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世界三大バカ戦艦 : アラスカ

 「そもそもこれ戦艦じゃなくて巡洋艦扱いじゃねえか」みたいなツッコミはやめてください。こんなものは実質巡洋戦艦ですから。まあそんなわけで最近リスナーと「戦艦大和は世界三大バカ発明なのか」という議論をしていたわけなんですが、僕は戦艦大和は日本海軍が建造してきた戦艦の正統発展型、今までの積み重ねの延長線上に大和が存在していると考えていて大和自体に明確な欠点はないと思っていて、そして当時の世界情勢など考えれば大和の建造は妥当であると思っています。

 まあそういう話はざっくりこの辺に書いてるんで一応。ちょっと今思うと情報量少な目でもうちょっと書きたいことないこともないけど。

 それでじゃあ駄作戦艦って何だろうなっていろいろ考えてましたが、シャルンホルストとかビスマルクとかドイツ戦艦ばっかり思いついちゃうのが本当にアレでいろいろ考えた結果思いついたのです。「アラスカがいるじゃないか」と。ということで今回は大型巡洋艦アラスカがなぜ失敗したのか、なぜ駄作艦艇になってしまったのかについて書いていきます。

概要

勘違い

 そもそもこのアラスカという軍艦は何なのか。始まりは勘違いだった。アメリカ海軍は仮想的である日本海軍が「秩父型大型巡洋艦」なる軍艦を建造しているらしいという噂を掴んだところからはじまる。これはドイツのポケット戦艦に影響されたと思われる軍艦で、排水量15,000トンと重巡洋艦に毛が生えたようなサイズで、主砲は12インチ、30cm砲を3連装6門とこれもポケット戦艦に近い性能の軍艦です。もし日本海軍がこの軍艦を運用した場合それなりの機動力で太平洋を縦横無尽に動き回り、日本の優秀な巡洋艦や駆逐艦戦力とともに輸送船団を攻撃しまくりアメリカの通商ルートを破壊される可能性が出てきた。
 15,000トン級の軍艦では普通の巡洋艦戦力では対抗できない。そしてその火力で巡洋艦戦力を駆逐するという恐れが出てきた。このレベルの軍艦に対抗するためには戦艦を引っ張り出す必要があるが、アメリカ海軍の戦艦は21ノットと低速の戦艦揃いでおそらくそれなりの機動力を発揮するであろう秩父型に対抗するためにはある程度の数を配備し網を張る必要があった。期待の新戦艦たちがやっと27ノット級の性能を発揮し対抗戦力として使えるが彼らは16インチ、40cmという巨砲を搭載した戦艦であり、ただのポケット戦艦に対抗するにはあまりにもコスパが悪い。そしてそれら主力艦艇がポケット戦艦の対処に動いている間に日本海軍の主力艦隊が暴れまわった場合、アメリカ海軍には対抗手段がないのだ。
 つまりドイツ海軍がポケット戦艦を配備した状況に非常に酷似してきたのだ。ドイツがポケット戦艦を建造した結果そのポケット戦艦に対抗するため機動力の高い巡洋戦艦ダンケルクを作らねばならなくなったのである。

 ダンケルクにはダンケルクの問題があり、まあその問題についてはここにまとめてあるんでまた読んでいただきたいところではあるんですけれども。

 そんなわけでアメリカ海軍もまた日本海軍のポケット戦艦に対抗するために「大型巡洋艦」などという新たなカテゴリーを作り、日独ポケット戦艦に対抗できる軍艦を早急に整備する必要ができたのである。
 しかし実際には日本海軍はそのような軍艦は作っていなかった。すべてはアメリカ海軍の勘違いだったのだ。

計画開始

 15,000トン級の軍艦に対抗するために必要な性能とは何か。同じレベルの性能の軍艦を作ったところで互角では勝ちきれない。相手に勝てるためには性能で確実に上回る必要がある。よって設計は拡大し30,000トンクラス、主砲は12インチ、30cmクラスの戦艦として設計が進んだ。最終的には27,500トン、12インチ砲3連装3基9門、速力33ノットというところで設計がまとまり、6隻もの建造計画が決まった。結果的に完成したのは2隻のみにとどまり残りの4隻は1942年に建造の中止が決まった。

