が入った。
「病院船を攻撃せよとは、穏やかではないですなあ。」
 副長は病院船を攻撃することに対して否定的だ。
「しかし艦隊司令からの命令となると、やらざるを得ないな。」
 艦長もあまり乗り気ではないようだ。
「病院船の攻撃は交戦規定に違反しています。この命令に従う必要はありません。」
 通信長もこれには反対だ。
「艦隊司令はあの病院船を攻撃すべきだという理由を見つけたに違いない。」

「モビルスーツ隊、出撃用意!」
 艦内放送で響き渡る。まだ第一戦闘配置にもなっていないのに、モビルスーツ隊の出撃用意というのはどういうことなのか、とにかくモビルスーツに乗ってから状況を確認するしかない。
「ドブラ小隊、全員ゴボに搭乗して待機せよ」
 ドブラは全員に命令を出すと自分も緑色のゴボに乗り込んだ。
「通信士、今回の標的について教えてくれ。」
 標的も任務もわからなくては心の準備がままならない。全員の搭乗とモビルスーツの起動確認が終了した段階でドブラは任務の内容について訊いた。
「今回の任務は病院船の攻撃です。」
「ハァ!?」
 ドブラは驚きのあまりとんでもない声を出してしまった。
「艦長に繋いでくれ。」
 任務の内容があまりにも理解できない。これは艦長に確認を取るしかないと彼は思った。
「艦長、こんな任務は承服できません。交戦規定違反です。」
「艦隊司令からの命令だ。これを無視するわけにはいかない。」
「臨検をすべきです。臨検した上で問題があった場合には攻撃するという形にさせてください。」
「とりあえず、権限は君に与えよう。私から言えることは『病院船を攻撃せよ』これだけだ。」
 艦長は奥歯に物が挟まったような、釈然としない物言いだった。
「病院船を撃沈しましょう!!どうせ奴らは連邦の軍人です!!」
 カンタガロ一等兵が割り込んできた。
「臨検をする必要がある。臨検し、その後対応を考える。これでいいな?」
 ドブラは念を押した。
「どうせ奴らなんか密輸してるに違いないですよ。」
 一等兵は何がなんでも攻撃をしたいようだ。最悪の事態を避けるため、ゴボの兵装に魚雷は搭載せず、格闘武器のみを選択した。

 本来病院船の航路・データは事前通告されているはずだが、今回の病院船に関してはその事前通告がなかったということが攻撃の理由らしい。しかし、戦時国際法や交戦規定をにおいては「病院船の保護は人道的任務から逸脱して敵に有害な行為を行うために使用された場合でない限り消滅しない」ものであり、もし違法行為が確認され、攻撃をするにしても事前に通告する必要性がある。
 そして今回の病院船ルシタニアを発見、接近したところまず外見に武装などは見られず、十字架の掲示もきちんと行われており外見に問題はなかった。ドブラは信号弾を打ち上げ停船を要求すると、グランデ軍曹と共に臨検に向かった。
 サブマシンガン片手に乗船し、各区画、船倉を確認したものの傷病者とその治療を行っていることが確認され、武装の搭載や輸送、その他軍事的利用をしていると言う確認は取れず、攻撃をする理由はどこにもなかった。
「今回はご迷惑をおかけしました。一応何かあったときのために臨検をさせていただきました。」
 ドブラは協力してくれた病院船船長に感謝の言葉をのべた。
「こちらこそ、数時間前にも潜水艦に追い回されて大変だったんですよ。誤解が解けたなら幸いです。」
「一応お聞きしますが、どこに向かう予定ですか?」
「トリントンですな。マゼラン海峡経由の予定です。」
「そうですか、お疲れ様でした。」
 この船長の言葉は嘘だとドブラは見抜いた。わざわざ欧州での負傷兵をオーストラリアまで運ぶ必要はないだろう。しかもマゼラン海峡は航海の難所でありわざわざそれを選択する必要性は低い。おそらくジャブローに向かう船だろうが、ジャブローの位置がバレるのを回避するために隠蔽しているに違いない。
 ドブラとグランデはモビルスーツに戻り、攻撃しないことを小隊全員に命令した。
「なぜ攻撃しないんです!?」
 カンタガロ一等兵が食い下がってきた。
「攻撃をする理由がないから攻撃しないのだ。交戦規定違反は戦争犯罪だぞ。」
「乗ってるのはどうせ連邦の負傷兵です!!奴らはまた治療されて前線に戻るんですよ!!」
「お前が怪我してサイド3に帰る病院船が沈められたらどう思うんだ!!」
「しかし......!!」
「これは命令だ!!」

 U-952に戻ってからドブラはCICに呼び出されることとなった。
「なぜ病院船を攻撃しなかった?」
 プラコッテ少佐はただ淡々と質問をしてきた。
「臨検をしましたが、怪しい点は見つからず、攻撃をする合理的な理由がありませんでした。」
 ただ事実のみを述べるしかない。
「この命令違反について、責任を問う必要がある。」
「そうですか。」
「とりあえず譴責処分とする。始末書を提出せよ。」
 謹慎処分を覚悟していたドブラにとって、譴責処分で終わったのは予想以上に軽い処分で済んだと感じていた。
「ドブラ中尉、ちょっといいかな」
 CICからの帰り、またも副長に呼び止められた。
「今回の病院船の一件、艦長が上手く処理してくれたよ。」
「と、言いますと?」
「艦隊司令が直々に病院船を攻撃しろと命令してきた。この命令を艦長が無視するわけにはいかない。それで、君に全権限を与えて処遇を任せた。」
「もし私が病院船を攻撃していた場合、それは私の責任になると言うわけですか?」
「それもそうだが、君は病院船を攻撃しないと艦長は確信していたようだよ。」
「なるほど......。」
「モビルスーツ部隊を出撃させて攻撃させようとしたが、君が命令を無視して臨検し、問題がなかったため攻撃しなかった。そしてU-952はその間に病院船を見失い、攻撃できなくなった、と言うことにしたのさ。」
「艦長は?」
「任務が終わったら艦隊司令と艦長は軍法務部からの事情聴取だとさ。」
「なるほど......庇ってくれたわけですか......。ところで、あの艦隊司令って何者なんです?」
「ペリエール少将は10年前にサイド3に移住して軍に入隊した、元連邦海軍の士官らしい。ジオンじゃ珍しいフランス系の移民らしいがね。」
「なぜサイド3に?」
「わからんな......知ってる人は艦長ぐらいしかおらんだろう。」
「なぜ艦長は知ってるんです?」
「ペリエール少将は今までで一度しか艦長になったことがない。そのあとはずっと艦隊司令だ。そしてそのペリエール艦長の船で水雷長を務めてたのがプラコッテ少佐で、そのよしみで色々聞いたって話だから、もしかしたら艦長は知ってるかもしれん。」
 病院船を攻撃せよと命令を下したペリエール少将という人物について、ドブラは興味が湧き始めていた。

