不随意運動症状(チック)がネットでうつる?

動画系のSNS(YouTubeやtiktok)によって集団心因性疾患が伝播する可能性があるそうです。

トゥレット症候群やチックなどの機能性の運動障害は,ドパミンやセロトニンが関わる神経性の疾患であると考えられていますが,特定の集団内で,心因性の疾患として同様の症状が他者に伝播する場合があるようです。


https://movementdisorders.onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1002/mdc3.13267

Hull, M., & Parnes, M. (2021). Tics and TikTok: Functional tics spread through social media. Movement Disorders Clinical Practice. 

上の論文では平均14.2歳の女性6名について,チック様の症状が,特定のSNS投稿の閲覧によって伝播した可能性を示しました。(チックやトゥレットは多くの場合子どもがなると考えられています。)


Müller-Vahl, K. R., Pisarenko, A., Jakubovski, E., & Fremer, C. (2021). Stop that! It’s not Tourette’s but a new type of mass sociogenic illness. Brain.

このドイツの論文では,チック症状やトゥレット症候群様の症状のSNSによる伝播が,これまでの報告にない新たなタイプの集団疾患ではないかと指摘しています。

特定の地域内での伝播ではなく,「物理的距離」を超えての伝播がSNSによって起こる可能性を示唆しています。

トゥレットやチックは,少なくない疾患だと思うので,この結論はちょっと疑問ですが,現象としては興味深く,注視していく必要はあるだろうと思います。

論文では彼らを取り上げていました。ドイツで急成長中の人気YouTuberらしい。(2021.9月時点で登録者200万人以上)

私は語学が大の苦手で,ドイツ語が全くわからず,内容はちんぷんかんぷんですが,確かに特に左側の方はチック様の症状が出ているようでした。

この動画では,パニック発作やいじめ経験について語られているようです。語る系の動画は日本の方もやりますが,特に人気のある方は多くやっているイメージはあります。映像的には見やすい動画構成で,人気なのもわかる気がします。


トゥレット症候群について,NHKの動画があり,当事者の実体験が語られています。

トゥレットは多くは”子ども”の病気で,成人するにつれ見られなくなることもままあるようです。ただ,"学校"などの環境は,閉鎖的かつ他律的で,周囲の理解がないと厳しい面もあると考えられます。症状は「不随意」であるので,理解を広めるには,YouTuberなどのインフルエンサーの存在は重要ですが,その「副作用」もあるかもしれないということでしょうか。

冒頭のNewsweekの記事と似た考えになるかもしれませんが,疾患・症状それ自体を減らす・増やさないことは疾患を抱えている人にとって重要です。医療の進歩によってそれを実現していくことができると思います。

私としては,それ以上に,このような疾患・症状で困難さや困り感を抱える人を減らすのは「心のバリア」を取り除くことが重要だと思います。疾患・症状に対する理解が社会に浸透し,「適切な行動を取れる」多くの他者の存在が重要だと思います。その中で,疾患の理解を広める上では,日常的に視聴するインフルエンサーの存在は極めて大きいと考えられます。一方で今回取り上げたような事象はそれに反した作用をもたらすと考えられます。

SNS・インターネットとの付き合い方を考えよう!としか私は言えませんが,公衆衛生と疾患理解が相反する事例(可能性としてですが)があるというのが今回非常に勉強になりました。

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