『エクアドール』自作解説②登場人物

拙著『エクアドール』(双葉社)の発売にあたりTwitterに投稿した内容を以下に(若干の編集をしつつ)再掲します。
【元ツイート】


眞五羅(まごら)

主人公の眞五羅は朝鮮の釜山にあった日本人居留地で日本人の父と朝鮮人の母の間に生まれ、「三浦の乱」で朝鮮を追われて対馬から博多に移住し、倭寇になって琉球に流れ着いた人物。「境界」要素てんこもりです。
着想のきっかけになったのは、堺の商人から琉球の役人になって東南アジア貿易で活躍した川崎利兵衛という人物です(荒唐無稽な設定ではないのだ)

与那城樽金(よなぐすく・たるがね)

旅の仲間の与那城樽金は首里の名門の御曹司。朝鮮への使節が前期倭寇に襲撃された際(実際にあった事件)に先祖を殺されており、一族揃って筋金入りの倭寇嫌い。最初は未熟な若者ですが、旅の中で成長していきます。

王農大親(おうのう・うふや)

旅のリーダーとなる王農大親は実在の人物。那覇の豪商で王の外戚。王農という名は那覇の奥武山(おうのやま)に通じるとも言われます。三重城の創建伝承で有名。彼は中国から来た人という言い伝えもありますが、久米村人との役割の違いを明確にするために出自は曖昧にしています。
伝承によれば、王農大親の娘は王が行幸した際に帰り道が暗いため屋敷を焼いて(ママ)王の足元を照らした。その機転により王に気に入られ、側室に迎えられたという。「どうだ明るくなったろう」(違)

梁元宝(りょう・げんぽう)

実質サブリーダーの梁元宝は中国系帰化人の子孫で、久米村(中華街)の住人。久米村人は航海と外交の専門家集団であり、彼がいないと何も始まらんという人物。梁姓は琉球の南蛮貿易に関する史料で頻出する姓です。
(じつは連載時には紅姓だったんですが、上記の理由により単行本化のさいに梁姓に変更しました…)

メンデス

ポルトガル人メンデスのモデルは「ホラ吹きピント」ことフェルナン・メンデス・ピント。『東洋遍歴記』という虚実入り交じる冒険記録を残し、後世の歴史家を悩ませる人物。後に日本にも来ていて、本人いわく琉球にも来ています。じつは日本のキリスト教布教史に関わる重要人物でもあります。

王直(おう・ちょく)

『エクアドール』には後の「倭寇王」王直も登場します。作中ではまだ南蛮貿易に従事する一頭目です。王直は教養ある人物であり、荒々しい海賊王をイメージすると見誤るとよく言われます。なので、作中のキャラは「教養ある海賊」ではなく「海賊をやってる教養人」にまで振り切りました。
ある人に『パリピ孔明』の孔明を彷彿させると言われましたが、じつは諸葛孔明をイメージしています(パリピじゃなくて金城武のほう)。劉備の”仁”と曹操の”奸”と孔明の”智”が奇妙に同居した人物として描いたつもりです。ちなみに口調は終始「ですます」調。

ハン・ナディム

ジョホール王国の海軍提督(ラクサマナ)ハン・ナディムはマラッカの伝説的な勇者ハン・トゥアの後継者でポルトガルと長年戦った人物。ハン・トゥアの実在性には議論がありますが、本作では実在したという設定にしています。インドネシアのハン・ナディム国際空港は彼の名にちなんでいるそう。


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