 パイロットの待機所に帰ると小隊全員が揃っていた。
「奴らはいずれ連邦の兵士として同胞を殺します!あいつらを殺すべきでした!」
 カンタガロは何がなんでも病院船を撃沈したいようだった。ドブラは思わずカンタガロ一等兵を殴ってしまった。
「ロバタ、お前はどうなんだ」
 ロバタ兵長は今回の一件に関して何もコメントをしていなかった。彼がどう思っているかどうかは気になっていた。しかし、ロバタは何も言わず、無言で俯いていた。
「どうした兵長」
「中尉殿は悔しくないのでありますか?」
「なぜだ?」
「サイド3の私の実家は両親も死んでしまい、弟と妹しかおりません。彼らを食わせるために私は出世して稼がねばならんのであります!しかし地上に降りてからこの方ずっと戦果がありません!これが私には悔しくてなりません!」
 ロバタの家族構成をドブラは知らなかった。彼が戦果にこだわるのも家族を食わせねばならないと言う家庭事情があったのだ。それでも病院船を沈めることを認めさせるわけにはいかない。
「病院船を沈めても、階級が上がることはない。それどころか場合によっては戦争犯罪者として裁かれる可能性すらある。気をつけたほうがいい。」
 小隊長として、締めるべきところは締めねばならない。それは今まで軍曹に全てを任せていたが、私が小隊長として締めねばならない。

「中尉、色々お疲れだとは思いますが……。」
 説教が終わった後、グランデ軍曹がコーヒーを持ってきてくれた。
「ありがとう。」
「中尉には故郷に家族はおられるのですか?」
「私には帰るべき故郷などもうなくなってしまったんだ。」
「どういうことです?」
「私が生まれたのは、サイド2の8バンチ、『アイランド・イフィッシュ』だよ。」
「ということは......。」
「コロニー落としでやられたのさ、何もかも。」
「そんなことがあってもまだ軍人として戦う意味は......。」
「わからない......。この戦争で帰るべき場所を見つけようとしているのかもしれないな、私は。帰る場所がないから、軍にいるのかもしれない。ここになら居場所がある。」
「中尉、くれぐれも無理をしないようにお願いしますよ。」
「わかっているさ。」

 連邦軍は度重なる潜水艦の攻撃を受け、輸送船団の航路と時間をさらにランダムにしたらしく、もはや第三潜水艦隊の偵察網に敵輸送船団が引っかかることが少なくなり始めていた。大西洋を遊弋する潜水艦隊はただただ途方もない。広い大西洋の中で、砂つぶのような輸送船団を探さねばならないのである。
 さらに悪いことに、ジオン軍偵察部隊からの情報で大西洋輸送船団の護衛用兵器としてモビルスーツが投入されているとの情報が入っていた。連邦のモビルスーツなど相手にならないという気持ちがドブラにはあったが、それでも戦場でモビルスーツと出会ったことがないという不安は確かにあった。これらを受け、U-952の艦内の雰囲気は確実に悪化していた。
 いくら船酔いを避けると言っても普段から潜航してばかりでは乗員の体調にも関わるため、たまには浮上して日光浴をする必要があったのだが、浮上している最中、連邦軍偵察機ディッシュの接触を受けた。
「対空監視員!!何をしているか!!」
 艦長はレーダーの監視員を叱責した。
「電探に感なし!!逆探に感あり!!」
 Ⅷ型潜水艦の対空レーダーは貧弱でディッシュのレーダーの方がレーダーの性能が高いため、逆探知でなければ探知できなかった。
「全艦第一戦闘配置!!合戦用意!!」
 艦長が命令し、U-952は急速潜航したが、敵に探知されたことはほぼ確実だった。数時間後、連邦軍偵察機ドンエスカルゴと思しき機体と接敵、爆雷と魚雷による攻撃を受け軽微な損傷を受けた。これ以降、第三潜水艦隊は浮上して日光浴を行うことを当面禁止とし、ビタミンDサプリメントの摂取量を増やすことでそれを補うこととした。

