制服とお古のリサイクル

昨日、香港時代に知り合ったシンガポール人の友人から急に声をかけてもらって、ハイドパークの散歩に同行させていただきました。友人の年子のお子さんたちはそれぞれ去年、今年と続けてこちらへ進学して来ており、友人もこの9月からしばらくこちらに住んでらっしゃいます。非常に優秀な方で、とある世界企業の香港支社に在籍したままこちらへ来ており、香港との時差に合わせて毎日未明から昼過ぎ頃まではオンラインで仕事するスタイル。お子さんたちの生活が落ち着くのを待って11月頃香港へ戻るそうです。(ちょっと前までの誰かさんのようだナ😅)

香港人、シンガポール人などやはり華僑移民の血なのか、こういう動きをしてる方は案外ちょくちょくいらっしゃって、それなりに生活を回して生きてらっしゃいます。親戚や知人としてそういう方を実際に目にすることでロールモデル的にインプットされて、同じ層内では比較的ハードルの低い生き方の選択肢となるのかも知れません。
だけどこの友人の場合は、たまたまパンデミック中に上の子の入学と下の子の受験(面接も受けに来たんだそうです)が続き、またシンガポールのお父さんが闘病の末亡くなったそうで、その全てに於いて各国の入国隔離条件をクリアしながら移動してきたところ・・なんと「この一年ちょっとで入国隔離だけでも120日間かかってる」とのこと。何故カウントしてるかと言うと、会社に申請しなければならないから。仕事をリモートワークとすること自体に支障は無いようで、上司は「あなたの人生に必要なことならば仕方がない」と言ってくれてるけれど、経理部門が「香港での給与支払い納税条件等への影響を懸念」し始めているとのこと。大変な話です。

歩きながらいろんな話をしたのですが、オンラインとはいえフルタイムで仕事をされているので、こちらでも通いの掃除婦さんを頼んでるとのことでした。アパートでなく家だというので広いんだろうし、香港在住のシンガポール人なので、子どもの頃からおうちに住み込みのヘルパーさんがいらっしゃるのが一般的な暮らしをされてたのでしょう。こちらでは外国人住み込み家政婦のスタイルは普及してないからパートタイム派遣のサービス会社を利用してるとのこと。
家は一応内装や配管を全て新しくしてから住み始めたとのことですが、とうとうネズミ(ロンドン名物/小さいけれどネズミはネズミ)が出たそうで、お子さんたちが帰ってくる前に掃除婦さんに家中の穴を探して塞いでもらうと言ってました。

そんな友人ですが、子どもの靴や服の話をしてたら(たまたま二人ともそれぞれの息子のお下がりを着てたもので😅)「イギリスの制服ってめちゃくちゃ高いよね!」と言ってて・・まあ、確かに高いけれども、友人のおうちであればそんな気になる?!と思ってしまった。友人の息子さんはお父さん譲りで身体がおおきくて、また今伸び盛りでもあるから今のところまだ制服は作ってないんだそうです。

ここでイギリスの制服事情を書いておくと・・

制服が高い!というのは、日本で問題になるのと同じで、お子さんが所属する学校のタイプや保護者の経済状況、考え方によっても違う話で、高い高いと言っていても実は他のことにならじゃんじゃんお金を使う人たちも居るんだろうし、心底、新しい制服を買ってあげたい、子どもたちが制服を着ることの意義をつよく感じているけれどお金が無い、というひとたちも居るのではないかと思います。そういう意味ではイギリスでも学校のタイプに依らず国民全体の問題として「制服にお金がかかる」というのは時々取り上げられていています。またパンデミック中は制服問題に近い意味で、若者が就職活動をする時の服装一式を提供するチャリティが立ち上がったりもしました。

「フリースクール」と呼ばれる日本で言えば義務教育の公立校では、ブレーザーの下に各学校共通の標準制服のような基本のセットが有って、これに関しては特に制服専門店や学校経由でなくても量販店などで入手できるようになっています。アマゾンでも買える。白いシャツ、グレーのズボンやスカートというのが基本ですが、学校の個性としてはその上に着けるブレーザーやセーター、ネクタイなどで違いを出しています。ただこれも比較的ゆるい感じで、市販の控えめなデザインの(制服コーナーに置いてある)ブレーザーやセーターを着て来た子がいても学校側としては何の問題も無く受け入れてくれます。
更に、こちらによくあるチャリティショップへ行くと子ども服のコーナーに制服が置いてあったり、学校でもお古を取り扱ってくれたりするみたいです。政府のウェブサイトにも「制服の問題を抱えていて地域からのサポートが受けられない方はこちらへご連絡ください」という窓口が設けられており、制服のことでお子さんや保護者が肩身の狭い思いをすることのないように国全体での配慮がなされているようです。

