借金をしてでもSHElikesに縋りつきたかった今日のこと
「お母さん、お金貸して欲しいんよ。」
まさか自分の口からこんな言葉が飛び出るとは思わなかった。
誰が、こんなわたしを許してくれるだろうか。誰が、こんなわたしを抱きしめてくれるだろうか。わたしが、わたしを、許せる日がくるだろうか。
情けなくてならない。
恥ずかしくてならない。
こんなことを言う為に生きてきたはずじゃないのに、
こんなことを言う為に生きてしまった自分がみっともない。
27歳。親の財布から金を巻き取る姿があの頃描いた未来予想図にあっただろうか。霞み揺れる地面がじっくりと視界を覆っていく。ボロボロと溢れ出ていく涙を、誰よりも触れてきたぬくもりが掬い上げてこう言った。
「こういう時の為にお金はあるんよ。」
わたしの濡れた袖を掴んでローソンまで駆けた母の後ろ姿は死ぬまで忘れないだろう。涙で霞んだ天王寺駅のホームも、街を包み込むクリスマスソングも、わたしのことなど目も向けずにすれ違った人たちの姿も、もう何も思い出せないというのに。
ATMから引き落とした綺麗なお金を封筒に入れ「胸張りや。いくみの人生は、いくみの為にあるんやから。」と内側に曲がった娘の背中をパンと叩く。ジンと熱くなる痛みが忘れかけていた記憶を呼び起こし、残り少ない力を振り絞ってその眼差しを見る。そうだ。そうだった。その目に、その声に、その姿に、その強さに、わたしは27年間生かされてきたのだった。
汚れたローソンの店裏で土砂降りのように泣いた日。新しい道は確実に、見えない未来に延びたように思えた。わたしは、これで良かったんだ。わたしは、あなたの娘で良かったんだ。
自己紹介
27歳、夏生まれ。
ポケモンマスターになりたかった。かぶせて捕まえるための洗濯かごを持って歩いてはポケモンを探した。初めて捕まえたポッポが死んでしまった時、この世にはポケモンセンターが無く土に埋めるのが別れだと知り泣いた。
華の女子大生。
教育学部特別支援学科に進んだ。入学初日、幼稚園教諭と特別支援の免許を取りたいと話すわたしを「特別支援は小学校教員の免許と合わせて取るものだ。」と教授は強く反対し、それならわたしが一人目になりますと泣いた。
初めてのアルバイト。
USJのクルーとして三年半働いた。「あなたたち一人ひとりが輝くエンターテイナーであり、クルーが何よりのアトラクションであることに自信を持って。」と言われた日、わたしは絶対に辞めるもんかと決意した。毎日口角を上げる練習をしているうちにネガティブだった自分とは決別し、涙は美しいものを見て落ちるものだと知った。
初めての社会人。
幼稚園教諭になった。社会はよくわからなかった。
こわくて、つらくて、さみしくて、気付いた時には職場を離れ泣いていた。
そして27歳。
「いくみさんには、僕がおるよ。」と手を取ってくれる彼に出会った。生きるのがつらくて死を望んだ時も、自粛要請で仕事から切り離された時も、ADHDの診断を受けて生きる道を見失った時も、彼無しでは立ち上がれなかった。人生で初めて、家族以外から受け取る愛に溺れて泣いた。
後悔の予防接種は今立つ地面の上に打つ
そんなわたし。27年を振り返っても後悔ばかりが数を積んでいた。
次第に後悔するのが嫌になって、はじめから「する」ことをしなくなった。また同じ結果になるくらいなら、同じ結果にならないように全てを拒み続けた。どうせ意味ないから、どうせ終わるから、どうせ死ぬから。そう何度地面に吐き捨てて来たか、数える指も足りなかった。
同じ年齢の友達を見ては目を伏せる。
結婚して、車を買って、出産して、仕事をして、家庭を築いて、ローンを組んだ家に住む。27年生きてしまっただけの、27年育ってしまっただけの何もない姿を鏡で見ては、本当に同じ世界線なのだろうかとInstagramと照らし合わせた。
変わりたいと願う気持ちが怖い。
上手くいくと祈る自分が恥ずかしい。
現状維持。これが生きていることの証明だと思いたかったの。
後悔の予防接種は今立つ地面の上に打つんだ
逃げられないと
免れないとわかってながら必死に打つんだ
上よりも夢を向いて歩こう
涙が溢れるくらい本気で
今日の空振りは明日への素振り
どしゃ降りの雨に言い聞かせ
宿命/MOROHA
たまたまシャワーを浴びながら聴いた曲が、わたしの人生を覆す。
共に流れる涙と嗚咽が根っこに腐った信念を呼び起こし、打つなら今日だとバスタオルをかぶったままパソコンを開き「シーライクス」の文字を入れる。何度も見ては諦め続けたサイトページが、その日だけはなぜか知らない世界の扉に思えた。伝えたかった想いを、拒み続けた夢を、訴えるなら今しかないと力を込めてエンターキーを押し込んだあの日のことは忘れないだろう。
いつか、この日が来て欲しかったんだ。
本当は、この日の自分を許してあげたかったんだ。
上じゃなく夢を見る。前じゃなくて横を見る。
同じように戦う姿が、同じように過去を断ち切る志が、同じように彷徨う夢がそこにはあった。恐くて見れなかった戦場に踏み込みたい。踏み入れた先の景色が見たい。自分を幸せに出来るものは自分しかいない。
そう信じて、2020年の暮れ、SHElikesに入会した。
今夜この場所が人生の胸ぐら
SHElikesに入会して10日が経った。
思っていた以上に上手くいかない。道が拓かない。手が進まない。頭が追い付かない。ああもう、どうして、と頭を抱える日が増えた。わたしなんて、と毛布に顔を押し付ける日が増えた。一体わたしはどうなってしまうんだろう、と不安に駆られる日が増えた。
それでも、生きたいと願っている自分を鏡は映し
それでも、叶えたいと誓っている夢を頭は思い描き
それでも、楽しくてならない毎日が心地よく流れていくことを知った。
変わりたいと願う気持ちが怖くて
上手くいくと祈る自分が恥ずかしくて
現状維持こそが生きていることの証明だと思っていたわたしでも。
大丈夫だと信じて歩み続ける今が愛おしくてたまらなくなった。
自信もない。根拠もない。才能もなければ学力もない。でもここには愛だけがある。大丈夫。わたしは、わたしが好きだから。どんなわたしでも、わたしが生きることに意味があるから。生き続けていれば、必ず報われる日がくるから。
さいごに
人を撮りたい。コラムを書きたい。大人に向けて絵本を読みたい。子どもたちの未来を輝くものにしたい。発達障がいの勉強をしたい。パートナーシップについて考えたい。SNSを活用したい。人と繋がりを増やしたい。
出来るもんかと飲み込んできた目標を、口に出せるようになりたい。
叶うもんかと諦めてきた夢を、からだで表現できるようになりたい。
何よりもわたしが、わたしである理由を持って生きていたい。
「胸張りや。いくみの人生は、いくみの為にあるんやから。」
27歳。借金をしてでもSHElikesに飛び込んだ今日の事を忘れてはならない。わたしは、あなたの元に生まれたわたしを誰よりも輝かせる使命があるのだから。
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