 宇宙世紀0079年10月20日昼、U-952は潜航中、アクティブソナーの音を探知した。敵のソナーに探知されたことを意味し、敵に攻撃されることはほぼ確実だった。
「潜望鏡上げ!」
 艦長が命令し、潜望鏡が上がると艦長は全周を警戒した。
 洋上に敵の艦艇の姿は確認できず、ソノブイその他の存在も確認できなかった。
「敵の姿が見当たらないというのはどういうことなんでしょう」
 副長は尋ねる。
「心当たりがある。今は昼の時間帯で海面の温度が上がり始めている。そのせいでアクティブソナーの音が遠距離まで届くようになってるんだ。」
 海水における音波の伝達は様々な要素が絡むが、表面の海水温が上昇することで浅海域での音波の伝達範囲が広がるのである。
「深さ200mまで急速潜航、やり過ごせ!!200mまで潜れば音は届かん!!水測員は警戒を厳となせ。」
 艦内に戦闘配置が命じられてしばらくして、水測員が地獄の音を報告してきた。
「敵機、爆雷投下!!爆雷は......6つです!!」
 ドンエスカルゴの爆雷投射量を考えればまだ投下できるはずだ。これだけで攻撃が済むはずがない。ソナーを使わなくても耳で聞き取れるレベルで爆発音が聞こえ、艦内は大きく揺れ、あらゆる物が飛び散り、ガラスが割れ、配管から水が漏れ始める。漏れた配管には木片をハンマーで噛ませ応急処置をする。
「艦内被害状況を知らせ!!」
 艦長が叫ぶ。
「こちら司令室、軽微な浸水あり。」
「こちらVLS、ミサイル発射管一番から四番に浸水、使用不能!」
 U-952は連日連夜の攻撃でじわじわとダメージを蓄積し始めていた。まだ応急処置でなんとかできるが、このまま続くようだと生存は厳しい。
 しかも爆雷が炸裂すると水中の残響音が激しくなり、聴音することができない。深海域においては潜望鏡を使うことができない以上、空中にいる敵を探知するのはその耳に頼らざるを得ないのである。つまりこれは耳を潰されたに等しい状況であった。
「廃棄物の投棄急げ!!」
 潜水艦においてゴミを魚雷発射管から投棄するというのは普段から使っている方法であったが、これはゴミを射出することで撃沈されたことを演出することが狙いであった。しかし所詮は時間稼ぎにしかならない。
「無音潜航開始。静かにやり過ごすしかない。」
 潜水艦は無力だ。静かに静かに、ただやり過ごすしかこういう時は手がないのだ。
「スクリュー音と思しきノイズ、方位110、2軸3枚翅、ふた隻。20ノットで接近中。」
「駆潜艇だ。奴らも本気を出してきやがった。」
「爆雷投下音、8です。」
 爆雷の爆発音が遠くで聞こえる。現在の深度は200m、深く潜っているので損害はない。奴らはまだ浅海域にいると思い込んでいる。しかしその直後、あの悪夢のようなソナーの甲高い金属音が聞こえてくる。敵はまだ我々を探している。遅かれ早かれ発見は避けられない。
「砲術長、VLS5番6番にドレッシュフリーゲル装填用意をなせ!」
 ドレッシュフリーゲルは対艦ミサイルである。これを無傷なミサイル発射管に装填する。
「ドレッシュフリーゲル装填、ヨーソロ!」
 砲術長エスクード大尉はこの機を逃すまいと待機していた。普段から水雷屋ばかりが活躍するこの潜水艦で砲術長というのは仕事が少なかったのだ。
「しかしミサイルは浮上しなければ使えませんが。」
 水雷長は不満というわけではなかったが、ただこの場においてミサイルを使うという選択肢は考えづらい物だったのだ。浮上しようと排水をすれば駆潜艇に探知されてしまう。
「潜横舵、上げ舵一杯!!両舷前進一杯!!」
 メインタンクをブローすることなく、舵とスクリューだけで急速浮上し、直後ミサイルを発射して駆潜艇を攻撃、その後すぐに浮力を失って潜航する、電撃作戦である。敵のドン・エスカルゴがまだ滞空している可能性もあり、ゆっくり攻撃している暇はない。攻撃したらすぐ急速潜航をするのだ。
「深さ20m、浮上します!!」
「総員衝撃に備えろ!!」
 艦全体が浮き上がるような感覚があり、そして海面に叩きつけられ、U-952は海面に飛び出した。
「ミサイル5番方位250距離500の敵駆潜艇甲を攻撃、ミサイル6番同じく駆潜艇乙を攻撃せよ。」
「外すなよヒヨッコども!!ミサイル、撃てーーーー!!!!」
 砲術長は久しぶりと言わんばかりに大声を出し、鍵を回した。直後、VLSのハッチが開き、轟音と共に対艦ミサイル二本が発射された。誘導ミサイルはミノフスキー粒子下では無効化されていたが、この至近距離ではもはや誘導など必要ない。敵駆潜艇は必死に回避しようとしたが、その回避も虚しく駆潜艇は爆沈した。たった数百トンの駆潜艇に大型艦すらも沈めうる対艦ミサイルが直撃すれば、もはや生存する可能性などあるはずがない。二発目のミサイルは駆潜艇の前で急上昇するとそのまま上空から駆潜艇を目掛けて急降下、直上から駆潜艇を粉砕した。
「長居は無用だ、潜航するぞ。」
 ドン・エスカルゴ2機が上空を旋回していた。既にバラストタンクには水が一杯である。あとは勝手に沈むだけだ。数時間経過し、ドン・エスカルゴからの攻撃が止んだことを確認して戦闘配置は解除された。
 アクティブソナーの音を聞いただけで海面の状況を加味して状況を理解し、ソナーから身を隠すためにあえて深海域に潜り、駆潜艇に対して急速浮上しミサイル攻撃で撃沈して見せる、ドブラはプラコッテ少佐の艦長としての能力の高さを改めて思い知ることとなった。

