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昭和3年主婦之友「着附けの秘訣」

久々に昔の雑誌を購入しました。主婦之友は初めてです。昭和3年5月號は美容研究號でもあり、美しくなるための化粧法、髪型と手入れ、着附けなどが指南されています。化粧法は中山太陽堂のカタログや近代美粧と同じような内容ですが、昭和3年の着附け、髪型・髪の手入れ、化粧と美容について要点のみをまとめて紹介します。今回は着附の秘訣です。


姿を美しく見せる着附けの秘訣

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遠藤波津子女史による、着物の仕立て方、体格ごとの着付け方のアドバイスが紹介されています。女史は、大正15年に婦女界社より「正しい化粧と着付」を出版しており、著書では様々な場面に適した着付けをアドバイスされています。「正しい化粧と着付」は国会図書館デジタルで読むことができます。

まず、美しい着附けを実践する前の心得からお伝えします。

自分に似合う装いをする
人の趣味性格は、着物の柄や着こなしに現れるものです。いくら高価な服を着ていても、柄や色が少しも似合わなかったり、だらしない着方をしていたら下品に見えてしまいます。たとえ粗末な着物であったとしても、本人の顔と身体にぴったり合い、きちんとした着付けをした人は、いかにも奥ゆかしく見えます。

自分の欠点を生かす
背の高い人は横縞柄、帯は低めに大きく結ぶと全体が調う。低い人は縦柄、おはしょりを高く帯をなるべく、上の方で小じんまりと結ぶとスラリを高くみえる。このように、美しく見せる秘訣とは先づ自分の欠点を認識した上で、工夫して長所を引き立てることが重要になります。

着付けの前に大切なこと
着付けの前に重要なのは、着物の仕立て方です。身体にぴったり合った着付けをするためには、何よりも先づ身体に合った仕立てをすることが必要です。自分に合った長襦袢、着物、帯はとても気持ちよく着付けることができます。


仕立て方

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長襦袢
長襦袢は、着付けに最も大切な土台となるもので、この仕立て方がよければ、着付けは自然と上手にできます。長襦袢の身丈は、伊達巻を締めて丁度踝が隠れるくらいにします。短すぎると裾の恰好がとれない、長すぎると着崩れの原因になります。裄の寸法は着物と同じですが、寸歩を出すのに着物より袖幅を15mm狭く、肩幅の方をその分広くします。例えば、63cmの裄でしたら、肩幅を25.5cm、袖幅を24cmにします。そうすると、振り八ツで襦袢の袖が引っ込むようなこともなく、きちんと袖が合います。

衿の注意点ですが、太った方は普通の衿の付け方では胸や裾が開いて恰好が悪くなります。着物と同じように別衿に仕立てます。つまり普通の衿にするところを、衽のように広げて仕立てるのです。衽下りは15mmくらいに、幅は裾で10.5cmにします。衿は布が足りなければ、別布を使用し、衿先が丁度腰骨の上あたりで終わるように付けます。こうした仕立て方にすると、ゆっくりと胸が合わさって、どんな太った方でも、決して膝の出るような心配がありません。それから、前丈を後丈より3cm長くし、身八ツ口の止のところでつまんでおくと衣紋をつけても、褄先が引きつらないので着心地がよいです。

半衿は衿元を良くも悪くも見せるものなので、かけ方に注意します。盛装の時は勿論、普段着でも半衿は開き衿にかけた方が恰好よく合わせられます。衿芯を付けるとき、半衿の長さよりも12cm程長く付けておくと長襦袢を着て伊達巻を巻くとき衿芯も押さえられるので、衿の合わせ目が崩れたり溝ができません。

肌襦袢は、晒布を用いるのが衛生的にも一番よいです。また着付けの上からも、毛やメリンスやネルなどは肩が張って恰好が悪くなります。ですが盛装の場合、肌襦袢は少し贅沢なメリンスを用い、胴は長襦袢の丈より少し短め、袖は半袖にすると恰好よく着られます。肌襦袢の丈が短く腰の下あたりまでだと、その部分が高くなり段がついたり裾が折れたりします。また、肩当ても付けない方がよいです。柔らかい長着だと肩部分に段が付いて見っともなくなります。

着物
太った方は裄も長めに、身幅も広すぎるくらいにした方が恰好良くなります。太い手がぬっと出たり、座れば直ぐ膝が出るような仕立て方だと、余計に太さが強調されてしまいます。痩せた人は、どこも幾分詰め気味にするのがいいでしょう。袖丈は背の低い人は短く、高い人は長くしましょう。

衣紋を作るために色々の仕立て方がありますが、後ろ身頃だけを7mmくらいつまんで揚げるのが一番着崩れしません。

褄下は普通の場合は下から寸法を定めます。お引きずりの場合は、衿丈で定めて(普通139cm)その残りを褄下にします。衿丈の定め方は、腰骨から3cmほど下ったところを衿先にします。盛装の紋付きを染める時、太った人と肩のいかった人は紋の位置を普通より1.5mmから3cmくらい下げ、衿の方へ9mmよせて付けると胸幅を狭く見せることができます。

