滝沢志郎

小説家。『明治乙女物語』『明治銀座異変』(文藝春秋社)、『エクアドール』『雪血風花』(…

滝沢志郎

小説家。『明治乙女物語』『明治銀座異変』(文藝春秋社)、『エクアドール』『雪血風花』(双葉社)発売中。 https://twitter.com/Tacky_Shiro

最近の記事

『雪血風花』のじつは史料的根拠があるエピソード

タイトルのとおり。 赤穂浪士の武林唯七を主人公とする拙著『雪血風花』には、じつは史料的根拠のあるエピソードがたくさんあります。それについて簡単に解説します。 ※文末のカッコ内は出典。特に断っていないものは赤穂市史編さん室発行の『忠臣蔵』第三巻に収録されています。 50人の盗賊 浅野内匠頭が切腹した夜に50人の盗賊が浅野家上屋敷に侵入。堀部安兵衛が一喝すると逃げ散ったという(堀部安兵衛書状) 大野九郎兵衛の孫娘 大野九郎兵衛が孫娘を置いて赤穂から逃げたという噂は本当にあ

    • 『雪血風花』主要参考文献

      赤穂市市史編さん室『忠臣蔵』第1・3巻 赤穂市史の赤穂事件に特化したシリーズ。第1巻は概説。第3巻は浪士の手紙や関係者の手記など、いわゆる一次史料を収録。 第3巻には堀部安兵衛が同志との手紙のやり取りや手記をみずから編纂した「堀部武庸筆記」も収録されている。武林唯七の討ち入りまでの動向が一番よくわかる史料。 ただ、「堀部武庸筆記」は岩波『日本思想大系27近世武家思想』に収録されているもののほうが注がついていて読みやすかったです。 斎藤茂『赤穂義士実纂』 赤穂事件の事典の

      • 武林唯七から兄への書状(意訳)

         兄上が源五(大高源五)に送った書状を拝見しました。  まず、父上のご病状が重くなられたとのこと。目もお見えにならず、お元気もなく、ご快復は難しいとの旨を承り、ひとしお胸が痛んでおります。しかし、一儀(仇討ち)も近いためどうにか堪え忍んでおります。  本来ならば見舞いに帰るべきですが、大石殿より用事を申し付けられているため、本日出立しなければなりません。  母上もご病気とのことで、私がいなくなった後のことを思うと心配で、安心して死ぬに死ねません。ともかく、大石殿も来月までは

        • 『エクアドール』インタビュー記事

          双葉社のwebサイトに新作『エクアドール』についての滝沢のインタビュー記事が掲載されています。なぜ琉球と東南アジアを題材にしたかというお話などなど。前後編の前編です。 新刊『エクアドール』についてのインタビュー後編です。主人公を移住者に設定した意図や、特にお気に入りの登場人物などなど。 リンク先から序章のみ試し読みできます。

        『雪血風花』のじつは史料的根拠があるエピソード

          『エクアドール』自作解説④舞台となる場所-東南アジア-

          拙著『エクアドール』(双葉社)の発売にあたりTwitterに投稿した内容を以下に(若干の編集をしつつ)再掲します。 【元ツイート】 アユタヤ アユタヤ遺跡の建物の中で主人公たちが訪れた時代に存在したのは、このワット・プラシーサンペット。仏教王国アユタヤの権威ある寺院でした。 作中、1540年代のアユタヤは安定しているように見えて実は大きな政変の前夜であり、登場人物たちはその前触れのような事件に巻き込まれます。 伝説的な王妃の生涯を描いた映画『スリヨータイ』の時代です(こ

          『エクアドール』自作解説④舞台となる場所-東南アジア-

          『エクアドール』自作解説③舞台となる場所-那覇・首里-

          拙著『エクアドール』(双葉社)の発売にあたりTwitterに投稿した内容を以下に(若干の編集をしつつ)再掲します。 【元ツイート】 那覇港 那覇港!(飛行機から) 港の入口の砦! 三重城(みえぐすく) 那覇港の入口につくられた砲台。ここに据える大砲を手に入れるために主人公と仲間たちは旅立つのです。 三重城の上から。 三重城の対岸には同じく砲台の屋良座森城(やらざもりぐすく)があり、港の入口を両翼から守っていました。今は那覇軍港内で跡形もないそう。 今は三重城の

          『エクアドール』自作解説③舞台となる場所-那覇・首里-

          『エクアドール』自作解説②登場人物

          拙著『エクアドール』(双葉社)の発売にあたりTwitterに投稿した内容を以下に(若干の編集をしつつ)再掲します。 【元ツイート】 眞五羅(まごら) 主人公の眞五羅は朝鮮の釜山にあった日本人居留地で日本人の父と朝鮮人の母の間に生まれ、「三浦の乱」で朝鮮を追われて対馬から博多に移住し、倭寇になって琉球に流れ着いた人物。「境界」要素てんこもりです。 着想のきっかけになったのは、堺の商人から琉球の役人になって東南アジア貿易で活躍した川崎利兵衛という人物です(荒唐無稽な設定ではな