 それからどれだけの日にちが経っただろうか、もはや毎日同じ景色を見てばかりで曜日感覚も、時間感覚もなくなった。毎日毎日同じルーティンを繰り返し、U-952はただただ潜り続けていた。あてもなく、ただ敵を探し回るだけの日々は退屈極まりなく、艦内の空気は淀んでいた。
「あれっ、火がつかねえな。」
 ドブラが士官室で咥えたタバコに火をつけようとしているが、なかなか着火しない。
「中尉、そりゃあ酸素濃度が薄くなってるんでさぁ。」
 士官室にいたシリング機関長が教えてくれた。
「これだけ密閉された空間でずっといるとそりゃあ酸素も薄くなりますわ。タバコは我慢するしかないんですわ。」
「そうですか.....。」
「私もね、こういうのが最初は耐えられなかったんだけども、逆にこういうのを耐えて吸うタバコってのがまた最高にうまいんでさぁ。」
 機関長はどうも訛りがあるというか、田舎の出身であろうということがよくわかる癖の強い人だった。
「あとね、潜水艦は飯もまずいしタバコも吸えねえけど、ジュースは飲み放題なのよ。」
 そう言って彼は小さなビニール袋に入った粉末を渡してきた。
「怪しい薬じゃないです。これを水に溶かすとオレンジジュースになるんでさぁ。潜水艦はビタミンCとビタミンDが足りんようになります。だからジュースとサプリで摂るっちゅうことでさぁ。」
 ストレス解消には酒か、タバコか、砂糖である。このオレンジジュースに果汁が一切含まれていないけれども、それでもこの砂糖の摂取が乗員には幸せな瞬間なのであろうと、ドブラは思った。
 長引く潜航期間もあり、艦内の全員が髭面になっていた。元々機関長は無精髭がうっすらと生えていたが、その無精髭は頬から顎を覆っていた。艦長も最初は髭を剃っていたが、今はもうすっかり髭面の男になっていた。ドブラも口髭を蓄え、整えていたが、それを整える気持ちにもならず伸びっぱなしになっていた。
 補給状態の悪さも問題だった。出航当初に詰め込んだ生鮮食料ももはや底を突き始めており、足りない栄養はサプリメントで補うという状況が加速していた。10月23日の夕飯は「残っていた食糧のごった煮」と言った感じで、それは何料理とも形容し難いなんとも言えない食べ物であった。
「宇宙に戻りてえ……。宇宙ならもっとマシな飯が食えるのに……。」
 ロバタ兵長が悪意なくポツリと呟いた言葉は、艦内の微妙な空気に火をつけた。
「なんだぁてめえは!?作った飯に文句垂れる気か!?」
 給養員の一人が怒り出した。
「てめえらパイロットが何も戦果上げてねえから帰れねえんだろうが!!」
「何もしてない穀潰しが一丁前に文句言ってんじゃねえぞ!!」
 乗組員が口々に不満を吐き出し始めた。誰もが苦しい状況で文句を言わず戦っている中、この間入ってきたばかりの新参がそんなことを言うのは乗組員にはどうしても許せないことでもあった。そこに、ディルハム機関兵曹長が割って入った。
「みんなまあ待て、落ち着け。おいお前、潜水艦ってのはこういうもんなんだよ。次の補給まで我慢するしかない。」
 ディルハム兵曹長はなんとかしてこの場を収めるしかないと必死だった。
「俺たちだって宇宙に帰れるなら帰りたいさ。でもその前に軍人だからな。」
 潜水艦乗組員はだからこそ戦っているのだ。ジオン軍人である以上誰でも宇宙に帰りたいが、その前に軍人として与えられた職責を果たすしかないのだと兵曹長は語った。
「しっかり仕事して、陸でうまい飯を食おうじゃねえか。陸に上がったら一杯奢るぜ。」
 兵曹長の気遣いに、ロバタは涙した。

 10月25日、久々に輸送船団発見の通信が上がってきた。
「偵察機オルトロス03より入電、『パルラヴェント諸島西方沖500浬ノ海上ニテ敵輸送船団認ム。ジャブローカラベルファスト便、15ノット、平均針路010。輸送船25隻、タンカー10隻、ミサイル巡洋艦3隻。ミサイル巡洋艦はケベ』とありますが、おそらく通信中に撃墜された模様です。」
「久々の大物じゃねえか。やってやるぞ。」
 艦長の顔に久しぶりにやる気が見られた。
「しかし、パルラヴェント諸島沖となるとダカールのすぐそばですな......そんなところを大船団が......。」
 航海長は敵の位置を見ながらぽつりと言った。
「俺たちもナメられたもんだな。血祭りにあげてやる。モビルスーツ発進用意、パイロットはコクピットで待機せよ。」
「敵はミサイル巡洋艦ですが?」
「だからこそ、モビルスーツが必要だ。」

 ドブラ小隊はモビルスーツ隊機命令が出された。今回の相手はミサイル巡洋艦である。ミサイル巡洋艦の排水量は一隻2万トンクラスの大物だ。仕留められれば大戦果である。
「敵のミサイル巡洋艦は味方の通信より『ケベック』『テネシー』『スーチュワン』の3隻と推定されている。こいつらは水上への火力は絶大だが水中への火力は駆逐艦よりも弱い。ソナーは優秀でも奴らが俺たちに決定打を与えるのは難しい、よって彼らに対し高速で接近し、魚雷を左舷から叩き込んで一気に転覆させ、壊滅させる。」
 ドブラが無線で小隊員に作戦内容を伝える。
「敵もわざわざ対潜任務にミサイル巡洋艦とは、切羽詰ってますなあ。」
 グランデ軍曹はやはり強気の発言だ。
「フォークト技師殿、今回は魚雷大丈夫でしょうな?」
「もちろんです。今度こそ機体の整備は万全です。」

 CICでは攻撃方針について議論していた。
「U-781が先陣を切って敵艦隊の先鋒を攻撃したようですが、どうやら敵の攻撃を受けているようです。」
 通信長が読み上げる。
「ケムニッツか......あいつはどうも気に食わん。大尉で艦長ってのも腹が立つ。」
 ケムニッツ大尉は若く、しかも大尉にもかかわらず艦長に任命された。これは潜水艦艦長を任せられる人材が不足していたというのも大いにある。ケムニッツは決して無能ではないが、若く判断能力に劣っているところがあるとプラコッテは感じていた。
「U-781より、『救援求ム』です。」
「これはまずいことになった.......。モビルスーツ隊、全機出撃せよ!!」
 やっと巡ってきたこのチャンスでゴボが活躍すればこれほどまでに美味しいことはないとフォークトは感じていた。だからこそ機械的な問題が起こらないことをひたすら祈るしかなかった。

「ドブラ中尉、出撃です。」
「よし、ドブラ小隊、出撃!!」
 そう言ってドブラがスロットルを全開にすると、ゴボはそれに応えて急加速を見せる。一気に海面まで飛び出しかねないので手足のスラスターを上手く使って方向転換し、水平航行へと移った。
「味方の潜水艦U-781が攻撃を受けてるらしい。よって我々はU-781を救援する。」
「ついにモビルスーツの本領発揮というところですな!」
 グランデ軍曹は戦場の雰囲気が好きなのだろう。命を取るか取られるか、そういう場面でこそ力を発揮する男だ。
「事態は一刻を争う、よってこのまま100ノットで巡航し、一気に敵のミサイル巡洋艦を叩く。」
 ソナーは前方に大量のスクリュー音が存在することを教えてくれていた。これは間違いなく標的の敵艦隊である。
「大型のスクリュー音が12個、艦隊を離れている。これがおそらく標的のミサイル巡洋艦だろう。まず先頭の艦を叩く、いいな?」
 敵のミサイル巡洋艦は単縦陣でU-781の方向へと向かっていた。先頭の艦を叩いてまず混乱させ、その後他の艦を叩く、これがドブラの戦術だった。