 アラスカ級の主砲に採用されたのは新たに開発された12インチ50口径砲Mk.8であった。これは第一次大戦前に建造された弩級戦艦ワイオミング級に搭載された主砲Mk.7の改設計型であった。主に主砲の軽量化が行われ、発射速度の向上などが果たされた。さらに米軍が採用していたSHS、超重量弾による遠距離での水平装甲貫通能力向上が最大の改良であり、これによって当時としては小口径の主砲ながら貫通能力を確保し戦艦の主砲として十分な性能を確保した。
 機関出力は15万馬力と戦艦大和と同じレベルの出力を発揮する機関を搭載、速力は33ノットを発揮するとされていた。
 さらに防御性能に関しては傾斜装甲などの採用、アメリカ新戦艦の開発で培われた技術をもとに堅実な設計で対12インチ防御を施された。
 艦の設計もアメリカ新戦艦を踏襲した設計であり、戦艦として最先端の技術が投入されたものであった。

 これらの設計により日独が装備していたポケット戦艦を確実に打破できる火力とそれらを上回る機動力と防御力を手に入れ、ドイツ海軍のシャルンホルストやダンケルクといった巡洋戦艦戦力にも対抗できる軍艦として設計はまとまったのであった。

在りし日のアラスカ

失敗

 しかしアラスカは失敗した。運用上の問題点も多々報告されているだけではなく、性能的設計的問題も多々抱えていた。これらについて一つ一つ評価していきたい。

主砲

 まず新設計の12インチMk.8砲について。この主砲はSHSの採用により性能をブーストされその火力は12インチ砲を上回る性能を発揮した、とされている。実際にSHSを採用した場合の貫通力について見ていく。

 零距離での垂直装甲に対する貫通力では旧式のMk.7が643mmに対しMk.8では622mmと減少している。これはSHSによる弾速の低下により運動エネルギーが低下したことが原因であり、SHSのデメリットであるともいえる。しかし戦艦とは近距離で撃ち合うものではなく、また側面の垂直装甲を撃ち抜くには双方の姿勢の問題もあり常に理想的な角度で撃ち合えるとは限らない。だからこそ遠距離での水平装甲貫通能力こそが戦艦の戦闘力において重視されるべき性能である。
 13,000m近辺での水平装甲貫通能力ではMk.7が38mm、Mk.8が54mmと大幅に貫通力の差が生まれている。Mk.7が16,000mで51mmを貫通するのに対しMk.8では77mmの貫通力を発揮、遠距離での砲戦能力では新型砲に圧倒的に分があるということが理解できると思う。
 一方で小口径とSHSの採用により射程距離は短く、35,000mが最大射程という射程の短さを抱えていた。32,000mでは射程距離の限界という点はありつつも水平装甲貫通能力は187mmと絶大で、当時の戦艦の主砲として十分な貫通能力を持っているという評価もわからないでもない。

 しかし実際にアラスカが遭遇する可能性があった日本海軍の軍艦と比較してみた場合を見てみる。アラスカと同じく高速の戦艦であった金剛級の主砲であった36cm砲と比較してみる。
 金剛の主砲は18,000m近辺で垂直353mm、水平76mmという貫通力を発揮した。一方のMk.8は同323mm、77mmと同程度の性能を発揮する。しかし18,000mという交戦距離は戦艦としては近距離寄りである。27,000m近辺では36cmは262mm、137mmに対しアラスカは231mm、130mmとやはり36cm砲とほぼ同程度の性能を発揮、やはり第一線級の性能を発揮していると言える性能ではある。
 アラスカ級の主砲は36㎝と比較し二回りも主砲口径が小さいにもかかわらず性能はほぼ同等というマジックが働いている。ここには何のトリックがあるのか。SHSを発射した際の砲弾の初速はMk.8において762m/sとなっており、SHSを発射している割には弾速が速い。Mk.7の弾速は884m/sと実際弾速は低下しているものの、例えば16インチ45口径砲がSHSを発射した際の弾速は701m/sと遅い。つまりアラスカ級の主砲に関してはSHSという非常に重い砲弾を長砲身の主砲で高速に発射することで格上の主砲に対抗しているということがわかる。
 SHSは主砲弾が長くなることによる弾道特性の悪化があり、砲弾の散布界が拡大し命中率が下がるという問題を抱えている。さらにそれを高初速で射出することによりさらなる命中率の悪化という問題を抱えていた可能性は高い。実際にアイオワ級戦艦が同じような設計の砲を搭載していたが主砲に関しては前の主砲の方が優れていた。
 アラスカ級の主砲の高性能はこういった設計の上に成り立った性能であったことは留意しておく必要があるものと思われる。もちろん性能は36㎝に対抗できる性能であることも認めねばならない。