で、私立の制服・・
私立の制服は特徴的なものが多く、市販で揃えにくくなっています。
息子がお世話になってたプレップスクールは制服に対する校則もわりと厳しい方だったのにも関わらず、在学中に制服のデザインが変わって涙目でした。しかも新調して割とすぐにパンデミックとなり学校閉鎖されてたし。😭😭😭
普段ならば、学校の購買部に制服取り扱いコーナーが有ってそこで採寸してくれて、新調か中古か(在庫次第)を選べる仕組みとなってました。十代の前半は特に一年でもびっくりするほど成長するので、毎回新調するなら逆に最初買う時はブカブカのものを着せることになるし、中古にしてある程度フィットしたものを着てもらう方が理にかなってると感じました。先輩のお古を着ることで家族のような一体感もあるし!
また、そこの学校の制服は大手の制服業者に頼んだ、ブレーザーの襟と袖ぐりの縁取りや、ポケットに縫いつけた大きめの校章(エンブレム)で個性を出した、既製品感の高いものだったから値段の方はまだそんなにものすごいことでもなかったです。あと、私も地元の保護者チャットグループに入れてもらえたので、そこでお古を融通し合う(リクエストも含め)文化が有りました。

今の学校は制服の形が特殊過ぎるのもあるのですが、街に学校の歴史と同じくらい歴史ある制服専門の仕立て屋さんがあって、基本的にそこで買わなければならないのでかなり割高ですが、生地も格段に良い。生徒の必要に応じて(新入生は入学前に集団採寸日が設けられてます)採寸の上、仕立ててくれます。だから高いのは仕方ないけど、高い!絶対にそこで買うことという決まりがあるわけではありませんが、シャツひとつとっても襟の形が違うし、ズボンもピンストライプが入ってたりして、市販で同じようなものを見つけるのが至難の業なので普通に注文した方がはやいということになります。(おそらく超お金持ちのおうちなら自分の仕立て屋さんで同じデザインの制服を仕立てればそれも可なのだと思いますがそういう世界はあまり詳しくないのでここには書けません/古い映画などでそういうシーンが有ります)
ただ、貧しいご家庭から来てる奨学金特待生はじめそんなホイホイ新調してられないおうちももちろんあるはずで、寮母さん経由で制服のお下がりを融通してもらったり、また、あまり目立たない程度の違いならば多少違うものを身につけていても直ぐに咎められるということでもないと息子は言ってました。もちろん公式には認められていないことなので、何かで選ばれて表彰台に立つ時とか代表で校外の行事に参加するときなんかは、友だちが制服を貸してあげてるそうです。靴は標準制服着用時には黒の革靴を履くきまり。(寮生には靴磨きの習慣も有ります)靴下の色は今の学校では特に何も言われてません。

これも校風なのでしょうが、髪型についても今の学校では細かい指導などは無く、したがってインド系の痩せた男の子が髪をふわふわに伸ばした博士風の感じで校内を歩いてたり、サラサラのブロンドを靡かせるラガーマンが居たり。女の子は不思議ですが、決まりが無いと何となく同じスタイルに落ち着くようで、今風の大人っぽいウェービースタイルにブレザーは着ないで(カーディガンなど)勉強道具を胸に抱えた子たちが、ポスターから抜け出したような感じでよく談笑しています。女の子はティーンエイジャーともなると途端に「女学生」になっちゃう。息子くらいの年齢だと、お姉さんたちとVSガキたち。😆

友人の息子さんが入られた学校は、私はかなり厳しい校風のイメージだったので意外でしたが、今はまだパンデミック回復期だから特別なのか、いつもそうなのか、標準制服を作らなくてもまだ運動着で全ての授業に参加できてるそうです。友人のお子さんは私の息子の一つ下ですが、ほんと身体が大きくて押し出しの良いしっかりとした雰囲気を持ってます。イギリス式の伝統の制服を着たらきっと迫力あると思うから、いつか制服着た姿を見せてもらう(そのうち写真撮る日が来るから制服はどのみち作らねばならない)のが楽しみ。

そうだ。集合写真といえば、息子の寮に、詳しくは知らないけれどどこかアフリカの国らしき紋章とマント、ヘアドレス(帽子というのか羽飾りというのか)をつけて写真に収まる生徒さんがいらっしゃるのですが、そういう意味では、理由のある正装であれば標準制服に優先するという考えなのかも知れないです。
ということで、制服は高いといえば高いのですが、皆んながそのまま支払ってるとは限りません。以前日本のどこかの小学校で新しい制服が一式十万円するというのでしばらく話題になったことが有りましたよね。その時のいろいろなご意見の中で、イギリスの私学の例にも言及されてた方がいらっしゃったようだけど、実際には多少の抜け道もあり、また何よりも制服を用意できない者に対しては強く追及しない空気が有って、絶対的に押し付けるものではないところが、このスタイルのまま長く定着している理由なのではないかと思います。
制服を着ることで自然と得られる「帰属意識」というものは、社会へ出る前に学んでおくべき大切な感覚だし、また、前の世代から自分へ、自分から次の世代へと、連綿と続くことの象徴でもあります。子どもの正装としての役割、きちんとした服装での振る舞いに慣れる、という意味でも重要。
全く制服を無くすってのも少し寂しい話なので、なんとか地域や国を挙げてのリサイクルや共通デザインの設定などによって、誰もが制服の存在によって差別されることのない学生生活を送れたら良いなと思ってます。