 ミサイル巡洋艦ケベックでは後方から接近している音源8つをすでに探知していた。
「音源8つ、先日確認されたジオン軍新型モビルスーツ『ルーシー』の可能性があります。速力100ノットで接近中。」
 ソナー員が報告すると、艦隊司令はニヤリとしてこう言った。
「モビルスーツ部隊、全機出撃させろ!!」
 わざわざ潜水艦に対して弱いミサイル巡洋艦がこの輸送船団を護衛していたのは当時最新兵器であったモビルスーツを投入するためであったのだ。

「隊長、前方で爆雷投下音と思しき音を探知!!これは.......なんでしょう?」
 グランデ軍曹が報告してきた。ドブラ中尉も不審に思い、その音源に近づくほどに不安が増大した。そしてその不安は的中した。
「連邦の......モビルスーツ!?」
 音源を肉眼で捉えた時、ドブラは驚愕した。人型兵器......あれは間違いなくモビルスーツである。全体に四角い形状、青い塗装、手足がある......紛れもないモビルスーツである。それはRGM-79M、ジム簡易水中戦仕様と呼ばれるモビルスーツであった。当時生産が開始されつつあったジムを防水処理とバラストタンクの増設、水流ジェットへの換装、武装は90mmマシンガンのみで簡易的に水中で使えるようにした機体であり、製造数は50機と多くなかったが、シーレーンの防衛のために連邦海軍が運用を始めていた。
「連邦がモビルスーツを投入していたというのは事実なんですな。」
 グランデ軍曹は他人事のように言ったが、対モビルスーツ戦闘というものをジオン軍パイロットというのは学んだことがない。
「どうします小隊長!?」
 ロバタ兵長は明らかに動揺していた。
「関係ない。ゴボを信じてやるだけだ。」
 カンタガロ一等兵は討ち気にはやっている。
「小隊各機、連携を密にしろ。編隊を維持したまま単縦陣で俺に続け!!ゴボの機動性を生かして奴らを翻弄すればいいんだ!!」
 パイロットそれぞれの技量や経験は対モビルスーツ戦闘では活きづらいことを考えれば、編隊戦闘を徹底して連携で攻撃するしかない。
 敵のジムは6機、単横陣で浅海域にとどまっていた。彼らは動かず、こちらが向かってくるのを待っている。ドブラはまず敵の動きを見るため、ジムの編隊の周りを60ノットで周回しながら様子を見ていた。ジム部隊は牽制にマシンガンを撃って来、それが二発命中を確認したがいくら水中専用弾を使っているといえども、所詮は通常兵器で貫通することはなかった。
「奴ら、ずっと固まってやがる。水中での性能はゴボの方が上だ!!」
 ロバタ兵長が編隊に突撃し、左端にいたジムに魚雷を斉射、ジムが魚雷を回避したところに加速して蹴りを入れた。外殻が破壊され、水圧に潰されたジムは海中深くへと沈んで行った。
「兵長!!勝手なことをするな!!」
「問題ありません!!こんな奴ら、すぐ撃墜して見せますよ!!」
 直後、ロバタの機体はジムの一斉射撃を受けた。いくらマシンガンといえど至近距離で5つのマシンガンから攻撃を受けたゴボは流石に耐えられなかった。
「小隊長、申し訳あ...ませ...でし......。」
 無線は途切れ途切れになり、機体は海中深くへと沈みながら爆発して行った。
「クソ!!クソオオオオオオオオオ!!!!」
 グランデ軍曹は取り乱している。戦場で部下を失うことは初めてではないが、この海中で撃墜された場合まず骨を拾うことすら難しい。喪失感がそれぞれのパイロットを蝕んだ。
「勝手な真似はするな!!絶対に俺の後ろをついてこい!!」
 ドブラは命令を徹底させた。慢心、傲り、そういったものが彼の喪失につながった。
「小隊の2機は通常魚雷、牽制射!!俺が突撃する!!」
 2機が魚雷を4本発射すると、ジムたちは回避しようとバラバラになった。しかし磁気信管が作動し2本の魚雷が炸裂、バブルジェットでジムが1機真っ二つに引き裂かれ、爆散した。そしてドブラは逃げ惑っていたジム1機に接近し狙いを定めた。
「スクリューはこうやって使うんだああああ!!!!」
 ドブラは右腕のスクリューをフェザリングに設定しそれをジムの顔面から上半身にかけて押しつけると、ジムの上半身はズタズタに引き裂かれ部品とオイルが海中に飛び散り、無惨に撃破された。
 さらにドブラは別の機体に目を付けると足のクローでジムの腕を掴み、海中へと引きずり込んだ。簡易的な装備しかつけていないジムは安全潜航深度を超え水圧により圧壊した。
「ゴボの性能をナメてもらっては困る!!」
 深海から急浮上しながら100ノットでジムに体当たりをするとジムの足がもげ、身動きが取れなくなったジムに魚雷を撃ち込んでこれを撃破した。ドブラはそのままミサイル巡洋艦スーチュワンに体当たりし、スーチュワンの船体は真っ二つに裂けて沈み始めた。
「小隊長、指示を!!」
 グランデ軍曹からの無線で我に帰った。敵を撃破するべく必死に戦うあまり、部下を置いてきぼりにしてしまっていた。残りのジムは1機である。ドブラがこれを撃破しようとすると、ジムのパイロットは救命艇に乗って脱出、機体を放棄した。4機のモビルスーツで6機と戦い、5機撃破1機を戦闘不能にしたものの、貴重なゴボ1機とパイロットを失ってしまうこととなった。
 艦載機を失ったミサイル巡洋艦などもはやモビルスーツの前では敵ではなく、ミサイル巡洋艦も全滅させたところで母艦からの帰投命令が来た。
「艦長、まだやれます!!」
「あとは無防備な輸送船しか残っておらん。あとは味方艦隊に任せて帰投しろ。よくやった。」
 1機を撃墜され、1人のパイロットを失って「よくやった」と言われたことがどうしても心の中にわだかまりを感じてしまった。
「ドブラ中尉、やりましたね、初戦果ですよ!!」
 フォークト技師も興奮気味だったが、ドブラの雰囲気を見て落ち着いたようだった。
「ドブラ中尉、お疲れ様でした。」
 その後の海戦はまさにフィーバータイムで、敵艦隊を見事に全滅させ、これは第三潜水艦隊史上最大の戦果となり、この海戦は「パルラヴェントの悲劇」として後々まで語り継がれることとなる。