防御性能

 アラスカの装甲は舷側最厚部で229mm、テーパーして127mmと戦艦として装甲は薄い。甲板の装甲は102mmで当時の戦艦が150mmクラスの装甲を持っていたことを考えるとやはり薄いという点は否めない。
 日本の重巡洋艦と対戦した場合の耐弾性能を考慮すると舷側装甲229mmは10,000m圏内に接近されなければ貫通されないので十分な性能を持っている。甲板装甲に関しては100mmの装甲を撃ち抜ける巡洋艦主砲はなく、まず巡洋艦と対戦する場合においては相手を完封できる攻防性能であることは確実。
 12インチ砲を食らえば大概の巡洋艦にとって致命傷であることは確実で、対巡洋艦戦力としては文句なく最強の戦力と言える。

 仮想敵であり遭遇確率が高いであろう日本の高速戦艦金剛と比較した場合の攻防性能を考える。金剛の舷側最厚部は203mmと控えめな数値になっている。一方で金剛は水平装甲152mmと高速戦艦としては厚めの水平防御を持っており、非常に厄介な性能をしている。
 アラスカは金剛に対し27,000mより近距離で舷側装甲が危険域に達し、22,000m以上遠距離では水平装甲が危険になる。よって安全域は27,000m以遠または22,000以内ということになる。
 金剛はアラスカに対し舷側は33,000m以遠が安全域、水平装甲は33,000m以内が安全域となる。
 これらの性能を考えるとアラスカは金剛と交戦した場合には安全域が存在しないということになる。しかし軍艦は遠距離での砲戦からスタートする以上まずは遠距離砲戦に始まり、その点でアラスカは水平装甲が102mmしかないことからまず命中すれば貫通することは必至。金剛もアラスカの射程距離ギリギリであれば貫通することが予想されるが、30km圏内に潜り込まれればアラスカは水平装甲を貫通することができない。舷側装甲を貫通することは可能だが30kmでは落角が34度と角度的に舷側に命中弾を期待することが難しい。これらの条件により金剛の方が有利に戦闘を運ぶであろうことが予想される。

 例えばダンケルクと比較した場合もアラスカの安全域は40,000m以遠または28,000m以内と全くかみ合っておらず、一方ダンケルクの安全域は23,000m以遠または32,000m以内、つまり23km~32km圏内ではダンケルクが一方的にアラスカを殴り続けられるという状態であり、圧倒的不利と言わざるを得ない。

 さらに金剛やダンケルクといった戦艦はあくまで日仏の主力艦ではなく機動力のある高速戦艦であることを考えれば、本物の戦艦に出会った場合アラスカはなすすべなく撃破されるということは確実である。

機動力

アラスカの細長さが伝わるかと思われる

 アラスカ最大の特徴はその機動力で設計上33ノットは出せるということになっていた。実際に動かしてみたらそんなに高速ではないということが明らかになったが、ともかくも30ノット以上を発揮できる性能であることは明らか。
 しかし設計上巡洋艦を踏襲したことから船体が非常に細長くなり、舵の利きが悪く直進安定性が高すぎて曲がらないということが明らかになったようである。これは戦艦大和が船体を太くし過ぎて「タライを動かしているよう」と言われたのと対照的で、艦隊行動においても支障をきたしていたようだ。