羽織
羽織丈は、背格好と関係の深いものなので注意して仕立てねばなりません。背の低い人は身丈を長くしすぎないこと。太った人は、身幅を広すぎるくらいに仕立てると背中に柔らかい皺ができ非常に恰好よく見えます。衿幅は、太った人は広く、肩幅の広い人は後ろで二つに折った衿が、肩から直ぐ広くなるようにちから上を緩くしておきます。羽織と着物の袖だけを綺麗に揃えるには、袖丈を着物より9mmくらい(縮緬のように垂れるものは1.5cm)詰めて、付けも6mm増しにします。


帯は着付けの中心となり、姿を引き締める大切なものです。帯の柄や、結び方が良いと姿全体が引き立って見えます。仕立てる時に、着物の柄や色と調和するもの、自分の顔や姿と良く合うものを選ばなくてはなりません。幅は、背の高い人、太った人は広く、背の低い人は詰め加減に仕立てます。帯芯は締めていて伸びないような厚い木綿が理想的です。太った人は芯を薄くし、結び目に丈をとらないと恰好よく結べません。


体型による着附けの秘訣

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太った人
太った人は肌襦袢にメリンスを用い長く仕立てるのが良いでしょう。晒布の場合は、ぐっと短くして帯の下くらいの長さにすると嵩張りません。肌襦袢はど適当に着ている人が多いですが、きちんと気付けないと恰好良く着付けはできません。

殊に太った人は、胸のあたりが太いので肌襦袢を着たら衣紋を思い切って後ろへ抜き、前をぴったりと合わせ乳の上を伊達巻で巻きます。ただし、胸を細くするためではないので、息苦しくない程度に巻いて下さい。

特に乳の大きい方、肩のいかつい方は適当な方法で醜さを補った上で長襦袢を着てください。先づ、三つ衿を二つ折にして粗く綴じておき、無理のないよう半衿を広げて着ます。衣紋を程よく抜いて前を固く合わせ、伊達巻でしっかり巻きます。伊達巻は上に下に広げて巻きます。太った人だと伊達巻の丈が足らないので、先へ紐を付けておくと便利です。

長襦袢が身体にぴったり着たら、着物をふうわりと引っかけます。次に前を合わせ腰ひもを締めます。この時、前の合わせ方は上前の端が丁度右腿の外側の端へくるくらいにして残します。そして、下前の褄先を少し上に引き上げ、上前の褄先だけを普通にすると裾の方でほっそりと引き締まった上品な恰好になります。下前を引き揚げずに後と同じ程度にすると、いかにも裾が開いてだらしなく見え、徐々に着崩れしてきます。

腰紐を腰骨の上のところでしっかりと締めます。腰紐はメリンスの半幅か、または二つ折りに絎けたもので下を締め、その上にしごきを締めます。この時、腰紐の廻し方は前よりも後ろを下げます。するとおはしょりで太ったお尻も小さく見えます。

腰が決まったら内側へ手を入れ、おはしょりを下げ形をつけます。それから衣紋を長襦袢に合わせて作り、細い紐で胸にたるみができないよう引き締め、余分は脇の方に寄せて結びます。ただし、胸の広い方は脇へよった方へ二つ三つ皺をよせると、ずっと細く見えます。伊達巻は帯の土台になるので帯幅だけに広く巻きます。背中の方は若い方なら背の両側に、年配の方なら皺は全部脇へもっていきます。

帯は若い人なら普通胸高に締めますが、太った方は余り高くしない方がよいです。帯の結び方は、盛装でも普段でも大きく派手に結ぶのがよく、年配の人は帯を低くし下がり目に結びます。

痩せた人

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痩せた人はごつごつと骨ばっているので、それを隠して柔らかな線が出るように着付けを工夫します。それには、着物を身体につけてしまわず、緩やかに着ることが大切です。

寒い時ならば肩のあたりに薄く脱脂綿を当ててから、長襦袢を着るのが良いでしょう。痩せた人は胸が薄く前の方にかがんでいるので、綿で形を作って胸に当てると丸みがでます。半衿下にも帯芯のような厚くしっかりしたものを入れ、胸が厚くなるようにします。衿の薄い着物の場合は、半紙を衿幅に畳んで入れます。帯にも厚い芯を入れて仕立てると胴が太くなるばかりでなく、お太鼓も厚くなるので恰好がつきます。着物は模様が細かく入っているものだと太って見えます。

背の高い人

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背の高い人は着付けに苦労がありません。着る時は腰紐をずっと下に、腰骨にかけて結びます。背の高い方が余り紐を上にすると、おはしょりが少なくなって見悪くなります。帯は二つ折りだと胸が寂しくなるので、七分三分くらいに広げて折り、心持ち下加減に締め、お太鼓も大きく垂れを長く出して全体の調和を取りましょう。