7.ドブラよ永遠に

 ドブラ帰還後の艦内はお祭り状態だったが正直そのお祭りに参加する気には全くなれなかった。夕食は限りある食糧の中で最大限の贅沢と言ってもいい内容で、皆が勝利の美酒に浸っていた。一通りお祭りが終わり士官室でゆっくりしていると珍しく艦長がやってきた。艦長はいつも忙しく、睡眠時間もまともに取れないようだ。
「中尉、兵長の件は残念だったな。」
 艦長らしくもない労りの言葉が出てきたことに驚いた。
「申し訳ありません、気を使わせてしまって。」
 艦長に気を使わせるほど自分が落ち込みがバレていることに申し訳なさすら感じた。
「戦争です。犠牲はつきものですから、仕方ないです。」
「あまり無理はするものじゃない。いつだって部下の喪失はつらいものだ。」
 初めての艦長からの労いの言葉に、ついに家族として受け入れてもらえたという実感がドブラに湧いてきた。
「ところで、艦隊司令のペリエール少将のことですが。」
「なるほど、その話か。」
 そう言って艦長はペリエール少将の話をし始めた。ペリエール少将は連邦海軍で潜水艦乗りとして実績を重ねていたが、次第に連邦上層部の腐敗が目に余るようになり、改革派のレビル将軍と協調姿勢を歩んでいた。しかしレビルは連邦陸軍の将校であることからペリエールは海軍内部で次第に鼻つまみ者扱いになり海軍兵学校の教員に追いやられ、12年前に起きた授業中の練習潜水艦の不可解な沈没事故の責任をとって退官、サイド3に移住したらしい。
「不可解な沈没事故とは?」
 不可解な事故という言葉はよく使われたりするが、実際には不可解ではなかったり、都市伝説だったりするものだ。
「練習用の魚雷がなぜか本物の魚雷に交換されていた上、それがなぜか整備不良で爆発、誘爆して死人が出た。出港前に備品の確認を怠った艦長の責任ということになっている。」
「そんな......。」
 言葉を失った。軍内部の権力争いのために実際に死人まで出るような事故を起こすというのは信じられない話だ。
「ペリエール少将は鬼だ。連邦を討つための鬼になった。この間の病院船の一件も事前通告なしで動いている病院船など何かやましいことをしているに違いないと、司令は思ったんだろう。例え傷病兵が沈もうとも、上層部が汚いことをやっていることが司令には許せないのだ。」
「実際は何もありませんでしたが......。」
「それだって、行き先は隠蔽していたらしいじゃないか。あの病院船の問題行動を見つけられなかっただけかもしれない。」
 それもそうだ。ペリエール司令のやり方が正しいかどうかはともかく、司令はとにかく抜け目がないのだ。

 フォークトがモビルスーツサイロでゴボの整備をしていると、ドブラが様子を見にきた。。
「ロバタ兵長の件、残念でした。」
 フォークトは頭を下げた。
「なに、戦争をやってるんだ。しょうがないさ。頭を上げてくれ。」
 ドブラ中尉はそう言ったが、顔には疲れが見える。
「ゴボの装甲は十分にあると思っていましたが、流石に近距離でマシンガンをあれだけ撃たれれば、というところが見込みの甘さでした。」
「君の問題じゃない。部下をコントロールできなかった自分のミスだ。」
 そう言ってドブラ中尉は下に降りてくるように手招きすると、一緒にタバコを吸うように言ってきた。タバコをあまり吸わないフォークトだったが、今回はもらっておくことにした。フォークトとドブラの間に会話はなかったが、意思疎通ができていないわけではない。互いに無言だったが、互いの決意は固まった。やるべきことをやる、それしかないのだ。

 10月29日、0930時にU-781が「民間船舶ヲ発見、臨検スル」との通信を発信、相手は輸送船一隻の模様で艦隊を出すほどの相手ではないとして単艦で臨検に向かった。
「何か嫌な予感がする。」
 艦長はそうポツリと呟いた。
 約30分後、嫌な予感は的中した。U-781より「我敵艦ニ攻撃サル。緊急支援ヲ求ム。」との通信が入り、U-781に近い位置にいたU-952は艦隊司令より「U-952ハ直チニU-781ノ救援及救助ニ向カウ可シ。」との命令が下った。
「参ったな......。」
 艦長は困ったように声を出し、モビルスーツ隊に出撃待機を命令した。
「ケムニッツ大尉が気に食わないからですか。」
 副長が艦長に問うた。
「それもあるが......。」
 艦長ははっきりしない物言いを続けていた。

「ドブラ中尉、今回はU-781の救援任務です。敵との交戦は避け、偵察のみに務めてください。」
「U-781って、隣駅じゃないか。我々は今すぐ急行しなければならない。」
 敵を撃破しなければならないわけではないが、友軍を救援するため馳せ参じなければならない。
「こんな任務、本当に我々が担当すべきなんですか?」
 カンタガロ一等兵は先日の兵長撃墜もあってかいつもよりも落ち着いていたが、任務の内容には疑問があるようだ。
「味方は助けられるものなら助けなければならない。潜水艦は沈められたらまず助けるのは難しい。助けなければいけないんだ。」

