『太陽と、帰ってきた夜の話』 作/森下オーク


 燕尾服を着たおじさんが、太陽をもう1つつくろうと言いました。「太陽が2つあれば、夜も明るいです!」と言います。

 みんなは、それがよいことなのか、よくわかりませんでしたが、ぼんやりと考えている間に、2つ目の太陽ができました。

 2つ目の太陽のお陰で、夜は昼間のように明るくなり、子どもたちの遊ぶ時間と、大人たちの働く時間が増えました。

 燕尾服を着たおじさんが、太陽をもう1つつくろうと言いました。「太陽が3つあれば、夜は、もっと明るいです!」と言います。

 みんなは、それがよいことなのか、よくわかりませんでしたが、ぼんやりと考えている間に、3つ目の太陽ができました。

 3つ目の太陽は、昼間のように街を照らしました。けれども、みんなは2つ目の太陽ができたときのようには驚きはしませんでした。

 燕尾服を着たおじさんが、太陽をもっと、もっと、つくろうと言いました。「太陽がもっと、もっとあれば、夜は、もっと、もっと、明るいです!」と言います。

 みんなは、それがよいことなのか、よくわかりませんでしたが、ぼんやりと考えている間に、たくさんの太陽ができました。みんなの家の中にも、小さな太陽ができました。

 そうすると、夜がどこにもなくなりました。鶏は一日中鳴きっ放し、子どもは一日中遊びっ放し、大人は一日中働きっ放し、みんなは、眠ることを忘れてしまいました。

 みんなは、起きている時間がたくさん増えたので、大きな山を壊して丸めて、大きな乗り物や、空へ伸びるビルを建てたり、たくさんの絵の具を海にいれて、カラフルな色にかえて遊んだりしました。

 だけれども、一つも楽しくありません。眠ることを忘れてしまったので、とても疲れてしまい、いつもぼんやりしています。

 すると、燕尾服を着たおじさんが、宇宙旅行へ行こうと言いました。「宇宙には、極上の暗闇がありますよ!」と言います。

 みんなは、それがよいことなのか、よくわかりませんでしたが、なんだかそれがよいことのような気がして、宇宙旅行が大流行り。

 もう、何がよくて、何が悪いのか、わかりません。みんなはいつも疲れているので、しまいには何もしなくなりました。

 そんなある日、一つ目の太陽がポン!と爆発してなくなりました。すると、次から次に爆発し、家の中の太陽まで、ポン!と爆発してなくなりました。

 するとあたりは真っ暗闇。みんなは、目をキョロキョロさせるだけで、怖くて声もだせません。

 すると、小さな男の子がお母さんに訊ねました。「これが、夜なの?」

 お母さんは喜んで子どもに言いました。「そう、これが夜よ!」

 みんなも夜が帰ってきたことに気がついて、喜んでベットに入りました。

 夜が帰ってきたので、安心して眠りました。

(おしまい)

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