背の低い人

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小柄の方は可愛らしく年より若くみえることもありますが、盛装の時は余り引き立ちません。着物の柄は縦縞のようにスッキリしたものか、細かい模様を選ぶと良いでしょう。腰模様にしても腰いっぱいに広げず、上に余裕を残すようにした方が背がスラリと見えます。着付けの時、少しでも背を高く見せようと帯だけを胸の上に締めているのは、釣り合いがとれません。胸元は割合にゆっくりさせ、おはしょりの幅と帯の幅を狭くするとスッキリとして見えます。着物の丈が長くおはしょりが多い時は、腰紐が隠れる程度に出し余分は全部伊達巻の下へ入れてしまいます。後ろの帯結びも、小ぢんまりさせると背の低さが目立たなくなります。袖丈は姿と大変関係の深いものですから、背の低い方は短くします。

乳の大きい人
肌襦袢を着たら伊達巻の使い古しなど、しなやかになったもので胸から背中をしっかりと巻きます。もし乳の真中に溝ができるようでしたら、少しガーゼを畳んで入れ、平らにします。よくガーゼを直に巻きますが、安定感がないので肌襦袢の上から巻いて下さい。また、春先から夏へかけては、脇の下に汗染み予防として、伊達巻を巻く時にガーゼを畳んで脇の下に当てると汗止めになります。

いかり肩の人

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いかり肩の欠点を隠すには、なで肩を作ることです。肌着を着た上から肩に三,四枚の綿を重ねて長襦袢を着ます。綿を重ねる枚数や位置は、鏡を見ながら調整して下さい。肩から乳の間を平らにし、首から肩の線を流れるように作るのがこつです。

猫背の人
帯の結び方で工夫するより外ありません。着物は衣紋を丸い形にして、余り抜かないように着ます。帯を上の方で締め、背中の丸くなったところへお太鼓を結んで隠します。着崩れ防止として、帯の下にしっかりした土台を作りってください。太さ直径3cm、長さ9.5cmほどの綿を芯にした小枕を作り、後ろの帯の結び目の上に載せ、その上に帯揚げをします。こうすると下の方が高くなるため、猫背がさほど目立たず、また帯が下がる心配もありません。

出尻の人
腰紐を締めるとき後ろをぐっと下げるようにし、おはしょりをお尻の上に多めに出します。伊達巻を締めたら、腰のところに一つ帯揚げをします。その上に帯を広く折り後ろは下げ気味に廻し、お太鼓は心持ち大きくして垂れを長く出します。すると、身体と帯の間に隙間ができるので出尻が目立たなくなります。

横に平たく大きいお尻の人は、180cmほどのガーゼを幅二つ折りにして裾よけの上からしっかり巻くと恰好がよくなります。大抵の方が腰紐を締めるとき、前よりも後ろを上げて締めるので、お尻の大きさが目立ってしまうわけです。

近ごろお若い方は、スカートのような裾よけをよくお召になりますが、着付けの上から申しますと、余り感心いたしません。殊に太った方やお尻の大きい方には禁物です。

腹の大きい人
妊婦ではなく太った人のことです。このような人は、腰紐を締めた上にもう一本紐を締めます。そしておはしょりは、上前の分だけ形をつけ、下前の分は上に揚げ伊達巻の下へ入れると平らになり、お腹の大きいのが目立たなくなります。

蜂腰の人
蜂腰で一番困るのは、帯が直ぐ崩れ落ちることです。胴が細いから自然とそうなってしまうので、こういう人の着付けは胴に補整をすれば良いでしょう。手拭用のタオルを幅二つ折りにしてどうに巻きつけるか、薄い布団を背中に背負います。布団の大きさを長さ18cm、幅12cmくらいにし、両端に紐を付け胴に締めるようにつけましょう。

猪首の人

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着物の衿を離して着るようにしましょう。着物を仕立てるときは、衿方明を普通より6mm広く明け、繰越も充分につけます。猪首で太った方は、2.4cmから3cmくらい繰越した方がよいです。着付けのときは、衣紋を三角のように深く作り、衿を首につけず肩の方へ平らに並べます。合わせ肩も縦型にし、襦袢の衿を細く出すと首が細く見えます。また、半紙を衿幅に折って入れると、衿部分が皺にならず形がしっかりとします。

長襦袢に後紐を付けておき、伊達巻を締めた後でぐっと下に下げ、前で結んでおくと、どんな猪首でも衣紋が上がってくることはありません。

鳩胸の人
乳の大きい方と同じ用に、伊達巻で胸を巻いてから着物を着ます。そして、襦袢の衿も着物の衿もなるべく薄く仕立て、胸の厚くならないように注意しましょう。


このような指南書は、当時の雑誌や書籍でも数多く目にすることがあります。私が目を通すのは、関心がある1920年代のものばかりです。どれも共通して伝えているのは、自分に似合うものを身に付けている人が少ないということです。そのような状況で気になるのは、百貨店が流行を提案するだけで、顧客に似合う色や模様などのアドバイスがきちんと出来ていない点です。当時の西洋風モダンなお洒落を理解(?)していた、著名人達が同じような発言ばかりしているのが気になりますね。

またの機会に、顔の形や毛量によって似合う髪型を紹介してみます。