 軍艦における機動力というのは戦略的価値が高まるものであり、アラスカはこの高い機動力で空母機動部隊にも随伴できるという高い価値を得た。しかし米軍にはすでにアイオワ級という空母に随伴可能な「本物の」戦艦があり、わざわざ二線級の戦艦であるアラスカを随伴させる意味は特にないという致命的な問題を抱えていた。

総括

 結局のところこのアラスカという軍艦は今まで説明してきたように金剛級戦艦と同程度の性能しか発揮できない軍艦である。金剛級が1910年代に建造された軍艦であり、30年にもわたって改装を続けてきたとはいえかなり旧式の戦艦であったことを考えれば新たに必死になって作った割には性能が低いのである。もちろん金剛と遭遇すればそれなりにいい勝負はするだろう、しかしいい勝負をする程度では戦力として物足りない。しかるにアラスカ級大型巡洋艦には「秩父型装甲巡洋艦」という本来存在しなかったはずの日本海軍の軍艦がいなければ存在価値が生まれなかったのである。
 もちろんアラスカ自体は攻防性能ともに3万トンクラスでは高くまとまっており、12インチ砲も無理をしているとはいえその性能は高く侮れない。しかし所詮侮れない程度の軍艦でしかなく、格下を確実にボコして格上には確実にボコられる存在でしかない。

 ドイツのポケット戦艦が成功した理由はそのサイズにあり、ポケット戦艦は1万トンそこそこというコンパクトなサイズに大火力を詰め込みそれなりの速度を出せることでコストパフォーマンスが成立していた。
 しかしアラスカやダンケルクはそのコスパ戦艦たるポケット戦艦に対抗するため3万トンもの巨体を得てしまい、その結果戦艦並みの建造費と運用コストを必要とする戦艦となってしまったのである。実際大和と同程度の機関を搭載していたことを考えるとアラスカはかなりコスパの悪い戦艦であったことは容易に想像できる。

 金剛がなぜ戦艦として有能だったかという点はとにかく大口径砲による貫通力の大きさに依存している。所詮12インチでしかないアラスカはたとえばほかの米軍戦艦戦力と協同して戦場に投入するということが難しい。一方金剛は36㎝と主砲口径が大きく、また日本海軍の戦艦が36cm砲搭載艦を多く抱えていたことからいざというときには金剛を戦艦と一緒に運用することも可能という柔軟性を抱えていた。
 アラスカが12インチではなく16インチ連装3基6門の火力を持っていれば戦艦部隊の一部として運用できたし、ワンチャン金剛を撃破するだけの可能性も持っていたはず。12インチという控えめな主砲で我慢してしまったことによって格上の戦艦を撃破する可能性を失ってしまったアラスカは格下キラー止まりの二線級戦力に留まってしまったと言える。

 日本海軍は昔から巡洋戦艦/高速戦艦といった戦力と戦艦などの主力艦の主砲を同じものを搭載してきた。それはいざというとき巡洋/高速戦艦も主力艦として運用し、またその火力的優位によって敵に対し優位に立とうという考えである。相手を撃破することのできない軍艦に存在価値はなく、相手を撃破するために必要なのはその火力なのである。防御力や機動力で相手を撃破することはできない、結局相手を撃破するのは火力なのだから。
 アラスカが格上の戦艦と出会う可能性は十分に考慮できた。実際日本海軍は高速戦艦金剛を使い勝手のいい駒として太平洋の隅々まで走り回らせていた。アラスカが運用される局面で金剛と遭遇する可能性は十二分にあったのだ。しかし彼女らに対してアラスカは決定打を持たない。アラスカ6隻の建造費用を使えばおそらく戦艦4隻ぐらいは最低でも作れるだろうと考えると、やはりコスパが悪い。

 結局のところ太平洋戦争時の日本海軍とかいう奴らが世界屈指の火力を持った巡洋艦を大量にボコボコ作ったせいでアメリカ海軍での日本海軍巡洋艦への根本的な恐怖が強まった結果このアラスカを作らせたと言っても過言ではないのではなかろうか。
 そして日本海軍が敗北したことによってその存在価値を失ったアラスカは戦後すぐに退役しスクラップとされてしまうのであった。

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