          『エクアドール』自作解説②登場人物

          『エクアドール』自作解説①概要

          拙著『エクアドール』(双葉社)の発売にあたりTwitterに投稿した内容を以下に再掲します。 【元ツイート】 https://twitter.com/Tacky_Shiro/status/151843871324769075 昨年「小説推理」に連載した『エクアドール』の単行本が5月19日(木)、双葉社から刊行されます。大航海時代の琉球~東南アジアを舞台とする冒険小説。勢力を増す倭寇に対抗できる新兵器「フランキ砲」を手に入れるため、琉球人たちがポルトガル領マラッカを目指す物語

          『エクアドール』自作解説①概要

          『明治乙女物語』執筆裏話⑤しましま

          小説の登場人物のイメージは読者一人一人のものなので、このキャラはこの人をイメージして書いたとか、作者はあまり言わないほうがいいのかな、とも思います。 ただ、『明治乙女物語』の主人公二人に関してはネットでもずいぶん広まっているみたいなので、一度ちゃんと書いておこうと思います。 じつは出版業界にも結構そのグループというかカテゴリーのファンの方が多いみたいで、よくそのことを聞かれるんです。それに答えるのが面倒くさいわけではなく(むしろ喜んで話すんですが)、執筆したのはもう3年以上前

          『明治乙女物語』執筆裏話⑤しましま

          『明治乙女物語』執筆裏話④山川二葉

          女高師の舎監・山川二葉(やまかわ・ふたば)は実在の人物。 意外に資料が豊富で、面白いエピソードがたくさんありました。ただ、ストーリーに関係ないので書く機会がなかったり、一度は書いたものの松本清張賞の規定枚数におさめるために泣く泣く削ったりしたエピソードが多々あります。 今回は山川二葉について解説します。 ・旧会津藩の家老職の家柄。戊辰戦争の会津籠城戦を生き抜いた女傑。 ・謹厳実直な武家の女。生徒から恐れられている。 ・女高師の舎監を約30年もつとめた。 ・明治21年当時、高

          『明治乙女物語』執筆裏話④山川二葉

          『明治乙女物語』執筆裏話③登場人物

          森有礼・近代教育制度の基礎を確立したとされる、初代内閣文部大臣。満41歳。 ・高等師範学校の監督。 ・女子教育を強力に推進。 ・一橋大学の創立者(作中では女子教育に焦点を絞るため触れず)。 『明治乙女物語』のメインストーリーは、ほとんどこの人のパーソナリティが決めたようなもの。ある意味、森有礼に振り回された人たちの物語でもあります。 たまたま乗った人力車の車夫が老人や病人のとき、降りて一緒に歩いたというエピソードは、『森先生伝』に記されています。『森先生伝』は、森有礼の死

          『明治乙女物語』執筆裏話③登場人物

          『明治乙女物語』執筆裏話②主人公2人

          『明治乙女物語』の主人公は、高等師範学校女子部(女高師)に在学する野原咲と駒井夏。 架空のキャラクターですが、それぞれ史実のモデルがいます。 それぞれ一人だけではないのですが、主に、野原咲のモデルは野口幽香(のぐち・ゆか)、駒井夏のモデルは安井哲(やすい・てつ)です。 ともに教育者として名を残しています。 具体的に何をした人たちなのかは、微妙にネタバレになるので興味のある方はググっていただくとして、二人は女高師の同級生でした。小説の中でいえば、野原咲と同級です。 野原咲と駒

          『明治乙女物語』執筆裏話②主人公2人

          『明治乙女物語』執筆裏話①着想と時代背景

          『明治乙女物語』は明治の鹿鳴館時代を舞台に、高等師範学校女子部に学ぶ生徒たちの友情と"戦い"を描いた物語です。 鹿鳴館時代といえば、鹿鳴館での舞踏会。 この舞踏会で踊り手が足りない時に師範学校の女生徒が招待されていた……という記述に出会ったことから、『明治乙女物語』の着想を得ました。 私が最初にこの旨の記述を読んだのは『千代田区女性史』でしたが、おそらくその典拠は近藤富枝『鹿鳴館貴婦人考』です。 『鹿鳴館貴婦人考』によれば、在学中に鹿鳴館で踊ったという証言を残したのは、宮

          『明治乙女物語』執筆裏話①着想と時代背景

          『明治乙女物語』文庫化しました

          第24回松本清張賞受賞作『明治乙女物語』、文庫になって発売中です。 よろしくお願いします。

          『明治乙女物語』文庫化しました