 U-952は艦載機全戦力のゴボ3機を出撃させた。
「80ノットで巡航だ。U-781が最後に確認されたポイントへ向かう。」
「しかし、U-781の信号はもう...。」
 海図には既にU-781の信号は表示されていない。既に撃沈されていてもう間に合わないのではないか、という不安はドブラにもあった。しかし、それでも可能性を信じてただ向かうしかない。藁にもすがる思いだった。
「前方に音源、2軸。速力12ノット、輸送船です。」
 グランデ軍曹が報告してくる。船のサイズはおそらく5000トンクラス、そこまで大きい船ではない。
「例のアレだな。調べるぞ。」
 そう言ってドブラは潜望鏡を上げ水上の様子を確認した。5000トン級の輸送船はこのご時世においてかなり小さい輸送船である。そんな船がなぜかこの大西洋のど真ん中を「コロニー公社」の旗を掲げて航行中という不思議である。
「例の船舶を発見。コロニー公社の輸送船ですが小型で怪しい匂いがします。どうされますか?」
 とりあえず深さ10m以内を維持しながら同航し、ドブラは艦長に指示を仰いだ。
「コロニー公社と謳っている以上、攻撃は厳しい。停船させ、臨検せよ。」
 やっぱりそういうだろうなと思っていた。どれほど怪しかろうが、民間船舶である以上はそれ以上の選択はできない。信号弾を打ち上げ、停船を要求すると輸送船は指示通り停船した。しかしその直後のことだった。
「小隊長、魚雷発射管が開いたと思しき気泡音!!」
 グランデ軍曹からの報告を聞いても、何を言ってるのか全くわからなかった。しかしドブラが船の方を見ると、コロニー公社の船旗が下げられ、連邦海軍の軍艦旗が上がり始めていた。
「囮船だ!!!」
 ドブラは無線機に向かって叫んだが、間に合わなかった。輸送船水線下より放たれた4本の魚雷はグランデ軍曹の機体を直撃し、大きな爆発は水柱となって吹き上がった。
「中尉、申しわ......。」
 彼からの通信は途中で切れてしまった。
「小隊、散開せよ!!」
 といっても、もう小隊の残存戦力は2機しかいない。
「艦長、囮船です!!この船は民間船舶を装った偽装艦船です!!」
「火力支援が必要な時は言ってくれ。」
 U-952はこちらへ向けて変針したようだ。
「なんて卑怯な!!地球連邦のクズどもめ!!」
 カンタガロ一等兵は怒りをぶつけていた。
 連邦海軍は潜水艦対策法に困っており、ついに第一次世界大戦時に戦果を上げていた囮船、Qシップを戦場に投入することにした。沈められても痛くない輸送船をどうしようもない見た目の輸送船に改装し、搭載武装を秘匿した上で関係のない旗を立てて敵を接近させ、旗を交換して交戦規定に違反しないように敵を騙し討ちする。U-781はその魔の手にかかり、そしてグランデ軍曹も犠牲となった。

「モビルスーツ隊、出撃だ。」
 Qシップ艦長が命令すると、船倉からモビルスーツがクレーンで引出され、水中へと投下される。そのモビルスーツは地球連邦の新型、アクアジムであった。

 水中に水音が響き渡ると、天界から人型兵器が降りてきた。それは以前交戦して撃破したモビルスーツに似ているようで、もう少し機体の構造が強化されたように感じられた。
「フナムシごときが、ごちゃごちゃうるせえんだよ!!」
 一等兵は制御が効かなくなりそうな状態であった。彼をなんとかして抑えて冷静さを取り戻させねばならない。
「この間のモビルスーツとは違う!!本物だ!!しっかり俺についてこい!!」
 ドブラは無線に向かって叫ぶと、単縦陣で敵モビルスーツ2機の動きを見た。前回のモビルスーツは水中での機動力に問題があるのか自分から積極的に動いてこなかったが、奴らは水中での運動性には問題がないようで我々の動きに追随してくる。前回のモビルスーツは深海域での性能に問題があったことを考えれば、深く潜って有利な位置を取るというのも悪くない。ドブラはゴボを一気に深海へと向かわせた。

「事前に聞いていたより速いな...。」
 新型の水陸両用モビルスーツを受領したにもかかわらず、それ以上の性能を誇るジオンのモビルスーツに彼らは舌を巻いていた。
「奴が潜りやがる!!俺たちも追わないと母艦がヤバい!!」
 アクアジム2機もゴボを追って深海へと向かった。

 深海の水圧の中でもゴボは素晴らしい機動性を発揮していた。連邦の新型モビルスーツといえど、この深海での性能はゴボに勝てるはずがない。
「隊長、このまま逃げていても射角が取れません。なんとかして魚雷の射角を取らないと......。」
 ゴボの魚雷発射管は両肩であるから、なんとかして姿勢を変更して魚雷を撃たねば攻撃ができない。ドブラは機体を反転させ後ろ向きにすると両腕を突き出した。両腕のスクリューだけで後ろ向きに走りつつ魚雷を撃つのだ。
「水中高速魚雷を食らいやがれ!!」
 そう言って魚雷を発射すると水中高速魚雷はロケットモーターに点火、水中を切り裂きながら進んだ。それを確認するとドブラはまた通常姿勢に戻し一撃離脱を図った。

「魚雷だ!!回避!!」
 アクアジム2機は巧みに魚雷を回避した。
「奴ら、前向きにしか魚雷が撃てねえんだ。魚雷を撃とうと後ろ向きになった途端速度が落ちやがる。あいつは攻撃しようとした時が一番脆い。」
「それならいい手がある。」
 アクアジムの小隊長はほくそ笑んだ。

 魚雷は外れたようだ。現在の深さは500m、ゴボの安全潜航深度である。
「隊長、安全潜航深度です!」
「まだだ、もう少し!!」
 ゴボを信じるしかない。ゴボは500m越えたぐらいでへこたれるようなモビルスーツじゃない。

「無理です、もう安全潜航深度はとっくに越えてます!!」
 すでに機体内部への浸水を警告する警報が鳴り響いていた。ジムはもう限界だった。
「奴が魚雷を撃つのを待つんだ、そこにチャンスがある!!」

