出光美術館 時を越える男たちの絆
出光美術館で特別展『日本の美・鑑賞入門 しりとり日本美術』を観てきました。
鑑賞入門とあるように、私のような初心者向けの展示会です。
第一章では、二つで一つの世界を作る作品が展示されていました。屏風が二つで一つぐらいは何となくわかりますが(雛壇の屏風などで見ているので)、掛け軸にも、龍虎や美女二人のように、二幅で一つの作品を構成するものがあるそうです。
葛飾北斎の肉筆画はこれまで何種類か鑑賞しており、そういえば二つ並んだものが多かったですが、着物の柄や背景などにつながりがあるなんて、全く気付きませんでした。
第二章では、水を描いた絵画や古美術品、磁器が展示されていました。普段は、古美術品(茶道具・香道具など)や磁器は素通りしてしまうのですが、水というわかりやすいテーマのおかげで、足をとめて鑑賞することができました。
特に気になったのが、上の『乗合舟図』です。隅田川の乗合舟が描かれています。桜を見に行くのでしょうか。今なら、隅田川沿いの桜といえば隅田公園(スカイツリーの近く)が有名ですが、当時はどこが名所だったのでしょう。水上バスには何度か乗ったことがありますが、こんな風流な小舟で隅田川を遊覧してみたいです。
第三章は『たくさんの図柄 「美人鑑賞図」からはじまるしりとり』。
上の絵は『美人鑑賞図』の一部ですが、床に広がる掛け軸には「鶴」、障子窓の横には「牡丹の花」、奥の部屋にある衝立には「月・秋草」等々、江戸時代に好まれた図柄が多く描かれています。
この章では、それらの図柄を含む美術品が展示されていました。鶴の描かれた屏風や皿といったように。鶴や秋草の絵は今も見かけますが、牡丹や菊、蕨なども好まれた図柄だったのですね。蕨のゼンマイ部分の絵なんて、初めて見ました。
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さて、この特別展に行こうと思ったのは、フォローしている杜若さんの記事で、酒井抱一の『風神雷神図』が出展されていると知ったためです(杜若さん、ありがとうございました)。
『風神雷神図』は、『どうぶつの森』でキツネのつねきちが売っている絵の一つですよね。あれは俵屋宗達の絵(国宝)で、それを模写した緒方光琳の絵(重文)、更にそれを模写した抱一の絵があります。
酒井抱一は、江戸時代後期の画家です。姫路藩主の弟で、江戸琳派の祖として知られています。
琳派とはウィキによると、「桃山時代後期に興り近代まで活躍した、同傾向の表現手法を用いる造形芸術上の流派、または美術家・工芸家らやその作品を指す名称」です。といっても、抱一の頃に琳派という呼び名があったわけではなく、抱一が尾形光琳の絵を見て感動し、光琳の画風を真似て絵を描き始めたことで、江戸琳派が興ります。
風神雷神図は光琳の絵の模写ですし、上野の東京国立博物館にある抱一の『夏秋草図屏風』は光琳の『風神雷神図屏風』の裏に描かれたものです(当時屏風を所有していた一橋家の依頼による。今は、劣化を防ぐために別々に保存されている)。
それ以外にも、光琳の墓碑を改修したり、光琳百回忌を執り行ったり、また遺作展を開き、光琳作品目録を作るなど、尾形光琳という芸術家を世に知らしめるために、抱一はさまざまな活動をしています。
個人的に、男の絆系の小説や映画が大好きです。そこから派生する形で、優れた芸術家が過去の優れた芸術家をリスペクトする話やそのリスペクトの結晶である芸術作品にも心惹かれるんですね。
例えば、森鷗外と渋江抽斎。森鷗外は、江戸時代の医者であり、文芸にも詳しかった抽斎にシンパシーを覚えて、史伝小説『渋江抽斎』を書きます。
村上春樹さんとレイモンド・カーヴァーの関係も、それと似たものではないかなと感じます(カーヴァーとの間に、直接の交流はなかったと思うので)。カーヴァーの作品を愛読なさるだけでなく、彼の魂にご自分と似たものを見つけられたのではないでしょうか。
音楽の場合は、よりわかりやすく、バーンスタイン(『ウエストサイド物語』の作曲者)指揮のマーラー交響曲全集を聴くと、マーラーに対するバーンスタインの愛情と共感、理解が胸に迫ってきます。バーンスタインにマーラーが憑依しているようにも思えます。
私には、絵を理解する力がないので、尾形光琳とのつながりが抱一の作風をどう変えたのか等学術的なことはわからないのですが、出光美術館で『風神雷神図』を見ながら、百年前の芸術家を師と仰いだ一人の画家に思いを馳せました。
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