「もう一度、もう一度だ!!」
 ドブラは先ほどと同じように魚雷を発射しようとした。

「奴め、かかったな!!」
 またも飛んできた魚雷をかわすとアクアジムの一機が腕からアームが伸び、そのアームはゴボの腕を掴んだ。
「アンカーハンドだ!!」
 そう言ってアンカーハンドを縮めると、モビルスーツが釣り上がった。

「やられた!!」
 ドブラが叫んだ。機体はどんどん敵機へと引き寄せられていく。なんとかして方向転換し逃げようとするが、腕を掴まれていては逃げられない。
「隊長!!援護します!!」
 一等兵が援護を申し出るが、ここで援護をされては自分もろとも撃破されかねない。なんとかしなければという焦りだけがあるが、もうどうにもならない。気づけば敵の機体はもう眼前に迫っていた。殺される、と思った瞬間、赤色の閃光がディスプレイに映り、コクピットを貫通した。
「隊長ーーーーーー!!!!」
 一等兵の叫びだけが海の中で響きわたった。

「スペースノイドが、神聖な地球に降りてくんじゃねえぞ!!」
「一生宇宙で暮らしてなゴミどもが!!」
 しかしアクアジムの浸水はもはや限界だった。バラストタンクの水を直ちに排出して浮上しなければ。しかし背後から飛んできた魚雷は300ノットもの高速でアクアジムの腹部を貫通、ジムは真っ二つに引き裂かれた。

「魚雷は二本ありゃ十分だ。」
 カンタガロ一等兵はそう呟くと、疲れからか全身に力が入らなくなっていた。
「カンタガロ一等兵、直ちに帰投せよ。」
 全てを失った彼は、ただヨロヨロと帰るしかなかった。地球に降りてからこの方、ロクなことが何もないと思っていた。しかし、戦い方を教えてくれ、軍隊での居場所を教えてくれたドブラ小隊の全滅という結果はあまりにも虚しい。彼は慟哭していた。

「魚雷戦用意!敵艦方位140、距離6400、アングルオンザバウ右70度、速力10ノット。」
「魚雷発射管1番から6番まで発射用意!!」
「1番から6番まで発射用意完了!!」
「1番から6番まで注水用意!!」
「1番から6番まで注水完了!!」
「1番から6番まで前扉開け!!」
「魚雷、発射!!!!」
「ってーーーー!!」
 放たれた6本の矢は潜水艦搭乗員全員の様々な感情を内包して囮船へと向かった。そしてその4本が命中した。所詮弱小の輸送船にそれだけ当たればまず助かる見込みはない。
「弔い合戦、終わりだ。」
 艦長には珍しく、感情的な物言いだった。

8.凪いだ海

 U-952は艦載モビルスーツのほとんどを喪失したことを受け、ダカールへの寄港と補給を命じられた。カンタガロ一等兵は作戦期間を終えたこともあり一度サイド3へと帰ることとなった。フォークト技師もゴボの調整は完了し、最終調整後のゴボが量産機として決定したことを受けサイド3へと帰ることとなった。

「今までありがとうございました。」
 ダカールから宇宙へと帰るシャトルの中には二人しかいなかった。
「このようなことになって、本当に申し訳ありませんでした。」
 フォークトは謝ってしまった。
「なぜ謝るんです?私はゴボのおかげで戦果を上げることができましたし、おかげで上等兵にもなれました。フォークト技師殿には感謝しています。」
「でも私がもっとちゃんと仕事をしていれば、と思うことは毎日あります。」
「そんなことはありませんよ。立派に仕事をしてくださいました。おかげで僕も軍の中に居場所を見つけることができました。」
 カンタガロは素直な感謝の言葉を述べた。
「それに、無鉄砲で馬鹿だった自分をみなさんが一人前の軍人にしてくださいました。本当にありがとうございました。」
 フォークトはサイド3帰還後、ゴボの実戦運用報告書を提出、スウィネン社、そしてのちのアナハイム・エレクトロニクスのエンジニアとして実績を重ねていくこととなった。
 カンタガロ上等兵はその後も海兵隊として水陸両用モビルスーツに搭乗したが、ゴボに乗る機会は2度となかった。宇宙世紀0079年12月10日、北アフリカ戦線ダカール基地にて宇宙へ脱出するジオン兵を守り続けて連邦軍の捕虜となり、戦後サイド3へ帰還。最終階級は兵長だった。

 U-781の撃沈、U-952の戦力喪失を受け第三潜水艦隊は戦力が大幅にダウン、ウルフパックを実行できるだけの戦力を失った上、連邦海軍のさらなるテコ入れもありU-139、U-952も撃沈。12月1日に第三潜水艦隊は解散、ダカールから宇宙へと帰還した。

 正式採用されたゴボであったが生産機数は55機と少なくとどまった上、運用データから「前線での運用には不適」とされ後方部隊での運用が中心であった。数少ない実戦運用としてその後も第三潜水艦隊はゴボ2機を偵察機として運用し続け、一機は撃墜されたもののもう一機はダカール基地から宇宙への脱出の際に放棄され、連邦軍に回収された。

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第三潜水艦隊所属偵察用ゴボ

 ジオン海上警備隊は武装が弱く威嚇にはちょうどいいということでゴボ8機を警戒用モビルスーツとして運用した。

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海上警備隊用ゴボ

 また海での遭難や捜索用の機体として40機が投入され、主に北海などでのパイロットなどの救出任務に投入された。

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遭難・捜索用ゴボ

 その後ジオン公国は12月31日に敗戦を迎え、水中専用モビルスーツゴボは多くが地球連邦軍に回収され様々な実験などに運用された。しかしその上で「水中専用モビルスーツはあまりに運用局面が限定されており開発する意義は少ない」として、ゴボの後継機に当たる機体の開発は未だ行われていない。

9.脚注

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登場人物

10.あとがき

 知人のガンダム好きな皆さんと通話していたらなぜか完成していた「ゴボ」という機体について、妄想を膨らませすぎた結果45000文字もの長編になってしまいました。本当は長くても2万文字ぐらいにしたいと思っていたのですが......。ともあれ、とりあえず書き終えたのでこの2週間ぐらいの懸案事項が一つクリアできてよかったです。

最後まで読んでくれた皆様、ありがとうございました。

サポートしてくださると非常にありがたいです。